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面白かったです。
イーガンの長編のなかでは一番読みやすかったかも。
まず、精神活動をソフトウェアとして走らせる=コピーとして生きると言う事態になったときに、どういうことが起きるのか、
短編でも追求されるこの課題に、じっくり取り組んでいるのがこの長編だ。
と言う意味ではイーガンの基礎文献と言えるかも。
朝目覚めたとき、自分が「コピー」であることに思い至り慄然とするオープニングから始まって、自分の外面を自在に設定できる界面ソフトによるコミュニケーションだとか、精神状態を修正して気分を変えるだとか、そういった「コピーライフ」のディテールが面白い。
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でも、もっとおもしろいのが「塵理論」に基づく、「不死」の実現。
これがまた例によってどこかで煙に巻かれたような理論。
コンピュータ上でシミュレートされている精神活動を、粉々にタイムスライシングして、無数のクラスタ上で時系列もランダムに走らせる。その状態でシミュレートされている精神活動に一貫性は保たれるのか?
主人公ポール・ダラムはそんな実験から、スライスされた無数の「塵」を自己複製するセル・オートマトン上で再配列・再利用することで、永続し無限の規模を持つシミュレーション世界=宇宙を実現できると結論付け、不死を保証する世界を、コピーライフを送る富豪たちに提供しようとする。
なんて書いていても、なんじゃそりゃあ?な気分。
現実のコンピュータ上でシミュレートされるTVCセルの上でシミュレートされるオートヴァース上で展開されるランバート宇宙。その上で発生した知的生命体がモデリングする宇宙理論をシミュレートして接触を試みるエリュシオン人。しかし逆にランバート宇宙の原理がTVC宇宙の基本原理を浸食しはじめ、永続する宇宙という基盤が危うくなる。
そこでダラムたちの取った方策は、TVCセルに再度エデンの園配置をスタートさせ、その中の種子として新しい宇宙を生きることだった。
なんて書いてても、何じゃそりゃあ?な気分^^;
でも猛烈に面白いんだな。
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マリアというランバート宇宙の種子をプログラミングした女性の内面の揺れ動きがとても感情移入出来る。(でもリアル彼女は果たして母を「コピー」することができたのか?)
主人公たちも、初めは生身の人間だったが、次第に「主人公性」がその「コピー」へと移っていき、さらにそのクローンの視点が出てきたりして、多重構造になっているのが面白い。
あと、各章の表題が小説のタイトルのアナグラムになっているのもミソだ。
塵理論=アナグラム宇宙と言えるから。
支離滅裂だけど面白いんです。
そうそう、フィリップ・グラスの「浜辺のアインシュタイン」を流すシーンがあって、これも、ミニマルミュージックという、塵理論的音楽であることとタイトルがアインシュタインに関連している点で、内容に密接に関連した参照になっていて、芸が細かいな~。
ニック・ケイヴ&バッド・シーズまで出てくるし!
とにかく面白いんです!!