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ひまわり博士のウンチク

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笠原十九司『南京事件論争史』

2007年12月18日 | 本と雑誌
Ronsoushi 『南京事件論争史』
笠原十九司 著
平凡社新書〈403〉
定価(本体840円+税)

 著者の笠原十九司(かさはら とくし)さんは現在都留文科大学教授で、専門は中国近現代史、東アジア近現代史。とくに南京事件に関しての権威で、著書に『アジアの中の日本軍』(大月書店)、『日中全面戦争と海軍』(青木書店)、『南京事件』(岩波新書)、『南京難民区の百日』(岩波現代文庫)、『南京事件と日本人』(柏書房)、『体験者27人が語る南京事件』(高文研)など。
 歌人でもあり、『笠原十九司歌集 同時代』(本阿弥書店)がある。

 『南京事件論争史』は、すでに史実として固定し、政府見解でも事件の存在を認めている南京事件について、それが「ウソ」「虚構」「まぼろし」であるとする本が書店の店頭に平積みされる「不思議な国日本」について書かれた本です。
 この本の見所は、鈴木明、山本七平、東中野修道、イザヤ・ベンタサンら、南京事件否定派のレトリックやトリックをつぎつぎに暴いていくところにあります。
 否定派の論理には明らかな間違いや問題点が多分に含まれているものが多く、それらを指摘しても、訂正・修正はおろか、批判を検討した形跡すらなかったといいます。
 元々否定派の論拠は、「日本側の資料がないのだから、南京事件はなかった」とするものが多いのですが、しかし、新たに発見された資料や実行本人である旧日本兵の新証言の前には、それらを「見なかった、聞かなかったことにする」しか方法がないのでしょう。

Ikiteiruheitai

 この本の中でも紹介されていますが、『生きている兵隊』という石川達三の小説があります。
 石川達三は1935年『蒼氓』で芥川賞を受賞して間もない1937年12月従軍作家として南京に向かいます。
 石川が南京に到着したのは翌年1月5日で、日本軍の南京攻略から3週間ほど遅れていますが、それでも事件後の生々しい状況を見聞しています。
 「……町の中にゴロゴロと死体がころがっていて、死の町という言葉がぴったりでした」と回想しています。
 『生きている兵隊』は石川が従軍作家として日本兵から聞き取ったものを題材に、2月1日から書きはじめて、10日間で書き上げた小説です。この小説は月刊誌『中央公論』3月号に、検閲でひっかかりそうな箇所を伏せ字にして掲載されましたが、しかし配本と同時に発売禁止となり、石川達三は禁固4か月、執行猶予3年の有罪となりました。
 「あったことだが、なかったことにする」という軍部の方針は、いまや「歴史修正主義者」のあいだに引き継がれています。

 旧日本軍はこのような厳重な報道規制にくわえ、敗戦後、米軍が進駐してくる前に、自分たちが不利になる内務省などに残された証拠書類をことごとく焼き捨ててしまいました。それが、「証拠がない」「外国の報道はねつ造だ」などとする歴史修正主義者たちの論拠になっています。
 しかし、実は軍の上層部はすべてを知っていたわけで、宇都宮直堅少佐、田中新一大佐、阿南惟幾少将ら軍幹部や広田弘毅外務大臣、外務省の石井猪太郎らが、事件の対応に追われていたことが、それぞれの証言や日記、回顧録にのこされていました。
 こうなると、歴史修正主義者たちとしては「無視」を決め込むしかなく、自分たちの信奉者がこの本を読んでくれないことに期待するしかないでしょう。
 あるいは「笠原十九司の本はぜんぶでっち上げだ、うそばっかりだ」っていうんですかね。「自分たちの読者はぜったい真実なんか必要としていないんだから、調べるわけがない!」と自分たちの読者をなめてかかっているのかも。
 以前からその傾向はありましたが、口の周りにいっぱいあんこをつけて「クワ~ン(食わん)」と言っているようなものです。
 「食べてないって言ってるんだから、食べてないの!」
 だだっ子ですね。

 ちなみに、写真にある2冊の『生きている兵隊』は、左が石川達三自身の手によって伏せ字が復元され、戦後すぐに出版された初版で、乱暴に扱うとボロボロ崩れてしまいそうな粗悪な紙に印刷されています。
 右は現在発売されている中公文庫版で、かつて伏せ字であった箇所に棒線が引かれて、どのような部分を自主規制したのかがわかるようになっています。

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