ホタルの独り言 Part 2

ホタルの生態と環境を52年研究し保全活動してます。ホタルだけでなく、様々な昆虫の生態写真や自然風景の写真も掲載しています

風薫る5月

2021-05-01 18:54:44 | 風景写真/春

 風薫る5月。今では決り文句になっているが、もとは花の香りを運んでくる春の風を指し、後に青葉若葉を吹きわたる風の意味へ変化したと言われている。新緑の中を歩けば気分も良い。実は科学的に見ると、この風には癒し効果がある。「フィトンチッド」が含まれているからである。
 フィトンチッドは、ロシア語でフィトン=「植物」チッド=「他の生物を殺す能力を有する」と訳せるが、主に樹木が害虫を寄せ付けないように、また傷ついた時でも病原菌に感染しないように傷口を殺菌するために発散する揮発性物質のことである。この植物が自らの身を守るために発する「森林の香り」は、人間に対して癒しや安らぎを与える効果もある。更には、これまでの科学的研究によって病原菌やウイルスに対しての強い抗菌、除菌力を持つことも明らかになっている。今回の新型コロナウィルスと同種と思われるMERS(マーズ)ウィルスやインフルエンザの活動を抑制する効果も証明されている。
 では、なぜ「風香る」ではないのだろうか。文化庁 文化審議会国語分科会が平成26年2月21日に発表した『「異字同訓」の漢字の使い分け例(報告)』によれば「梅の香り」「文化の薫り」というように、香りとは鼻で嗅がれる「におい」を意味していて、薫りとは「物が醸し出す雰囲気」などを意味する「比喩的・抽象的なにおい」を意味しているという。「薫り」という言葉は、物や場所、状況などが持っている趣き深い抒情的な雰囲気を表現する精神的なものと言える。
 5月の風の薫りは、人によって様々であろう。本来はプラスのイメージで捉えたいが、精神的に一番バランスを崩しやすい「木の芽時」、COVID-19の影響で休業や時短を迫られたり、新しい環境での変化についていけない焦りやストレスによって精神的・身体的に苦しむ方々には、マイナスのイメージとして記憶に残ったり、「薫り」さえ感じる余裕もないかもしれない。何とか、少しでも癒される風が吹くことを心より祈りたいと思う。

 風薫る5月。私はテレワークができない業種の為、カレンダー通りの出勤で本日から5連休の始まりである。東京では、今年も新型コロナウイルスの感染拡大防止のための緊急事態宣言の発令に伴う不要不急の移動と外出自粛が要請されており、感染者ではない自分にとっては、心の手かせ足かせになっている。色々と計画もあったが、この期間中の予定は一か所の遠征だけに絞り、他は取り止めた。新潟県十日町市にある「美人林」もその1つである。
 美人林は、十日町市松之山の丘陵に約3万平方メートルにわたって樹齢90年ほどのブナの木が生い茂る林である。昭和初期、木炭にするため、この辺りのブナはすべて伐採され原野となったが、その後、全てのブナがまっすぐ均一に成長し、幹の太さや高さが整って、すらりとした立ち姿が美しい林になったと言われる。
 美人林には、これまでに真冬を除いて5回訪れており、様々な美しい表情を見てきたが、「残雪と新緑の美人林」は、一年の中でも一番美しい。雪解けとともにブナの根の周りから徐々に地面が顔を出す根開け、または根開きが見られ、ブナは上の方から芽吹きが始まる。白と緑の対比の美しさ、降雨時は靄がかかり幻想的に、晴れた朝ならば、朝陽で残雪がオレンジに染まる。ただし、降雪量が少ない年は新緑の前に雪が解けてしまうため、毎年チャンスがあるとも限らない。今年は、条件が重なったので撮り直しを予定していたが、緊急事態宣言が出たため断念せざるを得ない。そこで、2013年と2015年に撮影したRAWデータを見直し、本記事では未掲載の写真を中心に現像し掲載した。
 この写真から「風薫る5月」を感じて頂くこともできなければ、疲れた心を癒すこともできないが、厳しい冬が過ぎれば雪が解けて必ず芽吹く、そして雨が上がり朝が来れば太陽が差すという光景に、少しでも希望を感じて頂ければ幸いである。

参考文献

  1. 趙 希鵬、他:各種細菌に対するフィトンチッドの殺菌・制菌効果に関する研究、北海道工業大学研究紀要 (35), 371-375, 2007-03
  2. 谷田貝光克:森林が放出する揮発性物質とその効用、J. Odor Research and Eng.,21(4), 249-257, 1990
  3. 阿部 智、野村正人:フィトンチッドの化学成分とその抗酸化作用、Aroma Research、7(1)、56-61、2006

お願い:なるべくクオリティの高い写真をご覧頂きたく、1024*683 Pixels で投稿しています。ウェブブラウザの画面サイズが小さいと、自動的に縮小表示されますが、画質が低下します。ウェブブラウザの画面サイズを大きくしてご覧ください。

残雪と新緑の美人林の写真

残雪と新緑の美人林
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F13 13秒 ISO 100 +2/3EV(撮影地:新潟県十日町市 2013.5.03 4:55)

残雪と新緑の美人林の写真

残雪と新緑の美人林
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F18 15秒 ISO 100 +1 2/3EV(撮影地:新潟県十日町市 2013.5.03 5:36)

残雪と新緑の美人林の写真

残雪と新緑の美人林
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F18 6秒 ISO 100 +1EV(撮影地:新潟県十日町市 2013.5.03 5:37)

残雪と新緑の美人林の写真

残雪と新緑の美人林
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F10 1/5秒 ISO 100 +2/3EV(撮影地:新潟県十日町市 2015.4.25 6:36)

残雪と新緑の美人林の写真

残雪と新緑の美人林
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F10 1/5秒 ISO 100 +1 1/3EV(撮影地:新潟県十日町市 2015.4.25 6:43)

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