きのう、10月24日、東京の永田町にある首相官邸で韓国のイナギョン(李洛淵)首相が安倍晋三首相にムンジェイン(文在寅)大統領からの親書を手渡し、約20分間、会談した。日韓関係の正常化するチャンスである。
ところが、日本政府側の説明によると、安倍は、元徴用工問題や1965年の日韓請求権協定を念頭に、国と国との約束を順守するよう求め、韓国側に適切な対策を示すよう求めたという。
これは、安倍をはじめとする右翼が、「日本が叩けば韓国が折れるはず」と思いこんでいるからである。朝鮮半島を植民地化した戦前の大日本帝国政府と同じく、彼らはいまだに日本をアジアの唯一の先進国と思いあがっているからだろう。
じっさいには、すでに、日本は中国にGDP(国民総生産)が抜かれている。2019年には、中国のGDPは日本のGDPの約3倍になる。一人当たりのGDPでは中国は日本の4分の一だが、すでに、金持ちの数では日本よりずっと多いのである。
韓国のGDPは世界の第12位で、一人当たりのGDPでは、すでに、日本の8割に達している。そして、韓国の平均給与は、日本を追い越しているのである。被雇用者は日本より豊かな生活を送っているのだ。
具体的に日本の製造業を眺めると、日本の電器メーカーは韓国の電器メーカー、サムスン電子やLGに負けている。また、太陽光発電では、中国メーカーが先頭を走っているし、サーバーやスマホのハードウェアでは、中国のファーウェイ(HUAWEI)が日本を大きく引き離している。
技術とはそういうもので、どこでも、時間をかければ、追いつき追い越せるのだ。傲慢になってはいけない。日本は小国だという謙虚さがいる。
日本の誇る産業は、電気電子産業のインフラにあたる素材産業である。日本の素材産業は、中国、韓国、台湾、インドネシアなどのアジア諸国が素材を買って製品を製造してくれるから、成り立つのである。現在の世界は、世界的分業から成り立つのである。
それにもかかわらず、安倍晋三は、経済産業省と組んで、日本からの素材輸出の管理を、韓国との経済戦争にこの7月に使った。日本は韓国をたたき、元徴用工問題で韓国が折れるのを期待した。
現在の世界経済は、米中経済戦争で、とても不安定になっている。世界経済は縮小の気配を見せている。少なくても、日本の輸出は、昨年の12月から、前年同月からマイナスが続いている。安倍晋三は、アメリカのトランプのご機嫌ばかりをとっているが、2010年からずっと、日本のアジア諸国への輸出は、アメリカへの輸出の約3倍になっている。すなわち、日本は、貿易立国であり続けるには、アジアの諸国に道義的にも尊敬される国でなければならない。
日本は、明治から昭和20年まで、傲慢で、アジアのなかの乱暴者であった。そのイメージを払拭するために、大平正芳はじめ歴代の首相はアジア諸国にとても心配りをして友好関係をつくってきた。これが、アジア諸国への輸出をアメリカへの輸出の3倍に導いたのである。
ところが、安倍晋三を筆頭とする右翼はそれをぶち壊している。安倍は正気でない。
保守系ノンフィクション作家の保阪正康は、10月10日の朝日新聞で、日韓問題について次のようにいう。
「日本政府は1965年の日韓基本条約・請求権協定に基づき、元徴用工の補償問題は《完全かつ最終的に解決済み》との立場を取ってきた。韓国政府も同じ立場だったが、昨年10月の韓国大法院(最高裁)が覆した。」
私が補うと、韓国政府が日本政府に請求したのではなく、元徴用工が日本企業に賠償を請求したのである。裁判が行われ、最終的に、日本企業が賠償を払うだけの悪いことをした、と韓国の最高裁が認定したのだから、日本企業が賠償金を払えばいいだけのことだ。ところが、安倍晋三は、韓国の最高裁の認定した事実を否定せずに、1965年の日韓基本条約・請求権協定を持ち出すだけである。これは、国と国との約束であって、個人が企業へ賠償を請求する権利をチャラにするものではない。
保坂はさらに、つぎのように言う。
「しかし、1965年当時、韓国は軍事体制下にあり、東西冷戦のさなかだったため、条約や協定があいまいさを残していたことは否めない。ここに目をつむったまま、日本政府が《私たちが正しい》と主張しているだけでは、韓国政府と平行線のままだ。」
ここで、私が補うと、ムン・ジェイン大統領は、政府が最高裁の決定を覆すことができないと、あたりまえのことを言っているだけだ。
日本の企業が韓国の最高裁の判決にしたがえば良いだけのことなのに、
大日本帝国を肯定する安倍と右翼は、当時の日本政府の蛮行、韓国の植民地化を明るみにしたくないから、日本企業に賠償金の支払いをとめているのだ。
「安倍政権がそれでいいと言うなら、日韓問題を政治的プロパガンダに使っていると受け止められる。敵を作って世論を勇み立たせる形で、支持率アップや政権浮揚に利用していると。」
「世間に広がる韓国への妙な感情の高揚は、昭和10年代の《中国をやっつけろ、中国を支援している米国をやっつけろ》という感情の流れに近いと言ってもいい。ナショナリズムが一度はびこると、その先に待ち構えるのは暴力の正当化だ。」
まじめに自由と民主主義を求めているなら、こんな安倍と右翼は許せない。しかも、保守の保坂が言うように、立憲民主党もだらしない。
「日韓の軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の破棄を韓国が決めた際、立憲民主党の枝野幸男代表が「きぜんとするというのは日本政府の対応としてはありだ」と政府の対応を支持したことだ。危惧するのは、外交問題を国会のそじょうに載せないとの判断にならないかということ。それが国益だと思うならば大いなる錯覚だ。」
日韓関係の悪化は、日本の政治家の質の低下と、国民が政治というものを軽んじているあらわれだ。こんなことはあってはならない。