遊心逍遙記

読書三昧は楽しいひととき。遊心と知的好奇心で本とネットを逍遥した読後印象記です。一書がさらに関心の波紋を広げていきます。

『「内部被ばく」こうすれば防げる!』 漢人明子 監修:菅谷昭 文藝春秋

2012-12-15 23:17:44 | レビュー
 本書の副題に「放射能を21年間測り続けた女性市議からのアドバイス」と記されている。21年間? その発端は、1986年に起きたチェルノブイリ原発事故なのだ。この事故の後、ヨーロッパからの輸入食品の汚染が問題となり、不安感を抱く小金井市の市民達が「小金井市に放射能測定室を作る会」を結成し、測定器の購入を陳情したことから始まったという。当時、著者は子育て真っ最中の保育園で働く20代だった。奥書によると、1997年に小金井市議会議員に当選し、4期目になるようである。この会は後に「小金井に放射能測定室を作った会」に名称変更し、著者は現在、共同代表となっている。
「あとがき」によれば、「専門家ではない普通の市民による20年以上にわたる放射能測定という貴重な経験に基づいたメセージ」(p166)を発信した書である。
 
 「小金井市での測定活動は、チェルノブイリ事故の2年後に市議会が測定器購入の陳情書を採択し、さらに市との話し合いを経た2年半後にスタート」(p166)という。著者は「測定器は市が購入とメンテナンス、市民が測定するという協働が長続きのポイント」(p154)であると経験を語る。小金井市では市民の無償ボランティアで、1日2回の測定当番を組んでいるそうだ(p155)。市民測定室という発想とその実践活動の草分け的存在ではなかろうか。この辺りの情報がないので、推測にしかすぎないが。

「監修者はじめに」で、菅谷は放射性物質から身を守るために知っておきたいこととして3つ挙げている。
1.状況に変化がない限り、今後は「外部被ばく」より「内部被ばく」に気をつける
 内部被ばくの3つのルート:「経口的」経路、「経気道的」経路、「経皮的」経路
 食事・飲食、呼吸、濡れる・触るという形で、今後放射能を体内に取り込んでしまう可能性があるという現実を認識しなければならない。
2.低線量被ばくだから安心、とは言えない
 つまり、放射性物質の影響を、急性影響、晩発影響、遺伝的影響の3つに分類して理解することの必要性を述べ、「放射性物質は、いったん体内に取り込まれれば、少量だろうと、なんらかの影響を与える」(P21)という認識が必要だと説く。
3.子どもは大人より、放射線の影響を受けやすい(放射線感受性が強い)
 つまり、「少しの量でも汚染されている飲みものや食べものは、少なくとも子どもや妊産婦は、できる限り避けたほうがいいのです」(P22)という。

 本書は、監修者の3つの守ること、つまり「内部被ばく」を防ぐ実践についてQ&Aの形で、具体的に分かりやすく説明している。21年間の放射能測定活動の中でのノウハウが「第1章 測る」「第2章 避ける」「第3章 動く」という三章構成でまとめられている。
 自分たちの活動で実践してきたこと、実践していることを踏まえて説明されているので読みやすくて、分かりやすい。抽象的な理論ではなく、具体的な事例中心で、イラスト入りの説明が親しみやすく、直感的に理解できる工夫がなされていて好感が持てる。初めて読む人向きに記されているといえる。

 第1章は、タイトルそのもの。「測る」ことだけが、不安を解消してくれるのであり、放射能について知ったうえでは、実際に「測る」以外に、「内部被ばく」を防ぐ方法がないことを具体的に納得させてくれる。
 「人間と(人工的な)放射能は共存し得ない。自然界の放射能以外は、受けない」(p28)ということがあくまで基本原則なのだ。
 ベクレルとシーベルトの違い、年間被ばく量の計算方法から説明し、どういう機器で、どのように測定するかを実践的に説明している。過去の数多くの原水爆実験の累積、チェルノブイリ原発事故、福島第一原発事故によって、放射性物質がこの地球に拡散している実態から出発しなければならない。放射性物質について、放射能について、事実を知れば、対策を考え、行動を起こすことができる。何も知らないままに内部被ばくを続けてしまう可能性を回避し、状況を変えられるのは、事実を知る行動であり、測定はそのためなのだ。

 第2章は、放射能の「移行係数」というものを説明した後、どんな食品からどの程度の放射能が測定されたのか、食品の放射能をどうしたら軽減できるかなど、具体的な事実データを採りあげながらイラスト入りで説明してくれている。自分たちの測定室でのデータ、実験などを軸に様々な公開データも活用され、経験に裏付けられた実践的情報が満載である。
 たんぽぽ舎の鈴木千津子氏が、「事故後の汚染度はどう変わってきたのか」という題で「傾向と対策」を紹介している。原発事故以降に測定依頼を受けて、自ら測定作業をしたデータを使ったものである。測定値に語らせているとも言える地図掲載が一目瞭然でインパクトがある。

 第3章は、行動に移す実践方法を語る。「小金井に放射能測定室を作る(/作った)会」の活動経験をベースに、要望の提起の姿勢・しかた、陳情の方法、請願書(陳情書)の書き方など、事例を交えてまとめている。
 
「2012年からは『土壌に染み込んだ放射性物質からどれくらい吸収するのか』が、ひとつの着目点になります。」(p162) 内部被ばくの問題は、チェルノブイリの事故以降、あの福島第一原発事故で幾重にも重なる形で、今改めて新たに再スタートしたこれからの問題なのだ。内部被ばくについて、不安感をいだいている段階の人がまず読み始めるのに最適の実践書と言える。

最後に、本書に記された次の文を引用しておきたい。
*放射能の被害を低く見積もって問題にしようとしない姿勢は、高い汚染の中で暮らさざるを得ない子どもたちの現状を見過ごす風潮を生み出します。  p158
*「規制値は超えていまくても、汚染された食物を子どもが食べるのは問題だ」と指摘することは大事なことです。 p158
*感情論に流されず、きちんと主張するべきを主張し、必要に応じて反論していける強さとしなやかさが必要です。少なくとも、子どもたちに将来、大人が引き起こした核災害のつけを背負わせるようなことはしていはいけません。 p160


ご一読ありがとうございます。

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 本書に出てくるもの、また重要項目を検索してみた結果を一覧にしておきたい。
 「知る」ことから始める契機になれば、うれしい次第です。

小金井市放射能測定器運営連絡協議会 公式サイト

小金井市に放射能測定室を作った会

たんぽぽ舎
  タンポポ舎・放射能測定室

TEAM二本松「市民放射能測定室」


ベクレルについて考えてみよう :「放射能について正しく学ぼう」(-Team Coco-)

ベクレル(Bq)、シーベルト(Sv)換算 - 放射能・放射線の量 :「MEMORVA」

放射能Q&A :「東京都健康安全研究センター」

放射性物質の基礎知識 :農林水産省


環境放射線測定結果:「東京都健康安全研究センター」

福島県 各種モノタリング結果 項目一覧ページ

福島県放射能測定マップ

環境放射線等モニタリングデータ公開システム

モニタリング情報 :「原子力規制委員会」


放射線量等分布マップ(土壌濃度マップ等) ←放射線モニタリング情報:文部科学省

環境放射能水準調査結果 ←放射線モニタリング情報:文部科学省

航空機モニタリング結果 ←放射線モニタリング情報:文部科学省

全国及び福島県の空間線量測定結果 リアルタイム情報 :文部科学省


「食品と放射能Q&A」 :「消費者庁」
    正誤表  
東日本大震災関連 消費者庁の食の安全関連についての各種情報一覧ページ

食べ物と放射性物質の話 :農林水産省

食品等に含まれる放射性物質 (小冊子):農林水産省

食品と放射能 :「日本の環境放射能と放射線」
 いろいろな食品に含まれる放射能のレベルを見ることができます。

低線量放射線被曝のリスクを見直す :「NPO法人 市民科学研究室」

身の回りの放射能 :「日本の環境放射能と放射線」

環境中の放射能と放射線 :「日本の環境放射能と放射線」
 日常食、野菜、精米、牛乳など18項目の一覧から選べます。

環境放射能用語集 :「日本の環境放射能と放射線」


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読んでいただけると、うれしいです。

『福島 原発震災のまち』 豊田直巳 

『来世は野の花に 鍬と宇宙船Ⅱ』 秋山豊寛 

『原発危機の経済学』 齊藤 誠 

『「想定外」の罠 大震災と原発』 柳田邦男

『私が愛した東京電力』 蓮池 透 

『電力危機』  山田興一・田中加奈子

『全国原発危険地帯マップ』 武田邦彦

『放射能汚染の現実を超えて』 小出裕章

『裸のフクシマ 原発30km圏内で暮らす』 たくきよしみつ

2011年8月~2012年7月 読書記録索引 -1  原発事故関連書籍