Credo, quia absurdum.

旧「Mani_Mani」。ちょっと改名気分でしたので。主に映画、音楽、本について。ときどき日記。

「ゴーストライター」ロマン・ポランスキー

2011-09-17 02:55:03 | cinema
ゴーストライターTHE GHOST WRITER
2010フランス/ドイツ/イギリス
監督・脚本:ロマン・ポランスキー
原作・脚本:ロバート・ハリス
出演:ユアン・マクレガー、ピアース・ブロスナン 他



ポランスキーという表記はもう古から定着していると思うので、
ここでも採用するのだが、
ポーランド関係の心の師匠である芝田文乃さんが
ポーランド人には「◯◯スキ」はいるけど「◯◯スキー」はいない、
とおっしゃっていたことが心に深く刻まれているので、
ほんとうは「ポランスキ」なんだろう。

とポランスキーについて書くときには
毎回同じような前置きを書くことになる。


で、「ゴーストライター」
これは結論的にはもう滅法面白かったのである。
面白いというと語弊があるかもしれないので、
滅法気に入ったといったほうがよい。

だいだいワタシは映画評論家でもなんでもないので
面白いとか気に入った映画を前に、
とにかく形容し難く面白かった!(T_T)
と涙するのが一番の楽しみなわけである。

で、この映画はその類の楽しみを
十分に湛えていたのであるから、
面白かった!と泣く他はない。


*********

以下若干のネタバレを含むと思われる。



とかいいつつも不覚にもこの映画のファーストシーンを覚えていない。。
残念である。

印象深いのは元首相の隠遁先である島に
主人公が赴いてから。

徹底して天気は荒涼とし、
砂とまばらな植物からなる殺伐とした海辺の風景に
風はごうごうと吹き止まぬ。

一度たりとも晴天であることはない。

そして主人公が最初に通され
原稿を読むことになる部屋は
その荒涼たる景色を一望できる全面ガラス窓のある部屋である。

この映画の基調はその風景にある。

ワタシは何度もいうかもしれないが
過去海辺に住んでいたことがあり、
南洋のリゾートでもない限り
海というのは大概は荒涼としていることを知っている。

つまり海の近くのうざったさとはそういう
砂と潮風に翻弄されるウザさであり、
この映画はそのウザい皮膚感覚をすばらしく表現してしまっていることに
感心する。

のみならず、
そのウザい強風の中でひたすら
散乱する植物の大きい枯葉を箒でかきあつめるという
愚行を繰り返す使用人が
一度ならず背景として登場するのも
実にツボである。

徒労の使用人を背景に
元首相が電話で誰かに怒鳴りつけているのが見えたりする
謎めいたシーンがあったりする。
滑稽とシリアスの無言の同居。
ここにポランスキーの突出があるように思う。




中盤からはここに雨が加わってくる。
車で町から港へ、港から森へナビで導かれるシークエンスも見事だが、
その禍々しさを確かなものにするのが
雨が降ったであろう地面のぬかるんだ感じ、
森のはらむ湿度
港の路面のテカリ

濡れた感じ

不安なフェリー港の宿
そこであんな状況なのにジョークを言わなくてはならないイギリス人の
笑える辛さ
そういえばやたらと「君はイギリス人だね?」というやりとりがでてくるのも
不思議。。
異邦人のアイデンティティを常に確認されながらの探求と逃避

そして見事なラストシーン
ポランスキーとしては順当な結末だが。
主人公がフレームアウトしたあとの不吉な予感は
考える間を与えず的中し驚きを与える。
紙が先ず1枚飛び、そして2枚3枚、ついには道路をおおうほどの紙吹雪となる
このかっこよさはまあ見事としか言いようがない。



とにかく謎解きや緊迫の逃避行という説話的な仕組みだけで観るのではなく、
ウェットな質感や雲の暗さ、夜の冷たさで多くを物語る、
総合的な多くの逸脱を含めた全身で楽しむ映画として
観ることが吉だろう。


@ヒューマントラストシネマ有楽町


(メモ的余談だが、ここのトイレで誰もいないのに
耳元で高い声が一瞬囁いたのを聞いたのも
不思議な思い出。。ポランスキー的な。。。)
コメント (2)
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