功夫電影専科

功夫映画や海外のマーシャルアーツ映画などの感想を徒然と… (当blogはリンクフリーです)

「カンフー映画大全集」徹底検証

2009-11-29 22:05:08 | Weblog
 今年からはレビューや特集の一辺倒とならないよう、コラムや小話なども順次紹介していくぞ…と予定していましたので、今回はとある一冊の本に関しての検証記事をお送りします。

 この『カンフー映画大全集』は、2005年の『カンフーハッスル』公開に合わせて近代映画社から発売されたムック本の1つである。内容は『カンフーハッスル』の紹介から始まって、周星馳(チャウ・シンチー)のインタビューとその経歴、倉田保昭・谷垣健治・江戸木純・宇田川幸洋らのコラムやインタビュー、そして2005年までに日本で公開された功夫映画の全リスト、功夫スターの一覧&未公開功夫映画のリストなどで構成されている。
 インタビューはとても内容が充実しており、もちろん『カンフーハッスル』についての記事も完備。江戸木氏のコラムでは『クローン人間ブルース・リー/怒りのスリードラゴン』が発売された経緯や、羅鋭(アレクサンダー・ルー)や甄子丹(ドニー・イェン)の日本上陸にまつわる話など、読み応えのある構成となっている。このボリュームで前述した功夫映画の全リストが完璧であったのなら、本著はまさに21世紀の『ドラゴン大全科』や『香港電影百科』になれたはずだったのだが…。

 かつて『ドラゴン大全科』『香港電影百科』等の本には、少なからず誤記や誤植が存在した。しかし得られる情報が限られていた当時の事情を考慮すると、仕方が無いと言わざるを得ない部分もある。現在は技術の進歩によって、昔よりも格段に情報を得ることが容易となった。様々なデータが簡単に入手できるようになった今の時代なら、より内容の充実した功夫映画の書籍が作られるはずだったのだ。
…だが、この本に見られる誤記や記事の偏りは、いくらなんでも不味いのではないだろうか?

 特に、妙な部分が最も多かった功夫映画の全リストから検証していこう。このリストは最初に「『燃えよドラゴン』から『カンフーハッスル』までの功夫映画を全て紹介する」という旨の文が記されており、それは本著のタイトルにもなっている。しかし実際にご覧になった人なら、このリストに多くのジャッキー作品が抜けている事に気付いている筈だ。
一般的にジャッキー作品といえば、日本にとっては功夫映画の代名詞といえる存在だ。なのに、リストに掲載されているジャッキー作品は『醒拳』からいきなり『酔拳2』にまで飛んでおり、その間に日本で公開された『ポリス・ストーリー』や『プロジェクトA』などの傑作が除かれ、『ラッシュ・アワー』等の近作さえも書かれていない。
いや、それどころか李連杰(ジェット・リー)の出演作である『キス・オブ・ザ・ドラゴン』なども表記が無いし、サモハン映画の代表作である福星シリーズも無く、『香港電影百科』には記載されていた『英雄傍』や『赤手空拳』までもが消えている。全リストと名乗っているわりには、やけに抜けが多い気がするのだが…。

 ここはひとつ、好意的な説を立ててみよう。
このリストはあくまで日本で公開された「カンフー映画」をまとめたものだ。そうすると香港映画ではない『ラッシュ・アワー』や『キス・オブ・ザ・ドラゴン』は除外されるべきだし、『ポリス・ストーリー』や福星シリーズは動作片(現代劇)なので、除外しても問題が無い、と考えられる。
だがこの説は真っ向から否定される事になる。なにしろ、李小龍の『燃えよドラゴン』『ドラゴンへの道』『死亡遊戯』『死亡の塔』は現代劇。同じくリストに掲載されている『無敵のゴッドファーザー』『激突!ドラゴン/稲妻の対決』『天山回廊』もみんな現代劇だ。それに、現代劇だからリストに不掲載だったとするなら、功夫片である『英雄傍』『赤手空拳』未掲載の理由にはならないはずである。

 ちなみに、上記でもチラッと触れた羅鋭のニンジャ映画は、この項においては一切が無視されているが、ニンジャ映画自体は幾つか掲載されている(『龍の忍者』『ULTIMATE BATTLE/忍者VS少林寺』等)。これらを記載していいのなら、羅鋭作品も掲載すべきではないだろうか?。更に、この項にはキョンシー映画に関する記述がない。キョンシー映画は功夫映画とは毛色が違うし、載せていないこと自体には納得ができる。しかし、劉家輝(ゴードン・リュウ)のキョンシー・エクスプロイテーション・ムービーである『少林寺VS霊幻道士』が、未公開作の欄で堂々と掲載されているのだ。

 かつて『香港電影百科』では、功夫映画ではない『Mr.Boo』や『蛇姦』などが紹介されていたが、本のタイトルが『香港電影百科』である以上はこういった作品も取り上げて然るべきだった。だが、この本ははっきりと「カンフー映画大全集」というタイトルが銘打たれている。『ポリス・ストーリー』も羅鋭作品もキョンシー映画も純粋な功夫映画ではないのかも知れないし、ページの枚数や版権の都合などで載せられなかった物もあるのだろう。
だが、こうも定義が曖昧な状態で「全リスト」と断言するのは、いささか無理があるのではないだろうか。

 全リストの定義だけでもこんなに曖昧なのだから、当然他の部分も穴が多い。『ガッツフィスト魔宮拳』の項では李海生(リー・ハイサン)と羅烈(ロー・リェ)を間違えるという信じられないミスがあり、一部の記事では某サイトからの画像無断転載(ひと目見れば一目瞭然)も確認できた。スター一覧でも孟海(マン・ホイ)の項で『愛と欲望の街/上海セレナーデ』を『愛と欲望の街』『上海セレナーデ』という2つの作品として扱っていたりと、トンチキな誤記が目白押しなのだ。

 「劇場未公開カンフー映画 ビデオ化作品紹介」の項では、劇場公開されたのにもかかわらず、こちらのコーナーへ入ってしまった作品も多々ある。いくつかは映画祭のみの上映であったりするが、このへんの記述も徹底して欲しかったところである。このリストに掲載されてしまった、劇場未公開ではない作品は以下の通りだ。
 『アンディ・ラウの神鳥聖剣』
 『アンディ・ラウの神鳥伝説』
 『サンダーボルト/如来神掌』
 『ラスト・ヒーロー・イン・チャイナ/烈火風雲』
 『レジェンド・オブ・フラッシュ・ファイター/格闘飛龍』
 『レジェンド・オブ・フラッシュ・ファイター/電光飛龍』
 『カンフー・カルト・マスター/魔教教主』
 『キラーウルフ/白髪魔女伝』
 『続・少林寺三十六房』
 『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ外伝 アイアン・モンキー』
また、あくまでこの項はDVDやビデオのみ発売された「カンフー映画」のリストだが、紹介されている物の中に思いっきり電視劇(『少年黄飛鴻』『新・少林寺』等)が紛れ込んでいる。ページの欄外には「劇場未公開カンフー映画~」と表記されているのに、作品紹介の部分に「テレビシリーズである」と書かれてしまうという、珍妙な現象が起こっているのだ。

 タイトルや写真の間違いなどは百歩譲って仕方ないとしても、李海生と羅烈を間違えるのは迂闊を通り越している。江戸木氏や宇田川氏が関わっているのならこのような数々の凡ミスも無かったと思うのだが、記事やインタビューを寄稿しただけだけなのだろうか?インタビュー等はツボを押さえた内容でそれなりに良かっただけあって、マイナス部分が大きすぎる点がとても惜しい。これで値段が一冊二千円とは、ちょっと高い買い物だった気がしました(当時リアルタイムで買った者の言葉)。

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6 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
「カンフー映画 落第全集」 (白扇仔)
2009-12-03 22:21:46
龍争こ門様こんばんわ
もしかしてスクリーン増刊のカンフー映画関連本を買う(or見た)のは初めてですか?
以前にも「クンフー映画大全集」(昭和58年)という本を出してまして、これの場合 定価は880円だし、中学生以下向けかのような作り(表紙からわかる)だったんでまだいいのですが、「カンフー映画大全集」の方は、李小龍世代向けっぽい外見(&定価)のわりには、あんなスカッスカな内容なんで、そりゃあ腹も立つってもんですわな。あと、あの値段の高さは紙質(が良い)のせいもあると思います。
昔から、この会社はジャッキーの作品などが公開される度A4サイズのタイアップ本を作って来たのは御存じかもしれませんが、「決定版 クンフー・スター大集合」という本は、MA映画&スターをかなり紹介しており、当時(昭和59年)としては画期的な本だったと思います。他にも倉田氏がいろんな作品のアクション・シーンを解説するコーナーがあったりで、なかなか面白い本です(詳しく知りたい場合はメールください)。定価は880円で 納得の値段でしたが僕は古本で280円で入手しました。

ところで、龍争こ門様はアマゾンは利用しないんですか? 以前書いた「香港アクション風雲録」は600円程度から、「101匹ドラゴン」は523円から出品されてるのに・・・ と前回のレスを読んで思ったもんで。

それと、更新履歴に書いてある今月紹介するTVとゆーのは、
滑走路を横一列になって歩く迷惑集団のドラマですよね。楽しみにしています。
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カンフー映画大全集 (醒龍)
2009-12-05 22:03:51
龍争こ門さん、こんばんは。
ビデオ化作品紹介に劇場未公開ではない作品が何本もあったなんて信じられませんよね。例えば『レジェンドオブ~電光飛龍』なんて劇場で見ましたのであれれ?なんて思ったものでした。
ちなみに『ワンスアポンアタイムインチャイナ外伝アイアンモンキー』とか『続・少林寺三十六房』などはどちらで公開情報を得られるものでしょうか?
(妙なツッコミですみません。。)
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返信!(1) (龍争こ門)
2009-12-06 00:08:01
白扇仔さんこんばんは!

>もしかしてスクリーン増刊のカンフー映画関連本を買う(or見た)のは初めてですか?
今のところはこれが唯一です。スクリーン誌は個人的にあまり馴染みがないので、特にこれといった物は買っていません(というか、カンフー関連の書籍はこの本と出会うまで存在自体知りませんでした)。
「決定版 クンフー・スター大集合」というのも初耳ですが、マーシャルアーツ映画が書籍にまとめられて紹介されていたというのは興味深いです。

>ところで、龍争こ門様はアマゾンは利用しないんですか?
アマゾンは使い方がよく解らないので、ちょっと敬遠しています。海外のDVDも購入できるようですが、注文の仕方や値段が解りにくいため、イエスアジアなどを利用する事の方が多いですね。

>滑走路を横一列になって歩く迷惑集団のドラマですよね。
正解!ちなみに当方は普段から『Gメン』を見ている根っからのファン…ではないので、文の内容は功夫映画方面に傾いていくかと思います(苦笑
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返信!(2) (龍争こ門)
2009-12-06 00:24:35
醒龍さんこんばんは!

>ビデオ化作品紹介に劇場未公開ではない作品が何本もあったなんて信じられませんよね。
本当にもう少しちゃんと調べてから書いて欲しかったですね。他の未ビデオ化作品として紹介されたタイトルの中にも、私が知らないだけで実際は劇場公開された作品が、もしかしたら含まれているのかも知れません。

『ワンスアポンアタイムインチャイナ外伝アイアンモンキー』は下記のサイトにて劇場未公開でないと知りました。
http://www.allcinema.net/prog/show_c.php?num_c=28491
もっとも、他のサイトでは一様に「未公開作品である」とされているので、もしかしたら私の情報が間違っているのかも知れません(汗
『続・少林寺三十六房』は『少林寺拳道』というタイトルでTV放映されたと言われていますが、実際は一部の劇場でも公開されていたそうです。

今回のコラムでは色々と情報を集めるのに苦心しましたが、当方はまだまだ勉強不足な点も多々ありますので(恥)、おかしいと思った箇所があれば遠慮無くご指摘下さい。
返信する
どうもお疲れ樣でした (醒龍)
2009-12-07 01:34:45
教えていただいてありがとうございます。参考になりました。

ネットで検索可能な情報があれば個人でも簡単に調べられますね。
「ワンチャイ~」はwikipediaやこちらには公開日も載っています。
http://movie.walkerplus.com/mv29622/

>『続・少林寺三十六房』
数名の方から直接聞いていますので劇場公開は間違いないところなのですが
実際に活字としての資料などがあれば是非見てみたかったので
もしかして龍争こ門さんがご存知かと思ったので質問してみました。
個人的にいろいろ手間ひまかけて探していますが現在までに残念ながら発見できていませんね。
(発見できたら何かの形で表に出したいと思います)

そういえば数年前からallなんたらのサイトでは「少林寺拳道<未>」と「続・少林寺三十六房<未>」としてそれぞれが別の映画として扱われていますが現在もまったく変化はありません。(どーなっているんでしょうね?)

これからも期待しております。

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返信! (龍争こ門)
2009-12-08 23:57:53
醒龍さんこんばんは!

>「ワンチャイ~」はwikipediaやこちらには公開日も載っています。
おお、情報が載っていましたか。とりあえず劇場公開されたことだけは確実なようですね。
追加情報ありがとうございました!

>もしかして龍争こ門さんがご存知かと思ったので質問してみました。
私は後発のファンなので、活字情報は全く持ち合わせがありません(当方、今年で22歳になりました)。
そもそも私の住んでいる場所がド田舎なので、最寄りの映画館で上映される作品も極端に少なく、ここ数年の香港映画で劇場公開された作品が『少林サッカー』のみという有様。そんな訳で、映画の視聴は国内作品でもネット頼みという現状なのです。
私も『少林寺拳道』の情報は大いに興味がありますので、形ある発見を切に願っています。

>「少林寺拳道」と「続・少林寺三十六房」としてそれぞれが別の映画として扱われていますが
allcinema.netは私もよく利用していますが、表記に関しては曖昧な部分が多いです。役者名に関しても統一されていない部分が多く、傅聲の名前も「アレクサンダー・フーシェン」「アレクサンダー・フー・シェン」「フー・シェン」と、作品によって違っています。
また、一部の作品でスタッフ情報が間違っている部分もあり、『新・キョンシーズ』の項では監督が李作楠になってたりしています(正しくは張建佶)。

>これからも期待しております。
どうもです!
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