遊心逍遙記

読書三昧は楽しいひととき。遊心と知的好奇心で本とネットを逍遥した読後印象記です。一書がさらに関心の波紋を広げていきます。

『美しい科学1 コズミック・イメージ』 ジョン・D・バロウ  青土社

2011-12-28 00:23:03 | レビュー
 本書は4部構成で、その内の前半2つが1冊にまとめられており、2巻本である。その1をまず読んだ。『美しい科学2 サイエンス・イメージ』はまた後日に。

 著者は、「はじめに」でこの本の意図を述べている。「本書は絵を並べただけの本ではまったくない。絵の一つ一つに物語がある。意義深い物語、不思議な物語、語られることのなかった物語。それらがみな合わさると、歴史的な時間と地理的な空間のなかで、科学がどのように進歩してきたかを見わたせる大きな一枚の絵ができあがる」。著者の思いは、「科学を取り巻く状況と技術に革新が起こった」ことに起因するという。科学には視覚化の文化があり、今、科学史におこった革命に我々は立ち会っており、技術が洗練され、今後は人工の画像とシミュレーションがますます不可欠になると著者は考えている。
 だからこそ、この時点で、過去の科学史において絵と図が、「人間の想像力を助け、自然界と自然の法則について科学と数学によって理解を深めるための案内役を務めた」ことに思いを馳せてみようというのだ。

 『美しい科学1』は、第1部「瞳のなかの星」、第2部「宇宙についての先入観」という二部構成である。『美しい科学2』で、第3部「数で描かれた絵」、第4部「知は物質を超える」が扱われる。

 「瞳のなかの星」は、アンドレアス・セラリウスが1660年出版の『大宇宙の調和』に描いた「北半球とその空」の絵及びナポリ国立考古学博物館が所蔵するファルネーゼ・アトラス像-肩に白い大理石の天球儀を載せた紀元2世紀のローマ帝国時代の石像-から星座、宇宙について話を始め、現代最先端の「インフレーション宇宙論」「ブラックホール」まで、宇宙に関する話題、理論の変遷を23章の中で語っている。
 それぞれの話のキーになる図、グラフ、絵などが数点ずつ載せられ、星座や星雲、銀河、宇宙を眺め、積み重ねられてきた研究の歴史、宇宙論が展開される。簡潔な理論の要旨説明があるが、私にはこの分野の基礎知識がないため、読んでいても字面を追うだけで理解するには至らない箇所が多々あったのが残念だ。だが宇宙論がどのように発展してきたか、宇宙科学史の香を味わうことはできた。また、理論ばかりで無く、さまざまなエピソードも記されているので、この部分は結構おもしろかった。引用された図や絵には惹かれるものがいくつもある。

 たとえば、コペルニクス後に6つの宇宙像があった(p43)。ゴッホの絵『星月夜』の背景がゴッホの誕生星座であるおひつじ座の配置かどうかの議論をしている天文学者がいる(p50)。ハッブルの発見した膨張宇宙をアメリカの一般市民に初めて説明しようとした一人がドナルド・メンゼルで『ポピュラーサイエンス・マンスリー』誌1932年12月号だった(p122)・・・とか。また、M51銀河、わし星雲M16、かに星雲、M31アンドロメダ銀河、「スーパーダスト銀河M82、ハッブル・ディープフィールドなど、すばらしい写真が載っている。こういう写真を眺めていると、小さなことに捕らわれている日々の自分の心の窓が開く。宇宙の中では地球ですらちっぽけなもの、なのに・・・・
 ネット検索をすると、宇宙の歴史を表す図(p179)として引用されているものが、ウィキペディアの「宇宙のインフレーション」にも載っていた。宇宙というのは宇宙開闢点から、インフレーション期、プラズマ期、ダークマター期と続いていくそうな。「今日の私たちが生きている最も最近の時代は約45億年前に始まった」とか。なんと悠久な時の流れか。

 こんな一文がある。私はまだ理解できたとはいえない。
*今日、私たちは夜空が暗い理由を知っている。宇宙が膨張していることがわかったからである。 (p145)
*死に向かっている恒星が超新星爆発を起こし、生命の卵となる残骸を宇宙空間にまき散らす。残骸はその場所で宇宙塵になり、惑星になり、最終的に人間になるのだ。あなたの体の炭素原子の核はすべて星からやってきた。あなたは星屑でできている。 (p145)
*宇宙が137億年前に膨張を始めてから、光が時間的に私たちのもとに届くという意味で私たちに見ることができる部分的な宇宙には、およそ1000億個の銀河があり、そのそれぞれに同じくらいの数の星がある。 (p160)
 私はまだこれらの文を十分に理解できたとはいえない。だけど、惹かれる記述だ。そこには桁はずれの時間軸が横たわっている。

 第1部に比べると、「宇宙についての先入観」の20章は読みやすくて比較的わかりやすい。それは宇宙とも絡むが、様々な切り口の科学の出発点を解説してくれているからである。月から見た地球、オゾンホール、皆既日食、火星、宇宙へのメッセージ、雪の結晶、植生と地層、恐竜、などなど。
 読んでいて印象深く、興味深い事柄を幾つか、感想を交え列挙してみる。

*アポロ8号の宇宙士W.A.アンダーズが撮影した「地球の出」のすばらしい写真(p205)が、環境保護問題への関心を頂点に至らしめたのだとか。美しい地球を見たら、誰しもそう思うだろう。だのに、なぜ、人間はエネルギー浪費、原発で地球を住みにくくするのだろう。
*南極上空のオゾンホールの大きな写真(p215)を見せつけられると、やはり愕然とする。
*1503年、コロンブスは船が座礁し、食物に窮した際、ジャマイカで現地島民の助けを得るのに月食の知識を活用し、間近に迫っていた月食を利用して、ピンチを切り抜けたとか。(p221)まさに、知は力なりだ。また、最初の日食の銀板写真がp220に載っている。
*NASA惑星探査機に載せられたもの、パイオニア号の銘板とボイジャー号のレコード盤。載せられたという報道は知っていた。しかし、その図が何を意図し、どのような考え方を使ってどのように描かれたか、何を伝えようとしたか。具体的には知らなかった。本書で初めて詳細に内容を知ることができた。さらに、驚きは、19世紀に地球外生命体に送るメッセージを最初に記号化しチャレンジした人物がフィンランドに居たということだ。(第6章、p237-253)
*「空飛ぶ円盤が誕生したのは、1947年6月24日午後3時のことだった。」これは第7章の途中の一文。何気ないひと言が、人の心に焼きつくコトバになったのだ。(p254-258)
*他分野において先駆的な研究を行ったアレクサンダー・フォン・フンボルトは、11歳のときから世界を転転とし、1ヵ所に半年以上住んだことがないとか。1805~1834年はほとんど30巻あまりの大著執筆に専念。そして膨大な情報がひと目でわかる重要な図版を多く作成したという。それが情報を比較するという新しい発想と方法の先駆になったようだ。他分野にわたる関心、必然的な比較研究の成果だと著者はいう。赤道地域の植物の分布図が載っている(p269)。緻密で発想力豊かな人だったのだろう。
*イングランドとウェールズで、等高線を描いた最初の地形図は、研究者や学者じゃなく、運河の様々な掘削技術に従事し、ほとんど教育を受けたことのない人物、ウィリアム・スミスの20年以上に及ぶたゆまぬ努力の賜物だったという事実。興味・関心を抱いたことを一意専心するすばらしさ!(第10章、p272-275)
*天気図はイギリスで1875年4月1日に初めて『タイムズ』紙に掲載された。作成したのはフランシス・ゴールトンだとか。統計学的研究で「相関」という言葉を最初に使った人であり、指紋で個人を特定できることを初めて発見した人物でもあるとか。「ゴールトンのマーク」はこの人の名前から来ているという。(p278)
*火山灰の中に、360万年前の人類の足跡が残っていた! タンザニアのラエトリ遺跡で発見されたそうだ。まさに人類の足跡。p288、290に写真が載っている。すごいな~!
*ノミの観察を緻密に行い絵を描いて出版したのは誰か? 1665年『ミクログラフィア』イギリスの王立協会出版。描いたのは発明家ロバート・フック。開発した顕微鏡を使ってスケッチしたという(p308)。 p307に巨大サイズのノミのスケッチが載っている。
*大陸と大洋の年代的推移の図(p315) 大陸は動いている!今も! 

第1部は少しずつ読んだが、第2部は一気に読んだ。知的好奇心をかき立てる本である。
著者の該博な知識と情報収集力、プレゼンテーション力に驚嘆する。

ご一読、ありがとうございます。

本書の関連で検索しだしたらきりがない。宇宙関係の知識が乏しいのでその分野の語句を一部検索してみた。後はまた、ゆっくり楽しみながらサーチしてみよう。

ファルネーゼ・アトラス ← ファルネーゼ・コレクション:mamimamabhさんの投稿

銀河   :ウィキペディア
ブラックホール :ウィキペディア

ハッブル宇宙望遠鏡 :ウィキペディア
ハッブル宇宙望遠鏡 :ナショナルグラフィック公式サイト
大規模観測計画   :ウィキペディア
Great Observatories program  :From Wikipedia, the free encyclopedia
ハッブル宇宙望遠鏡 の画像検索結果
ハッブル宇宙望遠鏡 の動画検索結果
銀河衝突:ハッブル宇宙望遠鏡が59枚の写真を公開

宇宙のインフレーション :ウィキペディア
STEREO SCIENCE CENTER :NASA

宇宙・地球・人類 :「山賀進のWeb site」
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