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ぽかぽか春庭「ムーミン問題やってみた」

2018-01-23 00:00:01 | エッセイ、コラム
20180123
ぽかぽか春庭日常茶飯事典>2018十八番日記寒の内(1)ムーミン問題やってみた

 22日、東京は雪になりました。
 立春になるまでの1ヶ月ほどが「寒の内」。1年で一番寒い季節。このところ、年々、冬の寒さ夏の暑さは激しさを増し、春と秋は短くなっている気がします。今年の冬も、日本海側では激しい寒風と雪が連日の天気予報で伝えられ、欧州では冬の嵐で死者もでたというのをニュースで見ました。
 東京は、めったに積もるほどの雪にはならないのですが、22日は久しぶりの大雪でした。

 先日行われたセンター試験。悪天候によって、センター試験の実施に支障が出た、というニュースも毎年のことです。
 こんな季節に若者の一生を左右するかもしれない試験をしなくても、と思います。私が大学入試を受けたときも、確か大雪が降ったことを、50年たっても忘れないでいます。私は雪に負けてしまったけれど、どうぞ、若者達の大事な日が天気に恵まれますように、と天を見上げてしまいます。(ほんとうは、雪に負けたのではなく、高校生活でまったく受験勉強をせずにいた自分に負けたんですけれど、思い出は美化されるという法則にのっとって)

 今年のセンター試験、天気も悪かった上に、地理の出題が話題になりました。
 出題者は、凝った「考える問題」にしようとして、はりきって作成したのでしょうが、受験生にしてみると、答えに困る問題になっていました。

 我が家、クイズ番組が大好きで、よく見ています。「Qさま」というクイズ番組では、3人で答えを考えるので、正答率は90%くらいになります。息子は日本史、娘は地理と芸能問題、私は、文学音楽美術問題が得意。3人とも苦手は球技。野球やサッカー問題はさっぱり出来ません。
 センター試験問題も、クイズ感覚で挑戦することがあり、今回のムーミン問題も親子で楽しんで解答してみました。

 話題になった「ムーミン問題」とは、地理Bの出題で、ノルウェー、スウェーデン、フィンランドのスカンジナビア三国、比較問題の中の出題です。

 私は、問い1も問い2も間違えました。
 問い1は、最低気温と最高気温の表から、ノルウェーのベルゲン、スウェーデンの首都ストックホルム、フィンランドの首都ヘルシンキを当てる問題です。私は、スウェーデンもフィンランドも首都であるのに、ノルウェーだけが首都オスロでなく、海辺の町ベルゲンであるところに出題の作為を感じました。引っかけ問題だろうと思ったのです。
 海辺の町は、内陸の町に比べて寒暖の差が小さいはず、でも、わざわざ首都ではなくベルゲンを出したのは引っかけだろうから、寒暖の差が一番小さいのはベルゲンではないだろうと、「大人の判断」をしたら、間違えました。すなおに、ベルゲンが一番寒暖差が小さい町でした。

 問い2は、エネルギー源のグラフから、火力水力原子力の区分を当てる問題。ドイツが原子力発電を廃止したことは知っていましたが、北欧のエネルギー源について、海底油田があるところはどこだったっけ、と迷ったあげく、間違えました。

 問い3は、産業と輸出相手国から三国を区分する問題。ノルウェーは工業より漁業や酪農のイメージ。スウェーデンはエリクソン、フィンランドはノキアのイメージで工業の感じ。あれれ、家具のイケアって、どこだったっけ。でも、フィンランドの輸出相手国は、隣り合っているロシアがあるだろう、という判断で当たりました。

 問い4が、話題の「ムーミン問題」です。日本で放映されたアニメ作品。『ニルスのふしぎな旅』はスウェーデンが舞台という前置きがあり、雁に乗って旅するニルスの絵と「Vad kostar det?ヴァッ・コスタ・デッこれいくら」と、スエーデン語が出ています。


 出題は、「針葉樹の前に立つムーミンとスノークのお嬢さん」と、船の前に立つ「小さなバイキング・ビッケと少女チッチ」の絵があり、「Hva kostar det?ヴァッ・コスタ・デッこれいくら」と「Paljonko se maksaa?パリヨンコ・セ・マクサーこれいくら」という言語が出ています。フィンランドを舞台にしたアニメと言語を選ぶ問題でした。



 答えは。「2」フィンランドを舞台にしているアニメはムーミン。フィンランド語で「これいくら」は、「パリヨンコセマクサー」だ、ということがわかれば正解です。春庭、こちらは正解できました。

 ムーミン谷はフィンランドを舞台にしていることを「ムーミンの背景から推察せよ」と、出題者は考えた。言語はフィンランド語。ムーミンがものを買うときはフィンランド語で、「パリヨンコセマクサー」と言って買い物をしたであろう、というのが正解です。しかし、しかし。

 高校生が、この答えに辿り着くには、フィンランド語が北欧諸語とは系統がことなる。という言語地理学の知識を持っている必要があります。
 スウェーデン語とノルウェー語は、同じゲルマン語派北ゲルマン語群に属している。一方フィンランドは、アジアにいたフィン族が北欧に民族移動したので、言語はウラル語族バルト・フィン諸語です。

 私は、日本語教育概論の中で「留学生の母語、世界の言語ファミー」という授業を行い、言語ファミリーについて1コマのなかで話しています。
 インドネシア語とマレーシア語は、大阪弁と名古屋弁くらいの差しかないこと、ハンガリー語とモルドバ語も、ふたごのような言語。デンマーク語とノルウェー語とスウェーデン語は、ほぼ兄弟言語。ポルトガル語とスペイン語はいとこくらいの間柄。英語とドイツ語は、遠くに住んでいて、法事のときだけ顔を見る「またいとこの息子」くらい。一方日本語は、韓国朝鮮語とも、遠いとおい親戚で、もはや法事でも会わない。日本語は世界言語の中の孤児です。

 だから、「わたしは3カ国語が話せます」なんて言っても、「デンマーク語、スウェーデン語、ノルウェー語」というのなら「私は、名古屋弁、広島弁、博多弁が話せます」というのと、変わりない、という話をします。また、ひとくちに中国語と言っても、北京語と上海語では、昔なら通訳が必要なほど違いが大きい、という話もします。(現在は北京官話をもとにした普通話プートンファが普及している)

 英語しか他の言語を知らない大学生にそんな話をすると、「そういうことばの話は初めて聞いた」という者が多いので、高校の地理教科書に言語地理学が載っているとは思っていませんでした。もしかしたら、地理学習参照本の中に、世界の言語地図が1ページ、あるのかもしれませんが、授業でとりあげない学校が多いのでしょうね。

 センター試験の解説によれば、「バイキングとして活動した人々は、ノルウェーとデンマークを中心とした人々によってである、ということを地誌として知っていれば、ビッケがノルウェーであることは明らか。また、ムーミンの作者ヤンソンの著作物の中に、「ムーミン谷はフィンランドのどこかにある」という意味の文章が書かれているので、フィンランドを舞台にしたアニメはムーミンであると考えることに矛盾はない」ということです。

 しかし、ビッケの故郷については、異論があります。大阪大学スウェーデン語研究室の見解によると。
 「スウェーデン人作家のルーネル・ヨンソンがスウェーデン語で記した『小さなバイキング』の舞台は、『ノルウェーとスウェーデンの海岸にはかつてバイキングと呼ばれる海賊たちが活躍していた』とあるだけで、ビッケと仲間たちが住んでいるフラーケ村がノルウェーだとは明示されていません」
 
 ルーネル・ヨンソンはスウェーデン語でビッケを書き、ムーミンの作者トーベ・ヤンソンもスウェーデン語で書いていたのです。

 ムーミン作者のトーベ・ヤンソン(1914-2001)は、フィンランドの首都ヘルシンキでスウェーデン系の家庭に生まれ、母語はスウェーデン語。ムーミンもスウェーデン語で書かれ、トーベの末弟ラルスが英訳して世界に広まりました。私が揃えたムーミン全巻も、英語からの翻訳だったと思います。

 1971年フジテレビ系、1990年テレビ東京系で放映されたアニメ『ムーミン』は、私も大好きで見ていましたし、ムーミンシリーズ全巻を初版本で持っていました。(毎月のこづかいで楽しみに揃えたのを、姉が私に無断で友人に貸してしまい、戻ってきませんでした。今は文庫本のヤンソン全集も出ているので、仕事リタイア後にもう一度読みたいです。

 1990年から放映のムーミンは、幼い娘といっしょに見ました。息子も見ていましたが、あまり覚えていないようす。でも、再放送などを見てきたし、現在ではムーミンを「好きなキャラもののひとつ」ととらえていて、息子のペンケースの柄はスナフキンですし、ハンドタオルにはニョロニョロが。
 
 春庭息子は中学3年生から不登校になり、内部進学の高校でただの一日も授業を受けないで引きこもり、ゲームをしてすごしました。16歳の夏に「高認(高校卒業資格認定試験)」に合格して退学。以後もゲーム生活を続け、センター試験のみで合否を決める試験形式の私立校を受験して都内の私立2校から合格通知を受けました。「信長の野望」などのゲームのために関連の史書を読んで日本史が得意になっていたのが功を奏し、一日も高校授業を受けていないのに合格できて、私にとっては、センター試験さまさまですから、センター試験をアダやおろそかには思えません。受験生のために、適正な出題をしてほしいと願っています。

 ムーミンの国をノルウェーとしてしまい、「ムーミンよ、急いで国籍を変えてくれ」とつぶやいた受験生が続出だったと、ネットで話題になっていました。
 「ムーミン問題」配点は3点でした。ムーミンの国を間違えてしまったとしても、それだけで合否が決まるとは思えませんが、このような「正解に異論が出るような問題」は、センター試験問題として適切ではなかったように思うのです。

 さて、スウェーデン語でムーミンを書いたトーベ・ヤンソンは、生まれたフィンランドのほか、スウェーデンのストックホルムで芸術教育を受けました。画家であった母親(スウェーデン系フィンランド人)の影響を強く受けたと言われています。

 トーベの生涯のパートナーとなったのは、フィンランド系アメリカ人女性のトゥーリッキ・ピエティラ(1917-2009)です。ムーミンキャラのおしゃまさん(トゥーティッキー)は、彼女がモデル。女性同士のパートナーとして仕事でも生活でも40年の歳月を共に助け合って過ごしました。
 毎年、夏には孤島で二人だけで過ごし、合作が生み出されました。この夏の生活は、ピエティラが撮影したドキュメンタリーになって残されているということなので、見てみたいなあと思います。ふたりが1964年から1992年までをすごした孤島の小さな小屋を撮影したビデオ映像がyoutubeにUPされていました。
https://www.youtube.com/watch?v=p3nQ_ar_6Zk

 孤島でのふたりの静かな夏。トーベもおしゃまさんも、まさか2018年の冬にふたりが共作したムーミンが受験生を悩ますことになるとは夢にも思わなかったでしょうけれど。

 以上、「ムーミン問題」についての感想でした。まだ寒い。がんばれ受験生。

<つづく>
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6 コメント

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面白かった! (まっき~)
2018-01-23 09:40:27
きっと書いてくれるだろうと思ったネタ、春さんの面目躍如、すげーためになって、すげー面白かったです。

自分も新聞に載っけてくれる高校入試・センター試験の問題は試す(数学除く)ので、やってみましたが、問い1、問い4だけ「なんとなく」正解。

「なんとなく」では、意味がないのにね。
だからきょうのコラムで、なるほどと。
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雪にも負けず (春庭)
2018-01-23 18:00:01
ムーミンの国とことばについて、いろんなところで論評されているようなので、あと追いで出したみたいに思われたらいやだなあと思っていたのですが、まっき~さんが気にいってくれたのなら、もうそれで万々歳。

夜中の0時にブログUPしたら、朝4時に届いた天声人語にまったく同じ話題が書かれていて、わぉ、朝までUPしないでいたらボツだったと思ったこともあります。いくらこちらが先に考えたネタだと言っても、大新聞のテンカのコラムと、しがないブログじゃ勝負にもならない。
眠くても0時UPがんばります。

まっき~さんの映画コラムプロレス&AVコラムに追いつくよう、春庭のことばコラム、続けていきたいです。
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おもしろいわぁ (momosuke)
2018-01-23 19:08:58
春庭先生とまっき~ちゃんのやりとり。

ムーミンは好きだから、今回の試験の話題も、どんなんだろう、ってちょっと思っていましたけど、うーん、こちらで読んでも、わかりませんでした。
読解力がさっぱりありません。
つい(?)30年くらい前までは、今の大学入試はどんなんだろう、なんて毎年見ていたのでしたが。

お二人のファンより。
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ムーミン、くちこも好きですよ (くちかずこ)
2018-01-23 21:00:51
小学校の頃、図書館で全冊読んだと思います。
でもさ、ノンノがいつの間にかフローレンスになっていたのは、納得できない。
あの頃からスナフキンに憧れていました。
が、こんな知識は皆無です。
くちこ的には、「あの辺」の国の本って感じ。
何事も、つつけば奥が深いだろうし、見ようによって、聞きようによって違うこともあるし。
出題って、なかなか難しいですね。
優秀な娘さんと、息子さんなんですよね。
社会との迎合は、優秀さと個性ゆえに難しいかな?
何事も折り合い。
どこかで、折り合いをつけるしか無いのかも。
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momosukeさん (春庭)
2018-01-23 23:23:08
facebookでmomosukeさんの写真を拝見していますが、どういう具合か、ときどきfacebookに入れないときがあるのです。gooブログが一番私には使いやすいです。

momosukeさんのフォトエッセイも、まっき~さんの映画コラムも楽しみにしています。
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くちかずこさん (春庭)
2018-01-23 23:45:11
スナフキン、放浪の旅人という設定が子ども達の心をつかんだのでしょうね。

原作の「スノークのお嬢さん」を、テレビ局が勝手に「ノンノン」と名付けたことに、トーベヤンソンは反対しました。スウェーデン語でも英語でもNonは否定になるのが気に入らなかったようです。1990年のテレビアニメではフローレンに変わり、これも原作にはない名前です。でも、こちらには文句をつけなかったみたい。
ムーミンが架空の生物なのですから、ムーミン谷も国を確定させなくても、「北の地方のどこか」のほうがいいと思います。

我が娘も息子も、世間様のお役にはたちたくないようです。娘、寛解1年半の日々を、家の中で楽しそうにすごしています。息子、3月には古文書翻刻のアルバイトは契約期限切れになるの、その後どうなるのやら。
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