ホタルの独り言 Part 2

ホタルの生態と環境を52年研究し保全活動してます。ホタルだけでなく、様々な昆虫の生態写真や自然風景の写真も掲載しています

ほたる出現予想(2024)

2024-04-16 21:57:05 | ホタルに関する話題

 ほたる出現予想2024を、民間の気象情報会社㈱ウェザーニュースが4月11日に公式Webサイトにて発表した。(ウェザーニュース ほたる出現予想2024
 それによると、2024年の傾向として「高温傾向で例年並み~やや早く出現 西日本や東日本では5月中旬から出現ピーク」だと言う。その理由として「冬の終わり頃から春にかけての気温が高いほど、飛び始める時期も早くなる」とし、都道府県別のほたる出現傾向のページでは、「2024年のほたるの見頃予想日を都道府県別にズバリお伝えする」と言い切っている。
 東日本では、「東日本のほぼ全域で5月下旬までに飛び始め、5月中旬~6月上旬に出現ピークを迎える予想。東京など関東南部でも5月下旬には出現ピークとなる。」らしい。東京に関しては、5月13日を出現開始とし、5月27日をピーク開始として公表している。尚、出現開始とピーク開始は、各都道府県の中で最も早いタイミングを記載としている。

 ほたる出現予想のほたるとは、ゲンジボタルのことで良いと思う。(北海道はヘイケボタルでなければおかしい)ウェザーニュースは、出現開始とピーク開始ともに、各都道府県の中で最も早いタイミングを記載という逃げ道を作って記載しているのは、同じ都道府県の中でも標高差があり発生時期が異なるから無理はないだろう。そのことも考慮して判断すると、私の予想では、西日本は例年通りで、中部地方を含む東日本では、例年通り~やや遅いと思っている。年々、発生が少しずつ早くなっている傾向があるから「例年」の時期も分かりにくくなっているが、昨年に比べれば一週間ほど遅い場所もあると思っている。その理由は、これから解説したいと思う。

  まず、皆さんには正しい知識を持って頂く必要がある。ウェザーニュースの言う「冬の終わり頃から春にかけての気温が高いほど、飛び始める時期も早くなる」は、必ずしも正解ではない。それに「冬の終わり頃から春にかけて」という言葉も曖昧で分からない。飛び始める時期を決定するのは、蛹になるために上陸した日とその後の気温(正確には地温)である。
 幼虫の上陸時期は、西日本は3月下旬頃から4月中旬頃で、東日本は4月上旬頃から下旬にかけてだが、各地域によってだいたい決まっている。そして上陸を開始するには条件がある。日長時間と気温と降雨である。幼虫は体内時計によって日長時間から季節を判別している。概ね12時間から13時間にならないと上陸しない。月日で言えば春分の日以降になる。(ただし、室内で人工飼育した幼虫を放流すると、体内時計が狂っているために早く上陸したり、上陸しなかったりもする。)次に、18時頃の気温が10℃以上でなければ上陸はしない。更に、雨が降らなければ上陸はしない。しかも、昼前からしっかりと降る雨でなければならない。つまり、冬の終わり頃から春にかけての気温が高くても、条件が合わずに上陸が遅い時期になれば、成虫になる時期も少し遅れるのである。上陸後から羽化までは積算温度が関係しているから、上陸後に日々の温度を計測すれば出現日を予測できる。(参照:ホタルの発生に及ぼす温暖化の影響について

 では、東京に限るが、私も今年2024年のほたる出現予想をしてみたいと思う。ウェザーニュースでは、最も早い場所で、5月13日に出現を開始し、5月27日からピークが始まるとしている。私が言う「出現」とは、完全な自然発生地でのことである。先に記したように、室内飼育した幼虫を放流している場所は、体内時計が狂っていて早く上陸することもあるので該当しない。また、養殖した成虫を放っている場所は、論外である。

 東京都には自然発生地がいくつもあるが、例として出現の早い順でA地区(三鷹市 標高47m)、B地区(標高180m付近)、C地区(標高220m付近)、D地区(標高400m付近)の4地区について予想してみたい。三鷹市は昨年に公表のもとで観察会を行い、当ブログにおいても掲載しているので地名を記したが、他の地区の具体的な場所については、非公開とさせて頂きたい。
 まず、出現日の決め手となる幼虫の上陸についてであるが、実は、まだ上陸が行われていない。3月と4月16日現在まで、条件がまったく合致せず、4地区とも上陸していないのである。したがって、各地区で、それぞれこの日に上陸するであろうと思われる日を設定し、気温については、気象庁の長期予報から4月~6月は平年より高いとの予測であるから、昨年の気温を当てはめて有効積算温度を計算し、ほたる出現予想をしてみた。結果は以下である。尚、ピーク日はメスも発生して個体数が一番多い日を指している。ただし、発光飛翔数は、天候や月明かりによって影響を受けるので、光っている数と全体の生息個体数は、必ずしも一致しない。

東京都内のほたる出現予想(出現開始日、ピーク日)
  • A地区 / 5月29日、6月7日
  • B地区 / 6月5日、6月15日
  • C地区 / 6月12日、6月22日
  • D地区 / 6月24日、7月1日

 私の東京都内におけるほたる出現予想2024では、比較的早くホタル(ゲンジボタル)が出現する場所でも5月29日で、ピークは6月7日、最も遅く出現する場所では、6月24日に出現、ピークは7月1日となった。勿論、この月日は上陸した後の5月と6月の気温で大きく変わる。
 他の県では、高知県土佐市在住の知人から4月4日から上陸が始まったと連絡を頂いたので計算すると、5月16日から出現し、ピークは5月25日となった。四万十市など南部は、これよりも数日早いだろう。ちなみにウェザーニュースでは、5月8日から出現し、ピークの開始は5月17日としているから、南部の方は当たっているかもしれない。
 私的には、どちらの予想が当たるのかは、どうでも良い。ただウェザーニュースの「冬の終わり頃から春にかけての気温が高いほど、飛び始める時期も早くなる」という曖昧な記述によって、一般の方々に誤解を生んで欲しくないのである。「ホタルは、きれいな水でないと棲めない」と未だに思っている方々が多いのと一緒で、曖昧な知識は間違いの選択肢を選ぶ一番の要因となってしまう。細かな生態は知らなくても、100の曖昧な知識より10の確実な知識を持って頂きたい。
 ホタルの発生時期が近づくと、様々なWebサイトで桜の開花情報と同じように「ホタルの見頃」などが掲載される。観賞目的の方々にとってはスケジュールが組みやすいだろう。どうか10の確実な知識の精度を上げて頂き、ホタルに懐中電灯やスマホの明かりを向けることなく、今年も、多くのホタルが飛び交う様に感動し、その背後の自然環境の大切さに思いを馳せて欲しいと思う。
 今年も、各地のゲンジボタルやヒメボタルの観察と撮影を予定しており、その都度、当ブログで報告したいと思うが、まずは岐阜県郡上市のゲンジボタル幼虫の上陸観察である。現地の守る会の観察では、本日ようやく上陸開始となったようである。次の降雨の日に訪れたいと思う。

以下の掲載写真は、東京都内の自然発生地において、ストロボを使用せず自然光だけで撮影したゲンジボタルです。1920×1080ピクセルで投稿しています。写真をクリックしますと別窓で拡大表示されます。

発光するゲンジボタルの写真
発光するゲンジボタル
Canon 5D Mark Ⅱ / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F2.8 10秒 ISO 1600(撮影地:東京都B地区 2012.06.16 19:30)
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