さて、今年も熊狩りの許可が下り、親方宅に集合が掛かった。
年々高齢化が進み熊狩りに行ける人が限られてしまうなか、20代のルーキー・ヨシヒロが参戦してくれることになったのは明るい希望だ。
さっそく軽トラを囲み、今日の作戦会議。
親方宅から歩いて出発。いきなりの急登から始まる。
ほんとに今年は雪が無い!からからに乾いた落ち葉を踏みしめて奥へと進む。
途中、イワウチワが咲いていた。雪国に春を告げる可愛い存在感のある花だ。
ショウジョウバカマと同じくらい好きな花。
さらに登るとイノシシがかじりまくった樹皮があった。よほど食べ物に困っていたのだろう。周りにはほとんど樹の繊維からなる糞が大量に転がっていた。
雪国に適応力の薄いイノシシは、越冬するのに死に物狂いだ。
樹間から遠くに大戸沢岳と三ッ岩岳が見えた。この冬も楽しませてもらった山々。また来年…。
さあ、野花や景色にうっとりしている余裕はない。いよいよ最後のポイントで打合せ。
木に登った親方の見立てで、今回のマヂコ(鉄砲撃つ人)、セコ(声を上げて追う人)の配置を決める。
たった4人での巻狩りは、役割の精度が求められる。セコは移動するライン取りとセコ同士の速度調整、マヂコは獲物の通り道の予測と狙撃精度。
今回はルーキーヨシヒロと親方がセコ、コウイチ先輩と阿久津がマヂコにまわった。
無線でそれぞれの配置を確認。親方の合図でいよいよ始まった。
遠くから二方向のセコ声が聞こえてくる。風によってはっきり聞こえる時とうっすら聞こえる時があり、この不連続性もまた面白い。そして、徐々にであるが声が大きく聞こえてくる。これを聞いていると真綿で首を締めるようにゆっくりせまる恐怖感がある。熊の気持ちも分かる気がしてくる。
久しぶりのマヂコ。おそらく来るであろう方向をじっくり注意深く眺めながら銃を持つ。昨年までは「熊ちゃん来ないでくれよ~」なんて内心びびっていたが、後輩が加わってくれたためか肝が据わった。
とそんな時、セコの親方から「熊いたぞ!ゆっくりマヂコのほうにあがっていったどー」と無線が入った。
気持ちを落ち着け、上がって来るであろう方向をじっくりと見下ろしていた。
とその時! 予想もしない上方の尾根からドドッドドッ!ガサガサー!と黒いまるまるした熊が右斜め下方に向けて走って来たのだ。
え!?そっちー?と銃を構え50mほど先の熊を定めるが藪が立っていてなかなか合わない。それでも2発をポンポン!と放つ。ハズレ!
これは逃げられるかな…と思った時、熊が立ち止まり周りの様子を確認する素振りを見せた。このチャンスに3発目を発砲。熊は転がり藪に消えた。当たったかな…?
「どうだ?」「だれ撃った?」「あたたっか?」などの無線が飛び交う中、駆け降りる。
その場所まで駆け降りると、落ち葉に血糊が。
「阿久津発砲。どうやら半矢だ。沢の方に向かってこのまま追いかける!」と無線を入れ、ブナの斜面を血糊を確認しながら追跡した。
慎重にしかも素早く斜面を下り、どこかに潜んでいるかもしれないと、びくびくしながら進む。
満身創痍の熊の、死に物狂いの反撃が怖いからだ。
ふと、沢向こうの斜面に黒い身体を確認。
うずくまる熊の左下斜面からセコの二人が駆け付けてきた。
ここでルーキーヨシヒロと阿久津とで止め刺しをすることに。しかし…。
あろうことか、転がり落ちた熊は雪に血糊を残し最後の力を振り絞って雪渓の中へと落ちるように隠れてしまった!
さーて困った…。
スコップを持ち合わせておらず、各人の鉈や太い枝でとにかく雪を掻き始めた。しかし雪崩の雪渓は固く埒が明かない。
そこでフレッシュな若手ヨシヒロに重大なミッションがくだる。山を下りて、スコップを持ってこい…と。
約2時間半後、剣スコップ2丁を担いで戻ってきたルーキーヨシヒロ。よくがんばりました。m(__)m。
さあーここからは任せておけーい!と雪崩サーチ&レスキューのシャベリングの手法で埋没点へ向けて掘り進む。
穴が見えた!あと少し!
潜んでいた痛手の熊は、まだ生きている。後ろ足2本に恐る恐るワイヤーを括り付け、ロープで引き上げることにした。
やっと熊を引きずり出し、止めを刺した。まだまだ若いメス熊だった。授けていただき有り難うございました。山の神に感謝…。
時間も押しているので、この場で解体。山の神に感謝し、綺麗に四等分。
ルーキーヨシヒロは、普段自宅農園の害獣を解体しているので手際が良く、熊狩り仲間としてポテンシャルが高く今後に続く若手として期待。
今年の熊狩りも初めから授かることが出来ました。しかも後輩の仲間入り。嬉しいですね。
これからしっかりと我々で受け継いでいきたいです…。
帰宅途中、アドレナリンが解け一気に腰が痛くなった。そうだ、俺腰痛いんだった…。
まだまだ覚えることいっぱいで…。
膝もいたわってくださいねー!
やりましたね!
文章も引き込まれました!
特に『俺、腰痛いんだった』ってところかな(笑)