横浜ボートシアターは、前に見た『さらばアメリカ』がひどかったので、製作の斎藤朋君に勧められても、やや危惧をいだいていた。
だが、完全な傑作だった。
中勘助の原作と聞き、平気なのと思ったが、実に近年まれに見る優れた作品だった。
一緒に見に行った小林君は、中勘助をシュールレアリストと言ったが、むしろ性的アナーキスト、監督で言えば西村昭吾郎のような人だと思った。
話は、11世紀の北インドだそうだが、日活ロマンポルノにできるような筋だった。
ただ、人間が犬になるので、俳優では無理で、アニメにすべきものかもしれないが。
ある苦行僧ががいる庵に若い女が通る。
女は、悩みを抱えていて、そして告白する。異教徒の軍隊が攻めて来たとき、ある軍人に捕まり、性交させられた。
僧は言う、7日間シヴァ神のところに通えば、悩みは消えると。
だが、僧は、女を犯した若い軍人に強い嫉妬を持ち、女を姦淫しようとするが、女はなかなかものにならない。
その中で、二人は犬になってしまうが、そこでも愛欲関係になる。
ここまでは、演者は男と女の仮面を保持していて、顔を出して演技している。
ボートシアターの最大の弱点である、役者が自分の顔を出せないことが辞められているのは、実に賢明なことであった。
世の中で、役者は自分の顔を他人に曝したい生き者であり、それを仮面で封じていたので、役者は劇団に定着しなかったのだ。
また、上下に語り手がいて、その話で進行するので、全体は文楽の語りと人形遣いのようになっていた。
犬になった二人の様々なドラマが進行するが、最後まで女は、自分を犯した若い軍人が忘れらないいまま。
最後、大地が裂けて、二人はその中に落ちて死ぬ。
大正11年に発表されて、発禁になったのも当然だろう。
横浜ボートシアターの今後に大いに期待したい。
新横浜スペースオルタ