■内外に循環する情報刺激
人々の健康を増進したり、健常な心身を維持するために、医療技術や病院の仕事があるように、病院の機能が常に健全に機能するよう、病院広報という経営体をサポートする仕事はある。一口で言い表すのが難しいのが広報という仕事だが、医療には外科と内科という基礎医学の実践としての診療科があるように、病院広報には、「対外広報」と「院内広報」の2面があり、それぞれ欠かせない役割を担っている。
院外広報は、文字どおり外部に向けた広報を担うのだが、ここは何を外部と考えるかによってその構えや打ち手は違ってくる。例えば、入院患者さんやお見舞いのご家族はどうだろう。外部だろうか内部だろうか。また、一般職員はどう考えればいいだろう。当院では対外広報誌を職員に配っているから外部だというが、職員だから院内報も配布しているね。などとなる。マーケティングでは、職員を内部顧客、つまり内部利益を担う人々、つまりやりがいや職員満足によって医療の質や経営利益をもたらすという意味で顧客として考えることもできるし、外部社会を意識して企画したはずのパブリシティや広告活動が、以外や職員の理解や満足度、やる気につながり効果を生み出したという事例もあるだろう。
また、医師や看護師不足を補うための採用情報はとみに切実な場合も多いが、こうした求人活動では、よそよそしい外部向け情報だけで発信していても効果があるものだろうか。ある程度の経営方針や内部情報も公開しなければ、身近な魅力を感じてもらえない、ということもあるだろう。
対外情報には、見栄えのする魅力的な情報を出したいという想いもあるし、事実、そうでなければ、相手が「身内」だけでないため、手塩を掛けて作り出した情報でも振り返ってまで見てもらえないということがある。事実、病院広報誌のコンクールにおいても年々高級化が見られるが、情報の中身よりも、見た目とか出来映えに力が入っている。患者に必要な情報が届いていないという状況のなかで、“パッと見”ばかりを評価するのはいかがなものか、という意見もでてくる始末である。確かに患者さんへの情報は、目を引きつける情報だけでは品格ばかりでなく常識までもが疑われる。シッカリとした情報公開をしていく病院が評価され、そうでない医療施設はランク落ちとなる時代になるに違いない。
■必要な統合的な情報発進
いずれにしても、これからの医療・福祉という公共性の高い施設では、情報は開示・公開が社会の常識。個人情報や公的に問題となる情報以外は、いわれなくてもオープンにしていくことが、結局、自院にとっていい結果をもたらすという未来に向かっている。
大切なことは、外部に対しても、内部に対しても、別々の世界と考えるのではなく、統合的で一貫した枠組みによる情報の加工編集とともに、常に誠実な対話につながるような提供が必要ではないだろうか。
このため広報が組織の実態や全体像を常に把握して変化にそれなりの適切な対応を求めていかなければならない。1年前の大災害のようなケースを想定すると、経営のより深層部分からの構造化、たとえば危機管理やBCP(Business continuity plan)といったリスク戦略を広報が窓口となって経営部門に問いかけて行くことも考えねばならない。内に向かう広報は、外部にも循環するし、外に向かう広報は、内部を刺激するという理解と実践が求められる。変化の時代、医師、看護師の働きやすい環境や医療の質は、それぞれ施設の情報受発信機能の性能に左右されそうだ。(医療タイムスへの投稿)