日々是チナヲチ。
素人による中国観察。web上で集めたニュースに出鱈目な解釈を加えます。「中国は、ちょっとオシャレな北朝鮮 」(・∀・)





 この一週間、更新が滞りがちで申し訳ありませんでした。仕事も忙しかったのですが、ここ数日はPCの方が機嫌を損ねて、それをなだめたりするのに時間を浪費して、記事集めをするのが精一杯でした。……ああ、またまた泣き言ですね(笑)。

 そんな訳で普段も中国観察の真似事(チナヲチ)しかできないのに、この一週間は注目すべき動きがいくつも出てきたにもかかわらず、いよいよ底の浅い眺め方しかできませんでした。岡目八目という言葉もありますが、それはやはり相当な眼力を持つ人にこそ当てはまるもので、私などにはとてもとても。

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 この数週間の中国というのは大ニュースというほどのものはなかったのですが、小ネタ中ネタには恵まれて、それらがひとつの流れを形成していったという印象があります。カリスマとはかけ離れたキャラな上に集団指導体制の中でも十分な指導力を持ち得ていないようにみえる胡錦涛・総書記にとって、この数週間は相当キツかったのではないでしょうか(笑)。

 簡単にいえば、様々な理由から胡錦涛政権は多方面作戦、つまり複数の敵対正面が存在する困難な状況に陥り、いまなおその対応に追われ、あたふたしている観があります。内憂もあれば外患もあります。胡錦涛の苦闘はまだまだこれからが本番、なのかも知れません。

 これから一週間はそうした小ネタ中ネタをひとつひとつ紹介しつつ、全体の流れに目を配っていくつもりです。……ただし前述したように岡目八目にもならない皮相な内容になってしまうのは諒として下さい。

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 とりあえず前回の続報からいきますか()。くどくなるのは承知していますが、新たな展開を迎えているので無視する訳にもいきません。

 例の民間による対日戦時賠償請求を中国国内で、しかも在中日系企業を相手にやろうという動きです。いままで日本国内での訴訟に挑んで当然ながら連戦連敗してきた民間団体「中国民間対日索賠聯合会」及びそれを支援する劉安元・弁護士が、自称強制労働被害者から訴訟に関する委任状を正式に受け取りました。「新華網」(国営通信社・新華社電子版)が北京紙『京華時報』の記事を転載しています。

 ●民間による対日買収請求、国内での訴訟に初めて道が開けるか(新華網 2006/02/23)
 http://news.xinhuanet.com/legal/2006-02/23/content_4215839.htm

 これを主導しているのが様々な反日活動で有名な「珍獣」たる
童増であることは以前紹介しています。糞青(自称愛国者の反日教徒)どものアイドルであるプロ化した糞青ですが、私はその空気の読めなさ加減に可愛気を感じ、また馬鹿は馬鹿なりにリスクのある活動に長年汗を流してきたことに一目置いています。ネットで反日言論、というか日本・日本人への無邪気な罵倒を繰り返すしか能のない糞青とはさすがに違う訳です。

 ただしこれも前回指摘したかと思いますがこの「中国民間対日索賠聯合会」という民間団体、「民間」とはいえ一党独裁制の下でこういう活動ができるのは、もちろん政治的後ろ盾、つまり某政治勢力という飼い主がいるからです。やはり童増が代表を務める「中日民間保釣聯合会」(保釣=尖閣諸島防衛運動)などもそうですね。

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 昨年春の反日騒動、その実質は「反日」を掲げたアンチ胡錦涛諸派聯合がこうした「民間団体」という飼い犬を尖兵として使い、胡錦涛イジメひいては倒閣といった性質を持つ政争を仕掛けたものと私は考えています。ところが反日デモに代表される運動が国内各地に拡大する一方、「民間団体」に一般市民が合流してプチ暴動まで起きてしまい、政争を仕掛けた方も仕掛けられた方も驚いて、両者慌てて手打ちをして事態を鎮静化させたという経緯があります。

 これで懲りたのか、昨年10月の小泉首相による靖国神社参拝に対する民間の抗議行動は徹底的に抑え込まれました。当局が許可したのは参加者十数人限定の日本大使館に対する「なんちゃってデモ」1回だけで、しかもそれを中国国内には報道させませんでした。他の自発的な抗議行動は治安当局が対処して片っ端から潰しています。

 懲りたからです。中国社会はもはや「民間」に勝手に「反日」をさせられるほどの体力が残っていないためで、勝手にやらせたら事態がどう拡大してどう乱れて、鉾先がどこに転じるかわかったものではない。しかも「反日」をしなくても農民暴動や都市暴動、労働争議といった官民衝突が毎日のように起きています。「民間」による「反日」はもちろん、当局主導での「反日」も注意してやらないと社会のどこかで火の手が上がりかねない。

 ……この点が「反日」を掲げてお茶を濁せた江沢民時代との大きな違いです。それに関して胡錦涛は江沢民が引退して実質的な政権発足となった2004年9月の時点でかなり正確な現実認識を持っており、それが当初の対日路線に反映されていたと思います。

 強調しておくとすれば、昨春の反日騒動で政争を仕掛けたアンチ胡錦涛諸派聯合も胡錦涛側も、ともに「中国人」である以前に
「中共人」であるということです。政策や利害での対立はあっても、中共政権があるから自分が立場相応の権力を持ち、旨い汁を吸えるという認識では両者ともピタリと一致しているのです。

 当然のことながら「中国」の未来よりも「中共政権」という現行秩序の延命を第一とすることになります。中共政権が潰れてしまっては困る訳です。その好例のひとつとして、1989年の天安門事件を挙げておきます。当時最後まで軍隊による武力弾圧に反対し続け、そのために失脚し軟禁状態になりながら、死去するまでその信念を曲げなかった趙紫陽・元総書記は、国家指導者レベルでは数少ない「中国人」のひとりだったと思います。

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 とはいえ、対日路線や台湾問題、対米関係などのテーマではやはり色合いの違いが出てきます。強硬派と穏健派、あるいは観念派と現実派といってもいいのですが、例えば日中関係でいうと、日本側のアクションに対するデッドラインが違うのです。強硬派も穏健派も中共がイニシアチブをとった形での関係構築(宗主国・中国と朝貢国・日本という上下関係)を前提としていることは共通しているものの、「これ以上は許さない」というキレる線、一種の沸点に差があるといったところでしょうか。

 さらに、胡錦涛政権、あるいは胡錦涛政権の政策に対する是非があります。いままでの改革・開放で潤った既得権益層が存在する一方で、貧富の格差・地域間格差・業種間格差といった不公平・不平等の拡大という問題が深刻になっています。これを是正しようと「科学的発展観」を掲げて構造改革に挑まんとする胡錦涛政権に対し、既得権益層は当然ながら反発します。抵抗勢力といってもいいでしょう。

 この一年半はそういった内外の問題をめぐって胡錦涛政権が揺さぶられたりそれを抑えたりすることの繰り返しでした。そして今度は「民間による対日賠償請求訴訟を、中国国内で」というテーマです。「民間団体」に飼い主がいることは上で述べた通りですから、これももちろん純粋な部分のある活動ながら、より濃厚に政争の具という色彩を帯びています。

 その傍証といえるかも知れないのは、「新華網」から全国各地のニュースサイトにかなり広範に報じられたこのニュースに対し、胡錦涛の拠点である『中国青年報』、そして胡錦涛と手を組んだとみられる軍主流派が掌握する『解放軍報』は一顧だにせず、全く報じていないことです。だからといって潰しにかからないのは、あるいはこれを対日カードとして使えるかも知れない、という判断が胡錦涛側にもあるからかも知れません。

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 ただ、政争ネタの気配濃厚であることから、胡錦涛としてはこのテーマに対し受け身ではなく、主導権を握っておかなくてはなりません。そこでアンチ胡錦涛諸派連合が持ち出したと思われるこの動きに対し、反転攻勢に出ることになります。これは日本でも報道されましたね。もちろん純粋に「対日賠償請求の動き」としての捉え方ですけど。

 ●対日民間賠償の活動強化 中国、基金に3700万円(共同通信 2006/02/25)
 http://flash24.kyodo.co.jp/?MID=RANDOM&PG=STORY&NGID=intl&NWID=2006022501003174

 この報道の中で
「中国司法省のホームページによると、会見したのは中華全国弁護士協会など。会見場は人民大会堂で政府系機関の代表らも参加しており、中国政府の暗黙の支持があるもようだ」というのは好指摘です。

 また記事文末に
「中国政府は1972年の「日中共同声明」で対日賠償請求を放棄している」とあるのも共同通信らしからぬ(笑)……といっては何ですが、正にその通り。

 過去2回この話題を取り上げたときに当ブログも指摘した通り、この動きは日中関係の原点であり、中国側が常々強調してやまない「日中間で取り交わされた3つの政治文書」に違反する行為です。それを違反としないためには、中国側が屁理屈をこねて対日賠償権の放棄に関してねじ曲げた解釈をひねり出す必要があります。

 無理をして強行突破しなければならない、ということです。対米関係なども考えれば、対日カードを増やすために日中間の新たな摩擦となりかねないそんなリスクを冒すこともなかろうに、と思うのですが、現在、日中関係において中国側が主導権を握っている訳ではないこと(日本側がイニシアチブをとっているかどうかは別として)、そして胡錦涛の指導力が十分でないため無理をせざるを得ないものと思われます。

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 ところで前掲の共同電ですが、中国国内ではこれについてより詳細に報道されています。正式には「中国民間対日索賠法律援助行動」というイベントを開いて義援金を募ったようです。

 ●公的機関が対日訴訟に支持表明、民間の募金額は256万元に(新華網 2006/02/26)
 http://news.xinhuanet.com/politics/2006-02/26/content_4227873.htm

 ●民間による対日賠償請求訴訟募金256万元に、各界から支持集まる(新華網 2006/02/26)
 http://news.xinhuanet.com/politics/2006-02/26/content_4227917.htm

 上は『京華時報』、下は『晨報』からの転載です。タイトルをみると、童増らの活動がいよいよ盛り上がってきた模様。……と読んでしまうところですが、実はこれが違うのです。童増支持ではなく正反対。いや正反対というより横取りというべきでしょうか。アンチ胡錦涛諸派連合が童増ら「民間団体」を使って仕掛けた政争?に対する胡錦涛側の反撃なのです。

 というのは、記事を読めば明白です。まずこの活動の主導的役割を果たしているのが日中の弁護士グループと一部政府関係者。共同電では
「中華全国弁護士協会など」となっていますね。ここには童増の名前も出てこなければ、童増率いる「中国民間対日索賠聯合会」、そして委任状取り付けに立ち合った劉安元弁護士も登場しません。そして最大の違いはあくまでも「日本での訴訟」が前提となっており、そのための資金集めだということです。童増らが連呼している「中国国内での訴訟実現」という言葉はどこにも出てきません。

 要するに、アンチ胡錦涛諸派連合が「民間団体」「中国での訴訟実現」を掲げて胡錦涛を揺さぶったのに対し、揺さぶられた胡錦涛は「半官半民的色彩」「日本での訴訟」という全く違う流れのイベントを開催して耳目を集め、主役の座を奪いにかかったということです。

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 胡錦涛にしてみれば、本来なら対日訴訟に「官」の色彩を加えるべきではないというところでしょうが、話題を横取りするためにちょっとリスクを冒してでもよりパワフルに、兵力の集中を図ったのだと思います。「中国での訴訟実現」は日本企業の対中投資や国際的イメージにも影響しますから、胡錦涛は避けたいところでしょう。そこでこうして役者を入れ替え、舞台を改め、芝居の主題も別物にするというパワープレイに出たのではないかと。

 中国上層部の動きを追うと、2月21日に北京で党中央政治局集団学習会が開かれています。

 ●胡錦涛総書記、政治局集団学習会で経済成長モデル転換を加速せよと強調(新華網 2006/02/22)
 http://news.xinhuanet.com/politics/2006-02/22/content_4213628.htm

 この「経済成長モデル転換」というのも抵抗勢力たる既得権益層に対する一撃なのですが、たぶん胡錦涛はこの場で童増ら「民間団体」の動きにクギを刺すことに成功したのではないかと思います。

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 この手の「一見すると……だけど実は……」というネタが最近多くて、野次馬にとっては実にこたえられない面白さです(笑)。ともあれ今回の胡錦涛、やや無理をしてしまいましたがお見事でした。……あ、まだ完全に決着した訳ではありませんけど。



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