遊心逍遙記

読書三昧は楽しいひととき。遊心と知的好奇心で本とネットを逍遥した読後印象記です。一書がさらに関心の波紋を広げていきます。

『原発列島を行く』 鎌田 慧  集英社新書

2011-10-13 00:52:35 | レビュー
 本書は10年前に出版された。1999年2月から2001年9月まで、「週刊金曜日」に断続的に連載されたルポルタージュに手が加えられたものである。10年前、多分出版広告を目にしていただろうが、当時この本やこの分野の本をあまり意識しなかった。3.11でショックを受けて、原発への関心の向けかたが不十分だったことに内心忸怩たる思いを抱いた。原発問題についての事実探究を行う一環で、この本を関連資料の一冊として読んでみた。

 10年前の当時のルポルタージュとしてここに描き出された姿。それは、現在もそのまま何ら変わらず連綿と続いているのではないか。原子力のムラ社会がそのまま継続している。そんな思いを強くした。そして、現在の姿を生み出した10年前の実態とプロセスを再確認することで、現在の原発問題の構造が逆に一層鮮明になったという実感だ。

 過去に幾度も現地取材した経験のある著者が、このルポルタージュのために日本列島を北海道から鹿児島まで縦断し、主として原発反対の活動に関わる人々に再会して現状をつぶさに見つめ直し、データとも照合した報告だと言える。現在の原発の姿を成り立たせている実態を知る為には、やはりその背景、過去の実態を眺めて見ることが必要だろう。たとえ、遅ればせながら・・・・という感が伴おうとも。やはり、過去があり、現在がある。過去を知った上で、悪しき現在を断ちきるために、そして未来への対応を図るために。

 著者は、「原発の問題点を挙げれば、その危険性が忌避されて、立地を引き受ける地域がないために、政府と電力会社ともども、すべての問題をカネで解決する風習をつくりだしたことである。バラ撒き政治というなら、これほど露骨で、これほど退廃したやりかたはない」と「あとがき」に記載している。そして、著者は、本書のテーマは、「あらゆる手段を弄し、カネをそそぎこむ、その事例の検証」にあったという。

 本書は17章で17地域をルポしている。10年前と現状のギャップを埋め、連接していくために、各章を読みながら、ネット検索して、電力会社がどこで原子力発電所情報を開示し、原発反対行動の現状の一端をつかめるソースを一部にしかすぎないが抽出し、考える材料にした。

 著者のカバーした地域を北から南下してみると、北海道泊村、青森県六ヶ所村/大間町/むつ市・東通村、新潟県柏崎市・刈羽村/巻町、福島県双葉町・富岡町、茨城県東海村、静岡県浜岡町、岐阜県東農地区、石川県珠洲市、福井県敦賀市、山口県上関町、島根県鹿島町、愛媛県伊方町、鹿児島県馬毛島/川内市となる。(ネット検索の情報は章の順番で列挙した。)

 ルポルタージュは、やはり本文を読んでその臨場感から感じ取っていただくのがベストだと思う。そこで、私が著者の判断、確信、主張等と認識した箇所を抽出・引用してみる。なぜ、そういう記述がでてきたのか・・・・理由や背景を本書で確認いただくとよいだろう。
*原発は地域を発展させるはずだったが、過疎化に歯止めはかかっていない。
*原発の配管に問題が多い。
*原発は地域の民主化の最大の妨害物、というのが、ほかの地域をふくめた、原発地帯を取材してのわたしの結論である。
*原発が、「原子力基本法」に掲げる、「自主、民主、公開」の三原則といかにかけはなれた、キタナイ存在であるかは、すでに原発立地地域での常識である。
*原発にわたしが反対している大きな理由は、すべてカネの力で解決するやり方である。これほど人間をバカにしていることはない。建設の実施は、原発がもっている目的の崇高さとか、人間生活にとっての意味などによって、住民を説得した結果ではない。
*「因果関係を立証できない」というのが、原発推進の科学技術庁の逃げ先である。
*地域にカネをばらまいて立地を推進するやり方は、自治とは正反対のタカリと依存の精神を増殖する。・・・自治体の最高責任者である「首長」たちが、住民の強い反対にもかかわらず、判断停止したフリして、企業や国の意向に迎合してきた実態である。それは自治の放棄といえる。
*中間貯蔵所が、はたして最終処分場に持ち込むまでの、暫定的な置き場ですむのかどうか、肝心の最終処分場の候補地が決まっていないので、まだ不透明だが、再処理工場の「原料」の名目で、核廃棄物を六ヶ所に搬入しつづけているのは、ペテン、といっていい。*電源三法交付金でまかなわれる。といっても、この資金は、電気料金に上乗せした税金によっているのだから、つまりは消費者が支払ったものである。
*これらの過大な施設を考えたのは、村ではない。全国の原発施設を手がけている、「電源地域振興センター」である。この組織が、国の資金を浪費するために、必要以上の施設をむりやりつくらせ、カネを吐き出させている。・・・利権集団である。
*労働省の労災認定基準は、年間5ミリシーベルトだが、「原子炉等規制法」の被曝限度は、年間50ミリシーベルトとなっている。日本の原発が、労働者の被曝を許容しながら運転されているのは、非人道的といってまちがいはない。 (付記:フクシマの原発労働者は今、250ミリシーベルトが被曝限度というのはご存じのとおり。)
*原発への道にはカネが敷き詰められている。(著者の感慨)
*カネがならい性となって、地元にタカリの風習がはびこるのが、原発のもうひとつの危険性である。
*むりやり他人の土地に侵入するしかない存在としての原発は、地元を繁栄させるどころか疲弊させ、被曝ばかりか人間の精神まで荒廃させる。その基本が植民地経営にあるからだ。
*原発は立地してから時間がたつにつれて、ほとんど例外なく、しだいに疎ましい眼でみられるようになる。社会的に受け入れられない企業活動ならば、それは反社会的な行為といえるのではないか、というのが私の率直な疑問である。

 さて、最後に本書の「はじめに」に戻ってみる。著者は冒頭で、こう書いている。
「いまのわたしの最大の関心事は、大事故が発生する前に、日本が原発からの撤退を完了しているかどうか。つまり、すべての原発が休止するまでに、大事故に遭わないですむかどうかである。大事故が発生してから、やはり原発はやめよう、というのでは、あたかも二度も原爆を落とされてから、ようやく敗戦を認めたのとおなじ最悪の選択である。」

 日本は福島第一原発爆発事故という「最悪の選択」をしてしまった。その現実から再出発するしかない。「懲りない人々」の跳梁跋扈に無関心であってはならない。今度こそ。

各章を読みながら、関連項目として関心を広げ、ネット検索した結果の情報をリストする。

六ケ所再処理工場 :ウィキペディアから

六ヶ所村核燃料再処理事業反対運動  :ウィキペディアから

「六ケ所再処理工場の耐震設計」(2008.11.27)

なぜ六ヶ所再処理工場の運転を阻止したいのか :小出裕章氏

六ヶ所再処理工場反対 :「美浜の会」によるサイト


JAEA 東濃地科学センター :同センターのホームページ

ようこそ瑞浪超深地層研究所へ」JAEA

東濃の高レベル研究施設を見学しました
日本消費者連盟関西グループ発行「草の根だより」2001年2月号に掲載されたもの

放射能のゴミはいらない! 市民ネット・岐阜 のホーム・ページ


上関原子力発電所(準備工事中):中国電力のサイトから


The New York Timesのウェブサイトから
Japanese Island’s Activists Resist Nuclear Industry’s Allure
By HIROKO TABUCHI
Published: August 27, 2011
上関原発問題の関連ですが、これほどのボリュームで記事にされていることは特筆すべきことのように思います。祝島の原発反対闘争を中心にした記事です。

STOP!上関原発!

上関原発反対運動 
祝島の視点から見た原発反対運動を紹介


島根原子力発電所 :中国電力のサイトから

宍道断層の東端の認定根拠について :中国電力・島根原子力発電所

さよなら島根原発ネットワーク :同ホームページから

宍道断層 

島根原子力発電所近傍の宍道断層を巡る重大問題とそれへの対応

山陰地域の活構造 :横田修一郎氏の論文


原子力発電について  :関西電力のサイト
美浜、大飯、高浜の各原発のサイトへの入口です

美浜の会
美浜・大飯・高浜原発に反対する大阪の会 :同ホームページから

もんじゅ :ウィキペデイアから


伊方原発所 :四国電力のサイトから

伊方原発のプルサーマル問題  :個人ブログ

原発さよならえひめネットワーク

原発さよなら四国ネットワーク



大間原子力発電所の概要 :青森県のサイト

大間の海は宝物、函館の海も宝物、子孫へ残そう宝の海を

大間原発訴訟:活断層想定せず 函館も廃虚に :YouTubeから


珠洲原発を知るために


馬毛島 :ウィキペディアから


川内原子力発電所 :九州電力のサイトから

川内原子力発電所3号機増設関連 :九州電力のサイトから

地球のみどりを大切に 原発なしで暮らしたい!:同ホームページ

反原発・かごしまネットからの公開質問状と本県の回答 :鹿児島県


JCO事故 :原子力安全研究グループのサイトから

JCO事故を考える :小出裕章氏の講演レジュメ
 (講演レジュメのリストの中にあります。)


東通原資力発電所 :東北電力のサイト


柏崎刈羽原子力発電所 :東京電力のサイト

柏崎刈羽原子力発電所の透明性を確保する地域の会
 (東京電力柏崎刈羽原発周辺の住民らでつくる市民団体)

柏崎刈羽原発の閉鎖を訴える科学者・技術者の会


原発反対運動四十年!石丸小四郎(双葉地方 原発反対同盟代表) 現地報告『福島原発の40年、現状と課題』 

脱原発情報 :プルサーマルに反対する双葉住民会議

脱原発福島ネットワーク


巻原子力発電所 :ウィキペディアから
 2004年2月5日 原子炉設置許可申請の取下げ → 反対派の勝利

「論駄な日々 畑仲哲雄の学問修行」ブログから
2011年2月 4日 (金)
巻町の住民投票とdeliberative democracy(備忘録)
伊藤守・渡辺登・松井克浩・杉原名穂子(2005)『デモクラシー・リフレクション:巻町住民投票の社会学』リベルタ出版 についてのブックレビューですが、参考になります。

巻原発をめぐる情勢


原子力情報 (泊原発) :北海道電力のサイトから

泊原発関連記事一覧  :北海道新聞のウェブサイトから

泊原発営業運転再開と 反対デモのリンク集


浜岡原子力発電所 :中部電力のサイトから

浜岡原子力発電所リプレース計画など :同上サイトから

ストップ!浜岡原発   :同ウェブサイト
東海地震が過ぎるまで、浜岡原発を止め続けましょう!

浜岡原発 のニュース検索結果

浜岡原発を考える会・伊藤実さん講演(3)金と脅しで住民を黙らせた中部電力
:「Liberal Utopia 持続可能な世界へ」ブログから
(2005年4月3日 「ひと・まち交流館京都」にて)

浜岡原発反対原告団 (転載記事) :「ヨットで波乗り&伊勢海老探し」ブログから


放射線災害警報ネットワーク(R-DAN) :同ホームページ

電源地域振興センター
(当ホームページの「ごあいさつ」を見て、別途ネット検索すると、現会長は電気事業連合会会長、理事長は元・官僚、科技庁官房長、中小企業庁長官などを歴任ということがわかる)

原子力発電の現状

原発がどんなものか知ってほしい(全):平井憲夫氏

ご一読、ありがとうございます。