1年前に、たまたまタイトルが面白そうだったので『機密漏洩』を読んだ。そしてこれが「警視庁公安部・青山望」シリーズの第4作だったと知り、それ以降にこの第1作から順を追って読み進めることにした。第8作『聖域侵犯』まで読み進めるのが優先して、読後印象をまとめずにきた。
そこで、半ば読み返しを兼ねて、第1作から印象記を順次まとめてご紹介したい。
シリーズを通読した上で感じるこの青山望シリーズの面白さは、各巻が事件の解決という区切りを持ちながら、その次に発生する事件は捜査次元がシフトして、事態がスケールアップの方向にスパイラルに進んでいくという面白さにある。マクロでとらえると、警察と全国規模の暴力組織である東山会との対決ストーリーということになる。
それと、警視庁公安部の青山望を主人公とする公安警察限定ものではなく、青山望を中核としながらも、青山とは警察学校の同期・古川教場の仲間であり、警察組織の各領域に所属する他の3人が登場する。青山はこの3人と強い絆で結ばれ、横の連携と協力ができている。この4人が事件解決にむけてベクトルを合わせて行動するという捜査プロセスを描くという構想の面白さがある。警視庁内の凄腕チーム、カルテットとして活躍していく。いわば4人がそれぞれの分野でのプロであり、リーダー的存在なのだ。警視庁のキャリア、トップ層が瞠目し、信頼する連中ということになる。
このシリーズの起点において、同期の4人の地位は警部であり、職位は各担当領域での係長である。まずはこのカルテットメンバーについて記しておく。彼らは大卒だがノンキャリアである。大学での所属クラブを並記する。
青山 望 警視庁公安部総務課第七事件担当 剣道部
大和田博 警視庁組織犯罪対策部組対四課事件指導第一 野球部部
藤中克範 警視庁刑事部捜査一課事件指導第二 ラグビー部
龍 一彦 警視庁刑事部捜査第二課 アメフト部
事件は九州最大の都市・福岡市で起こる。福岡グランドホテルのバンケットのリニューアルが行われ、そのこけら落としのパーティ会場に来賓として、地元出身の梅沢財務大臣が出席する。食事が始まり、30分が過ぎた頃、梅沢大臣は会場内を握手しながら歩いていた。正面ステージでアナウンサーが、地元福岡出身の新進女優・川嶋千歳の紹介をし、ステージへの登壇をアナウンスした。登壇する川嶋に会場の皆が気を取られている間合いを狙ったかのように、ジャンパー姿の若い男が梅沢に握手を要望して近づく。と同時に、梅沢に身体をぶつけていき、刺したのだ。近くで誘導していたSPすら気づかない瞬時の動きだった。犯人は会場で私服警官により現行犯逮捕される。後に会場の映像検証が行われると、殺害の実行行為の瞬間、梅沢大臣の動向を注目していた警察官は一人としていなかったことが判明する。
犯人の身柄は福岡県警博多東警察署に移され、取調べが開始される。だが犯人は完全黙秘の態度に出る。警視庁の担当も犯人の指紋を電子指紋認証で確認したのだが該当者がヒットしないという。
事件発生1時間後に「財務大臣に対するテロ行為の発生について」の至急電報が全国警察に発せられ、直ちに特別捜査本部が設置される。被疑者は起訴され、選任された国選弁護人に対しても被疑者は黙秘を続けた。そこで「博多東署第三号」と仮名が付けられる。
警察庁長官の一言で、警察庁は起訴時点で警視庁刑事部と公安部に対し、極秘捜査を指示した。警視庁が福岡県警の事件に介入して行くことになる。
佐藤公総課長が第七事件担当の青山にこの梅沢大臣殺害事件の背景を探るように指示する。そこで青山が行動を開始する。このシリーズの始まりだ。
この捜査は福岡県警刑事部捜査第一課が仕切っていて、県警警備部に情報が入っていないということを、青山は既に警察大学同期生から聞いていた。そして、福岡県警の捜査にどこか足りない部分があると考えていたのである。
青山は、公安部の指導班に属し定年まであと3年という最古参であり過去の異動履歴の特殊な人物、須崎警部補を訪ね、相談を持ちかける。公安部の生き字引・須藤から、「蒲田1号」と呼ばれ完全黙秘を貫徹して起訴された事例があったことを教えられる。青山は、その捜査記録を閲覧することで、何か福岡での事件のヒントを得られないかということから行動を始める。捜査第一課の藤中のところに出向いていき、早速事件について語りあうのである。
このストーリーの展開のまずおもしろい所は青山の才能、キャラクターにある。青山は己の意見を、例え上司であろうときっちりと伝えて筋を通し、押さえるべきところは確実に押さえていく。また、うまく搦手を使うという手練手管にも長けている。情報の収集に必要な人脈やソースをうまく手繰り寄せていく才能を持ち、国政の状況を分析していて独自の所見と人脈も築いている。そして、カルテットとしての絆が強く、各々の分野でのプロとしての能力をうまく組み合わせるまとめ役の力量を持っていることにある。青山は「それぞれの特徴を生かせばいいのに」という考えを持論としている。公安部だ、刑事部だという組織の枠にこだわることを愚かしいとみているのだ。餅屋は餅屋でうまく分担協力して、目的達成を目指せばよいという主義である。
「蒲田一号」を調べていくことから、青山は梅沢殺害事件の被疑者の解明に繋がるヒントを引き出していく。そして、チヨダの理事官、通称「校長」に相談を持ちかける形で、上位者の協力を引き出す。チヨダが福岡県警に指示を出す。そこから「蒲田一号」と「福岡東三号」との接点が見つかってくる。
青山は福岡の事件を本格的に扱う形になり、博多東署第三号は青山との面談に応じるという反応を示してくる。青山は拘置所での面談の席で、博多東署第三号には思いも寄らぬ切り口からの質問を投げかけていく。一方、警視庁は「福岡特捜」として、公安・刑事・組対各分野から要員を福岡に派遣することになる。青山は福特公安を現場で担当する実質的なリーダーとして行動する。
事件の捜査過程で、その背景が意外な方向につながっていく。博多東署第三号の完全黙秘が、政治家、暴力団、芸能界を巻き込んだ広大な闇を背景にしているという事象が見え始める。
この第1作の興味深いところはいくつか挙げられると思う。
1. 青山を介することにより、組織の持つマイナス面、悪弊が見えて来る。警察組織内の公安・刑事・組対など担当領域の違いからくる組織内に内在する問題点、キャリアとノンキャリアの関係、捜査本部における管理官などと現場捜査要員との関係、警察の所轄範囲がもたらす問題点などである。ストーリーに絡まりかなり詳細に描き込まれていく。ぼんくら管理職が弊害となる局面も描き込まれていておもしろい。この小説に、警察組織に対する一つの批判的視点が盛り込まれている。
警察組織に悪弊が存在する中で、青山が人脈を巧みに使い、事件解決を主目的に行動する小気味よさが描き出される。その悪弊の中で青山ら同期カルテットが部門間連携行動を実行し、成果を生み出す面白さである。
2. 青山が一種、司令塔となって、カルテットの中での情報探索の分担と情報の共有化を行う姿が、事件を解決に導く要となる。それぞれがプロである。タコツボ型行動にならずに、プロが相乗効果を発揮できるように行動すれば、何ができるか? 組織の中間層の要員が連携することでトップ層を動かしていくという局面が描かれて行く。そのストーリー展開の面白さがある。これがこの小説の新基軸とも言える。
3. 青山の情報収集と分析プロセスが一つの読ませどころであろう。警察組織内に膨大に蓄積されたデータが分断的に蓄積されている問題点に熟知する青山が、それらのデータ群をどのように結び付け、効果的に有効利用していくか。そのプロセスが興味深い。警察組織内ばかりでなく、青山は政界、警察庁、暴力団組織などの領域においても、培った人脈を介して縦横に情報収集する。その局面での情報がデータと相乗効果を生み出していく。このプロセスが事実証拠の累積となりなっていく。インテリジェンスに携わる青山のプロ感覚とその行動が読ませどころである。
たとえば、青山が本格的に福岡入りをして行くにあたり、次のような描写が出てくる。「福特公安は公安部が得意とする画像分析ソフトとこれを搭載したコンピュータ機器を公安機動捜査隊の大型ワゴン車に積み、福岡県警本部の正面駐車場内に駐車して、ここに捜査拠点を置いた。この大型ワゴン車内のコンピューター装備だけでも、福岡県警の情報管理システムの処理能力に匹敵していた。」(p94)
こういう描写は、フィクションであるといえども、多分警察組織の現状、実態を踏まえているのではないか。そういう視点で読むと、いろいろと興味深い事象が暗示されているようでおもしろい。このシリーズの興味深いところとなる。
4. 小説というフィクションに仮託して、現在の日本の政界や官僚組織、経済界と経済体制・経済状況、日本と世界との関わりなどの局面が暗示的に描き込まれていく。何がその仮託の根底にあり、また誰をモデルとしているかなどと、時折読み替えて考えてみるのもおもしろい。
小説の中でのこれらの局面に対する青山の見方と発想が、小説を離れて現実を考えるときに役立つ視点ともなる。現実社会の実態と動向をどう読見とけるかという点でしばしば参考になり、興味深い。
この小説は、梅沢大臣殺害事件が、背景において様々な事象とリンクしていく氷山の一角であったことを解き明かしていく。そのプロセスに、様々な上記局面が組み込まれている。それを逆読みし、現実の日本の政治経済を考える材料にできるおもしろさともいえる。
5. 公安・刑事・組対に跨がり、青山を介して政界・警察庁ともリンキングする突破口を組み込むという構想が、警察小説のストーリー展開を広げる枠組みとなっている。スケールの大きいストーリーにどこまで発展するのかと、楽しませてくれる次元を内包するおもしろさがある。カルテットメンバーのキャラクター設定もまたおもしろい。ここにも、構想を発展させるネタが仕込まれているように思う。
この第1作のキーワードは「利権」である。博多東署第三号の完全黙秘から始まる事件の謎解きが、どんな利権に絡んでいくのか、楽しんでいただくとよいだろう。九州福岡で発生した事件が、東京にリンクし、また隣国にもリンクしていく。
この第1作では、組対部の捜査員に矢澤巧二という異色警部補を組み込んで行く。矢澤刑事の行動が副次的な読ませどころにもなっている。
この第1作の末尾に刑事部長と公安部長の二人のキャリアの会話が記されている。
「しかし、今回の捜査は警部カルテットの絆の成果ということになるな」
「ああ。警視庁ならではの人材が揃った結果だ」
「絆か・・・・・我々の絆で敵の絆を打ち崩していかなければならないな。本当の絆の強さは正義の強さだからな。しかし、彼らがキャリアじゃなくてよかったよ」
「なぜだ?」
「考えてもみろ。全員がトップにはなれんだろう」
「そういう考え方もあるな。彼らはみなその道のトップになることができる。・・・・・」
カルテットの絆が発揮される構想が、この後シリーズとして続いていく。
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こちらの本も読後印象を書いています。お読みいただけるとうれしいです。
『警視庁公安部・青山望 機密漏洩』 文春文庫
そこで、半ば読み返しを兼ねて、第1作から印象記を順次まとめてご紹介したい。
シリーズを通読した上で感じるこの青山望シリーズの面白さは、各巻が事件の解決という区切りを持ちながら、その次に発生する事件は捜査次元がシフトして、事態がスケールアップの方向にスパイラルに進んでいくという面白さにある。マクロでとらえると、警察と全国規模の暴力組織である東山会との対決ストーリーということになる。
それと、警視庁公安部の青山望を主人公とする公安警察限定ものではなく、青山望を中核としながらも、青山とは警察学校の同期・古川教場の仲間であり、警察組織の各領域に所属する他の3人が登場する。青山はこの3人と強い絆で結ばれ、横の連携と協力ができている。この4人が事件解決にむけてベクトルを合わせて行動するという捜査プロセスを描くという構想の面白さがある。警視庁内の凄腕チーム、カルテットとして活躍していく。いわば4人がそれぞれの分野でのプロであり、リーダー的存在なのだ。警視庁のキャリア、トップ層が瞠目し、信頼する連中ということになる。
このシリーズの起点において、同期の4人の地位は警部であり、職位は各担当領域での係長である。まずはこのカルテットメンバーについて記しておく。彼らは大卒だがノンキャリアである。大学での所属クラブを並記する。
青山 望 警視庁公安部総務課第七事件担当 剣道部
大和田博 警視庁組織犯罪対策部組対四課事件指導第一 野球部部
藤中克範 警視庁刑事部捜査一課事件指導第二 ラグビー部
龍 一彦 警視庁刑事部捜査第二課 アメフト部
事件は九州最大の都市・福岡市で起こる。福岡グランドホテルのバンケットのリニューアルが行われ、そのこけら落としのパーティ会場に来賓として、地元出身の梅沢財務大臣が出席する。食事が始まり、30分が過ぎた頃、梅沢大臣は会場内を握手しながら歩いていた。正面ステージでアナウンサーが、地元福岡出身の新進女優・川嶋千歳の紹介をし、ステージへの登壇をアナウンスした。登壇する川嶋に会場の皆が気を取られている間合いを狙ったかのように、ジャンパー姿の若い男が梅沢に握手を要望して近づく。と同時に、梅沢に身体をぶつけていき、刺したのだ。近くで誘導していたSPすら気づかない瞬時の動きだった。犯人は会場で私服警官により現行犯逮捕される。後に会場の映像検証が行われると、殺害の実行行為の瞬間、梅沢大臣の動向を注目していた警察官は一人としていなかったことが判明する。
犯人の身柄は福岡県警博多東警察署に移され、取調べが開始される。だが犯人は完全黙秘の態度に出る。警視庁の担当も犯人の指紋を電子指紋認証で確認したのだが該当者がヒットしないという。
事件発生1時間後に「財務大臣に対するテロ行為の発生について」の至急電報が全国警察に発せられ、直ちに特別捜査本部が設置される。被疑者は起訴され、選任された国選弁護人に対しても被疑者は黙秘を続けた。そこで「博多東署第三号」と仮名が付けられる。
警察庁長官の一言で、警察庁は起訴時点で警視庁刑事部と公安部に対し、極秘捜査を指示した。警視庁が福岡県警の事件に介入して行くことになる。
佐藤公総課長が第七事件担当の青山にこの梅沢大臣殺害事件の背景を探るように指示する。そこで青山が行動を開始する。このシリーズの始まりだ。
この捜査は福岡県警刑事部捜査第一課が仕切っていて、県警警備部に情報が入っていないということを、青山は既に警察大学同期生から聞いていた。そして、福岡県警の捜査にどこか足りない部分があると考えていたのである。
青山は、公安部の指導班に属し定年まであと3年という最古参であり過去の異動履歴の特殊な人物、須崎警部補を訪ね、相談を持ちかける。公安部の生き字引・須藤から、「蒲田1号」と呼ばれ完全黙秘を貫徹して起訴された事例があったことを教えられる。青山は、その捜査記録を閲覧することで、何か福岡での事件のヒントを得られないかということから行動を始める。捜査第一課の藤中のところに出向いていき、早速事件について語りあうのである。
このストーリーの展開のまずおもしろい所は青山の才能、キャラクターにある。青山は己の意見を、例え上司であろうときっちりと伝えて筋を通し、押さえるべきところは確実に押さえていく。また、うまく搦手を使うという手練手管にも長けている。情報の収集に必要な人脈やソースをうまく手繰り寄せていく才能を持ち、国政の状況を分析していて独自の所見と人脈も築いている。そして、カルテットとしての絆が強く、各々の分野でのプロとしての能力をうまく組み合わせるまとめ役の力量を持っていることにある。青山は「それぞれの特徴を生かせばいいのに」という考えを持論としている。公安部だ、刑事部だという組織の枠にこだわることを愚かしいとみているのだ。餅屋は餅屋でうまく分担協力して、目的達成を目指せばよいという主義である。
「蒲田一号」を調べていくことから、青山は梅沢殺害事件の被疑者の解明に繋がるヒントを引き出していく。そして、チヨダの理事官、通称「校長」に相談を持ちかける形で、上位者の協力を引き出す。チヨダが福岡県警に指示を出す。そこから「蒲田一号」と「福岡東三号」との接点が見つかってくる。
青山は福岡の事件を本格的に扱う形になり、博多東署第三号は青山との面談に応じるという反応を示してくる。青山は拘置所での面談の席で、博多東署第三号には思いも寄らぬ切り口からの質問を投げかけていく。一方、警視庁は「福岡特捜」として、公安・刑事・組対各分野から要員を福岡に派遣することになる。青山は福特公安を現場で担当する実質的なリーダーとして行動する。
事件の捜査過程で、その背景が意外な方向につながっていく。博多東署第三号の完全黙秘が、政治家、暴力団、芸能界を巻き込んだ広大な闇を背景にしているという事象が見え始める。
この第1作の興味深いところはいくつか挙げられると思う。
1. 青山を介することにより、組織の持つマイナス面、悪弊が見えて来る。警察組織内の公安・刑事・組対など担当領域の違いからくる組織内に内在する問題点、キャリアとノンキャリアの関係、捜査本部における管理官などと現場捜査要員との関係、警察の所轄範囲がもたらす問題点などである。ストーリーに絡まりかなり詳細に描き込まれていく。ぼんくら管理職が弊害となる局面も描き込まれていておもしろい。この小説に、警察組織に対する一つの批判的視点が盛り込まれている。
警察組織に悪弊が存在する中で、青山が人脈を巧みに使い、事件解決を主目的に行動する小気味よさが描き出される。その悪弊の中で青山ら同期カルテットが部門間連携行動を実行し、成果を生み出す面白さである。
2. 青山が一種、司令塔となって、カルテットの中での情報探索の分担と情報の共有化を行う姿が、事件を解決に導く要となる。それぞれがプロである。タコツボ型行動にならずに、プロが相乗効果を発揮できるように行動すれば、何ができるか? 組織の中間層の要員が連携することでトップ層を動かしていくという局面が描かれて行く。そのストーリー展開の面白さがある。これがこの小説の新基軸とも言える。
3. 青山の情報収集と分析プロセスが一つの読ませどころであろう。警察組織内に膨大に蓄積されたデータが分断的に蓄積されている問題点に熟知する青山が、それらのデータ群をどのように結び付け、効果的に有効利用していくか。そのプロセスが興味深い。警察組織内ばかりでなく、青山は政界、警察庁、暴力団組織などの領域においても、培った人脈を介して縦横に情報収集する。その局面での情報がデータと相乗効果を生み出していく。このプロセスが事実証拠の累積となりなっていく。インテリジェンスに携わる青山のプロ感覚とその行動が読ませどころである。
たとえば、青山が本格的に福岡入りをして行くにあたり、次のような描写が出てくる。「福特公安は公安部が得意とする画像分析ソフトとこれを搭載したコンピュータ機器を公安機動捜査隊の大型ワゴン車に積み、福岡県警本部の正面駐車場内に駐車して、ここに捜査拠点を置いた。この大型ワゴン車内のコンピューター装備だけでも、福岡県警の情報管理システムの処理能力に匹敵していた。」(p94)
こういう描写は、フィクションであるといえども、多分警察組織の現状、実態を踏まえているのではないか。そういう視点で読むと、いろいろと興味深い事象が暗示されているようでおもしろい。このシリーズの興味深いところとなる。
4. 小説というフィクションに仮託して、現在の日本の政界や官僚組織、経済界と経済体制・経済状況、日本と世界との関わりなどの局面が暗示的に描き込まれていく。何がその仮託の根底にあり、また誰をモデルとしているかなどと、時折読み替えて考えてみるのもおもしろい。
小説の中でのこれらの局面に対する青山の見方と発想が、小説を離れて現実を考えるときに役立つ視点ともなる。現実社会の実態と動向をどう読見とけるかという点でしばしば参考になり、興味深い。
この小説は、梅沢大臣殺害事件が、背景において様々な事象とリンクしていく氷山の一角であったことを解き明かしていく。そのプロセスに、様々な上記局面が組み込まれている。それを逆読みし、現実の日本の政治経済を考える材料にできるおもしろさともいえる。
5. 公安・刑事・組対に跨がり、青山を介して政界・警察庁ともリンキングする突破口を組み込むという構想が、警察小説のストーリー展開を広げる枠組みとなっている。スケールの大きいストーリーにどこまで発展するのかと、楽しませてくれる次元を内包するおもしろさがある。カルテットメンバーのキャラクター設定もまたおもしろい。ここにも、構想を発展させるネタが仕込まれているように思う。
この第1作のキーワードは「利権」である。博多東署第三号の完全黙秘から始まる事件の謎解きが、どんな利権に絡んでいくのか、楽しんでいただくとよいだろう。九州福岡で発生した事件が、東京にリンクし、また隣国にもリンクしていく。
この第1作では、組対部の捜査員に矢澤巧二という異色警部補を組み込んで行く。矢澤刑事の行動が副次的な読ませどころにもなっている。
この第1作の末尾に刑事部長と公安部長の二人のキャリアの会話が記されている。
「しかし、今回の捜査は警部カルテットの絆の成果ということになるな」
「ああ。警視庁ならではの人材が揃った結果だ」
「絆か・・・・・我々の絆で敵の絆を打ち崩していかなければならないな。本当の絆の強さは正義の強さだからな。しかし、彼らがキャリアじゃなくてよかったよ」
「なぜだ?」
「考えてもみろ。全員がトップにはなれんだろう」
「そういう考え方もあるな。彼らはみなその道のトップになることができる。・・・・・」
カルテットの絆が発揮される構想が、この後シリーズとして続いていく。
ご一読ありがとうございます。
↑↑ クリックしていただけると嬉しいです。
こちらの本も読後印象を書いています。お読みいただけるとうれしいです。
『警視庁公安部・青山望 機密漏洩』 文春文庫