ひまわり博士のウンチク

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山本義隆『知性の叛乱』

2010年04月10日 | 本と雑誌
Hanran
 
 今日、荻窪でG出版社の社長と打ち合わせをした後、二人でささま書店に立ち寄った。
 「面白い本がありますよ」
 105円コーナーで栗田書店発行のさまざまな出版社の社長による遺稿集を見つけた。 
 全部で8冊あり、中央公論社の嶋中、平凡社の下中、岩波書店の岩波茂雄ら、8人の創業者の遺稿が、それぞれ1冊にまとめられたものだ。
 「これ、いい本なんですよ。どれを持っていたか忘れたなあ。全部買っていこう」
 この足で帰省するという社長は、荷物になるのに買って行った。
 出すところへ出せばけっこういい値段がつく代物だろう。
 
 店内に入って、いつも通り現代史が並んでいる隅っこのコーナーへ行く。
 すると、何処かで見かけた本が、棚の隙間に横になっている。
 『知性の叛乱』山本義隆。

 おおおおおおっ! ウソだろ!
 
 カバー、帯ともに完璧な初版本である。
 ネットでは、状態が良ければ15000円がつけられている珍品だ。
 値札を見るとなんと「525円」。
 とっさに抱え込んだ。
 
 この本が発行されたのは1969年6月。70年安保闘争がクライマックスを迎えた年である。
 著者の山本義隆は、東大全共闘の議長を務め、この本が出版された時点では警察の指名手配を受け、地下に潜伏していた。
 1968年、高度経済成長の裏で、ベトナム戦争は激化の一途をたどり、国内では学生による第二次反安保闘争が加熱していた。
 そうした背景の中、東大では、医学部の学生が登録医制度反対などを唱え、東大闘争が勃発する。闘争は激化し、学生たちは安田講堂をはじめとした大学施設を占拠して行った。1968年3月の卒業式は中止され、こうした状況のもとで、翌年1月に有名な安田講堂事件が起きた。
 
 山本は学生時代からずば抜けた秀才で、日大の秋田明大と並び称される立場だったが、頭の出来で秋田はまったく太刀打ちできなかった。
 山本は、東大では物理学科で素粒子論を専攻していた。70年安保闘争で学生運動が敗北した後、山本は大学を去り、再び戻ることはなかった。
 予備校教師をしながら科学史を研究し、エルンスト・カッシーラーの翻訳で知られるようになる。
 現在は、物理学を中心とした自然思想史の研究に従事している。
 主著『磁力と重力の発見』(全3巻 みすず書房 2003年)は、第1回パピルス賞、第57回毎日出版文化賞、第30回大佛次郎賞を受賞。2000年代の代表的な出版物の一つに数えられた。

 現在、山本義隆は全共闘時代の自分とは距離を置き、物理学者として以外の自分を見せることは、あまり好まないようである。
 
 『知性の叛乱』の中で山本は、闘争のターゲットであった大河内学長のみならず、丸山眞男教授にも攻撃の矛先を向けている。
 
 日本の天皇制ファシズムに鋭い批判をあびせてやまない丸山教授は、それを支えた権力の頂点の「無責任体制」と、底辺の「共同体」の両極に酷似した構造を持つ東大教授会が、帝国主義国家機構の中に包摂されつつ「大学の自治」の擬制をもつのに極めて有効であったことにはまったく関心を示さない。
 
 これに象徴されるように、狭隘な道を進みつつある東大全共闘は、本来彼らを支援する立場の左翼系教授からも距離を置き、山本義隆を指導者として暴走した感がある。
 秀才であるだけに、当時の暴走を若気の至りと笑い飛ばせないところがあるのだろう。
 それにしても、現在の山本義隆からは想像できない「オレサマ」ぶりが伺われ、面白いし、けっこう好きだ。
 
Yamamoto
 潜伏当時の山本義隆。 

 参考リンク→『安田講堂の攻防』~インターナショナル
 
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2 コメント

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おおっ、それ譲ってください(笑) (齊藤)
2010-04-10 06:29:07
おおっ、それ譲ってください(笑)
その写真ははじめて見ましたが、戸浦六宏みたいですね。大島映画でふてぶてしく議論していそうな・・・
返信する
齋藤さん (ひまわり博士)
2010-04-10 11:01:45
齋藤さん

もう一冊見つけたら譲ります…それはないか(笑)
巻末に「情況」が主催する討論の記録があって、秋田明大も参加してますが、山本が妖刀村正で秋田が青龍刀、て感じです。
返信する

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