うべプラネタリアン

プラネタリウム解説の活動を通じ、いろいろ感じたことをさまざまに語りたく....

ぼうえんきょう座....(C17)

2007年04月25日 21時21分24秒 | 新・星座物語
わき丸少年は星が好きでした。
遠くに光る星、全部を見てみたいと思いました。
望遠鏡という遠くのものが近くに見える機械がある、と伝え聞いて、
親にその機械がほしいとねだりました。
父親は「ギヤマンの機械など手に入るわけはねえ」と、てんでとりあってくれません。
そんなことより、寺子屋の手習いをしっかり励めと叱るばかりです。
「変な子だのぅ、わりゃ、星を見て何がおもしろい、きつねに取り憑かれたか」と、親の心配を尻目に、
わき丸、今夜も浜に出て星を見ています。
ある朝、亜米利加国の使節団一行が、将軍様に拝謁するためにこの浜から上陸する、皆はおとなしくして
いるように、とおふれが出ました。
わき丸は、しめた、彼らなら望遠鏡とやらを持っているに違いない、一台譲ってもらおう、と考えました。
黒船からボートが降ろされました。
一人の水兵が舳先に立って、望遠鏡で浜を偵察しています。
その時、遠巻きにしていた群衆の中から、一人の少年がとび出すのが見えました。
手を振ってなにやら叫んでいます。と、ばたばたと警護の侍がその少年に駆け寄るのが、望遠鏡の中に見えました。
水兵が見続けていると、侍が刀を抜くのが見え、きらり刀が光った瞬間、少年の背後に赤い霧がたち、
少年が音もなく砂浜に倒れ込むのが見えました。
あっと驚いた水兵は、思わず持った望遠鏡をとり落としてしまいました。
水兵は、上陸中止!と大声で叫ぶと、波間をちらと眺めて、海に落とした望遠鏡が惜しかったな、
とふりかえりましたが、まぁ やつにやったと思えばいいか、と気を取り直して、黒船に戻りました。
何事もなかったように、美しい陽光の中、波の音だけが聞こえています。
それから150年後、浜で星空を眺めていた和樹くんは、波打ち際で、2枚のガラスレンズを見つけました。
和樹くんは、大切に持って帰り、レンズをていねいに磨きなおして、小さな望遠鏡を作り上げました。
和樹くんは、今夜も、その望遠鏡で遠くの星を眺めています。
「ねぇ、おとうさん、ぼうえんきょう座ってあるの、知ってる?」
「ふぅん」
「南半球に行かないと見えないんだって、こんどつれてって、ねぇ、おとうさんったらぁ」
「ふん」お父さんは てんでとりあってくれません。
「そんなことより、おまえなぁ、こないだのテスト、ありゃぁ、なんだっ!」

「宇中 仁」作
大神ゼウスは登場しないし、ぼうえんきょう座の由来でもないけれど、これも一つの物語たり得るかと。
画像は、現代のハッブル宇宙望遠鏡 NASA