幻の詩集 『あまたのおろち』 by 紫源二

幻の現在詩人 紫源二 の リアルタイム・ネット・ポエトリー

 火星から見た地球の時計

2010-05-31 01:36:44 | Weblog

 
 
 火星には銀色の服を着た桃色の肌の女性たちがいて
 
 仏教とアストロジーを混ぜ合わせた占いで
 
 ぼくの心の悩みをカウンセリングしてくれる
 
 
 つまりぼくはひとつの星なわけで
 
 暗黒の宇宙を運行している
 
 そしてやがて太陽の軌道から外れようとしてる
 
 かつて火星もそれを試みたように
 
 それなのに太陽の重力に抗えなかったから
 
 彼女たちは未だに燃えるルビーの上で暮らしている
 
 
 一緒に旅に出ましょうと一人の火星の女性が言う
 
 まるで悪魔の誘いのように
 
 それが神の啓示かもしれないのに
 
 どうしてそう感じるのだろう
 
 きっと運命から見放されるのが怖いのだ
 
 でもどこに運命の導きがあるのか
 
 ぼくにはわからない
 
 いったいこの生に
 
 正解はあるのだろうか
 
 
 火星の女性はルビーの指輪をしている
 
 金髪で目は紺碧
 
 緑のレーザー光線のような視線でぼくを見つめる
 
 
 火星の中心都市から西に外れた黄色い砂漠に
 
 大きな緑色の湖があって
 
 その畔にある秘境で生まれた彼女
 
 だから目が緑色に光るのだという
 
 
 ぼくは日本の真っ黒い夜のような都市に生まれた
 
 だから瞳が黒い
 
 
 彼女は東京を”黒い時計”と呼ぶ
 
 黒い文字盤に黒い針
 
 誰も今、何時なのか分からない
 
 それなのに走っている
 
 もう時間がなくなる
 
 もうすぐ時限爆弾が爆発する
 
 
 あと数分で
 
 
 あと数分
 
 
 彼女は数を数える
 
 
 ワン、ツゥ、スリー
 
 
 スリー、ツゥ、ワン、ゼロ
 
 
 目を覚ますと
 
 もう明日になっている
 
 
 彼女はいない
 
 
 ここは地球で
 
 ”黒い時計”の秒針は狂っている
 
 ものすごい勢いで回っている
 
 グルグルグル
 
 グルグルグルグル