BSフジで放映されていた『夫婦旅日記・さらば浪人』が終わった。
これは、大映倒産後の1976年にフジテレビと勝プロダクションで製作されたシリーズで、1回づつの読み切り作品だった。原作は、山本周五郎で、映画では松竹で『道場破り』として、さらに黒澤明脚本・小泉竣史監督の『雨あがる』でも作られている。
25本のシリーズの最初は、森一生監督の「雨あがる」で、最後も森で「ふるさとの空ふたたび」だった。
話は、故あって越後高田藩を離れて浪人になった三沢伊兵衛(藤田まこと)と妻たよ(中村玉緒)が、旅の地で遭遇するもので、人情劇である。
この二人で、興味深いのは、伊兵衛が妻に対して、普通の言葉で、むしろ敬語を使って会話していることで、伊兵衛の人間性がよくわかる。
つまり、非常にやさしい人なのだが、実は大変な剣客となっている。これは、藤田まことに大変によく合っている。
最後の「ふるさとの空ふたたび」は、伊兵衛のところに、かつての同僚の米倉斉加年から、藩の師範が急死して、三沢を後任に推挙したところ「藩主の許可を得たので、帰郷せよ」との手紙が着く。
高田への途中で、二人は旅の女性の伊藤ルリ子に会う。腹痛に襲われていたが、たよは「子を孕んだための悪阻だ」と言う。
伊兵衛は、藩主にもお目通りし、ほぼ師範になることが決まる。
だが、家老内田稔の祝宴に招かれた伊兵衛は、内田の娘と、同僚草薙幸二郎の息子の大田博之が結婚することを聞く。だが、根津の大工の娘伊藤ルリ子は、大田博之の子を孕んでいたのだ。
伊兵衛は、草薙と内田から、伊藤ルリ子に金を渡して江戸に帰せと命ぜられる。さらに、大田から藤田は、喧嘩を仕掛けられるが、逆に撃ち伏せてしまう。
最後、伊兵衛は、内田に詫びを入れるが、伊藤ルリ子を「江戸に帰せ」には同意できない。
そして、藤田と中村、さらに義父の田崎潤と妻の楠田薫、息子の伊藤洋一の5人で、またふたたび旅に出て行く。
この5人の旅出は、戦前から映画製作を続けてきた大映が倒産し、日本の映画、テレビ界という旅に出て行くしかない森一生らの京都の映画人の心情だったようにも見える。
これも、かの小泉の愚劣な『雨あがる』より、森の第1作目の方がはるかに上だったように、これも優れた作品だった。