遊心逍遙記

読書三昧は楽しいひととき。遊心と知的好奇心で本とネットを逍遥した読後印象記です。一書がさらに関心の波紋を広げていきます。

『滝平二郎 きりえ名作集 朝日新聞日曜版から 冬-春篇』 朝日新聞出版

2013-05-24 09:50:35 | レビュー
 滝平二郎という名前を私は「きりえ」を通じて知った。「きりえの滝平」と思っていた。本の表紙を見て、懐かしくて読み始めたというか、きりえを眺め始めた。
そして、「きりえ泣き笑い」という一文を読んで、もともとは木版画家だったことを知った次第だ。奥書を読むと、1968年、第6回国際版画ビエンナーレ展に招待出品。1970年には絵本『花さき山』(岩崎書店)で、講談社第1回出版文化賞を受賞されているようである。

 しかし、私にはやはり、「きりえ」に初めて接した時の印象がすごく強く、「きりえの滝平」という印象が焼き付いてしまっている。
朝日新聞日曜版に連載が始まったのが1970年(昭和45)9月から。そして1978年12月まで8年4ヵ月の連載となったという。本書は、その冬-春篇として、師走[12月]から皐月[5月」までの作品をセレクトして名作集にまとめられたものである。

 私の印象では黒紙からイメージ(図像)を切りとったその線の鋭さと繊細さ、特徴的な目の表情が印象的なのだが、本書は一部を除いて色刷りのきりえである。黒紙からイメージが切りとられ、色が配されているのだろうか・・・・制作過程のことは記されていないので、推測なのだけれど。

 本書を眺め、読んで、初めて知ったことがいくつかある。
*「きりえの滝平」以前に、「版画家の滝平」「木版画の滝平」だったということ。(上述)
*滝平二郎氏の写真を初めて本書で見たこと。こんな相貌の人だったのか・・・・
*「きりえ」という命名は、朝日新聞学芸部家庭欄の田島梅子記者だということ。 p52
 命名についてはこんな文が「きりえ泣き笑い」に記されている。引用してみよう。
 ”連載をはじめる数日前、学芸部家庭欄の田島記者から電話で「切り紙というとどことなく細工物めくし、剪紙(せんし)というと中国くさい、いっそ<きりえ>としたらどうでしょう」という相談があった。私のほうはきわめていいかげんなもので、どうでもいいみたいな返事をしたのを覚えている。”
*「きりえ」という新ジャンルは、本書の作品連載の日曜版よりも少し早く、1969年(昭和44年)正月にスタートした朝日新聞家庭欄の「週のはじめに」から始まったということ。これが1970年9月の第1週まで連載され、そして、本書の連載になっていくのだ。

 さて、本書を通読し色刷りきりえを眺めて見て、きりえからイメージとしての懐かしさ、郷愁とともにほのぼのとしたぬくもり、暖かさを改めて感じている。
 何故そう感じるのだろう・・・・通覧して感じたのは、きりえの大半がきもの姿の子供を含む登場人物のきもの姿にあり、片田舎の風景が切り取られているからなのだ。
 私自身、相対的にいえば、生まれ・育ちは都会だ。子供のころに、数えるほどしかきものを着た記憶がない。もっぱら洋服での生活だった。それだからこそ、子供のきもの姿に引かれるところがあるのかもしれない。古きよき時代へのリンクの環が子供の着物姿のイメージなのだ。また、お話あるいは写真のイメージだけで、自己の経験のない事象の数々。薪で焚く風呂、村の鍛冶屋、しば刈り・しば運び、渡し船、水車など。そして田舎の風物詩的情景。
 一方、ほんの少しだが経験・見聞のある事象。ゼンマイ式柱時計、たこ揚げ、手押しの井戸ポンプ、獅子舞、旅先での囲炉裏など。
 高度経済成長期を経て、日常生活が急速に高度化し、電化製品に満ちあふれ、交通機関が発達し、高度科学文明が波及していき、便利になった生活。都市化とともに核家族化した生活スタイル・・・・・。その陰で失われて行ったシーンを滝平のきりえ世界に発見するからだろう。

 惹かれるきりえには個人差があるだろう。
 私の惹かれるきりえはたとえば、次のようなものだ。
 #066 障子はり、 #071 雪合戦、 #019 こけし、 #016 獅子舞
 #022 石やきいも、#277 水仙、  #131 青い山脈、#025 水ぬるむ、 
 #036 ねぎぼうず、#232 花に嵐、 #087 水車
 どんなイメージのきりえなのか、本書で確かめてみてほしい。
 賛意を表してもらえるだろうか・・・・・。あなたの惹かれるきりえはどれ?

 本書を眺めていると、二度と戻っては来ない、懐かしさの心情世界にタイムシフトできる。ほっとしたひとときを味わえる。それがいい。
 夏-秋篇が出版されることが楽しみである。

ご一読ありがとうございます。

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滝平二郎 :ウィキペディア

滝平 二郎さんの作品ピックアップ :「Ehon Navi」
滝平二郎 版画ときりえと絵本原画 :「朝日新聞」

「残るはずのない下絵」50点 切り絵作家・滝平二郎宅 :「BOOK asahi.com」

切り絵作家、滝平二郎氏の遺作展 :YouTube
きりえの魅力「滝平二郎遺作展」:「酒田市美術館」
滝平二郎 ~「きりえ」と版画の魅力を紹介 :「函館市地域交流まちづくりセンター」

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