面白き 事も無き世を 面白く
住みなすものは 心なりけり

サントリー

2010年02月12日 | ニュースから
キリンとサントリー、経営統合交渉が決裂(読売新聞) - goo ニュース


サントリーが上場していなかったことを、恥ずかしながら今回初めて知った。
あの規模で同族会社というのは、ある意味すごいように思う。
今回の統合決裂は、キリンとサントリーのそれぞれが持つ企業文化に、あまりにも違いが大きかったからだろう。
株式を上場するかどうかは、各社の方針によるものであり、経営戦略の問題であるので、良い悪いは言えない。

それはともかくとして、このニュースについてのテレビ報道で、サントリーの現社長の姿を見るのだが、この規模にまで大きくなった同族会社のトップとしては、いささか器が小さく見えてしまうのが気にかかって…
(大きなお世話であるが)

「おとうと」

2010年02月12日 | 映画
早くに夫を亡くした吟子(吉永小百合)は、女手一つで小さな薬局を切り盛りしながら娘の小春(蒼井優)を育て、義母の絹代(加藤治子)と3人で暮らしていた。
一人娘の小春は、エリート医師との結婚を決め、一家はまさに幸せの絶頂だった。
そして結婚式当日。
和やかに始まった披露宴だったが、突然雲行きが怪しくなる。
吟子の夫の13回忌で、酒を飲んで大暴れしたのを最後に音信不通になっていた吟子の弟・鉄郎(笑福亭鶴瓶)が、紋付き袴姿で式場に現れたのだ…

優秀な兄、姉と、どうしようもない「ごんたくれ」で鼻つまみ者の弟。
姪の結婚式でさえメチャクチャにしてしまった鉄郎に対して、兄は絶縁を宣言するが吟子はどうしても見捨てられない。
それは、幼い頃から鉄郎の面倒を見てきたこともあるが、亡くなった夫の一言も大きく影響していた。
「弟さんは、優秀な兄と姉の踏み台にされてきたんじゃないか。」
上の二人が優秀だった分、デキの悪い弟は誰からも誉められることなく、いつも疎外されてきたんじゃないだろうか。
だからこそ、娘の名付け親として花を持たせてやりたいという夫の言葉に、吟子は弟を慈しむ気持ちを更に強めていったのだ。
血のつながりという、決して切れるものではない“縁”で親子・兄弟姉妹は繋がっている。
その「どうしようもない縁」の大切さについて、客観的に温かい言葉でヒントを与えるセリフが秀逸。
まさに山田洋次作品の真骨頂だ。

エリート医師と結婚した小春は、しばらくすると実家に戻ってきてしまう。
何とかよりを戻してほしい吟子は、小春に内緒で義理の息子に会いに行く。
仕事は忙しいのだろうが、二人で話をする時間を持つように諭す彼女に、何を話せばいいのか分からないと小春の夫は言い放つ。
「言いたいことがあるなら、それを箇条書きにしてくれれば、それに回答しますよ!」
何気ない会話でさえ交わせない、典型的なコミュニケーション不全の姿を通して、いまどきの家族が抱える問題点をさりげなく活写する。
「イイとこのおウチ」に育ったお坊ちゃまの人間味の薄さと対照的に、貧しいながらも豊かなコミュニケーションが溢れる下町の人々の温かさ。
傷ついて帰ってきた小春は、そんな人々に見守られながら癒されていく…。
山田洋次作品の温かさは人間社会の原点に根ざしていて、それは本作にも余すところなく描かれている。
だから最後まで心地よく観られるのだろう。

また今回は、終末医療の現状にも一石を投じている。
長らく行方不明となっていた鉄郎が見つかったのは、大阪のドヤ街にある民間のホスピス。
身寄りもなく、まともな医療も受けられないまま死期が迫った人々を受け入れ、見守る施設の様子が描かれるが、そんな慈悲に溢れた仏様が運営するような施設が本当にあると知って驚いた。
東京の台東区に実在する民間ホスピスをモデルにしたとのことだが、ホームレスも増え続ける昨今、このような施設の需要は高いだろう。
そうなれば公費で充実を!と、なりそうな気がするが、このような施設は民間の志を持った人々による運営でなければ成り立たないのではないか。
「給料もろてるから、やってる」という意識では、とてもその施設が持つ目的は達せられない。
素晴らしい事実に感動しながらも、そんな篤志家が果たして日本にどれほどいるのかと考えたとき、暗澹たる気持ちにもなる。
(そない言うんやったらお前がやれ!というご意見はまた別の問題…)

約10年ぶりになるという山田洋次監督の現代劇は、2008年に逝去した市川崑監督の『おとうと』に対するオマージュでもある。
今回もまた、「家族の絆」をメインテーマに昨今の社会的諸問題もピックアップされていて、いろんな角度から観客の心の琴線に触れていく秀作。


おとうと
2010年/日本  監督・脚本:山田洋次
脚本:平松恵美子
出演:吉永小百合、笑福亭鶴瓶、蒼井優、加瀬亮、小林稔侍