幻の詩集 『あまたのおろち』 by 紫源二

幻の現在詩人 紫源二 の リアルタイム・ネット・ポエトリー

 炎と水

2013-09-29 03:27:51 | Weblog

 
 
  今、水風呂に浸かっていた
 
  インドの虎が身体を冷やすために、白昼、川に浸かっているように
 
  僕は今日、亜熱帯の太陽に照らされた訳ではないが
 
  自らの欲望によって、常に焼かれている
 
  水風呂に浸かっていると、身体が冷えて、頭が冷えて、脳味噌が冷えて
 
  心臓が冷えて
 
  意識が冷えて
 
  なくなってしまえば、いい
 
  この僕が無くなれば
 
  この苦しみも消える
 
  そうに違いない
 
  でも、この苦しみは、希望でもある
 
  この肉体が存在していることの
 
  そして息をし、血液が循環し、心臓がはち切れんばかりに鼓動していることの
 
  そして僕は、魂だけの存在ではなく

  この肉体でもあることの
 
  そして、このカラダを、何か別の生き物のように感じる
 
  コントロールできない、調教できない野生の虎
 
  もう老いてはいるが
 
  絶対に手なずけられない本能
 
  一度それに火がついたら
 
  水に浸かって心臓を凍らせるしかない
 
  つまり、このカラダは、氷のように死ぬしかないのだ
 
 
 
  僕の頭が言葉を紡いでいる
 
  でもそんなこと、なんの役にも立たない夢なのだ
 
  赤い炎が揺らいで
 
  言葉すら焼き尽くそうとしているとき
 
  必要なのはバプテスマの水
 
  そして、あなたしかいないのだから
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 恋の証明

2013-09-29 03:25:59 | Weblog

 
 
  彼は不公平だと思っている
 
  なぜなら、彼は彼女より少なくとも十倍彼女を愛してるから
 
  愛の量など誰にも測れないと一般には思われているが
 
  大切なのは量ではなく質なのだ
 
  そう思い至って彼は思った
 
  そのことに関しては、彼は時々思い悩むことを
 
  これは愛ではなく、恋かもしれないと
 
  それなら更に彼は百倍彼女に恋してる
 
  本当は、何兆京という天文学的数字で表現してもいいのかもしれない
 
  でもそんな数字なんて、無意味だと彼は思った
 
  これは数学じゃないんだから
 
  でも、数学のように証明できなければ、虚偽だ
 
  そう思った彼は、恋の証明に取り掛かることにした