全盲記者・岩下恭士のユニバーサロン
交差点で赤信号の時、手持ちの専用携帯端末のボタンを押すと、音響式信号機が青に変わったときに「カッコー」などの音が流れ、歩行者用の青時間を約1・2倍延長する視覚障害者用の歩行支援システムが便利だ。市役所や病院、公共トイレの入り口などに設置されている音声案内を受けることもできる。
シグナルエイドは312・45メガヘルツのFM電波を発信し、信号機から15〜20メートル離れた場所から遠隔操作で押しボタンを操作できる。人混みで押しボタンに近づくことが難しいときや、押しボタンの位置自体が分からない視覚障害者にとってありがたい道具だ。警察庁によると端末は2万5000台以上が普及しており、対応する音響式信号機の設置箇所は2013年3月現在、2690カ所という。
白杖(はくじょう)や音声時計、デジタル録音読書機などを販売する社会福祉法人「日本点字図書館」(東京・高田馬場)で、私がこの製品を購入したのは昨年の2月14日。価格は1万1510円(自己負担1150円)だった。都内で久々の大雪が歩道の誘導ブロックに降り積もり、40年前から通い慣れた道が突然分からなくなってしまった。早速、購入したばかりのこの端末を路上で何度も押し続けると、横断歩道に近づいたところで「ピピーン」というチャイム音が鳴り、現在位置を把握することができた。
屋外にある信号機の押しボタンを巡っては、しばしばアカで汚れたり、雨水がたまっていて、周囲を触りながら確認する視覚障害者の手はそのたびに汚れ、ボタンの使用をためらう人も多い。遠隔操作方式は、そんな悩みも解決してくれる。
そこでもう一つ期待したいのは公衆トイレ内の洗浄ボタンへの対応だ。ボタンの位置が分からないため、決して衛生的といえない便器の周囲を触らなければならない不便さをこの端末が解決してくれるようになれば、視覚障害者にとって安心して利用できる環境が整うと思うのだがいかがだろうか。
そして、視覚障害者だけでなく、車いす使用者や高齢者、ベビーカーを押しているお母さんなど、もしかすると押しボタンの使用に困っているすべての交通弱者に役立つユニバーサルデザインとして活用できるのではないかと思うのだが。
◇いわした・やすし
10歳で両目を失明した全盲記者。1986年、毎日新聞社入社。点字毎日編集部を経て、98年から人に優しい社会の仕組み「ユニバーサルデザイン」をテーマにネットコラムを配信。53歳。
毎日新聞 2015年08月02日 地方版