一公の将棋雑記

将棋に関する雑記です。

名前の力

2009-09-25 01:12:26 | 旅行記・北海道編
23日(水・祝)は、釧路から「特急スーパーおおぞら6号」に乗り、10時03分、帯広で下車した。
帯広は、LPSAのホープ、渡部愛ツアー女子プロ(以下、プロと略す)の出身地だ。現在渡部プロは札幌在住だが、LPSA代表理事の出身地を訪れたからには、新人プロの出身地も訪れるのがスジというものだろう。
帯広駅は現在高架になっているが、10年以上前は、地上にレールが敷かれていた。高架化工事の際、構内の商店のバーゲンセールがあり、財布を3,000円で購入したことがある。ちなみにその財布は5~6年使ったので、じゅうぶんにモトは取った。
帯広で下車するのも久しぶりだが、段階的に行っていた駅前の再開発も何年か前に終わったようで、見違えるように綺麗になった。
しかしそれに伴い、失ったものも多い。昔は駅前のビルの一隅に、洋菓子専門店「柳月」があり、その喫茶コーナーでコーヒーとケーキのセットを食すのが定番であった。
そのビルは跡形もなくなった。代わりに新しいビルが建ったのだろうか。やはり駅前にあった2軒の古本屋も消えていた。バスセンターは当時「バスタッチ」という名称で、十勝バスが黄色い車体のバスを走らせていた。いまは場所を変え、建物も立派になっている。バスもラッピングされ、以前のイメージは一新されている。
書き遅れたが、「柳月」は、渡部プロの肉親がお勤めと聞いた。私は駅前の大通りをまっすぐ歩き、柳月本社に入る。しかし何も買わずにすぐ店を出、建物を写真に収める。周りからは、あのオッサン、なんであの建物を撮ってるんだ、というふうに映るだろうが、構わない。
帯広駅に戻り、「幸福駅」に向かうことにする。幸福駅は、かつて帯広から分岐していた国鉄広尾線にあった駅のひとつである。昭和49年ごろ、幸福駅と、その2つ手前にあった愛国駅とをペアにした「愛国→幸福行き」の記念切符が飛ぶように売れた。
しかしこの路線も、沿線の過疎化のあおりを受けて、昭和62年に廃線になった。現在はそのルートを十勝バスが走っている。
11時ちょうどのバスが、帯広駅前を発車する。廃線当時は「代替バス」という位置づけだったので、バスは廃線に沿った国道を忠実にトレースしていたが、いまはあちこち寄り道をする。それにしても大型スーパーが多くなった。廃線跡も何度か交差しているはずだが、新しいビルが建ったりすると、もう痕跡が分からない。
愛国駅前をすぎ、大正本町で数人の乗客が降りると、車内の客は私だけになった。
路線の廃止問題が起きると、地元の住民は反対する。しかし彼らが鉄道を利用しないことが、廃止理由のひとつにもなっているのだ。
幸福駅を前にして、バスの乗客が私ひとりでは、路線廃止もやむを得ないと思う。
バス停から500mほど離れた、旧幸福駅舎へ向かう。「幸福」は、「幸震(こうしん)」という地に、福井県からの移民が入植したから、両方の1字を取って「幸福」になった、と聞いたことがある。
幸福駅に着く。懐かしいが、ここもずいぶん整備されていて、驚く。以前訪れたときは、気動車が置かれている前後に、数十メートルの線路が残されていたが、いまは綺麗に剥がされ、土に還っている。
バスを利用したのは私ひとりだったが、ここはマイカーやバイクの旅行者が大勢いて、にぎやかだ。
ただのローカル線の何の変哲もない駅が、「幸福」という名前が付いたために駅舎だけが生き残り、いまも活況を呈している。
名前の力はおそろしいと思う。芸能人で、名前を変えて成功した人、失敗した人、例を挙げればキリがない。
女流棋士では、結婚しても姓を変えない人がいる。もちろん各人で理由があるのだろうが、名前の持つ力、イメージを変えたくない、という思いが主たる理由ではないだろうか。
たとえば中井広恵女流六段は「中井広恵」だからいいのであって、これが「植山広恵」だったら、ちょっとブランド力が落ちる。イメージがちょっとアレになる。
「泉忍」はいいと思う。ちょっとおしゃれで色気もあり、それでいて強そうな雰囲気がある。
相手の術中にはまってしまうが、駅舎前の売店で「愛国→幸福」の記念切符を買い、帯広へ戻る。ちなみに愛国駅で下車しなかったのは、愛国-幸福間のみ、バス料金がハネ上がるからだ。この区間のみ乗車をする観光客が多いから、そこだけ高い料金設定をするわけである。こうしたふざけたことをするから、乗客がいなくなる。
そういえば渡部プロは、愛国駅や幸福駅は訪れたことがあるのだろうか。地元に住んでいれば、一度や二度はあるだろう。愛国駅なんて、自分の名前の一部が入っているのだ……とここまで考えて、あっ!! と思った。
渡部プロが生まれたとき、広尾線はとっくに廃線になっていたのだ。それだけ私も齢を重ねてしまったということである。時の経つことの残酷さをあらためて思う。
帯広駅に着く。帯広始発の特急電車に乗り損ねてしまったので、市内で遅い昼食を摂ることにする。
駅の近くに、「ふじもり」という大衆レストランがある。ここは以前一度入ったことがあるが、店内は広く、お客もいっぱい入っていて、なにより店員がキビキビと働いていた印象がある。
私は同じ店を何度も利用する傾向があるので、今回も「ふじもり」に入ることにする。ドアを開ける前に、心の中で拍手を打つ。
店内に入ると、昼時を過ぎているにもかかわらず、そこそこのお客だった。店員も以前と同じく、キビキビと動いている。
昭和のころのデパートの、大衆食堂で働くウエイトレスさんを彷彿とさせる、黒と白の制服が妙に似合っている。「すし・そばセット」をオーダーすると、食前の飲み物として、ソーダ水をサービスしてくれた。
私の前のテーブルに、女子中学生の3人組がすわる。渡部プロも、このレストランには入ったことがあるのでは、と思った。
「すし・そばセット」が運ばれてくる。サラダや茶碗蒸しも付いて豪華で値段も手ごろで、私は大いに満足した。
満腹になって帯広駅に戻り、みどりの窓口で南千歳までの指定席を申し込むが、満席だと言われる。
そうか…私はまだ旅行を続けるが、大半の旅行者は、この日が連休の最終日なのだ。みな、釧路方面から新千歳空港や札幌へ向かうのだ。
14時53分、「特急スーパーおおぞら10号」が入線する。やむなく自由席車両に入るが、空席がある。
これはありがたい、と手近な席にすわり、あらためてドアのほうを見やると、「指定席」の文字が目に入る。
あれ? ここは…。自由席車両は、反対側だったのだ。私は恥ずかしさもあって、車内を駆け足で移動しようとする。と、グリーン車のデッキで、車内販売のお姉さんと鉢合わせになった。
「自由席がこっち側と間違えちゃいました。自由席のほうに行かなくちゃ」
私が慌てながら言うと、その綺麗なお姉さんは、
「ここにおられたほうがいいですよ。自由席の車両は満員ですから」
と、にっこり笑って言った。
コメント (6)
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