Credo, quia absurdum.

旧「Mani_Mani」。ちょっと改名気分でしたので。主に映画、音楽、本について。ときどき日記。

「ルポ 貧困大国アメリカ II」堤 未果

2010-05-26 22:27:08 | book
ルポ 貧困大国アメリカ (岩波新書)
堤 未果
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ルポ 貧困大国アメリカ II (岩波新書)
堤 未果
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ルポ貧困大国アメリカll 

前著に続き、今度はオバマ政権での現状をルポした本作。
オバマによって状況はチェンジしたのか?
今回は特に医療保険制度の問題と、新たに浮上してきた刑務所ビジネスに絞って取り上げられている。

医療制度改革はオバマ公約の目玉の一つであり、その動向が報道されたりもしていたが、内実はこんな感じらしい。
●多くの医療従事者などが求める、単一支払皆保険制度の導入(公的保険への一本化)という選択肢は、改革議論のしょっぱなで排除され、オール民間保険で行くか、民間保険と公的保険の選択制でいくか、という議論にすりかえられてしまった。
●製薬業界は利潤の2%程度の譲歩と引き換えに、政府に薬価設定で交渉する権利を10年間放棄させた。
●完全解決よりもすこしでも改善される道が現実的と、オバマを当初支持したリベラル陣営もオバマの変節を許容した結果、発言力を低下させている。
●利権側はマスコミを動員して、公的保険導入により保険料は上がりサービスは低下する、というネガティヴキャンペーンを繰り広げ、もともと利権構造などを知らない貧困層や中流族をコントロールしている。(アメリカって新聞読まないでTVみる人が大多数って話)

ということで、結果としては保険会社や製薬業界の利権はほぼ守られ、その利権は国民の多数に多額の医療費を負担させ債務を増やし、あるいは医療従事者を過剰労働と効率主義で縛り上げることによって形成される。この構図はほとんど変わることがない。

なんとも絶望的だが、この絶望は一部の富める者が国民を搾取するというモラル的なことのほかに、こうした構造が、若者の未来に対する明るい展望や切り開いていく力を根こそぎ引き抜いてしまうこと、あるいは、例えば人を治療しふたたび社会で活躍できるように尽力するというような医療従事者の使命感や誇りを失わせてしまうことにあるだろう。それらの意識は結局は国や世界の未来形成の原動力である。アメリカは、国の未来の活力に投資する代わりに、それを押しつぶすことによって生じる目先の利益に投資してしまっているのである。

それでも取材を通して著者は希望を見出せないわけではないという。
一つは、リベラル派をはじめとした、問題意識を持っている人たちに起こっている気づき。オバマを当選させることで変化が達成されたと思っていたのは間違いで、オバマを絶えず方向付けていくことが重要だという気づきが広まり、Move Obama!というスローガンを掲げ、党派や世代や業種を越え連帯の動きが見られるという。
またオバマによって政治に目を開かれた若者のなかにも現状を冷徹に受け止めネット環境を活用した全国的な運動を組織しつつあると。

結局こういう市民の動きによってしか変化を実現することはできない。オバマ当選はその動きの一環であったに過ぎず到達点ではなかったのだ。
筆者はこう結ぶ。民主主義は仕組みではなく、人なのだ。
そういうことなのね。

******

刑務所の民営化についても、これまた陰惨なことになっているのだが、第3世界よりも安い労働力の供給源として囚人が扱われていること、囚人数がどんどん増えるような政策がとられていること、メディアが治安への危機感をあおり状況を後押ししていること、と要約して、あとは割愛しよう。



アメリカに知り合いがないでもなく、彼らがいまどう暮らしているか。つらい思いをしていないといいのだが、と常に脳裏で思いながら読んだ。
もっとも全然つらくなかったとしたら、利権をむさぼっている側であることも考えられ微妙・・・
軍に入ると言っていたエイミー、シャイなガールだったドニータ、もう老境にいるであろうウッドブリッジさん。どうしているだろう。。。

**********

ところで日本の健康保険制度もまた相応の危機を抱えているわけで。どうするか?

手元にある新聞記事によると、国民健康保険に限った話だが、全国市町村において国保の財政難が顕著になっているという。
●08年度に市町村が国保の赤字補填のため一般会計から投入した総額は2585億円。
●これに保険料アップ抑制や出産一時金などに当てる分を加えた総額は3668億円になる。
●そもそも国保には国と都道府県からの支援制度により3.9兆円の公費が投じられている

一方で、保険料収入は失業者増加や家計悪化などから減少している。
●08年度の国保保険料の収納率は88.35%。(過去最低)収入額は3.06兆円。

本来保険料と市町村予算及び国等の支援により賄うべき保険であり、不足分は保険料の引き上げで補うのがスジ。しかしこのご時勢での保険料引き上げによる負担増を住民に求めるのはムリ。ということで、高齢化などによる給付増と収入源の両方に引っ張られ、法定外の繰り入れを実施する市町村が多いということだ。
問題点は
●受益者が負担すべき財源を、国保加入者以外を含めたすべての住民に負担させるという不公平感が生じる。
●財政に余裕のない市町村では保険料アップを余儀なくされるため、、市町村により保険料に4倍程度の格差が生じている。

なかなかに危機的な感じだ。財政安定化が急務であるが、今後は伸びる一方であろう給付額に対し、どう財源を確保していくのか。これまでの制度をいじる程度では容易に解決はできないだろう点は、年金などとまったく同じ問題であると思う。
ここで保険を民営化してコストダウン、となるとそのツケはもちろん加入者に帰ってくるわけで貧困大国某国の後追いとなりかねない。
行財政のムダを省く、消費税引き上げなどによる財源の確保、所得再配分に関する新たな枠組みの創生と国民的同意の形成、と、ここはじっくりと大きな視点からの多角的で地道な努力が必要なのだ。


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コメント (2)
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