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ぽかぽか春庭「和製漢語について「中華人民共和国」って70%日本語です」

2019-07-16 00:00:01 | エッセイ、コラム
20190716
ぽかぽか春庭ことばの知恵の輪>再録感じる漢字(4)和製漢語について「中華人民共和国」って70%日本語です」

 2009年4月に書いた漢字についてのコラム再録です。
 2009年3月―9月、中国に赴任して日本文科省国費留学生となる中国人学生に日本語を教えていました。中国と日本との漢字にまつわるかかわりについて書きました。
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20090424
ニーハオ春庭ニッポニアニッポン語教室>(2)チャイナ・ピープルズ・リパブリック「和製漢語」

 有栖川宮熾仁親王が錦の御旗を押し立てて江戸へ入城し、時代は明治。文明開化は疾風怒濤で世を変えていきました。
 明治時代、西欧の思想や科学・産業がどっと日本に入ってきました。福澤諭吉、西周らは、それらの新しい概念の語を、苦心して日本語に翻訳しました。日本語へ翻訳したといっても、和語ではなく、「和製漢語」を案出したのです。

 日本語が漢字表記を取り入れて以来、千年の間に「日本製漢字語」がぽつぽつと生まれて定着してきました。
 その中には、やまとことばでは「おほね」だった野菜に「大根」という当て字を用いたために、現在では音読みの「ダイコン」が定着している漢字語や、「ひのこと」の当て字「火事」が「カジ」として広くもちいられている「和語→漢字語」もあるし、日本で漢字の造語法を利用して作られた漢字語もあります。たとえば、芸を仕事とする者だから「芸者」、三本の糸を用いる楽器「三味線」など、中国の漢語にはなかった漢字語を用いてきました。

 幕末から明治時代にかけて、英語その他の西洋語から「科学」「哲学」「郵便」「野球」などが翻訳されました。日本語では「野球」と翻訳したBase ballは、中国では「棒球」と翻訳するなど、日中でことなる翻訳をした語がそれぞれに定着した語もありますが、多くの和製漢語がそのまま中国語にも定着しました。明治時代以後に来日した「清国留学生」たちが、日本製漢語を中国へ持ち帰ったためです。

柳父章「翻訳語成立事情」


 幕末以降、西欧由来の新概念や事物、個人・社会・主義などの翻訳された和製漢語を逆輸入した中国の人々は、もともと中国の漢語だったと信じて使っています。

 もともとあった中国の漢語、「自由」「観念」「福祉」「革命」などに、西洋の概念をあてはめて、新しい意味を持たせた語もあります。「自然」は日本語も「じねん」と読むときは仏教用語であり、「万物が現在あるがままに存在しているものであり、因果によって生じたのではないとする無因論」「ひとりでに、おのずから為す」という意味を持っていました。英語のnatureの翻訳語として「自然しぜん」が採用されました。

 そのため、中国語母語話者は、「革命など、もともと中国語にあった語彙だ」と思っています。もともとの「革命」の意味は、「命(天命)を革(あらた)める」という意味でした。王朝の交替などの場合に使われていた語を、英語のrevolution(語源は「回る、回転する」)にあてはめた語です。現在の中国では、現在古代中国語の意味としてより、日本が意味を改編した「revolution」の意味で使っています。

 言葉が社会に定着して使われるようになれば、その語がどこからやってきたかなどと言うことは、まったく気にせずに、もともとある言葉として根を下ろします。これは、日本人が煙草や天麩羅を、ポルトガルから来たなどと意識せずに「もともとの日本語」と信じて使っているのと同じです。

<つづく>

2009/04/25
ニーハオ春庭ニッポニアニッポン語教室>(2)チャイナ・ピープルズ・リパブリック「中華人民共和国」って70%日本語です

 「中華人民共和国」の「人民」「共和国」も和製漢語です。明治の日本人は、the people→人民、republic→共和国と、翻訳しました。
 中国からの留学生のなかで、「日本の漢字は、中国から輸出したものですよ。日本の語彙のほとんどは中国からの借り入れじゃないですか」と、いばる学生がいると、私は反撃します。

 「中華人民共和国」のうち、自前の語は「中華」だけだよ。人民も共和国も、日本人が作った言葉なんだからね。あんたたちの国名は、7文字のうち5文字が日本製だ!」
 「中華人民共和国」という国名の70%は、日本語(和製漢語)です。

 上海外国語大学日本語学部の教授をされていた陳生保『中国と日本――言葉・文学・文化』(麗澤大学出版会2005年)の中に、毛沢東の『実践論』の分析があります。
 陳教授が「日本で作られた漢語なしには、中国人の思想を書き表すこともできない」例としてあげている毛沢東の論文「実践論」の中、< >をつけた語彙は日本から中国へ伝わった漢字語です。毛沢東の原文では< >がついていませんが、同じ漢語で中国語を書いています。
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 マルクス以前の<唯物論>は、人の<社会性>を無視し、人の歴史的発展を無視したもので、認識<問題>を観察した。それがために、認識と<社会>実践との依存<関係>、すなわち、<生産>と<階級><闘争>にたいする認識の依存<関係>を了解することができなかった。
 まず第一に、マルクス<主義>者は、こう思う。人類の<生産活動>は、最も基本的な実践<活動>であり、その他のすべての<活動>を決定するものである。人の認識は主として、<物質>の<生産活動>に依存し、しだいに、<自然>の<現象>・<自然>の性質・自然の法則<性>・人と<自然>との<関係>を了解する、その上、<生産活動>をとおして、各種の、ことなる程度で、しだいに人と人の一定の相互<関係>を認識する。
これらの一切の<知識>は、<生産活動>をはなれては得ることができない。<階級>のない社会では、どの人も<社会>の一員という資格でその他の<社会>のメンバーと協力し、一定の<生産関係>を結び、<生産活動>に従事して人類の<物資>生活の問題を解決する。いろいろな<階級社会>では、各<階級社会>のメンバーは、やはりいろいろ違った方式で一定の<生産関係>を結び、<生産活動>に従事して人類の<物資>生活の<問題>を解決する。これが人の認識発展の基本<的>なみなもとである。
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 いかがですか。毛沢東も己の思想を著すために、語彙の25%は、日本で創作された漢字語彙を使っているのです。

 私がここで言いたいことは、この語はどっちが本家か、なんていう「本家・元祖・家元」争いではなく、ことばというものは、持ちつ持たれつ、交流しあうなかで語彙をふやしていくものだ、ということです。

<つづく>

2009/04/26
ニーハオ春庭ニッポニアニッポン語教室>(3)リーチ一発大三元

 結婚式に「新郎」と向きあう女性を中国語では「新娘」と呼びます。「娘」というのは、母親の世代の女性を意味しており、「新娘」といえば、これから母親になっていく新しい女性のこと。「我的娘」を日本語に訳すと「私の母」という意味になります。
 「新娘」という古来の中国語があるのに、brideの和製漢語「花嫁」はブライダル産業の発展とともに、中国でもおおいに知られる語彙となりました。
 lost loveの和製翻訳語「失恋」も、中国恋愛事情において、よく見かける語になりました。

 日本へ入ってきた中国語は、時代によって発音が変わっています。飛鳥奈良以前に入って来た発音は呉音といいます。中国の南方の発音に近いです。「行」という字を例にすると、修行(しゅぎょう)、行者(ぎょうじゃ)など、仏教関係の語に呉音「ギョウ」が多く残されています。平安の遣唐使らが伝えた発音を漢音といいます。「旅行」「行動」など、一番多いのが「コウ」と発音される漢音です。鎌倉以後に日本へ入った発音を「唐宋音」と呼びます。これは、熟語の数が少なく、「行灯(あんどん)」「行脚(あんぎゃ)」など、ごく一部です。唐宋音がない漢字がほとんどです。現代中国標準語(普通話)で「行」の発音は「シン」です。
 近世近代以後に、新しく日本へ入ってきた中国語は、できるだけ原音に近く発音されることが多いので、漢字の音読み(呉音・漢音)とはちがう読み方がされています。表記は漢字もありますが、カタカナ表記されることも多い。

 中国語の餃子(ヂャオズ)。
 日本でも餃子という漢字を用いますが、日本での読み方は「ギョウザ」。漢字表記もカタカナ表記もどちらも使われています。

 中国では、ほとんどが水餃子(茹で餃子)であるのに比べ、日本では焼き餃子が、ラーメンと並ぶ「国民食」として普及しました。おいしいギョウザ大好きです。
 (「毒入りギョウザ」のメタミドホス、いやなカタカナ語が耳になじんでしまいましたが、これはまた別のおはなし)

 餃子は昔のお金の形なので、中国人にはめでたいとき縁起物として食べられてきました
 明治食品HPから借り物画像


 麻雀マージャンも近代に入った読み方です。「立直」も、音読みのリッチョクではなく「リーチ」という中国発音のまま、日本語になりました。 
 マージャンパイのひとつ、白板(パイパン)。文字や絵が描かれていない白いマージャンパイです。
 白い部分に黒い文字がないところから、現在日本語としては、別の意味が備わり、使われています。別の意味を知りたい方は、ウィキペディア検索をどうぞ。
 黒いモジャモジャがなくて、つるっと白いのがいいという方に好まれるパイパン。

 あ~、私、マージャンはギョウザと同じくらい好きですが、パイパンは、大三元のときくらいしかご縁がなくて、、、、。
 パイパンプレイがお好きな方、「中チュン」や「發ファー(はつ)」とも仲良くしてやってね。3つずつ集めれば、大三元よ!って、ちがうプレイだよね。お好きにどうぞ。

 さて、漢字本家の中国では、外来語をどのように取り入れているのか、次回以降、お伝えします。
 日本で作られた漢字語はすんなり中国へ入りますが、英語など日本語ならカタカナで書いている語を、中国語はどのように書き表し、どのようにして自国語へ取り入れているのか、というテーマです。


<つづく> 
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2 コメント

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Unknown (yokochann)
2019-07-16 05:35:36
おはよう~春さん。
少し前に図書館で『てんてん』(山口謡司著)という本を借りてきましたが、とても興味深いです。
まあ、私はただの興味本位だけれどね~^^。
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Unknown (hal-niwa)
2019-07-16 08:57:16
山口謡司さんは、書誌学の林望の弟子だけあって「イギリスはおいしい」で知られるようになった師匠をしのぐ勢いで日本語や漢字についての本を出していますね。
日本語についていろいろ書いておられます。
興味むくまま、おもしろそうなところだけつまみ読みでも楽しくことばの森を散策できますね。
私も漢字は専門じゃないけれども、興味むくまま生兵法で中途半端な書き込みをしてますからyokoちゃんがきづいた訂正すべき点を教えてね。8月末まで漢字ネタを続けるので、飽きるかも知れませんが。
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