漢字の音符

漢字の字形には発音を表す部分が含まれています。それが漢字音符です。漢字音符および漢字に関する本を取り上げます。

同訓異字「さく」 割く・裂く・咲く

2020年09月15日 | 同訓異字
問題 次のに上の漢字を入れてください。
(1)仲をく。
(2)花がく。
(3)時間をく。

 「サ-く」の語源は、ひとつにまとまっているものを二つにはなす意です。手をもちいて、ひきやぶる・やぶく意になり、刃物をもちいると切り開く意になります。「サ-く」は目的語をとる他動詞ですが、「サ-ける」は自動詞形です。
 なお、花が「サ-く」は、花のつぼみが開くことですが、花弁が「サ-ける」(裂ける)ように広がることから、ひとつにまとまっているものを二つにはなす意である「サ-く」と同源の言葉といえます。
 今回は、二つにはなす意の「サ-く」から二文字、つぼみがさく意の一文字を紹介します。

二つにはなす意
 レツ・さく・さける  衣部
裂の音符は、列レツ

解字 篆文は「刂(刀)+毛髪のある頭骨(巛+夕)レツ」の会意。「巛+夕」は、「巛(毛髪)+夕(=歹。死者の骨)」で毛髪のある頭骨の意。これに刂(刀)がついた列は毛髪のある頭骨(死者の頭部)を刀で切りはなす形で、「きりはなす」が原義。また、古代の墓(殷墓)では、切りはなした頭骨をいくつも、墓の出入り口に並べて、悪邪をさえぎる呪いとしたので「ならべる」意味となる(字統を参考にした)。現代字は、「巛+夕」(毛髪のある頭骨)⇒歹ガツ(死者の骨)に変化した列レツになった。列は、ならべる意味が中心となり「きりはなす」意味は音符に残る。 意味(1)つらねる(列ねる)。つらなる(列なる)。(2)ならべる。ならんだ順序。
裂の解字
解字 「衣(ころも)+列(切りはなす)」の会意形声。衣の布地を切りはなすこと。日本語では、ひきさく意になる。
意味 (1)さく(裂く)。ひきさく。「布を裂く」「生木を裂く」。さける(裂ける)。「決裂ケツレツ」「亀裂キレツ」「裂傷レッショウ」 (2)[国]ひきはなす。「二人の仲を裂く」 (3)ばらばらに分かれる。「分裂ブンレツ」「破裂ハレツ」「炸裂サクレツ」(爆弾などが破裂すること)

 カツ・わる・わり・われる・さく  刂部
割の音符は害ガイ

解字 金文は、「取っ手のある大きな針+口サイ(うつわ)」からなる。口は神への願いの文をいれる器の口サイで、これを大きな針で突き刺して、器の中の願いの目的を失わせること[字統]。そこなう、願いがさまたげられるので、わざわいが起きる意となる。篆文以降は「宀(やね)+丯カイ(キズをつける)+口(うつわ)」の会意に変化したが意味は同じ。害を音符に含む字は、「そこなう」、大きな針を「さしこむ」イメージがある。新字体は丯の下が付き出ない。 意味(1)そこなう(害う)。傷つける。(2)さまたげる。じゃまをする。「妨害ボウガイ」(3)わざわい。災難。「災害サイガイ
割の解字
解字 「刂(刀)+害(そこなう)」の会意形声。刀で切って物を損なうこと。
意味 (1)わる(割る)。分ける。「分割ブンカツ」「割譲カツジョウ」(土地などを割いて他に譲る) (2)さく(割く)。きる。切って取る。「割烹カッポウ」(肉を割いて煮る。料理すること) (3)さく(割く)。一部を切り分けて他に振りむける。「時間を割く」「紙面を割く」「人手を割く」 (4)わりあい(割合)。比率。「五割ごわり

花が開く
 ショウ・さく  口部            

解字 篆文は、「竹+夭」で笑と同じ。隷書レイショに属する後漢の石碑の文字から、「口+关」 の咲ショウが出現した。关は笑(わらう)の竹かんむり⇒ソに、夭⇒天に変化した俗字(略字)とされ、咲は口をあけて笑う意。この字は、笑の篆文第一字の「口夭」との関連もふかい。すなわち、笑と咲は異体字の関係にある。
 なお、日本では笑ったとき口もとのほころびるさまを花の開くさまに例え、花が咲く意味で江戸時代から使い始めた。今日ではこの用法が一般化し、咲は「花が咲く」意となり、わらう意どころか、発音のショウも忘れられた存在になっている。
意味 (1)わらう。笑う。えむ。 (2)[国]さく(咲く)。「花が咲く」「遅咲(おそざ)き」 (3)名乗り(名前に使用)として「えみ・さ・さき・さく」がある。

問題と正解
(1)仲をく。
(2)花がく。
(3)時間をく。
正解
(1)仲を「さく」は、二人の仲を「ひきはなす」意味ですから、衣(布)を切り離す意から派生した意である「裂く」になります。
(2)花が「さく」は、花が開く意ですから、日本では笑うから変化した俗字の「咲く」が正解です。中国では、花が咲くことを「開花」と表現します。
(3)時間を「さく」は、全体の一部を分ける(分割)意味ですから、割くが正解です。
※なお、(1)(3)の「さく(裂く・割く)」の発音アクセントは、さく(HL)、(2)の「さく(咲く)」は、さく(LH)となり、話し言葉ではアクセントで区別しています。(Lはlowで低い。Hはhighで高い)

コメント
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