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納戸の奥に眠っている箱を久しぶりに出してみると…
買い集めていた45年前の週刊ベースボールを読み返しています

# 402 私説・長嶋巨人軍 ⑤

2015年11月25日 | 1983 年 


巨人はドラフト会議をボイコットしただけでなくドラフト会議そのものを「無効」であるとして提訴し反撃が始まる。今回はボイコットから金子コミッショナーの所謂 " 強い要望 " が出るまでの1ヶ月を巨人及び讀賣グループの動きを内側から振り返る。



S53.11.21 … 巨人が江川と契約したと発表。鈴木セ・リーグ会長が選手登録申請を却下すると巨人は翌日のドラフト会議ボイコットを表明
    11.22 … ドラフト会議当日午前中にセ・リーグ連盟が江川との契約を却下した事に対し巨人が異議申立書を提出
         南海・ロッテ・近鉄・阪神の4球団が江川を1位指名入札し抽選の結果、阪神が交渉権を獲得
         会議終了後に巨人がドラフト会議無効の提訴状提出
   11.23 … 巨人はドラフト会議で指名されなかった鹿取投手(明大)らをドラフト外で獲得へ
         後楽園球場ではファン感謝デーが開催。入場者は4万7千人余り
   11.24 … セ・リーグのオーナー懇談会終了後に松園(ヤクルト)、中部(大洋)、松田(広島)オーナーが正力オーナーを訪ねる
   11.25 … 金子コミッショナー、鈴木セ・リーグ会長、工藤パ・リーグ会長が会談
   11.26 … 熱海で巨人軍納会
   11.28 … 江川の契約却下に反論する書類を提出。江川が栃木県小山市の自宅付近でトレーニング開始
   11.29 … 巨人がホテルニューオータニに報道関係者を招き1年間の慰労会を開く
   11.30 … 工藤パ・リーグ会長が大阪で南海、阪急、近鉄の首脳と会談
   12. 1 … 江川が日本テレビ「野球教室」のインタビュー収録。巨人がドラフト会議無効に関する書類を提出
   12. 2 … 金子コミッショナー、鈴木セ・リーグ会長、工藤パ・リーグ会長が会談
   12. 3 … 熱海後楽園で巨人OB会。日本テレビ「野球教室」にて江川のインタビュー放映
   12. 4 … パ・リーグ理事会開催。NHKの「NC9」に江川が生出演しインタビューを受ける
   12. 5 … 東京グランドホテルで開催されたセ・リーグオーナー会議に正力オーナーが出席しドラフト廃止論を提唱
         讀賣新聞紙上で星野運動部長の署名入りの「今日の断面」を掲載
   12. 6 … 5日付け「今日の断面」を関係各位3千箇所に郵送
   12. 7 … セ・リーグ理事会開催
   12. 9 … パ・リーグ理事会及びパリーグオーナー懇談会開催
   12.11 … 江川がフジテレビ「ニュースレポート6:30」のインタビュー収録
   12.12 … 金子コミッショナーが大阪で阪神・田中オーナーと会談
   12.13 … 長谷川代表をコミッショナー事務局に呼び出し事情聴取
   12.14 … 江川がフジテレビ「3時のあなた」に出演しインタビューを受ける。金子コミッショナーと工藤パ・リーグ会長が会談
   12.15 … セ・リーグ理事会開催
   12.21 … 金子コミッショナーが「江川との契約を認めなかったセ・リーグの決定は正しい」 「ドラフト会議は有効」と裁定を下す
   12.22 … コミッショナー事務局が緊急実行委員会を開催し金子コミッショナーが「強い要望」を表明




ドラフト会議ボイコットからコミッショナー裁定が下される1ヶ月間、巨人及び讀賣グループの動きを内部から見ていくと・・・11月20日を契機に江川盗りへの徹底抗戦の軌道を我武者羅に突っ走るしかなかった。讀賣新聞社内での会議は連日行われ巨人がとった行動を正当化する為に次々と異議申し立てや提訴を行なった。また新聞やテレビを使ってドラフト制度の非を鳴らし巨人の合法性を訴えた。11月22日、ドラフト会議を欠席した午前中に「江川との契約却下」に対する異議申立書を長谷川代表が提出、午後には「巨人の欠席により構成要件が欠けているドラフト会議の効力は発生せず会議そのものが無効である」として提訴した。

同じ頃、讀賣新聞社の編集・販売・広告・出版の各部門の責任者が集まり情勢分析が行われた。販売部数の落ち込みが当初の予想より少ない4~5万部に留まった事に力を得て系列の報知新聞と共にドラフト制度批判や巨人がとった行動の正当性を紙面上で展開した。讀賣新聞一面のコラム「編集手帳」にドラフト制度がもたらす悲劇を載せたり、極めつけが12月5日付け朝刊の「今日の断面」に星野敦志運動部長の署名入りで480行に及ぶ『江川問題これが本質だ』の大論文を掲載した。「巨人はあくまでも正当であり巨人や江川への批判・暴言は巨人を悪者にしようとする意図的なモノだ」とする擁護論を繰り広げた。

また読売出版局発行の「週刊読売・12月10日号」に " 正力オーナーに聞く " と 江川の手記 " ボクはあくまで巨人で戦いたい " を掲載した。更に活字媒体だけに留まらずテレビにも進出した。江川の実際の姿や話を一人でも多くの人に聞いてもらいマスコミによって作られた虚像を打ち消そうとした。先ずは同じ讀賣グループの日本テレビ「野球教室」に出演し世間の反応を見た後に、より公共性の高いNHKのニュース番組「NC9」にてインタビューに答えた。その後も主婦向けのフジテレビ「3時のあなた」や夕方の「ニュースレポート6:30」など様々な番組に出演した。

外部への対策を立てる一方で讀賣内での意思統一を図る必要もあった。巨人は納会や家族親睦会を開催した際には正力オーナーが直々に「巨人軍がとった行動は正しい」と強調し続け、OB会では長谷川代表が「どうか巨人軍を助けて欲しい」と訴えた。また讀賣新聞に掲載された「今日の断面」を讀賣関係者は勿論、巨人軍後援会である「無名会」の主要メンバーの野村証券・波川美能留会長をはじめとした財界大御所十二名、「フェニックス会」の東洋曹建工業・森嶋東三社長ら中堅クラス十九名、「ホームランクラブ」のパイオニア・松本誠也社長ら若手財界人など合わせて3千余人にも郵送した。

もっとも受け取った財界人の反応は様々で批判的な声も多く週刊誌の格好のエサとなったりもした。巨人軍の果てしなき抵抗は続けられ矢面に立つ長谷川代表のゲッソリと痩せこけた顔は今でもハッキリ憶えている。しかし12月21日に巨人と江川が交わした契約を無効とした鈴木セ・リーグ会長の判断は正しく、無効を訴えていたドラフト会議も有効であるとし巨人軍の主張を全面的に却下したコミッショナー裁定により巨人軍は撤退するしかなかった。が、翌日の所謂、「阪神は江川と契約した後に江川を巨人へトレードすべし」との金子コミッショナーによる「強い要望」によって巨人軍は一夜にして地獄から天国へ駆け上がる事となり1ヶ月に及ぶ激動の幕は降ろされた。





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