市川崑は、「映画は、脚本と出演者がきちんと決まれば、80%は終わったものだ」と言っているが、画面に異常に凝る市川崑の言葉なので非常に意味が深い。
久しぶりに良い脚本でベストの配役の映画を見た。監督吉田大八
地方の小都市・魚深市は、市長の決断で、仮釈放の受刑者を受け入れることにした。
魚深とは、言うまでもなく魚津市で、息子を殺した犯人を捜す深水三省が駅に行くところで私は分かった。
駅の窓口の案内板に、「地鉄」とあったからだ。
ここは去年、南砺市で行われた「スキヤキ・ミィーツ・ザ・ワールド」の帰り、富山駅から富山地方鉄道で、魚津に来て、駅前のスナックでカレーを食べた。地元の叔父さんばかりが黙ってテレビを見ている店で、
「こいつは何者だ」という視線を浴びながら普通のカレーを食べ、次は在来線で、直江津、長野、松本を経て、八王子から横浜に戻ってきた。
市役所職員の錦戸亮は、仮釈放者らを空港、新幹線駅、在来線の駅で出迎え、それぞれをクリーニング屋、床屋、宅配便業者、介護施設などに送り込む。実は、彼らは全員死刑囚であることが次第にわかってくる。ここで10年間無事勤めれば刑期を終了させるというのだ。
こんな仕組みはないだろうが、仮定なので、それは良い。
この辺の筋売りのシーンは、展開が早く無駄な思いれがなくて、テンポよく進むのが快い。
そこで、「のろろ」祭りが行われ、その事前の宴会で、受刑者たちが本性を現して格闘になるところからドラマが始まる。
のろろ、とは魚の頭の神様で、豊漁を祈り、悪事が起きた時は、除去してくれるとの言い伝えがある。
宅配便に勤めた松田龍平が、ロック・バンドでギターを教えたことから錦戸の元恋人であった木村文乃と親密になる。
彼は、少年の時からの殺人者で、無慈悲に人を殺せる人間なのだ。彼は、漁師になったが、退屈な生活に飽きていて、「何か大ごとをやろうじゃないか」と持ち掛けた北村一輝を逆に車で曳き殺す。
そして、のろろが見下ろす断崖に、松田は錦戸を連れていき、言い伝えの
「二人の人間が飛び込み、一人は生き、もう一人は死んだをやってみよう」と二人で海に飛び込む。
すると松田はすぐに浮き上がり、錦戸は見えてこない。
その時、のろろが突然落ちて来て、松田に当たって海に沈めてしまい、錦戸は浮き上がる。
最後、のろろがクレーンで引き上げられるのを見る元受刑者たちは、それぞれの場で受け入れられていた。
役者では、クリーニング屋で、異常な思い入れで作業をしてしまう田中泯が最高である。
この人は、私や中村とうようさん、そして4年前に亡くなった田村光男がやっていた「ウォーマッド横浜」と同時に、田中泯は山梨県白州に住み、1990年代から白州フェステイバルをやっている。
私が見に行ったのは、1993と1994年だったと思う。その後、浅草の常盤座の閉座イベントの時、田中さんも出て踊られて、終了後近くの居酒屋で一緒に飲んだこともあるのだが。
その後、山田洋治の映画『たそがれ清兵衛』で一躍有名になったのは、ご存知のことだろう。
黄金町シネマベティ
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