20220724
ぽかぽか春庭シネマパラダイス>2022シネマ夏(7)ハウスオブグッチ
2021年公開の『ハウスオブグッチ』。2022年7月20日に飯田橋ギンレイで鑑賞。『最後の決闘裁判』と同年の公開を果たしたリドリー・スコット制作監督作品です。1937年生まれ。80歳を超えてこの勢い、次回公開の『ナポレオン』も制作中。
アダム・ドライバーは「最後の~」と「~グッチ」の両方に出演。両方ともよかったですが、期待以上だったのはレディ・ガガ。歌唱力が生きた「アリー」もよかったですが、欲望に満ちたパトリツィア・レッジアーニの役も見事でした。
サラ・ゲイ・フォーデンのノンフィクション『ザ・ハウス・オブ・グッチ』が原作 です。しかし、パトリツィアによる「離婚した夫マウリツィオ 暗殺」はイタリアのみならず世界中から注目された事件ですから、新聞記事や裁判記録などを集めて脚本を構成することもできたでしょう。
リドリースコットは、2000年には原作の映画化権を取得し、20年間企画を温めていたのです。さまざまな女優がパトリツィア候補としてリドリー監督の前に現れたでしょうが、アニーを見て、よしこれでいける、と思ったんじゃないかしら。
実際に起きた事件をもとにした映画ですけれど、この事件を知らない人には以下はネタバレの紹介です。
監督制作 リドリー・スコット
マウリツィオ・グッチ(グッチ家三代目):アダム・ドライバー
パトリツィア・レッジャーニ(上昇志向のつよい運送屋の娘):レディ・ガガ
ロドルフォ・グッチ(グッチ家2代目):ジェレミー・アイアンズ
ジュゼッピーナ・アウリエンマ(パトリツィアが頼る占い師、通称ピーナ):サルマ・ハエック
アルド・グッチ(ロドルフオの兄、ニューヨークに進出):アル・パチーノ
パオロ・グッチ(アルドの三男、才能ないのにデザイナー志望):ジャレッド・レト)
ドメニコ・デ・ソーレ(グッチ社顧問弁護士):ジャック・ヒューストン
パオラ・フランキ(マウリツィオの恋人):カミーユ・コッタン
映画では描かれていませんが、パトリツィアの出生や育ちには諸説あります。パトリツィアが自分で語ってマスコミに流布している話もあるでしょう。
知られている話では。
パトリツィアの実父はだれだかわからず、母のシルヴァーナは、シングルマザーとして貧困の中パトリツィアを育てました。
シルヴァ―ナがフェルナンド・レッジャーニの愛人となり、パトリツィアが12歳のとき正式に結婚。パトリツィアの人生も開けてきます。フェルナンドはトラックひとつから身を起こして運送会社経営者として成功した立志伝中の人物。パトリツィアを正式に養女として籍に入れます。
「中の上」にまで成り上がったレッジャーニの娘として、以後パトリツィアは有産階級のパーティなどにも出られるようになり、トップ階層への上昇志向を強めていきます。
映画は、パトリツィアが父の運送会社で働いている頃からはじまります。
あるパーティでまじめに法律を学ぶ学生と出会い、その男マウリツィオがグッチ2代目の息子とわかると、偶然を装って再会し、手練手管でマウリィツオと結婚。当初は結婚に大反対していたマウリツィオの父親も、パトリツィアが娘を出産するとようやくグッチ家の嫁として認めます。
実在のマウリツィオグッチとパトリツィア
父ロドルフォの死後、あとを継いだマウリツィオはだれの目にも経営の才はなく、デザイナーの才能は皆無のいとこのパオロは自分のデザインをごり押しする。グッチが傾くのは当然のなりゆき。
パトリツィアは、ロドルフォ家とアルド家の内紛を利用しながらグッチ家の支配を目指します。
マウリツィオは、本性を現したパトリツィアに辟易としてきて、彼女が自分と結婚したのは愛ではなく野心によってであったことに、ようやく気づきます。マウリツィオは、心の癒しとして自分と趣味も知性の方向も同じパオラ・フランキとの仲を深め、パトリツィアと離婚を決意。
離婚の条件として、娘の養育費と慰謝料分割に、年間数億ずつ支払う契約を結びます。
パトリツィアがマウリツィオ暗殺を決意した理由は、お金の問題じゃなかったと思います。娘と悠々暮らしていけるだけの財産分与は確定していたのですから、夫を殺しても金銭的な得はない。
ひとつには、夫のあとグッチ家を継ぐ資格を娘に与えたかった、もうひとつの動機は本気で「パオラに夫を取られたくない」。
占い師のピーナと暗殺を謀り、マフィアにマウリツィオを撃たせる計画。映画のマフィア殺し屋は、いかにも頭の悪そうな、完全犯罪できなさそうな男ふたり。はたして、実際の事件では「殺しの代金が予想より少なかったこと」でもめ、事件が発覚したというお粗末。
死刑のないイタリアで、実行犯のマフィアと共犯のピーナ&パトリツィアは、それぞれ25~29年の懲役刑を受けます。
実在のパトリツィアは、服役中に脳腫瘍の手術も受けた、ということなので、懲役刑といってもきつい労働はしなかったでしょうが、服役中に夫からの離婚契約の資産をため込んでいたため、模範囚として懲役18年に刑期が削減したのち社会に戻った彼女は、たちまち数百億円の資産を手に入れ、現在まで悠々と生活しています。
自分をモデルにして演じるレディガガが「挨拶にこなかった」と拗ねているとか。
レディガガは、上昇志向をむき出しにしてグッチ家乗っとりを謀る悪女を演じて「嫌悪感を感じさせない」という絶妙な役どころをとてもうまく演じていたと思います。離婚された彼女がマウリツィオに「愛している」と迫るところも、彼女が愛しているのは、資産家の息子であるマウリツィオであって、けっして彼の知性や音楽や絵画の趣味を含めてトータルのマウリツィオであるのではない、ということを自分ではわかっていなかったのだろうと感じさせました。
グッチ家にはじめて乗り込んだパトリツィアが、グッチ家の壁にかかるクリムトを見て「ピカソ?」とロドルフォに尋ねる顔。実際のレディガガの家にはピカソの絵もクリムトも壁にあるでしょう。レディガガはもともと「アメリカ金持ち階級」の出です。しかし、パトリツィアが「ピカソ?」と答える顔は、ほんとうにピカソとクリムトのちがいもわからない、無教養なしかしかわいい女の子でした。
このような実在の人物を描き、実際の事件を描くにはさまざまな困難があったことだろうと思います。今も「大ブランド」としてのグッチイメージを傷つけるような描写があったら、グッチの顧問弁護士は黙っていないだろうし、パトリツィアの娘ふたり(映画にはひとりしかでてこなかったけれど)もまだ実在しています。
リドリースコットの手腕、すごいな、と思います。
<おわり>
イースト爺でさえアタリハズレ繰り返しているのに、ここのところ成功作ばかりです。
次回作はナポレオンです。
また史劇物、金はかかるし時間もかかる。それでもスタジオがゴーサイン出すのはリドリーだからでしょうね。
キューブリックがやろうとして頓挫したナポレオンかな?と思ったら、別のシナリオのようで、そこはちょっと残念!とは思いました。A.I.のように、巨匠が果たせなかった夢を別の巨匠がつなぐ、、、という流れはロマンがありますので。
若い監督の作品がようわからなくなってきた73歳としては、彼らの活躍がうれしいです。
若手女性監督の作品、全然響かなくて、頭ひねったとこ。
若い感覚についていけなくなってきたんだな、きっと。グッチの併演だったエルプラネタ、さっぱり面白くなかった。
明日は、コーダ愛の歌をギンレイで。