遊心逍遙記

読書三昧は楽しいひととき。遊心と知的好奇心で本とネットを逍遥した読後印象記です。一書がさらに関心の波紋を広げていきます。

『希望の木』 新井 満  大和出版

2013-03-10 13:34:38 | レビュー
 わたしは、松の木です。
 海辺に、一本だけ生えている松の木です。

という文からはじまる散文詩。
一連の散文詩に奇跡の一本松の様々な写真および津波の後の写真数葉を添えた写真詩集である。この詩集が出版されたのは2011年11月だ。
 そして、あの3.11から2年経った今、奇跡の一本松そのものにも劇的な変化が起きている。江戸時代に防潮林として松が植えられ、高田松原として、2キロメートルにわたって約7万本のクロマツ・アカマツが連なっていたそうだ。それが、2011.3.11の震災と津波で、たった一本の松が奇跡的に残った。その奇跡の一本松そのものが結局生き延びることができなかった。そして、いまその一本松はシンボルとして、モニュメントになろうとしている。

 巻末の「あとがきに代える八つの断章 地震と津波の一本松」を読むと、この散文詩は、「ラジオ深夜便」という番組で放送された著者による応援メッセージとして作詩され、朗読されたものがもとになっているという。そしてこの詩は、1964年(昭和39年)6月16日に新潟市を襲った地震と津波による被災者の一人としての著者の体験を背景に生まれたようだ。その被災体験から受けた心の傷が背景にある。「私は小説家のイマジネーションを駆使して、自分なりの解答を出すことにした」という。その結果がこの散文詩である。
 奇跡の一本松の背後に作者が感じ取ったのは「家族の絆」だった。

 このあとがきを読む前に、散文詩を読みながら、作者は一本松に託して、人を語っていると感じた。詩に詠みこまれたのは松と重ねられた人の思いだ。

 わたしひとりだけを残して・・・・(p10)
 
 わたしは、ひとりぼっちです。
 とても、淋しいです。
 泣かない日は、一日もありません。 (p11)

一本松の思いに、震災で被災し、家族を亡くし、家財を無くした人々の思いが重ねられている。

 「あの日、津波が襲いかかってきたあの時、私は自分の死を覚悟した」
 しかし、私が死んでも、たったひとりだけでいい、だれかに生きのこってほしいと思った。生きのこってくれさえすれば、松の木のいのちを、未来へ伝えることができるからね。
 「そこに、君がいたんだ」   (p42-43)

これは、一本松が、流されて行ってしまった父の木、母の木と対話するイメージ世界の詞章部分である。「生きて生きて生きぬく」のが「高田松原7万本の仲間たち」の「みんなの”希望”なのよ」と語っていく。

 奇跡の一本松は海岸の塩分濃度その他の要因で、生き抜けず枯死した。
 しかし、その前に、接ぎ木がほどこされ、<いのちを伝えること>はできたようだ。高田松原の松の”いのちのバトン・リレー”はつながったという。よかった! すくすくと育ってほしいと願う。

 散文詩は、こんな文で終わる。

 「おはよう
  ”希望の木”!
  夜がが明けたよ
  新しい一日が始まるよ!」

今、バトンリレーを受けた子供の苗木がこれからの本当の「希望の木」になることだろう。

 奇跡の一本松の思い、一本松と父の木・母の木との対話-この散文詩-は、生きている一本松として、これからも生き続けると感じる。
 松の木のこころ、そこに人のこころが詠み込まれているから・・・・・

 そんな印象を残してくれた。

 散文詩中の一行の文が掲載写真に添えられている。一行の文と写真がコラボレーションして、響き合ってくる。添えられた一文がトリガーとなり、写真のリアリティの奥行きを深め、その映像世界の生み出す心象が、一文に感情の色づけを一層加えていく。
 散文詩を読むまえに、あるいは、散文詩を読んだ後に、これらのページだけをじっくり眺めてみるのもいい。

 ご一読ありがとうございます。

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高田松原と奇跡の一本松 :陸前高田市
奇跡の一本松保存プロジェクト :陸前高田市

おかえり“奇跡の一本松” 「忘れさせない」シンボルに :「産経ニュース」
奇跡の一本松復元、震災2年に間に合わず :「朝日新聞」

高田松原を守る会  ホームページ(Facebbook)
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陸前高田市支援連絡協議会 Aid TAKATA  ホームページ
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よみがえれ森よ・「海岸林を考える」シンポジウム(1)

よみがえれ森よ・「海岸林を考える」シンポジウム(2)~高田松原の再生誓う

一方、こんな意見も出ていた:
サイボーグ化される「奇跡の一本松」 1億5000万円もの費用に疑問の声
 2012.8.31  :Jcastニュース ビジネス&メディアウォッチ


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