音符「弁 [辡] ベン」＜二人が相争う＞ と「辯ベン」「辨ベン」「瓣ベン」

　弁護士の「弁」、弁償の「弁」、花弁の「弁」、さらに弁髪の「弁」、これらは異なる４つの漢字が、かんむりの意である「弁」で代用されている。安易に代用したため熟語になって初めて「弁」の意味がわかる。では、「弁」の元の字は、それぞれどんな意味をもつのか解字してみました。私見ですが、旧字でないと漢字の意味が分からないので、旧字に戻るべきだと思います。　
　辦ベンを追加しました。

辡　ベン　　辛部　　　

解字　「辛（刃物）＋辛（刃物）」の会意。辛シンは針状刃物の意。これが二つならんだ辡ベンは、[字統]によれば、辛は入れ墨用の針で誓約するとき、もし違背（約束にそむく）するときは入れ墨の刑を受けるという意思を示して二人が相争う形だという。わかれてあらそう・わかれる意。辡ベンが音符となる新字体は、すべて弁ベンで代用される。
意味　うったえる。言い争う。

イメージ　
　弁の元の意味である「かんむり」（弁）
　辛を持ち「分かれて争う」（辯・辨・辦）
　「わける（＝辨）」（瓣・辮）
音の変化　　ベン：弁・辨・辦・辯・瓣・辮

かんむり
弁　べん・かんむり　　廾部にじゅうあし　　　　　　　　　　　　　

解字　篆文は「人印（かぶる冠のかたち）＋両手」の会意。両手で冠をかぶる形で、冠の意を表わす。現代字は上部がムに変化した。発音の同じ「辨・辯・瓣」が、新字体ですべて弁となった。
意味　（１）かんむり。頭にかぶる頭巾型のかんむり。「武弁ブベン」（武士の冠）　（２）冠をつける。元服する。　（３）「辨・辯・瓣」が表わす意味を代用する。

分かれて争う
弁［辯］　ベン　　廾部
解字　旧字は「言（ことば）＋辡（分かれて争う）」の会意形声。分かれて争う両者の一方の側に立ち、言葉でその立場を説明すること。また、言葉が巧みなこと。
意味　（１）べんじる。説く。語る。言葉で明らかにする。「弁論（辯論）ベンロン」（意見を述べて論ずる）「弁護（辯護）ベンゴ」（弁論して護る）　（２）巧みに言う。「弁舌（辯舌）ベンゼツ」（巧みな言い回し）「弁士（辯士）ベンシ」（弁舌の巧みな人。演説する人）
弁［辨］　ベン・（わきまえる）・（わける）　　廾部
解字　旧字は「刂（＝刀。切り分ける）＋辡（分かれて争う）」の会意形声。分かれて争う当事者の言い分をうまく切り分ける（判断する・見分ける）こと。また、言い分をわきまえて処理すること。日本では、弁済・弁償など返す意でも使う。
意味　（１）わける。わかれる。　（２）区別する。見分ける。「弁別（辨別）ベンベツ」（見分ける。識別する）「智弁（智辨）チベン」（智恵があって物を見分ける能力）　（３）わきまえる。処理する。「弁理（辨理）ベンリ」（わきまえて処理する）　（４）（処理の方法）かえしてあてる。「弁済（辨済）ベンサイ」「弁償（辨償）ベンショウ」
辦　ベン・つとめる　　力部
解字　「力（ちから）＋辡（＝辨。処理する）」の会意形声。力をこめて処理すること。
意味　（１）つとめる（辦める）。物事に力をつくす。「辦貨ベンカ」（仕入れ）　（２）あつかう。さばく。処理する。「辦事処ベンシショ」（事務所）「辦公室ベンコウシツ」（①執務室。②管理運営の統括的な仕事をする部門）「買辦バイベン」（中国で清朝末期から外国の貿易業者との仲立ちをした業者。転じて、外国資本を儲けさせ自国の利益を損なうような行為や人物。＝買弁とも書く）

わける
弁 [瓣]　　ベン・（たね）・（はなびら）　　廾部
　切り分けた瓜
解字　旧字は「瓜（うり）＋辡（＝辨。切りわける）」の会意形声。輪に切り分けた瓜の種や中子が花びらのようにきれいに並んださま。花びらと種・なかごの意がある。
意味　（１）花びら。「花弁カベン＝花瓣」「安全弁アンゼンベン＝安全瓣」（圧力が高くなると花弁のように開いて烝気を放出する装置）　（２）瓜のたね。なかご（種子を含んだ柔らかい部分）
辮[弁]　ベン・（あむ）　　廾部
　辮髪
解字 　「糸＋辡（＝辨。分ける）」の会意形声。糸を分けてから編むこと。「弁」も代用文字となる。
意味　あむ。くむ。ひもをあむ。「辮髪（弁髪）ベンパツ」（髪を編む意。頭の周辺部分をそり、残った中央部分を編んで長く後ろに垂らした男子の頭髪）
＜紫色は常用漢字＞