
20250720
ぽかぽか春庭アート散歩>2025アート散歩美を受け継ぐ(2)極上の仮名 in 五島美術館
7月12日土曜日、五島美術館を観覧。
陶磁器と同じように書を見ても、上手下手もわからないHALなので、極上の仮名といわれても、まず、変体仮名が読めないし、下手な字なのか極上なのか、まったく見る目を持たない。いや、道長の御堂関白記の字があまりうまくないのはわかる。下手な字をいっさい上達させることなく、20数年間書きつづけたこと、すごい。
五島美術館はぐるっとパスで入館できるから「書はわからん」と思いながらも、出かけました。
五島美術館の口上
五島美術館(東京都世田谷区)で「平安書道研究会900回記念特別展 極上の仮名―王朝貴族の教養と美意識―」が6月24日から開催されます。
書家であり日本書跡の研究者であった飯島春敬しゅんけい(1906~96年)が、蒐集品をおさめた書芸文化院「春敬記念書道文庫」の平安時代に書かれた仮名の名品に五島美術館や国内に現存する稀少な遺品を加えた約100件を展観。平安時代の11世紀から12世紀に尊重された仮名の書風や料紙装飾に着目し、王朝貴族の美意識を紹介します。
書家であり日本書跡の研究者であった飯島春敬しゅんけい(1906~96年)が、蒐集品をおさめた書芸文化院「春敬記念書道文庫」の平安時代に書かれた仮名の名品に五島美術館や国内に現存する稀少な遺品を加えた約100件を展観。平安時代の11世紀から12世紀に尊重された仮名の書風や料紙装飾に着目し、王朝貴族の美意識を紹介します。
また春敬は日本書跡の淵源である中国書法にも目を向けました。本展にあわせて春敬旧蔵の日本書跡と中国文物コレクションから、明末清初の書跡の優品や近代の書家・上田桑鳩そうきゅう(1899~1968年)旧蔵の拓本類約20件を厳選して公開します
これまで平日には展示室に私のほかはもう一人か二人、という環境でみてきたため、久しぶりに週末の五島美術館に入って、土曜日の観覧者の数にびっくり。こんなに書を愛するファンがいたのか、と驚きました。玄関前の駐車スペースにも車がいっぱい。
若い学生風の団体がどっと展示室1にいる。大学の書道科専攻学生か、どこぞの書道サークルの集まりか。熱心にメモをとっている若者もいるので、もしかしたら夏休み前の期末レポート提出が課せられているのかも。展示室がすくまでしばらくロビーのビデオモニターを見る。毎回見ている「源氏物語絵巻」の解説ビデオ16分。
五島美術館随一のお宝。「源氏物語絵巻」
平安末期に10巻の絵巻として描かれたのち、江戸時代には3巻が尾張徳川家 に伝来、現在は徳川美術館が所蔵。一方、蜂須賀家に伝来した1巻は、明治以後民間に流出した末、五島慶太が入手。さすが金の力です。おかげで、何度か公開のおりに私もこのお宝を拝観できましたし、展示してない時期には、今回のようにビデオによる解説も楽しめます。ビデオの最後に、復元模写も紹介されます。現在は絵の具の剥落もありますが、描かれた当初はこのように色鮮やかだったろうという推測による復元です。
ビデオを見終わって第1展示室に入ってみましたが、やはり平日とは大違いの観覧者。しかたがないから、人がいないところいないところを縫って観覧。
重要文化財、重要美術品を含む、「〇〇切」という美しい仮名文字がずらりと並んでいるのですが、今回、親切なことに、ほとんどの作品の翻刻(活字で読めるようにしてある)がついていて、変体仮名と見比べて少しは読めました。書道を学んでいる人にとっては、垂涎のお宝でしょう。今回の展示は「平安書道研究会九百回記念特別展」と銘打たれており、書芸文化院と五島美術館所蔵が並んでいます。
第1室で一番華やかな「仮名」は、独立したガラスケースに収まっていた「石山切(伊勢集)1112(平安時代・天永三年)頃」 書芸文化院蔵

染紙を破り継いで一枚の紙に仕立てた継紙の紙面全体に銀泥で蝶・鳥・折枝等の下絵を施し、藤原公任が選んだ三十六人の歌人の歌。
大半の文字は読めないながら、文字の流れる連なりの美は、私にもわかります。書家について、「伝だれそれ」という解説プレートがほとんどで、ほんとうについている名前の人が書いたのかどうかは、研究者も確定はできないのかもしれませんが、伝紀貫之書とか伝藤原公任書などと書かれていると、昨年の大河で公任を演じた町田啓太。打球勝負のあと、貴公子たちが無駄に裸になって汗をぬぐうシーンなど思い出されて、ああ、公任さまと、うっとり書にも見入ってしまいます。
文字の鑑賞もうっとりすべきですが、私にとっては、これらの「〇〇切」が、平安後期以来、断簡となっても連綿と伝えられ、千年前の実在の人がこれらの仮名を書いたと思うと、その歴史の長さにうっとりしてしまうのです。
たとえば、西欧でも、カエサル自筆本とか、プラトン自筆本とか残っていません。ローマ教皇書簡などバチカンに残っていないものかと思いますが、サインの自筆はのこっているものの、自筆手紙などありません。発見したらオークションでプライスレスかも。(と、売ったらいくら?と考える下世話者)
世界最古の自筆日記は藤原道長の「御堂関白記」(ユネスコ記憶遺産)
貴族から武家へと政体が移っても、正倉院や近衛家が伝えた陽明文庫など、宝物や文書が保存されたことをありがたく思います。中国では王朝が変わるごとに多くの遺物が失われ、孔子の「論語」も、中国では古来の伝書は失われており、最も古い写本は日本に伝来しています。
女系だ男系だと昨今かまびすしいですが、ともあれ現在まで126代が続いてきたことは、さまざまな文化をタイムカプセルにして保存できたこと、世界にもまれなことと思います。
重要文化財 蓬莱切 伝 藤原行成筆 平安時代・11世紀 五島美術館蔵

翻刻活字が提出されているので、対照しながらもたどたどしくこの仮名を読むことができます。「 おほぞらにむれたるたづのさしながら おもふこ・ろのありげなるかな 」
このように美術品としても国宝級のうつくしい仮名の書。
東京国立博物館所蔵の書や五島美術館所蔵の書は、いつか見る機会があるかもしれませんが、書芸文化院所蔵や個人所蔵の品は、再び見ることができるかどうかわかりませんから、しっかり見なくちゃと思ったのですが、人も多かったし、翻刻と対照しながらでなければ読めないし、第2室は漢字の書だったし、漢字はさらっと見ておしまいにしました。
昨年の大河「光る君へ」の中、残された御堂関白記を見ても、道長の字は達筆ではありません。しかし、行成と公任の字、「伝」という文字がついていますが、とても美しい文字です。三の丸尚蔵館が所蔵している、公任が選び行成が書いた「和漢朗詠集」が国宝に選定されました。
今回、五島美術館の誇る国宝「源氏物語絵巻」の詞書部分、レプリカでもいいから展示してほしかったけれど、これはまたの機会に。
<つづく>
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