漢字の音符

漢字の字形には発音を表す部分が含まれています。それが漢字音符です。漢字音符および漢字に関する本を取り上げます。

音符「壬ジン」<工具の一種>と「任ニン」「妊ニン」「賃チン」

2023年06月17日 | 漢字の音符
  改訂しました。
 ジン・ニン・みずのえ  士部さむらい     

解字 甲骨文字は工具のノミを象った工の省略形と同形。甲骨文字では仮借カシャ(当て字)で十干としてのみ用いられている[甲骨文字辞典]。字形は金文で縦線に丸印がつき、この丸が篆文で長い横線になり、現代字は上部が斜線になった。意味は、十干(甲コウ・乙オツ・丙ヘイ・丁テイ・戊・己・庚コウ・辛シン・壬ジン・癸)の第九番目の壬(みずのえ)の意で使われる。イメージは壬が工具の省略形と同形であることから「工具の一種」。具体的に何を表すかは不明。
意味 みずのえ(壬)。十干の第九。「壬申ジンシン」(干支のひとつ。みずのえさる。)「壬申の乱」(672年、壬申の年に起こった戦乱)「壬生みぶ」(京都の地名)

十干の読み方(オンライン無料塾「ターンナップ」より)

イメージ 
 「工具の一種」
(壬・任・賃・凭・妊・衽・恁)
 「形声文字」(荏)
音の変化 ジン:壬・衽・荏・恁  チン:賃  ニン:妊・任  ヒョウ:凭 
 
工具の一種
 ニン・まかせる・まかす  イ部

解字 甲骨文字は、「イ(人)+工(工具の一種)」で、工具を背負ったり、前でかかえる人を表す。工具を携えて定められた職務を行う人の意と思われる。[甲骨文字辞典]によると、意味は職名で地名に付す場合が多く、地方領主またはその副官と推定されるという。金文以降、工⇒壬に変化した「イ(人)+壬ジン・ニン(工具の一種)」の会意形声。意味は、①工具をになう・かかえる、②工具を用いての、つとめ・仕事、③つとめを、まかす・まかせる、意となった。
意味 (1)になう(任う)。かかえる。「肩任ケンニン」(肩でになう)「重石を任(かか)える」(重い石をかかえる) (2)しごと。役目。「任務ニンム」「任命ニンメイ」「就任シュウニン」 (3)まかせる(任せる)。まかす(任す)。ゆるす。「任意ニンイ」「一任イチニン」 (4)任務をになう意気込み。おとこ気。「任侠ニンキョウ」 (5)たえる(任える)「病(や)みて、行(ゆ)くに任(た)え不(ず)」(史記・王箭伝)「軍旅(出征)に任(た)え不(ず)」(後漢・王覇伝)
 チン  貝部
解字 「貝(財貨)+任(任務・しごと)」の会意形声。お金を払って任務(しごと)をしてもらうこと。雇った人にはらう金銭をいう。
意味 (1)やとう。やとわれる。 (2)やとった人にはらうお金。代償としてはらう金銭。「賃金チンギン」「運賃ウンチン」(運んだ代金)「賃料チンリョウ」(代償として払う料金)「賃貸チンタイ」(賃料をとって貸すこと)「賃貸住宅チンタイジュウタク」(家賃[賃料]をとって貸す住宅)「賃貸借契約チンタイシャクケイヤク」(家賃[賃料]をとって貸す方と借りる方が結ぶ契約)
 ヒョウ・よる・もたれる  几部
解字 「几(つくえ・ひじかけ)+任(まかせる)」の会意。几(ひじかけ)に身をまかせること。もたれる・よりかかる意となる。会意文字なので発音が大きく変わる。
意味 よる(凭る)。もたれる(凭れる)。よりかかる。「凭几ヒョウキ」(ひじかけ・脇息のこと)「凭欄ヒョウラン」(欄干(てすり)に凭れる)
 ニン・はらむ  女部
解字 「女(おんな)+壬(ニン=任。かかえる)」の形声。壬ニンは任ニン(かかえる)に通じ、子をかかえる女から転じて孕(はら)む意となったと思われる。この用法は篆文からであり、甲骨文の意味は女性の名[甲骨文字辞典]。金文は姓のひとつとして用いられており、壬ニンの発音を用いた形声の用法である。本来の妊娠する意味の象形文字は孕ヨウで甲骨文字からある。
意味 はらむ(妊む)。みごもる。「妊娠ニンシン」「懐妊カイニン」「不妊フニン」 
衽[袵] ジン・ニン・えり・おくみ  衣部
解字 「衣(ころも)+壬(ジン=任。かかえる)」の会意形声。衣の部分で、本来の布地のほかに、かかえている部分をいい、後で布を追加して作る「えり」をいう。日本の和服では「おくみ」の意となる。
意味 (1)えり(衽)。「左衽サジン」(左のえり。衣服を左前に着ること。左衽は中国で北方異民族の習俗であるとされた) (2)おくみ(衽・袵)。襟から裾にかけて縫いつけた半幅の細長い布。胴回りを表(おもて)で重ねるため追加する。 (3)しとね。しきもの。

衽(おくみ)(「きものレンタリエのきもの豆知識」より)
 ジン・二ン  心部
解字 「心(こころ・おもう)+任(かかえる)」の会意形声。心にかかえる思いで、思う意。のち、俗語として、「かく」「このように」「このような」の意味に用いられた。
意味 (1)おもう。思う。念じる。「勤恁キンニン」(つねにおもう) (2)かく・このような・このように。「恁生ジンセイ」(このような)「恁地ジンチ」(このような。このように。=如此かくのごとく。)「恁麼ジンマ・二ンモ」(①いかん。いかに。②このような)

形声文字
 ジン・ニン・え  艸部
解字 「艸(草)+任(ジン・ニン)」の形声。ジン・二ンという名の草。①シソ科の一年草で種子から油をとる。②まめ。③栠ジン・二ンに通じ、やわらかい。④地名、の意味がある。

エゴマ(荏胡麻)(「薬草と花紀行のホームページ」より)
意味 (1)え(荏)。えごま(荏胡麻)。シソ科の一年草。日本で中世末期に菜種油が普及するまでは植物油と言えばエゴマ油であり、灯火にもこれが主に用いられた。しかし、菜種油の普及と共に次第にエゴマ油の利用は衰退した。「荏子ジンシ」(えごまの実)「荏油ジンユ」(えごま油) (2)まめ。そらまめ。「荏菽ジンシュク」(そらまめ。まめ) (3)やわらかい。栠ジン・二ン(やわらかい)に通じ、やわらかい。「荏弱ジンジャク」(柔軟) (4)地名「荏原えばら」(エゴマの栽培地であったことに由来する)
<紫色は常用漢字>

※本稿の執筆にあたり、壬・任・妊の各文字について、落合淳思著『甲骨文字辞典』から引用させていただきました。御礼を申し上げます。
                
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