今日は都合により、5冊の新刊のご紹介をいたします。
『エール』(濱野京子他5名・講談社)
5人の作家がYA世代に贈る、読むと元気になるアンソロジーです。この本は『ハピネス』と対になって、YA!エンターテインメントの10周年記念として出版されました。
このなかで『わたしの青』(濱野京子作)をご紹介いたします。『レガッタ!』シリーズのなかの登場人物「三浦琴美」が主人公のお話です。
主人公の飯塚有里の一年後輩の「琴美」は、『レガッタ!』の中ではそれほど大きく目立つ存在ではありません。
この琴美が見つめている眼差しや自分自身のすがた、そしてボーイフレンドのことなどが、この物語では綴られていて、角度を変えて人間を見つめたおもしろさがあります。これを読んで『レガッタ!』シリーズのファンが増えそうです。
いわば『レガッタ!』の外伝というべき、もうひとつのドラマが、ここにはあります。
『がむしゃら落語』(赤羽じゅんこ作・きむらよしお絵・福音館書店)
意地悪トリオの策略にはまってしまった、いじめられっ子の「雄馬」は、その場所で落語家と出会います。その落語家はだらしない売れない落語家です。
でも、やることなすことがおもしろい。
「特技発表会」で落語をやることになってしまった「雄馬」はガールフレンドの「早川」に背中を押されながら、「笑八」に弟子入りすることに・・・。
そんな「笑八」とのからみがとてもおもしろいです。ぽんぽん飛び出すダジャレ。インスタントラーメンの中にご飯を入れて食べるライスラーメン。
昇進できない、さえない落語家の「笑八」がとてもいい味を出しています。ラストは思わず「カッコいい!」と。
また赤羽さんご自身、しっかりと落語を研究されてこのご本を書かれているので、落語そのもののおもしろさも満喫できます。
ラスト、「特技発表会」で窮地におちいった「雄馬」がとった行動とは!
『光のうつしえ』(朽木祥作・講談社)
被爆二世である朽木祥さんが描いた話題作『八月の光』に次ぐ、「ヒロシマ」を描いた作品です。
この『光のうつしえ』で、主人公の「希未」は、いままで知らなかった「あの日」・・原爆投下された日からの人びとの生きるすがたを、身近な大人たちを通し、確かなものとしてつかみとっていきます。
この作品は、朽木さんのいわば「ヒロシマ」集大成ともいえる力作です。
場面はうつくしい燈籠流しのシーンからはじまります。そこで声をかけてきたひとりの老婦人。
記名のない白い燈籠を流し続ける母親のすがた。お墓参りで出会った美術教師のうしろすがた・・・。
そういった小さな謎とも思えるシーンを重ねながら、それが大きな波となり、うねりとなって、「今」を生きる少女・少年たちの胸に「あの戦争」を想起させます。
折り折りに、はさみこまれた手紙と見知らぬ人の新聞に投稿された短歌。
それらが、「戦争」のむごさ、悲しさを突きつけます。
祈りにも似た、作者の確かな筆の力に、ラスト、泣きました。
『滝の湯へいらっしゃい』(佐々木ひとみ作・jyajya絵・岩崎書店)
お母さんが骨折し入院してしまったため「かえで」は、古びた温泉街で旅館の「大おかみ」をしているおばあちゃんのところへやってきます。
そこで出会った、ひと夏のふしぎであたたかな物語です。
温泉街の下駄の足音や、湯の香り。にぎやかさ。そんな温泉特有の雰囲気が叙情性豊かにたっぷりと描かれています。
ある日「かえで」は、賑やかな温泉街の外れにある共同浴場にやってきます。ここは「滝の湯」といって、年にいちど、神様が入りにくるとされている温泉なのです。
この「滝の湯」で「かえで」はひょんなことから、番台を手伝うことになります。はてさて「滝の湯」を守る「糸子ババ」の正体はいかに!
湯の森温泉で「特別な夏」をすごした「かえで」の成長と、「おみょうにち」という言葉。
それらが読み終えて胸をほっこりとさせます。
『すすめ!近藤くん』(最上一平作・かつらこ絵・WAVE出版)
いつも「近藤くん」は騒々しいです。でもひとりで本を読んでいる「北山あいちゃん」のことが気になって仕方ありません。あいちゃんは、目がちょっとだけつりあがっていてオオカミのようなクールなひとみをしている、一匹オオカミ的な女の子です。でも「近藤くん」はその目にシビレているのです。
そんな「近藤くん」は、なんとしてもあいちゃんの視線をこっちに向けたくて、さまざまな破天荒ぶりを発揮します。
「これでもか、これでもか」という近藤くんの健気なひたむきさは、あまりにもおかしくて大笑いしてしまうくらいバカっぽいです。それなのにちょっとだけカッコいいです。まるでデフォルメされた作者の一平さんのよう・・・。(笑)
その彼の筆は、中途半端なところでは止まりません。どんどん突き進んでいきます。あいちゃんにつかまえてあげたあまがえるを見せていて、勢い余ってベロに乗せた近藤くんがそれを飲みこんでしまうのです。
みんなは大騒ぎ。「近藤くんがあまがえるを食べちゃった」と。そこでの近藤くんの表情の描写。ラスト、あいちゃんに救済してもらった近藤くんの表情や言葉にはペーソスさえ漂っています。読者を大笑いさせながら、こうした着地に持っていく最上一平は、やはりただ者ではありません。
皆さま、この5冊、お読みになってください。