遊心逍遙記

読書三昧は楽しいひととき。遊心と知的好奇心で本とネットを逍遥した読後印象記です。一書がさらに関心の波紋を広げていきます。

『新選組、京をゆく』  文:木村幸比古 写真:三村博史  淡交社

2021-07-05 09:45:38 | レビュー
 本書は、「新撰 京の魅力」シリーズの一冊として、2001年6月に出版された。
 「一、ゆれ動く幕府」と題して「幕末の御所」「京都所司代」「尊王家・高山彦九郎の憤死」「『勅許』なしに開国した幕府」「将軍継嗣問題」「安政の大獄」「和宮降嫁」という観点からまず幕末の時代状況に読者を導入する。
 そして、「ニ、攘夷と尊王と佐幕」で渾沌とする京都に舞台を移し、鳥羽・伏見の戦いでの「十一、新選組の敗走」まで、京のまちで活動した新選組の姿を史資料をふまえて、トピック的に場面をとらえ、ビジュアルに史跡地や史資料の写真、地図などを併載して新選組の実像を描き出している。一つの史実・話材の場面を2~4ページのボリュームでまとめてあるので読みやすい。 
 清河八郎、芹沢鴨、近藤勇らの浪士組一行は、1863(文久3)年2月8日に江戸を出発し、2月13日夕刻、京都三条大橋に着き、壬生村に入った。清河八郎の企みが明らかになり、幕府が清河と浪士組を江戸に帰らせる処置をとる。だが芹沢、近藤等少数は京都に残留した。芹沢鴨が京都守護職松平容保と交渉し、京都守護職預りという立場を確保した。当初、彼等は壬生浪士と名乗ったようだ。この時点から、新選組が「京をゆく」ことになる。勿論、かれらは大坂にも足を延ばし、問題事象も起こしている。
 1868(慶応4)年1月3日、上鳥羽の小枝橋における薩摩兵の発砲を皮切りに、鳥羽伏見の戦いが始まる。この時、伏見奉行所を拠点に土方をはじめ戦いに加わった新選組は、敗れて敗走することになる。つまり、1863年から1868年にかけての5年間、新選組は京都で恐れられ、注目される存在として活動した。

 本書の特徴を箇条書きにすると、大凡次のことが言えよう。本書で学んだことを各項に少し補足しておきたい。
1.「京をゆく」新選組の足跡がどこに残るか、大凡の場所がわかる。石標のみの所もある
 ⇒京都守護職邸跡。金戒光明寺。壬生屯所:八木邸。前川荘司邸。島原:角屋・輪違屋
  池田屋跡。御所・蛤御門。西本願寺屯所跡。不動堂村屯所跡。油小路本光寺門前。
  高台寺党屯所:月真院。近江屋跡。伏見奉行所跡。壬生寺。新徳寺。光縁寺。
  
2.新選組の名称の確定時期と新選組の地位が確立する経緯が具体的に説明されている。
 ⇒島田魁の日記資料に1863年8月18日伝奏により隊名が決まったという記録が残る。
  1864年6月5日「池田屋」事件で近藤勇を中心に土方らが活躍した。これで地位確立

3.新選組の内の主要人物の人生、略歴がわりと具体的に説明されている。
 ⇒近藤勇、土方歳三、沖田総司、芹沢鴨、伊東甲子太郎、永倉新八

4.新選組が壬生屯所から、西本願寺屯所、不動堂村屯所に移る経緯には、背後で土方歳三が画策していたということが解説されている。なかなかの策士!
 ⇒土方のやり口の巧みさ。西本願寺が不動堂村への移転の建築費・諸経費を全額負担

5.新選組に関連して登場する人物群の簡潔なプロフィール説明は、その人物の行動及び時代との関わりを理解するのに役立つ。
 ⇒堀田正睦、徳川慶喜、清河八郎、松平容保、岡田以蔵

6.近江屋で坂本龍馬を暗殺したのは新選組ではないという事実が説明されている。
 ⇒函館戦争の降伏人・見廻組今井信郎の証言。陸援隊田中光顕の『維新風雲回顧録』記録

7.近藤勇は幕府直参となることを願望していた。一方、幕府直参になることに異論を持つ隊士もいたという事実とその対処にも言及されていること。

8.尊皇攘夷。尊皇佐幕。勤王。尊皇から勤王へ。公武合体論と倒幕論。王政復古。
 これらのキーワードが全体を通して説明されていくことになる。まさに渾沌。
 ⇒近藤勇は尊皇佐幕の立場だった。

 末尾の「新選組略年表」「主要さくいん」「参考文献」を含めて総126ページである。
 そこにビジュアルな写真や地図が結構掲載されている。ボリューム的にも読みやすい。 新選組関連史跡への京ガイドにもなっている。

 新選組の京都における活動の期間が5年間ということは、今まであまり意識していなかった。時間軸の枠組みを再認識できたのが私的には有益だった。京都における新選組関連史跡で拝見可能なところはほとんど巡ったと思っていたが、いくつか洩れがあることにも気づけた。拝見可能かを事前に調べて、関連史跡の落ち穂拾いをしてみたいと思う。

 ご一読ありがとうございます。

本書に関連し、今までそれほど意識していなかった関連事項について検索してみた。一覧にしておきたい。
京都守護職屋敷址  :「フィールド・ミュージアム京都」
京都守護職屋敷跡  :「まち遊び寺社巡り古墳歩き」
松平容保  :ウィキペディア
松平容保  :「コトバンク」
光縁寺   :「京都観光Navi」
光縁寺   :「幕末トラベラーズ」
新徳寺(京都市)  :ウィキペディア

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新選組に関連する本を読み継ぎ始めました。
次の本についての読後印象記もお読みいただけるとうれしいです。

= 小説 =
『新選組血風録』  司馬遼太郎  中公文庫
『ヒトごろし』  京極夏彦   新潮社

= エッセイ、実録、研究書など =
『「新選組」土方歳三を歩く』 蔵田敏明著 芦澤武仁写真 山と渓谷社