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治水目的のユニークな形式のダム、長沼ダム&最上小国川流水型ダムを訪ねて

2024年07月11日 | 土木構造物・土木遺産
一泊二日という時間と費用をつぎ込んで鳴子ダムだけいてくるのはもったいないと、あらかじめ見どころを探って宮城県北部に足を踏み入れる。大崎・栗原・登米の各地区は、県と仙台の喧騒と賑やかさを離れて、栗駒山地のふもとで豊かな自然を感じる土地である。
決して土木構造物の中心にダムがあるわけではないし、マニアでも固執しているわけでもないのだが、鳴子に行くなら近年完成した珍しい機能を持つダムがあるので紹介しておきたい。



一つは「長沼ダム」。こちらも大倉ダムと同様、ネーミングライツにより「パシフィックコンサルタンツ長沼ダム」の愛称がつけられている。2014年(平成26年)完成、宮城県土木部の施工による県営の多目的ダムで、既存の自然湖「長沼」を利用した極めて珍しく、国内でも最大規模のダムである。
堤高は15.3メートル、ちょっとした堰堤。ダムといても主堤体の中央に見えるのは少し大きめの水門にしか見えない(写真上)。しかし、これがアースダムの中では湛水面積、総貯水容量で国内最大規模のダムなのである。(北海道・雨竜第一ダム(朱鞠内湖)の副堤である「雨竜土堰堤」を除く。)
堤長が1,050メートル。農業用水・発電用水を貯めるアースダム(堰堤)の特性として堤長が長くなることは多いが、多目的ダムとしてはこれまた一番長いという。また、レクリエーション機能(いわゆるダムの役割(目的)記号の「FAWIP」にない「R(=Recreation)」)を有していて、この役割を担うダムは国内2基でだけ、長沼ダムと兵庫・石井ダムしかない。めちゃくちゃ地味だけど、非常に貴重なダムなのである。(写真上:長沼の湖畔にある公園「長沼フートピア。奥の湖面に漕艇場のコース看板が見える。)



長沼ダム(長沼)は、迫川(はさまがわ)に接している。迫川は北上川の支流で、昔から暴れ川といわれ、毎年のように農地や宅地に湛水被害を及ぼしていた。迫川に限らず、北上川下流の支流では北上川の水が逆流して被害を大きくしてきた。
そのため、隣接していた長沼に導水路を築き、増水時に水を引き入れて下流部を守るというのが長沼ダムの大きな役目である。そのため平場の沼に水を引き入れるため、どでかいコンクリート式のダムが必要ということではなく、2,700メートルートル導水路(写真上)もダム施設の一部で、ダムの構造を示す各ランキングで上位に押し上げているのである。
迫川に接する導水路末端には、川の堤防より低い越流堤(写真上)が設けられていて、迫川の水位が上がると水が長沼に流れ込むという仕組みだ。迫川を挟んだ迫川左岸には南谷地遊水地もあって、非常時には長沼ダム付近は下流部の登米地域を守る要となっているのである。



もう一つのダムは、鳴子からの帰路、県境を越えた山形・赤倉温泉の上流にある「最上小国川流水型ダム」だ。「流水型」?ちょっと聞きなれないことだけでも貴重な気がするが、初めにこのダムのある場所の背景や環境に触れておきたい。
最上小国流水型ダムのある赤倉温泉は、山形県最上郡最上町、宮城県の県境に位置する秘湯だ。小規模な温泉宿が数軒、今年の暖冬少雪の中、冬季国体の会場となった赤倉温泉スキー場がある。そこに流れているのが最上川の支流・小国川は急流で清流、「松原アユ」というブランドにもあっているアユの遡上地であり、手つかずの自然が残されていた。
「脱ダム宣言」の運動が高まる中、最上川の有力支流の中でダムのなかった小国川でのダム建設は、当然のように漁協を中心として建設反対、温泉への影響や森林伐採による環境変化を憂う声も上がる中、度重なる温泉街の浸水被害から守るということから、環境にやさしい「穴あきダム」の建設が計画された。それが今回紹介する「最上小国川流水型ダム」だ。



堤高41メートル、堤頂長143メートル、2020年完成、山形県が事業主体の見た目は普通の重力コンクリート式ダム。ただ、堤体下部にある常用洪水吐は小国川の水面レベルとほぼ同じで、常時、流れ込んだ水をそのまま流す仕組みになっている。つまりコンクリートの壁(ダム)に穴をあけただけのシンプル構造で、いざという時に一時的に水を受け止める。これが流水型ダムといわれるものである。
洪水調整に特化したダムで、普段は水を貯めないため水質の悪化はなく、川の流れとともに土砂も流れる。計画高水流量(ダム計画において設定される、河川に流れ込む計画上の流量)330立方メートルのうち、洪水時にはダムに設けられた洪水吐口から80立方メートルを下流に流すという仕組み。(写真上:ダム上流部。普段は水を貯めこまない。)
流水型ダムは歴史的には以前からあるものの、「脱ダム宣言」からも環境にやさしく、工費や管理費削減にも貢献するとのことで注目が高まっている。小規模ダムがいくつか建設中であるが、2029年完成予定の福井・足羽川ダムは流水型ダムのなかでも大規模なものとなる。治水目的のダムは、「命を真ん中に考える」ことでもある。

※今回紹介に二か所のダムは現地管理所に人は常駐しておらず、ダムカードについては、長沼ダムはクルマで10分ほどの「宮城県登米合同庁舎」で、最上小国川流水型ダムはすぐ下流の赤倉温泉「赤倉湯けむり館」で配布している。

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