山本藤光の文庫で読む500+α

著書「仕事と日常を磨く人間力マネジメント」の読書ナビ

乱知180510:大人の世界の算数

2018-05-10 | 乱知タイム
乱知180510:大人の世界の算数
19+17=7。こんな解答をしたら、小学生の孫に笑われてしまいます。以前外資系製薬会社ロシュ(世界2位)に勤めていた私にとって、驚きのニュースでした。武田薬品工業(世界19位)がシャイアー(世界17位)との買収合意を得たのです。これにより武田は、世界7位に躍り出たわけです。これが大人の世界の算数なのです。
山本藤光2018.05.10

妙に知180510:[広辞苑」からのメッセージ

2018-05-10 | 妙に知(明日)の日記
妙に知180510:[広辞苑」からのメッセージ

昨日発信させていただいた『拝啓「広辞苑」(第7版)さま』にたいして、岩波書店からメッセージが届きました。
以下昨日の再掲とメッセージを掲載します。岩波書店の真摯な回答に感謝いたします。
(再掲はじめ)
招き猫は外国人にも、お土産として人気のようです。招き猫には、さまざまなポーズがあります。一般的には、右前足をあげているのは。お金や幸運を招き、左前足をあげている猫は、客(人)を招くとされています。北嶋廣敏『右と左の面白ネタ事典』(PHP文庫)でも、そう説明されています。

私は以前にこのネタを書いたことがあり、そのとき「ひひ」として記憶を固めています。左(ひ)は人(ひ)という記憶法です。

昨日『今さら他人には聞けない疑問650・パート3』(知恵の森文庫)を読んでいたら、こんな説明がありました。

――右手をあげているのは、たいてい一般家庭にあり、この場合、猫が招いているのは「幸運」と「お金」だ。
一方、左手をあげている招き猫はたいてい商店にある。「千客万来」などと書かれて小判を抱いているように、この場合は、「客」を招いているといわれる。(同書P208)

ここまでは私の記憶と同じです。ところが「広辞苑第7版」(電子辞書版)を引いてみて驚きました。まったく真逆の説明になっています。

「広辞苑」では、右前足をあげている招き猫の写真2枚にそえて、
――すわって片方の前足を挙げて人を招く姿をした猫の像。顧客・財宝を招くというので、縁起物として商家などで飾る。

「広辞苑」(第7版)は、少なくとも私がこれまで得た知識とは真逆の説明をしています。ただし、左右どちらの前足かの説明はありません。参考写真の2枚から、右前足挙げ招き猫と想像してしまいます。また説明文に「商家」とありますので、
通常飾られているのは、左前足挙げの招き猫です。
「広辞苑」の写真とは違います。「広辞苑」の参考写真が、左前足挙げの招き猫だったら、まったく問題がないのですが。どうなっているのでしょうか。
(再掲おわり)

【岩波書店広辞苑担当からのメッセージ】
(あいさつ文省略)
左前足が人、右前足が財、という言い伝えは、いつのころから言われはじめたことか分かりませんが、古くはそのような区別はなかったと思われます。

広辞苑としては、左右に特に意味があるとは考えておりませんし、他の辞典類も左右の件には踏み込んだ記述はしていないようです。
写真についても特に左右に意味を持たせておりません。
山本藤光2018.05.10

知だらけ106:智恵

2018-05-10 | 知だらけの学習塾
知だらけ106:智恵

人間力のある人には意欲がある
意欲のある人には夢がある
夢のある人には目標がある
目標のある人には努力がある
努力のある人には失敗がある
失敗のある人には反省がある
反省のある人には経験がある
経験のある人には智恵がある
智恵のある人には人間力がある

「智恵」とは知識や経験に、搭載するターボエンジンのことです。智恵は知識や経験の、裏付けがなければ機能しません。智恵は知識知でもあり、経験知でもあります。

私は「人間力」の総合力を、「智恵」としています。前向きに人生を送る「意欲」があり、一段高いところにいる自分を「夢」見る。そのために、高い「目標」を掲げ、ひたむきな「努力」を継続する。生じた成果に対する謙虚な「反省」を忘れず、それを次なる挑戦への「経験」知とする。やがてその循環が「智恵」となって、より高いレベルになったあなたは、目指すところに到達できるのです。

田坂広志は著書『知性を磨く』(ちくま新書)の中で、知識と智恵の相違について次のように述べています。

(引用はじめ)
「知識」とは、「言葉で表せるもの」であり、「書物」から学べるものである。
「智恵」とは、「言葉で表せないもの」であり、「経験」からしか学べないものである。
(引用おわりP54)

これって「ナレッジマネジメント」でいう、「形式知」と「暗黙知」のことです。

もうひとつだけ、先達の言葉を引用させていただきます。

――切迫感と知識が一緒になったとき、初めて知恵が出てきます。切迫感を感じなきゃ、知恵も生まれません。私がいつも「あきらめたらいかん」とか「できると思ってやったらできる」とかいっているのはこのことです。(西堀栄三郎『新版 石橋を叩けば渡れない』生産性出版)

 西堀栄三郎がいうように、智恵は単純な思いつきや閃きとは異質なものです。たくさんの知識や経験の裏づけがあり、緊迫した場面で引き出せるのが智恵なのです。智恵の「智」の字は、知に日を重ねてあります。知の積み重ねが「智」なのです。そこに「恵み」がやってきます。

ご愛読ありがとうございます。
山本藤光2018.02.11

ビリーの挑戦2-062cut:コンサル会社のご注進

2018-05-10 | ビリーの挑戦第2部・伝説のSSTプロジェクトに挑む
ビリーの挑戦2-062cut:コンサル会社のご注進
――Scene09:営業本部の嵐
影野小枝 森永本部長の部屋です。3人の新しい部長と、コンサルタント会社の2人が打ち合わせ中です。
森永 加藤と三枝には辞めてもらったが、漆原は居座ったままだ。安田本部長時代の取り巻きは、早急に一掃しなければならない。そうしなければ、新しい風は吹かない。ところで支店長へのインタビューは終わったのかい?
コンサルA(責任者)本部長がおっしゃるとおり、Rファミリーという甘い退室がはびこっています。新たに導入したマークシート方式の日報にも反対、営業リーダーのプレイイングにも反対と、新体制に拒否反応を示しています。
森永 営業リーダーたちのインタビューを終えたら、若返りということで、総取っ替えしなければならんな。
コンサルB 特に東京の吉岡支店長と大阪の新谷支店長は、古い体制の信奉者のようです。
森永 黒田くんに頼んで、支店長たちのメールをチェックしてもらった。なるほど、この2人は新体制について批判的なメールを流布していた。
コンサルA 現在導入中のSSTプロジェクトには、有能な人材がたくさんいます。旧態依然とした営業部とは別組織のメンバーですので、彼らを登用するべきと考えます。
森永 SSTは社長直轄だし、彼らを登用するのは喜んでくれると思う。

どん底塾53:おわりそしてはじまり

2018-05-10 | 小説「どん底塾の三人」
どん底塾53:おわりそしてはじまり

影野小枝「最後のどん底塾を終えた3人は、スナックにいます。加納さんの発案でシャンパンで乾杯したのですが、なにやらお通夜みたいな感じです」
加納「どん底塾、とうとう終わっちゃったわね」
大河内「なんか、力が抜けた感じだ」
海老原「終わったんじゃない。これから、はじまるんだよ」
加納「亀さんって、言葉は乱暴なのに、ピュアな人だよね」
大河内「とにかく、あっという間の4か月だった」
加納「ずっと、亀さんのこと、疑っていた……」
大河内「おれも半信半疑だったさ」
海老原「亀さん、新しい就職先まできめてくれていた……」
加納「わたしには定款で、雄太には顧客リスト。どん底塾ともっと早くに巡り合っていればよかったのに」
大河内「百合子のリストラがなければ、亀さんとの出会いもなかった」
加納「そうか、あれがきっかけなんだ。リストラに、感謝だわ」
海老原「それって、亀さんが教えてくれたポジティブ思考だよね」
大河内(亀さんの声色をマネて)「それはいい、海老原は成長したよ」
加納(泣き声になって)「最近の亀さんは、すっとそう励ましてくれたよね」
大河内「泣くんじゃない。さっき散々泣いたのに、まだ涙が残っていたんだ」
加納「さっきのはうれし涙。いまのはくやし涙なの」
海老原「くやし涙って?」
加納「亀さんを一時的にも疑ってしまったこと、思い出しちゃって」
大河内「亀さん、寂しそうだったな」
加納「どん底か、いい言葉だわ」
影野小枝「静かな時間が流れています。3人の話がかみ合わないのは、きっと希望という名の湖から、教わったたくさんのことを拾い出しているからでしょう。近寄りがたいほど、厳粛な儀式にさえ見えます」

質を測る007:納得して全員が歩調を合わせる

2018-05-10 | 営業の「質を測るものさし」あります
質を測る007:納得して全員が歩調を合わせる
――第1章:強いチーム
人間だれしも上司の厳命に、不満を抱くことはあります。しかし強いチームには、面従腹背のカケラもありません。陰で不平不満を爆発させる、という現象が存在しないからです。陰口は非生産的な行為であり、チームに根腐れ病を蔓延させる原因となります。

強いチームには、「納得して全員が歩調を合わせる」という基本原則が存在しています。もちろん当初は不満なことでもいったん納得・合意したら、気持ちを切りかえて全力をつくさなければなりません。つまり不平や不満を、引きずりつづけないということです。
いいたいことは、すべてさらけ出す。全員が一堂に会して激論を戦わせ、最終的には手打ちをしなければなりません。そのために存在するのが、「営業会議」という舞台なのです。それをおびただしい通達の徹底や追及、積み上げ(顧客別売上予測)などだけに終始している会議は論外です。

のほほん180510:もっと太宰治を

2018-05-10 | のほほんのほんの本
のほほん180510:もっと太宰治を
太宰治に関する著作を書棚からざっと拾ってみました。えらく時間がかかりました。そしてその量の多さに驚いている次第です。
――新潮日本文学アルバム――太宰治(新潮社)
――嵐山光三郎:文人悪食(新潮文庫)
――嵐山光三郎:追悼の達人(中公文庫)
――安藤宏:「私」をつくる・近代小説の試み(岩波新書)→文学論
――池内紀:文学フシギ帖(岩波新書)
――池内紀:作家の生きかた(集英社文庫)
――石川淳:石川淳評論選(ちくま文庫)
――石川淳:安吾のいる風景(講談社文芸文庫)
――磯田光一:昭和作家論集成(新潮社)
――井上ひさしほか編座談会・昭和文学史・第3巻(集英社)
――猪瀬直樹:ピカレスク・太宰治伝(文春文庫)
――岩波明:文豪はみんな、うつ(幻冬舎新書)
――猪瀬直樹:作家の誕生(朝日新書)
――井伏鱒二:文士の風貌(福武文庫)
――井伏鱒二:風貌姿勢(講談社文芸文庫)
――巌谷大四:懐かしき文士たち・戦後編(文春文庫)
――植田康夫:自殺作家文壇史(北辰堂出版)
――大村虎次郎:文壇栄華物語(ちくま文庫)
――J・C・オカザワ:文豪の味を食べる(マイコミ新書)
――奥野健男:太宰治(文春文庫)
――桶谷秀昭:日本人の遺訓(文春新書)
――×長部日出雄:黄桃とキリスト・もう一つの太宰治伝(文春文庫)
――長部日出雄:太宰治100の名言――名場面「富士には月見草」(新潮文庫た2-51)
――カセット文芸講座:日本の近代文学(CBエンタープライズ)
――角川学芸出版:知っておきたい日本の文学・太宰治(角川ソフィア文庫C11-1角川学芸出版――編)※出品¥1500
――鎌田浩毅:使える!作家の名文方程式(PHP文庫)
――川西政明:小説の終焉(岩波新書)
――木山捷平:井伏鱒二/弥次郎兵衛/ななかまど(講談社文芸文庫)
――ドナルド・キーン:日本文学史・近代現代篇5(中公文庫)
――ドナルド・キーン:著作集第4巻(新潮社)
――国文学:現代作家110人の文体(1978年11月増刊号)
――小林信彦:小説世界のロビンソン(新潮社)
――小山清:日日の麺麭/風貌・小山清作品集(講談社文芸文庫)
――塩澤実信:文豪おもしろ豆事典(北辰堂出版)
――清水義範:身もフタもない日本文学史(PHP新書)
――清水良典:文学がどうした(毎日新聞社)
――東海林さだお(文藝春秋編「青春の一冊」文春文庫プラス)
――新潮日本文学アルバム:太宰治((新潮社初版)
――新潮文庫編:文豪ナビ・太宰治(新潮文庫)
――新潮現代文学8・石川淳:太宰治昇天
――関川夏央:汽車旅放浪記(新潮文庫6-5
――ダ・ヴィンチ:解体全書Ⅰ(リクルート)
――高野斗志美:現代文学の射程と構造(潮出版)
――高橋和巳:高橋和巳作品集8(河出書房新社)
――田澤拓也:太宰治の作り方(角川選書)
――辰野隆:忘れ得ぬ人々(講談社文芸文庫)
――谷沢永一:紙つぶて――全(文春文庫)
――檀一雄:太宰と安吾(角川ソフィア文庫)
――壇一雄:小説太宰治(岩波現代文庫)
――筑摩書房編集部:女が読む太宰治(筑摩ブリマー新書)
――辻原登:新版 熱い読書冷たい読書(ちくま文庫)
――津島美知子:回想の太宰治(講談社文芸文庫H1)
――出口汪:「太宰」で鍛える日本語(祥伝社新書)
――出久根達郎:作家の値段(講談社文庫)
――富永國比古:太宰治ADHD説・医師の読み解く「100年の謎」(三五館)
――中川越:文豪たちの手紙の奥義(新潮文庫)
――中沢けい:書評・時評・本の話(河出書房新社)P557
――中村真一郎編:ポケットアンソロジー・恋愛について(岩波文庫)
――野原一夫:回想太宰治(新潮文庫)
――爆笑問題:日本文学者変態論(幻冬舎)
――福田国士:文豪が愛し名作が生まれた温泉宿(祥伝社新書)
――細谷博:太宰治(岩波新書)
――本の雑誌(2015.12)太宰治は本当に人間失格なのか
――松原新一ほか:戦後日本文学史・年表(講談社)
――松本侑子:恋の蛍・山崎富栄と太宰治(光文社文庫)
――丸谷才一・池澤夏樹:分厚い本と熱い本(毎日新聞社)
――水上勉:文壇放浪(新潮文庫)
――森毅:ゆきあたりばったり文学談義(ハルキ文庫)P61
――矢代静一:含羞の人・私の太宰治(河出文庫)
――安岡章太郎:小説家の小説家論(福武文庫)
――山川健一:太宰治の女たち(幻冬舎新書)
――山田風太郎:人間臨終図巻1(徳間文庫)
――太宰治第4号(洋々社)
――吉本隆明:父の像(ちくま文庫)
山本藤光2018.05.10

チーム格差は人災である:めんどうかい56

2018-05-10 | 営業リーダーのための「めんどうかい」
チーム格差は人災である:めんどうかい56
――第4章:威力ある同行
 いかなる営業組織にも、強いチームと弱いチームがあります。その原因を精査したことがあるでしょうか。チーム格差は、まぎれもない人災です。山本は営業企画部長時代に、強いチームと弱いチームのギャップを調査したことがあります。

 2つのチームの営業リーダーには、活動面で量的な差は認められませんでした。同行回数には、大きな差がありません。同行者の偏りも、発見できませんでした。不思議に思って、それぞれの部下たちにインタビューを試みました。愕然とする結果だったのです。

 強いチームの営業担当者は、一様に上司同行を歓迎していました。弱いチームからは、「できれば同行してもらいたくない」との声が上がったのです。弱いチームの営業リーダーは、同行時に部下と連携していなかったようです。だから部下たちのモチベーションは、上がらないままでした。

 さらに恐ろしいのは、そのことに営業リーダーが気づいていないことです。当然のごとく弱いチームの営業リーダーには、部下の声をフィードバックしました。4人の営業リーダーの反応は、録音テープでも聞いているみたいに同じでした。
「え、そんなことはありません。きちんと同行しています」

 営業リーダーの「同行力」を、検証するための方法はないものだろうか。部下に的確なアドバイスを与えているか、部下のモチベーションを上げているか、などを測ってみたいと思っていました。(明日へ続く)

妙に知180510:貧しい言葉たち

2018-05-10 | 妙に知(明日)の日記
妙に知180510:貧しい言葉たち
「すかんぴん」は「素寒貧」と書き、「収入、財産が少なくて生活が苦しいこと」です。では似たような言葉をいくつ思い浮かべることができますか。「角川類語新辞典」を引いて驚きました。ものすごくたくさんあるのです。
(引用はじめ)
もんなし(文無し)、いちもんなし、むいちもん、むいちぶつ、すってんてん、はだか、まるはだか、はだかいっかん、むせん(無銭)、むさん(無産)、せいかつにおわれる、ひのくるま、くびがまわらない、きゅうきゅう、ぴいぴい、ふところがさむい、せいひん(清貧)
こんな言葉たちは、ゴミとして捨てましょう。今日は燃えるゴミの日です。
山本藤光2018.05.10

町おこし121:最後の下校

2018-05-10 | 小説「町おこしの賦」
町おこし121:最後の下校
――『町おこしの賦』第4部:標茶町ウォーキング・ラリー29
恭二は詩織と並んで、標茶高校を出た。歩きかけた詩織は、一度校舎を振り返って小さく頭を下げた。恭二もそれに習った。
「恭二、いよいよ最後の下校だね」
「何だかたくさんの忘れ物を、してきたような感じがする」
「勇太のお父さんが亡くなって、私が病気になって、理佐が亡くなって、後半は寂しいことの連続だった。恭二は大学受験に失敗するし、私たちのグループは空中分解したみたい」
「詩織はこれから、どうするの?」
「今は通院しなくていい身体になること以外は、考えられない」

 二人はオランダ坂を下る。
「あのさ、詩織。毎朝、ここで待っていてくれたじゃない。家の前の道で、なぜ待っていなかったの?」
 何も感じていなかったが、坂を下りながらふと思った。
「いつも勇太と、一緒だったでしょう。だから男の友情の、邪魔はしたくなかった。でもオランダ坂からは、恭二は私のもの。そんなつもりの儀式だった」
「詩織も勇太も、卒業できてよかった」
 並んで歩きながら、時々肩が触れ合う。しかし恭二には、詩織がずっと遠くに行ってしまったように感じる。
ランドセルを鳴らして小学生が二人、傍らを駆け抜けて行った。恭二はうつろな目で、彼らの後ろ姿を追った。三月の空には、太陽の姿はなかった。厚い雲が太陽を覆い、その分風を冷たくしていた。
 いつもならピンポン球のように弾んでいた会話は、凍てついてしまっている。恭二は黙って歩いた。

 藤野温泉ホテルの一室で、五人は賑やかに卒業を祝った。詩織の父は、ビールとジュースを運んできてくれた。
「みんな卒業おめでとう。詩織も何とか滑りこみセーフだったから、今日は賑やかにやってください」
 幸史郎はビールの栓を抜いて、両隣りの恭二と勇太のグラスに注いだ。向かいの席の詩織と可穂は、オレンジジュースだった。
「ではおれたちの卒業を祝って、乾杯。それから理佐に献杯」
 幸史郎の音頭で、一斉にグラスが持ち上げられた。

「卒業って、寂しいものね」
 可穂はそういって、詩織の顔をのぞきこんだ。
「卒業にはお別れ、っていう意味があるからね」
 詩織は恭二の方に、視線を向けていった。勇太が続いた。
「コウちゃんは大学生。恭二は予備校生。おれは酪農家。詩織はおうちのお手伝い。可穂は家で浪人生活。みんなばらばらになっちゃった」
「だからって、お別れじゃないわよ。お別れって、再会の日に向けられたメッセージなのよ。来年、瀬口くんと私が合格したら、こうしてお祝いしてもらいたいな」
 可穂はいつになく、雄弁だった。

詩織の母・菜々子は、お盆に山盛りの毛ガニを運んできた。
「みんな卒業、おめでとう。最後の締めはカニだからね。たんと召し上がってください」
 カニはみんなを寡黙にするから、宴会の最後に食べるものなの。亡くなった理佐の、祖母がいっていたセリフだった。カニに鋏を入れるのに悪戦苦闘している恭二を見かねて、詩織が呼んだ。
「恭二、きて!」
 自分がきれいに鋏を入れた、皿を差し出している。
「危なっかしくて、見ていられない。これあげるから、恭二のカニをこっちに回して」
 みんな笑っている。恭二はカニの身をはしでほぐして、口に運ぶ。しょっぱい味のあとに、すぐに濃厚な甘みが広がる。高校生活最後の夜は、カニの味と同じだった。