遊心逍遙記

読書三昧は楽しいひととき。遊心と知的好奇心で本とネットを逍遥した読後印象記です。一書がさらに関心の波紋を広げていきます。

『知識ゼロからの源氏物語』 鈴木日出男(著) 大和和紀(協力)  幻冬舎

2015-03-18 09:35:18 | レビュー
 著者は日本古代文学を専攻され、源氏物語に造詣の深い研究者・学者である。様々な専門書を執筆されている。この本をたまたま見つけた。2008年10月に第1刷で出版されていた。
 学者が源氏物語をちょっと覗いてみたいと思った人向けに執筆されたことが良くわかる。

 手許に、『源氏物語ハンドブック』(三省堂)がある。そのサブタイトルが「『源氏物語』のすべてがわかる小事典」であり、本書の著者が編集者となっている。後でみると、本書の末尾にこの本も参考文献の1冊に掲載されていた。
 この『源氏物語ハンドブック』の第1部「物語の鑑賞」を本著者が執筆されている。内容を三部に分け、各帖単位で「ものがたり」梗概と「鑑賞のために」としてのポイント説明が簡潔に51ページでまとめられている。

 このハンドブックと対比して、本書を見直すと、源氏物語を三部構成の作品として区分するのは同じなのだが、その概要の説明がかなり噛み砕かれて初心者にも一層読みやすく、わかりやすくリライトされているという感じであり、読みやすい。そして、大和和紀(協力)という表記の理由は、各ページに挿入された漫画のコマが、大和和紀『あさきゆめみし完全版』(講談社)から、該当ページの本文説明とマッチングし、説明をイメージしやすい漫画のコマが抽出されてそのまま掲載されているようなのだ。(『あさきゆめみし完全版』そのものを未読なので、対比的検討はしていない。)優しく解説された本文と漫画のコラボレーションがうまく出来ている。漫画のコマ自体が結構ページの中で大きなスペースを使っているので、硬い感じが一層少なくなるという効果もありそうだ。

 ハンドブックとの違いは、例えば第1部を各帖毎に解説するという手法ではなく、その中を源氏物語の内容の流れに沿って、帖をグルーピングして解説されている点である。ちょっと巨視的に源氏物語の流れをつかんでもらおうという試みなのだろう。こんな具合にグルーピングされている。
 桐壺 世にたぐいなき光源氏の登場
 帚木・空蝉・夕顔 理想の女はいずこに 雨夜の品定め
 若紫 源氏の運命の女君 藤壺と紫の上
 末摘花 廃れた館に住まう 風変わりな姫君
 紅葉賀・花宴 春と秋 宴で映える源氏の舞姿
後は省略するが、こんな感じでの解説となる。そして、「原文を味わおう」と原文の一節を掲げて文意を説明する囲みや、そのグルーピングした帖に関わる基礎的知識を「知識」として取り上げて解説していくというページ構成となっている。真っ先の知識として、「物語の舞台となる内裏」のレイアウト図が1ページで描かれている。それに「入内には政治的な思惑がからむ」「登場人物は実名でよばれない」という知識の囲み記事が続く。「入内」については本文に「じゅだい」とルビがふられている。まさに知識ゼロからでも、読み進めることができるだろう。

 本書の全体は四部構成になっている。源氏物語の3部構成による説明と、各部で触れた知識の補足としての「基礎知識」である。
第1部 輝く光源氏の若き日々 ←桐壺(ふじつぼ)の帖~藤裏葉(ふじのうらは)の帖
第2部 宿世(すくせ)の翳(かげ)りをみる光源氏の円熟期
      ←若菜上(わかなじょう)の帖~幻(まぼろし)の帖
第3部 光源氏の次世代の物語 ←匂宮(におうのみや)の帖~夢浮橋(ゆめのうきはし)の帖
基礎知識 源氏物語を味わうための「い・ろ・は」
 
 「基礎知識」では、次の項目で説明されている。
・知識ゼロから読み始めるために :古典の代表としての源氏物語の位置づけと読み方
・作者・紫式部の人生を知ろう  :簡略に紫式部の人生プロフィールの紹介
・なぜ「作り話」がおもしろいか :虚構の理想像の創作の中に人生の真実のきらめき
・京の都に『源氏物語』をたずねて:源氏物語と関連づけた京都スポット案内
・平安時代・貴族の暮らし    :住まい(寝殿)と衣裳、美人の条件
・平安時代・貴族の一生     :誕生から死までの節目の行事や様相を概説
・平安時代・貴族の一年     :平安貴族の主な年中行事と生活儀礼
・物語中での年表(年立)    :光源氏と薫に関わる年齢毎の主要事項
・主な作中人物系図       :源氏物語三部の各部における作中人物の人間関係

 本書は知識ゼロからちょっと『源氏物語』の世界に足を踏み入れ、その全体像を概略知るというのには、漫画のサポートもあって、親しみやすくて読みやすい。『あさきゆめみし完全版』(大和和紀著)への誘いにもなっている。『源氏物語』が漫画としてどのように構成され描かれているのか、知りたくもなる。


 こちらは、『源氏物語』について、「奥行の深い世界に、いささかなりとも入り込むための道案内に、との願いから企図されたものである」と「はじめに」に記されている。そのため、「物語の登場人物」の個別説明や「読むための重要語句(キーワード)」の一覧リストと語句説明などを含む。紫式部の生涯と源氏物語との関係も詳しくなる。また『源氏物語』年立(年表)も、上記「物語中での年表(年立)」と比較すれば、格段に詳細さを増している。まさに「小事典」としての編集である。
 『知識ゼロからの源氏物語』を中学・高校生に例えるなら、『源氏物語ハンドブック』は大学生・文学部の基本テキストといえるかもしれない。

 いずれにしても、華麗な筆致の漫画を楽しみながら、わかりやすい源氏物語解説を読み、知識ゼロから基礎知識を満たす手始めとしては、楽しく読める、読み通せる本である。

 ご一読ありがとうございます。

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『源氏物語』については、『源氏物語』に関する資料や情報も多く入手できる。また『源氏物語』に魅了されその世界に深く踏み込んでおられる人々のウエブサイトやブログが数多くある。私が時折参照するサイト及び検索していて出会ったサイトなどの一端をリストにまとめ、ご紹介しておこう。

源氏物語 :ウィキペディア
宇治市源氏物語ミュージアム  ホームページ
風俗博物館 ホームページ
紫式部顕彰会 ホームページ
  紫式部の邸宅、紫式部の墓所という項目があります。
源氏物語の世界 ホームページ
  渋谷栄一氏が本文と現代語訳、各種資料などを掲載されています。

王朝の華 源氏物語絵巻  :「徳川美術館」
国宝源氏物語絵巻  :「五島美術館」
源氏絵  植村佳菜子氏による源氏物語絵へのチャレンジ :「源氏物語電子資料館」

装束の知識と着方  :「綺陽装束研究所」
素材を使って平安装束イラストを描かれる方へ  :「綺陽装束研究所」
服飾史 平安時代男子  着物の知識・服飾史  :「着付名人」
服飾史 平安時代女子  着物の知識・服飾史  :「着付名人」
「平安時代について」 トップページ
  用語辞書と用語詳細が作成されています。
源氏物語電子資料館 伊藤鉄也氏 ホームページ
岡野弘彦 源氏物語全講会   :「森永エンゼルカレッジ」
  第188回 特別講義 「日本の創意 - 源氏物語を知らぬ人々に与す」
  トップページはこちらから。

パトグラフィー紫式部 ~解読「源氏物語」~  :「古典総合研究所」
京ことば源氏物語
第一教室 源氏物語探索教室  :「古典文学探索教室」

源氏物語についてのサイトやブログから
 源氏物語 『源氏物語』原文とその背景を読む
 花橘亭~源氏物語を楽しむ~
 源氏物語と古典こてん 
 源氏の部屋
 紫式部の部屋 :「青山ろまん派ダジャレワールド」

YouTube から
源氏物語絵巻
源氏物語 桐壷 The tale of Genji,Kiritsubo , with Music for Boxes, Chris Bell(music), 朗読 千代     ← 現代語訳
源氏物語(桐壺) 朗読 ← 原文


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