日々是チナヲチ。
素人による中国観察。web上で集めたニュースに出鱈目な解釈を加えます。「中国は、ちょっとオシャレな北朝鮮 」(・∀・)





 またまた、といっても話自体は古くて2005年12月25日、つまり昨年のクリスマスに発生した事件です。首謀者として警察当局に追われていた「民」側の1人がこのほど海南島で自首して出たということで地元紙『南国都市報』が報じ、初めて事件の存在が明るみになったものです。

 要するに広東省は頬かむりして事件そのものを隠蔽していた、ということになります。

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 昨年夏の炭鉱事故以来、広東省といえば「不祥事続きの」という枕詞がつきもの。一応実例を並べておきますと、

 ●死者100名以上を出した炭鉱事故。
 ●ヤミ炭鉱をめぐる官民癒着。
 ●広州市・番禺区太石村の「農民による民主化運動」殲滅。
 ●仏山市で土地収用をめぐる官民衝突。
 ●汕尾市の土地収用をめぐる官民衝突において武装警察(準軍事組織)が農民たちを射殺。
 ●中山市で土地収用をめぐるで官民衝突、死者1名(騒ぎに巻き込まれた女子中学生)。
 ●広東省中央部を縦貫する北江でのカドミウム垂れ流し事件(河川汚染)。

 ……と、主だったものだけでもこんなにあります。しかもそのうちの多くの事件が当初は隠蔽され、香港メディアなど海外からの報道で明らかになるケースが少なくありませんでした。

 今回は海南島の新聞が素っぱ抜いたのを中国国内各地のメディアが転載。それによって広東省当局による隠蔽が中国全土にバレてしまったのですから、報道されたこと自体が事件だともいえなくもありません。

 中央が「大諸侯」のひとつである広東省に攻勢を発動したのか、『南方都市報』『新京報』そして『中国青年報』の「氷点」と続いたマスコミ弾圧で記者たちが決起寸前のキレかかった状態にあることを示したものか、あるいは海南省と広東省の仲が悪くて、何か含むところがあって報道にゴーサインを出したのか。……いくらでも勘繰りができるのですが目下のところ「中国国内で報道された」原因は不明です。

 いや、そもそも事件自体に謎な部分が多く、「4死6傷」と報じられていながら、全容は未だに明らかになっていないのです。

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 ともあれ報じられていることを手短かに紹介しておきましょう。

 今回の舞台は広東省・連南ヤオ族自治県の大麦山鎮。事件の発端は大麦山鎮の火龍沖村でクリスマスイブの夜、房志文・村民委員会主任(村長)など村民代表4名が「2度にわたる集団的事件を計画・組織した」との嫌疑で大麦山鎮の公安局に連行されたことによります。

 連行を不服とした村長の母親や妻、また今回海南島で自首した房志文村長の弟・房告一らは村民を煽ってその夜のうちに人数を駆り集め、数百名で押し出して大麦山鎮政府に大挙突入。同鎮党委員会書記(大麦山鎮のトップ)と治安担当の副鎮長を拘束し、意気揚々と村に連れ帰りました。これを人質として村民代表4名の釈放を求めたのですが、談判が行われたかどうかはともかく、事態は動きませんでした。

 そして翌12月25日の午前、業を煮やした村民たちは今度は同鎮の派出所(警察署)に押し寄せ、劉副所長を拘束。マイクロバスに押し込んで一同は村への帰途に就いたのですが、その道中で劉副所長は同乗していた村民たちに棍棒などで殴打されて負傷、身の危険を感じた劉副所長は携行していたピストルを抜いて車から飛び下り、脱出を図りました。

 運転していた房告一、そうはさせじと車を急停車させるなり刀器片手に飛び下りて劉副所長に突進。一気に間合いを詰めるや刀を一閃させてピストルを手にした劉副所長の腕にまず斬り付け、返す刀で真っ向から頭を斬撃。お小手・お面コンボという訳ですがこの房告一、なかなかの使い手のようですね。

 ともあれ劉副所長はこれが致命傷となり、「頭骨爆裂」(香港紙『蘋果日報』2006/02/14)で絶命。中国国内の報道では「開放性脳骨裂」となっていますが要するに頭をカチ割られて死亡した訳です。

 その後房告一は現場から逃亡。事件は広東省公安庁を驚倒させ、北京の公安部及び中央政府に報告し、公安部も事態を重くみて全力を挙げての追捕劇となりました。広東省当局は房告一の身辺関係から海南省に逃げた可能性が大きいと判断。ただし海南省の公安当局に事件関連の通知が届いたのは1月23日の午後4時と、事件発生から1カ月も経ってからです。してみると中央への報告についてもタイムラグ疑惑が浮上します。

 さて広東省から連絡を受けた海南省警察当局は捜査本部を設けて大捕物に着手。房告一の潜伏先を偵知して1月25日夜に急襲したのですが、屋外の便所に潜んでいた房告一は危うく難を逃れ、再び逃走。しかし警戒の厳重さに逃れる術のないことを悟り、翌1月26日夜に自首して出たという次第です。

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 以上、ツッコミどころ満載の報道なのですが、とりあえず少数民族が多数住む地域であることに留意しておきましょう。村民たちがヤオ族だったのかどうかは不明です。

 まず気になるのは「2度にわたる集団的事件を計画・組織した」という点です。官民衝突が以前にも2回起きている訳で、そういう前々からのよほどの因縁と憎悪・敵意が蓄積されていたからこそ、村民たちが脊髄反射するように鎮政府や警察署を襲撃したのだと思います。

 これについて『蘋果日報』は鎮政府や同地の警察関係者などに取材しているのですが、よほどの箝口令が敷かれているらしく全てノーコメント。村民たちの間でも見方は一致していません。

 以前、火龍沖村である村民が計画出産規定に違反して処罰されたとき、村民が団結してこれに反発したことがあるそうです。ここで舞台がヤオ族の多く住む地域である点が浮上します。少数民族に対する差別・迫害が根にあったとすればその線も考えられるでしょう。ただこれも諸説あるうちのひとつに過ぎないとのこと。

 政治的に敏感すぎる話題ということなのか、地元の事情に詳しい中国国内メディアの記者も「無理。いまは無理。とても話せたもんじゃない」といったような反応だったようです。

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 もう1点、これが最大の謎なのですが、「4死6傷」じゃないのかよオイ、ということです。死者のうち1名は劉副所長なのですが、それでは残りの「3死6傷」は?国内メディアがそれに関しては一切沈黙しているところが不気味であり、尋常ならぬ事態が発生したことを思わせます。

 村民たちによる警察署襲撃、この際に出た死傷者ではないかと私は勝手に憶測しています。劉副所長が拳銃を携行していたことから、警官隊による村民たちへの実弾射撃が行われた可能性があるのではないかと。捕えた副所長を棍棒で殴ったり、逃げようとしたところを斬殺するというのは、人質に対する扱いとしては常軌を逸しています。

 村民のひとりは『蘋果日報』の電話取材に対し、劉副所長を除く「3死6傷」はいずれも火龍沖村の住民で、死亡者には5歳前後の児童と17歳の少年各1名が含まれていると語っています。国内の報道には劉副所長を「壮烈なる殉職を遂げた」と扱っているものがありますので、残りの死者が警官隊側でないことは確かだと思います。

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 これから香港メディアや反体制系ニュースサイトによって色々と内幕暴露が始まるのかも知れませんが、「4死6傷」という文字をタイトルに躍らせながら、その詳細には沈黙している中国国内マスコミの報道に対し、恐らくネット上では憶測やらタレ込みやらが飛び交い、削除職人も仕事に忙しいことでしょう。

 『南国都市報』の記事があちこちに転載されていることから、その不可解で思わせぶりな報道内容には中央の意思を感じ取っていいのかも知れません。ともあれ1カ月半に及び事件を隠蔽していた(報道させなかった)広東省当局にとって、『南国都市報』の暴露記事は不名誉であり、不祥事続きであることを思えば恥の上塗りになることは確かです。

 大手ポータル「新浪網」(SINA)で検索してヒットした記事を以下に並べておきます。最後の1本以外は全て「新浪網」に掲載された記事ですが、転載元をみれば全国各地で報道されたことがうかがえます。

 http://news.sina.com.cn/o/2006-02-14/08168198749s.shtml
 http://news.sina.com.cn/c/2006-02-14/04228196449s.shtml
 http://news.sina.com.cn/c/2006-02-13/10008191224s.shtml
 http://news.sina.com.cn/s/2006-02-13/09228190368s.shtml
 http://www.cnhubei.com/200601/ca998763.htm

 「中国国内で報道された」こと自体が事件なら、その報道内容も怪しさ満点。どうも政治臭がしますね。とりあえず今後の展開に期待、といったところです。



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