2014/05/28
ぽかぽか春庭ことばのYa!ちまた>十四事(4)捕縛(とりで)
映画やドラマの時代劇。御用提灯を掲げ、十手を持った捕り方たちは、「御用、御用!おとなしくお縄を頂戴せい!」と叫びます。ねずみ小僧などの泥棒側が主人公なら、どうぞ捕まらないで逃げおおせてほしいと手に汗握り、銭形平次などの目明しや与力が主人公なら、早く捕まえてほしいと手に汗握り、どちらにせよ「お縄」とは、捕まえた犯人を縛る縄のことだ、と、小学生の私でも承知していました。
江戸武士の武術十四事に「捕縛(とりで)」が含まれていたこと、武士の役目が「戦争をする兵士」の役割から「地域の治安を担う警察」の役割も含むものになっていたことがうかがえます。
逮捕した犯罪者を手錠によって拘束することが中心になった昭和期以後、警察でも捕縄術(ほじょうじゅつ/とりなわじゅつ)を教えることはなくなりました。警察が相手を縄で締め上げるのは、取調室で無理やりの自白を強いるための緊縛拷問術でつかうくらいになり、さらに容疑者の人権が問題視されるようになると拷問も御法度になりました。
江戸武士の武術としての捕縛捕縄の技には、縄を用いた戦闘術なども含まれていました。鉤爪をつけた縄をつかって相手を倒し、その縄ですばやく縛り上げる。この技を「早縄術」という。一連の武術は江戸時代には各地に流派が存在するほどさかんでした。
逮捕した相手をお白洲などに引き出して上位の人の目に触れさせる時の縛り方、また、刑罰としての市中引き回しなどのときに縛る方法などは、本縛といって、見た目にも華麗に見える縛り方が工夫され、季節によっても縛られる者の身分によっても、細かく縛り方が規定されていたそうです。へぇ~。「今日は曇り空で雨もパラついてきそうだし、今日の市中引き回しはうら若い女だし、縛り方は、これでいこう」なんて、捕縛掛の役人も工夫のしがいがあったことでしょう。
たぶん、この本縛が、責め絵のしばりに発展していったんでしょうな。実用的な早縛じゃ、絵に描くにも花がない。
近代警察の武道に捕縛術がなくなってからは、現代において、縄で緊縛する術は、ほそぼそとある分野で続けられているだけになり、一般の我々には縁遠いのものになりました。(ある分野というのを知りたい方は、伊藤晴雨の責め絵などごらんください)。
さて、5月の捕物帖を賑わしたのが、「鎌倉の猫にメモリー」で、警察を愚弄した「パソコン遠隔操作」事件。
犯人がついに「お縄」になりました。
一時は誤認逮捕による冤罪事件を引き起こし、真犯人の片山祐輔被告(32)も「自分は濡れ衣。自分も冤罪事件の被害者」と訴えていて、私も「猫に接触している防犯カメラの映像だけ逮捕しちゃったら、状況証拠だけでいくらでも逮捕できる世の中になってしまうだろうなあ」と、危惧していました。
パソコン遠隔操作事件。事件の発端は、2012年の初夏から秋にパソコンをつかって行われました。
真犯人がインターネットの電子掲示板を利用して、他者のパソコンを遠隔操作し、他者のパソコンから犯罪予告(殺人、襲撃など)を行ったサイバー犯罪。現実に襲撃予告を受けた飛行機が発着できず、航空会社には実害が生じました。警察は犯罪予告に利用されたパソコンの持ち主を誤認逮捕するなど、真犯人に振り回されました。
この冤罪逮捕で恐ろしいのは、逮捕された冤罪被害者のうちふたりは「私がやりました」と自白していることです。いったいどんな取り調べが行われたのか。そして、もし私が誤認逮捕されたとして、日夜責め続けられて、縄で逆さ吊りされるよりもつらいようなことばの拷問を受けたりしたら、早く楽になりたいという一心で、やってもいない犯行を認めてしまうのではないかと感じたことでした。
警察も、冤罪を主張する片山祐輔を拘束し続けることはできず、釈放。
2014年3月5日、片山が約1年ぶりに収容先の東京拘置所から保釈されました。保釈保証金は1千万。最初に前科がついたあと、親と姓を変えたけれど、父親は大会社のエライさんだったし、1千万円捻出に苦労はなかったのでしょう。
我が家は、息子に「何があろうと鼻血もでない家なんだから、お縄を頂戴するようなことだけはしてくれるな」と言い聞かせています。
そして、釈放後、警察は保釈中の容疑者の尾行を続けました。取調室で拷問を加えることは違法ですが、保釈金を払って正規に保釈した容疑者を尾行するというのも、捕縛術のひとつなのでしょう。たぶん。
尾行を続けた警官は、片山がケータイを埋めた時点でどうしてすぐに掘り出さなかったかというと、裁判中にメールが発信されるのを待っていたのでしょう。まあ、それくらいはやるでしょう、ケーサツ。
片山もそのまま冤罪被害者を演じていれば、警察も動けなかったでしょうに、わざわざ「真犯人」を名乗るメールを送りつけるアホなミスを犯しました。
2014年5月16日、片山被告の公判中、「真犯人は自分である」というメールが発信されました。片山は公判中で鉄壁のアリバイ。そんなメールを出せるはずはない。したがって片山は真犯人ではない、という筋書きでした。しかし、尾行中の捜査員は、片山がケータイを川原に埋める姿を目撃していました。ビンゴ!
自分の無実を強調したかったのかもしれませんが、愉快犯というのは、こんなところで墓穴を掘る。ちなみに、片山は、この手の犯罪で前科アリ。中高とも学習院出身のボッチャマしかも在学中はイジメを受けていたと母親の証言がある、というところが、劇場型犯罪にうってつけの犯人像です。でも、猫の首輪つけているところの映像では、いかにも2ちゃんねるの常連になりそうな小太り非モテ系だったので、こんな風貌だと、かえって違うんじゃないかと感じたのに。期待を裏切って、真犯人でした。
この埋められたケータイを掘り出して分析した結果、ケータイは片山の所有物。メールは15日のうちに予約発信されていたことが判明しました。片山は5月22日の公判罪状認否で「真犯人は自分です」と、認めました。完全なる物的証拠が出てしまい、もう言い逃れはできないと感じたのだそうです。埋めてしまえばケータイ見つからないと本気で思ったのだとしたら、なんだかカワイソーになってしまう頭脳のような気もします。
2年間世間を騒がしたネット時代の犯罪は、こうして「川原に埋めた証拠を掘り出す」という解決方法で終わりとなりました。逆にいうと、こういうアナログなミスがなければ、警察も裁判所も真犯人にたどり着けなかった。
片山発言「警察庁長官と検事総長が、テレビ画面でパンツ一丁で出てきたら、出頭しますよ」。長官、パンツ一丁にならずにすんでよかったこと。
新聞やテレビの報道だけでこの事件に接してきた者にとっては、おもしろい捕縛物語だったのですが、実際にこの事件によって「保護観察処分」を受けてしまった未成年の冤罪被害者(のちに取り消されたとはいえ)にとっては、一生の心の傷となったことでしょう。
これから先、第二の片山祐輔は増殖するのでしょう。日本の警察、世界でも優秀な人達と思いますが、対処していけるのでしょうか。現代の捕縛術、みがきをかけてください。
そして、私が信号無視して赤信号でわたっても、逮捕しないでください。私、信号無視以外に法律に違反したことないんですけれど、どうも冤罪被害者になった場合、逮捕されたらすぐに「へぇ、ぜ~んぶ私がやりました」と言ってしまいそうなヤワな人間でございます。
弟を信じて冤罪を晴らした袴田巖さんのお姉さま、えらいわぁ。信じてくれる人がいるってすばらしい。
私が誤認逮捕されたら?
テレビのなかでモザイクかけられた顔して「そうねぇ、なんかしでかしそうな人だとは思っていた」としゃべりそうな人たちばかり周囲にいるので、せいぜい逮捕されないように気をつけます。お縄はねぇ、警察からもその筋の趣味の方からも受けたくないですわん。
<つづく>
ぽかぽか春庭ことばのYa!ちまた>十四事(4)捕縛(とりで)
映画やドラマの時代劇。御用提灯を掲げ、十手を持った捕り方たちは、「御用、御用!おとなしくお縄を頂戴せい!」と叫びます。ねずみ小僧などの泥棒側が主人公なら、どうぞ捕まらないで逃げおおせてほしいと手に汗握り、銭形平次などの目明しや与力が主人公なら、早く捕まえてほしいと手に汗握り、どちらにせよ「お縄」とは、捕まえた犯人を縛る縄のことだ、と、小学生の私でも承知していました。
江戸武士の武術十四事に「捕縛(とりで)」が含まれていたこと、武士の役目が「戦争をする兵士」の役割から「地域の治安を担う警察」の役割も含むものになっていたことがうかがえます。
逮捕した犯罪者を手錠によって拘束することが中心になった昭和期以後、警察でも捕縄術(ほじょうじゅつ/とりなわじゅつ)を教えることはなくなりました。警察が相手を縄で締め上げるのは、取調室で無理やりの自白を強いるための緊縛拷問術でつかうくらいになり、さらに容疑者の人権が問題視されるようになると拷問も御法度になりました。
江戸武士の武術としての捕縛捕縄の技には、縄を用いた戦闘術なども含まれていました。鉤爪をつけた縄をつかって相手を倒し、その縄ですばやく縛り上げる。この技を「早縄術」という。一連の武術は江戸時代には各地に流派が存在するほどさかんでした。
逮捕した相手をお白洲などに引き出して上位の人の目に触れさせる時の縛り方、また、刑罰としての市中引き回しなどのときに縛る方法などは、本縛といって、見た目にも華麗に見える縛り方が工夫され、季節によっても縛られる者の身分によっても、細かく縛り方が規定されていたそうです。へぇ~。「今日は曇り空で雨もパラついてきそうだし、今日の市中引き回しはうら若い女だし、縛り方は、これでいこう」なんて、捕縛掛の役人も工夫のしがいがあったことでしょう。
たぶん、この本縛が、責め絵のしばりに発展していったんでしょうな。実用的な早縛じゃ、絵に描くにも花がない。
近代警察の武道に捕縛術がなくなってからは、現代において、縄で緊縛する術は、ほそぼそとある分野で続けられているだけになり、一般の我々には縁遠いのものになりました。(ある分野というのを知りたい方は、伊藤晴雨の責め絵などごらんください)。
さて、5月の捕物帖を賑わしたのが、「鎌倉の猫にメモリー」で、警察を愚弄した「パソコン遠隔操作」事件。
犯人がついに「お縄」になりました。
一時は誤認逮捕による冤罪事件を引き起こし、真犯人の片山祐輔被告(32)も「自分は濡れ衣。自分も冤罪事件の被害者」と訴えていて、私も「猫に接触している防犯カメラの映像だけ逮捕しちゃったら、状況証拠だけでいくらでも逮捕できる世の中になってしまうだろうなあ」と、危惧していました。
パソコン遠隔操作事件。事件の発端は、2012年の初夏から秋にパソコンをつかって行われました。
真犯人がインターネットの電子掲示板を利用して、他者のパソコンを遠隔操作し、他者のパソコンから犯罪予告(殺人、襲撃など)を行ったサイバー犯罪。現実に襲撃予告を受けた飛行機が発着できず、航空会社には実害が生じました。警察は犯罪予告に利用されたパソコンの持ち主を誤認逮捕するなど、真犯人に振り回されました。
この冤罪逮捕で恐ろしいのは、逮捕された冤罪被害者のうちふたりは「私がやりました」と自白していることです。いったいどんな取り調べが行われたのか。そして、もし私が誤認逮捕されたとして、日夜責め続けられて、縄で逆さ吊りされるよりもつらいようなことばの拷問を受けたりしたら、早く楽になりたいという一心で、やってもいない犯行を認めてしまうのではないかと感じたことでした。
警察も、冤罪を主張する片山祐輔を拘束し続けることはできず、釈放。
2014年3月5日、片山が約1年ぶりに収容先の東京拘置所から保釈されました。保釈保証金は1千万。最初に前科がついたあと、親と姓を変えたけれど、父親は大会社のエライさんだったし、1千万円捻出に苦労はなかったのでしょう。
我が家は、息子に「何があろうと鼻血もでない家なんだから、お縄を頂戴するようなことだけはしてくれるな」と言い聞かせています。
そして、釈放後、警察は保釈中の容疑者の尾行を続けました。取調室で拷問を加えることは違法ですが、保釈金を払って正規に保釈した容疑者を尾行するというのも、捕縛術のひとつなのでしょう。たぶん。
尾行を続けた警官は、片山がケータイを埋めた時点でどうしてすぐに掘り出さなかったかというと、裁判中にメールが発信されるのを待っていたのでしょう。まあ、それくらいはやるでしょう、ケーサツ。
片山もそのまま冤罪被害者を演じていれば、警察も動けなかったでしょうに、わざわざ「真犯人」を名乗るメールを送りつけるアホなミスを犯しました。
2014年5月16日、片山被告の公判中、「真犯人は自分である」というメールが発信されました。片山は公判中で鉄壁のアリバイ。そんなメールを出せるはずはない。したがって片山は真犯人ではない、という筋書きでした。しかし、尾行中の捜査員は、片山がケータイを川原に埋める姿を目撃していました。ビンゴ!
自分の無実を強調したかったのかもしれませんが、愉快犯というのは、こんなところで墓穴を掘る。ちなみに、片山は、この手の犯罪で前科アリ。中高とも学習院出身のボッチャマしかも在学中はイジメを受けていたと母親の証言がある、というところが、劇場型犯罪にうってつけの犯人像です。でも、猫の首輪つけているところの映像では、いかにも2ちゃんねるの常連になりそうな小太り非モテ系だったので、こんな風貌だと、かえって違うんじゃないかと感じたのに。期待を裏切って、真犯人でした。
この埋められたケータイを掘り出して分析した結果、ケータイは片山の所有物。メールは15日のうちに予約発信されていたことが判明しました。片山は5月22日の公判罪状認否で「真犯人は自分です」と、認めました。完全なる物的証拠が出てしまい、もう言い逃れはできないと感じたのだそうです。埋めてしまえばケータイ見つからないと本気で思ったのだとしたら、なんだかカワイソーになってしまう頭脳のような気もします。
2年間世間を騒がしたネット時代の犯罪は、こうして「川原に埋めた証拠を掘り出す」という解決方法で終わりとなりました。逆にいうと、こういうアナログなミスがなければ、警察も裁判所も真犯人にたどり着けなかった。
片山発言「警察庁長官と検事総長が、テレビ画面でパンツ一丁で出てきたら、出頭しますよ」。長官、パンツ一丁にならずにすんでよかったこと。
新聞やテレビの報道だけでこの事件に接してきた者にとっては、おもしろい捕縛物語だったのですが、実際にこの事件によって「保護観察処分」を受けてしまった未成年の冤罪被害者(のちに取り消されたとはいえ)にとっては、一生の心の傷となったことでしょう。
これから先、第二の片山祐輔は増殖するのでしょう。日本の警察、世界でも優秀な人達と思いますが、対処していけるのでしょうか。現代の捕縛術、みがきをかけてください。
そして、私が信号無視して赤信号でわたっても、逮捕しないでください。私、信号無視以外に法律に違反したことないんですけれど、どうも冤罪被害者になった場合、逮捕されたらすぐに「へぇ、ぜ~んぶ私がやりました」と言ってしまいそうなヤワな人間でございます。
弟を信じて冤罪を晴らした袴田巖さんのお姉さま、えらいわぁ。信じてくれる人がいるってすばらしい。
私が誤認逮捕されたら?
テレビのなかでモザイクかけられた顔して「そうねぇ、なんかしでかしそうな人だとは思っていた」としゃべりそうな人たちばかり周囲にいるので、せいぜい逮捕されないように気をつけます。お縄はねぇ、警察からもその筋の趣味の方からも受けたくないですわん。
<つづく>
自分もクールなイケメンを想像してました。
だから、やっぱり彼だったのかとガッカリ。
保安員をやっていた経験から取り調べの補助のようなものも、それからワルガキだった過去ゆえ受けるほうもやったことがあるんですけれど、きつかったです。
完全に、決めつけですもん。
「こっちはいつまでも粘るよ」といわれたときは、「自分がやりました」と思わず嘘の自白をしそうになった。
自分があまりにも否定するものだから、ひとりの若い警官が第三者に問い合わせをして、自分ではないことが証明されました。
危なかった・・・。
でもね、そう証明されたことを自分に伝えないんですよ、彼らは。
「なんだよ、コイツのいっていること正しかったのかよ」という表情を見せるだけで「帰ってよし」といわれ、ひじょうに腹が立ちました。
ネット時代前夜だったから友人に話しただけでしたが、いまだったら、いっぱい書いて、また捕まっちゃったりしたのかもしれません~。
ついしん。
『ウルフ』と『グラビティ』二本立てなんて、ギンレイ豪華だわ!!
どっちもスクリーンで観る価値あり、、、ですもの。
まっき~さんの事件評とかぶらせてみました。私も、新犯人像は別の体型を思い浮かべていたので。
ギンレイ、このところ見たいものがなかったのですが、6月7月、通います。