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ぽかぽか春庭「動詞の名詞化を教えるその2」

2020-10-03 00:00:01 | エッセイ、コラム
20201003
ぽかぽか春庭にっぽにあニッポン語教師日誌>再録日本語教師日誌(2)動詞の名詞化を教えるその2

 春庭の日本語教師日誌を再録しています。
 日本語教師養成講座で、直接法で日本語を教えるひとつの例を示します。

 「歩く⇒歩くこと」「食べる⇒食べること」のように、「こと」をつけて動詞を名詞として使えるようにする日本語形態論。これを日本語学習者にどのように日本語だけで教えていくか。日本語のしくみがまだわかっていない日本人学生に「日本語学習者に、文法用語などはつかわず、既習の単語と文型だけで教えていく方法」を伝えてきました。
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2003-12-20
春庭のBC級ニッポン語教育研究15「サルでもできるHow to teach Nipponia Nippon語」
「授業の実際ー動詞の名詞化を教える②」

 12/19に、形式名詞「こと」助詞「の」による動詞の名詞化(Verb nominalization)の理論編を書いたところ、dionさんから「『体言止め』と同じですか」という足跡質問をいただいた。
 いいえ、「体言(名詞)止め」と、「動詞の名詞化」は、同じではありません。

 体言止めというのは、文のおわりが名詞で終止することを言います。「働けどはたらけどわが暮らし楽にならざりじっと手を見る」という短歌は「見る」という用言(動詞)で終わっています。これに対して「今年も何もいいことがなかった。泣き濡れて砂をつかむ私の手」という文では、「手」という名詞で文が終わっています。これが体言止め。

 動詞の名詞化とは、動詞の形を変えて名詞にすること。「こと」をつけると、動詞「する」が、名詞「すること」に変化します。これが動詞の名詞化。

 もうひとつ動詞を名詞化する方法は、動詞の連用中止形名詞。「行く」が「行き」という名詞になり「行きも帰りも立ちっぱなし」と、名詞として用いることができる。「のぼり、下り」「読み書き」なども、動詞連用中止形名詞です。

 さて、「動詞の名詞化を教える授業」の続き。
 「私が、『こと』と『の』を導入するときは、こうやります」というサンプル。あくまで一例であり、さまざまな授業方法が存在する。

 以下の授業実践は、直接法(日本語だけで授業をする)に、媒介語(このクラスでは英語)を加えた、「折衷直接法」の授業である。

1,文字カードを準備。
 カードに「ピンポン」「バレーボール」「バスケットボール」「テニス」「ボクシング」「すもう」「Swimming」「Walking」「Watching」「Standing」「Taking photograph」などと書いてある。

2,日本語学習者をふたつのチームに分ける。カードを配り、ふたり一組になってジェスチャーを出題し、相手チームに何をしているか、あてさせる。あたったら、ポイントゲット。
 これは、カードの語句の意味を理解しているかどうか、確認するための遊び。

 「泳ぐこと」「写真をとること」などは、ジェスチャーで当てられるが、「立っていること」「見ること」などは、ジェスチャーが巧みでないと、答えが出にくい。ただ、じっと立ち続けるジェスチャーでは「立っていること」という答えが出ないのだ。

 「すもう」のジェスチャーなどは知らない学生もいるので、できそうな人にあてておく。学生ができないときは、教師がジェスチャーすると、みな大喜び。私は調子にのると、横綱土俵入りのジェスチャーまでサービス。

3,「Please answer. Do you like sports. 答えてください.スポーツが好きですか」スポーツが好きそうな学生に質問する。学生は「好きです」と答える。

①テニスが好きそうな学習者に質問「テニスが好きですか」学習者の答え「はい、好きです」

②女子学生に質問「ボクシングが好きですか」好きだと答えたら「ボクシングができますか」「いいえ、できません」「そうですか、○○さんは、ボクシングができません。○○san can not play boxing.」

① わざと、すもうができるか聞いてみたりする。冗談で「できる」と答える学生がいたら、「Let's play the game. I am Takamisakari You are Asashoryu.」と、のせる。ふたりで、立ちあい「みあって、見合って、はっけよいのこった」と、立つまでをジェスチャーでやったり。がっぷり四つに組むのは、ちょっと遠慮。(昼間だからね)

4,教師「○○san do you like TV watching ?テレビ見ますか。テレビ、好きですか。」
 日本語学習者学生「Yes I do」
 教師「そう、好きなのね。日本語で言ってください」
 学生「好きです」
 教師「Please say full sentence.もう一度。わたしは~、はいどうぞ」
 学生「わたしはテレビを見るが 好きです」

5,教師「今の日本語は正しい日本語ではありません。もういちど、言ってください」
 学生「わたしはテレビをみるが、、、、」
 教師「ちがいます。『みるが』は、正しい日本語ではありません」
 学生「Ah!わかりません」

6,学生が間違えたら、すかさず、「こと」「の」を導入する。「日本語動詞の名詞化 Japanese verb nominaraization」の説明。「の」と「こと」の使い分けなどを説明する。
「私は テレビを見るのが 好きです」

7,「こと」を用いた、動詞の名詞化の練習。カードをみせながら、あるいは口答練習で「Walking →あるくこと」「Watching →みること」の変換練習

8「動詞~のが好きです/~のは好きじゃありません」の代入練習。「公園を歩くのが好きです」「テレビを見るのが好きです」「電車の中で立つのは好きじゃありません」などの文型を練習。

9「趣味は、動詞~ことです」の代入練習。
①「趣味はお酒を飲むことです」「趣味は映画を見ることです」「趣味は絵を描くことです」などの例文を練習。

②乗りやすいクラスと、そうでないクラスでは、例文を使い分ける。やたらに「うけねらい」の文を発表しようと、はりきる学生がいるクラスがある。調子にのりやすい男子学生がいるクラスだと、「趣味は、女の人の写真をとることです」「趣味は女の人と話すことです」などと、うけねらいの短文が続出。
 逆に、ちょっとでもふざけた文を言うと、ブーイングを出す、まじめ学生のいるクラスも。

 教師も、クラスの個性にあわせて臨機応変に。

 あなたの趣味は?「趣味は、女の人といっしょにホテルへ行くことです」あ、そう、いい趣味ですわね。春庭も同じ趣味です。共通の趣味を持っていて、気が合いますこと。おほほほ、、、
 「春庭の趣味も、女の人といっしょにホテルへ行くことです」ホテルのレディスサービス、エステ料金無料などのサービスがある。

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20200927
 春庭の仕事内容から「日本語教授法」がなくなり、少々寂しい気がします。日本語教師志望の日本人学生に「日本語の教え方」を伝えるのは、手仕事の職人が弟子たちに「理屈じゃねぇんだ、よく見て盗め!」と叱咤するように、「留学生に日本語を指導する様子」を再現して「よく見てマネして」というのも楽しい指導でした。

 それでも日本人学生たちは、自分たちが普段使っている日本語を何気なく使ってしまう。「日本語学習者に未習の語や文法をつかってはならない」と、口を酸っぱくして言うのですが。受身形を習っていない学習者に「きのうは、大雨でしたね。私も雨に降られました」と言っても、「降られる」の意味はわからないのです。
 アジア系の学生は、先生が言うことを黙って聞いていますが、欧米系の学生は「先生、わかりません」「先生は、まだそのことばを教えていません」と、目ざとい。
 集まった学生のクラス雰囲気に合わせつつ、臨機応変に教え方も工夫する。この夏も、まだ日本語力が十分とはいえない人たちに「日本語を教える仕事は楽しいよ」というのを感じてもらうための工夫、来年はできるといいな。

<おわり>
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