指田文夫の「さすらい日乗」

さすらいはアントニオーニの映画『さすらい』で、日乗は永井荷風の『断腸亭日乗』です 日本でただ一人の大衆文化評論家です

『犬』

2022年11月07日 | 演劇

横浜ボートシアターは、前に見た『さらばアメリカ』がひどかったので、製作の斎藤朋君に勧められても、やや危惧をいだいていた。

だが、完全な傑作だった。

中勘助の原作と聞き、平気なのと思ったが、実に近年まれに見る優れた作品だった。

 

                 

一緒に見に行った小林君は、中勘助をシュールレアリストと言ったが、むしろ性的アナーキスト、監督で言えば西村昭吾郎のような人だと思った。

話は、11世紀の北インドだそうだが、日活ロマンポルノにできるような筋だった。

ただ、人間が犬になるので、俳優では無理で、アニメにすべきものかもしれないが。

ある苦行僧ががいる庵に若い女が通る。

女は、悩みを抱えていて、そして告白する。異教徒の軍隊が攻めて来たとき、ある軍人に捕まり、性交させられた。

僧は言う、7日間シヴァ神のところに通えば、悩みは消えると。

だが、僧は、女を犯した若い軍人に強い嫉妬を持ち、女を姦淫しようとするが、女はなかなかものにならない。

その中で、二人は犬になってしまうが、そこでも愛欲関係になる。

ここまでは、演者は男と女の仮面を保持していて、顔を出して演技している。

ボートシアターの最大の弱点である、役者が自分の顔を出せないことが辞められているのは、実に賢明なことであった。

世の中で、役者は自分の顔を他人に曝したい生き者であり、それを仮面で封じていたので、役者は劇団に定着しなかったのだ。

また、上下に語り手がいて、その話で進行するので、全体は文楽の語りと人形遣いのようになっていた。

犬になった二人の様々なドラマが進行するが、最後まで女は、自分を犯した若い軍人が忘れらないいまま。

最後、大地が裂けて、二人はその中に落ちて死ぬ。

大正11年に発表されて、発禁になったのも当然だろう。

横浜ボートシアターの今後に大いに期待したい。

新横浜スペースオルタ