漢字の音符

漢字の字形には発音を表す部分が含まれています。それが漢字音符です。漢字音符および漢字に関する本を取り上げます。

山本康喬編著『改訂新版 漢字音符字典』東京堂出版

2021年12月16日 | 書評
 2018年に『増補改訂版 漢字音符字典』が品切れになった。書店の店頭から本が消えると間もなく、古書が異常に値上がりし、増補改訂版で3万円前後、2007年の初版でも1万円前後となり入手不可能な状態が続いていた。
 著者の山本康喬氏は改訂版の発行をめざし版元の東京堂出版と協議をかさねて準備をすすめてきたが、このたび3年の期間をへて新たな『改訂新版 漢字音符字典』が発行された。著者の熱意により新たな改訂版が発行されたことは漢検受験者、特に1級受験者にとって朗報にちがいない。本書によって6,400余の漢字が効率的に学習できるからである。

判型が一回り大きくなった。

     左が旧版、右が改訂新版
 改訂新版を手にした私は前版と比べ大きな違いを2点感じた。一つは本が一回り大きくなったこと。もう一つは索引が非常に充実したことである。
 まず大きくなった判型であるが、以前の本がB6判(128×182mm)だったのに対し、今回はA5判(148×210mm)と一まわり大きくなった。この影響は、本文においては文字が相対的に大きくなったので前著と変わらないが、余裕のできた空間に注釈などがかなり増えている。

充実した索引
 大きくなった効果は何より索引に現れている。前著の索引は総画索引でしかも全ての収録字を網羅したものではなかった。そのため、調べたい漢字がどのページにあるのか見つけるのに苦労したものだ。今回は総画索引をやめて、収録字をすべて掲載した音訓索引になった。1頁8段に組んだ索引は判型が大きくなければ不可能。判型を大きくしたのは索引を充実させるためと推察する。80頁になった索引は、この本の使い勝手を各段に向上させた。

巻末の未分類漢字を本文に繰り込む
 本文の前著との違いは、著者の山本さんによると、(1)前著で巻末に一括して掲載していた未分類の1級対象漢字37字と国字107字をすべて本文に繰り込んだこと。このため、どこにも属することのできない字は独立させたという。例えば、黹チ・ぬいとり、彝イ・つね、などの字である。すべての漢字が本文に入ったことで、すっきりした。 (2)収録したすべての漢字を六書(象形・指事・会意・仮借・形声・転注のみ省略)に分けて所属を明示し、また国字は[国]で示した。しかし、六書での分類分けにむずかしい字もあるので、そうした字は角川書店の『新字源』に準拠したという。 (3)音符字にその音符の子(こ)音符がある場合、見出し欄の横に、子(こ)音符を独立させて見やすくした。例えば、音符「辛シン」の欄の横に「宰サイ」を追加など。

未来の漢字字典はどうなる?
 このような改訂をへて『改訂新版 漢字音符字典』は、収録する約6,400字をぱらぱらとめくりながら一覧することができ、中の或る一字を見つけようと思ったら、充実した索引ですぐ見つかるすばらしい字典になった。
 私は空想する。この順序にならんだ本格的な漢字字典が出現したら面白いなと。そうなれば日本の漢字字典は、部首順にならべた「部首別字典」(ほとんどの漢和辞典)、漢字の発音順にならべた「字音順字典」(字統・字通・漢検漢字字典など)、音符順にならべた「音符順字典」の3種類になる。「音符順字典」を使う人は、漢字の核(=音符)となる字から探すわけだから、この字にどんな部首が組み合わさって漢字が成り立っているか、つまり漢字の本質を見分ける力を身につけることができる。⇒この字典の良さがわかり愛用者が増える。⇒「音符順字典」に参入する出版社が増える。~あくまで空想~

 装いも新たに刊行された本の定価は、3,200円(税込3,520円)と高くなったが、判型が大きくなったこと、頁数が318Pから351Pに増えたことを考慮するとやむをえない気がする。最近、多くの出版社の業績が低迷するなか、この本を単なる増刷でなく改訂新版として充実させた出版社に敬意を表したい。

山本康喬編著『改訂新版 漢字音符字典』東京堂出版 2021年12月発行 351P 3,520円(3,200円+税)





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