町おこし222:タイスキ
――『町おこしの賦』第7部: 心のハンディキャップ22
恭二と詩織は、水上マーケットでペアの帽子を買った。狭い水路を行く小舟には、物売りの小舟が群がってくる。パパイアやマンゴーを突き出される。
「風情があっていいね」
詩織は買ったばかの、つばの長い黄色い野球帽をかぶっていった。小舟はアメーバーのように、水面を滑って進む。空には灼熱の太陽があった。しかし暑さは感じない。
夜は海に突き出した格好の、シーフードレストランへ行った。潮風が心地よい。
「恭二、夕陽が大きくて真っ赤。日本とはスケールが違うみたい」
「本当だ。でっかいね」
カニ、エビ、魚、貝。次々に、料理が運ばれてくる。どれもおいしかった。恭二は料理を堪能しながら、釧路川の上にこんなレストランを作れば、風情があっていいかもしれないと思う。そしてリフレッシュのための休暇なのに、行く先々で仕事と結びつけている自分がおかしかった。
二日目はバンコクでの、寺院めぐりを楽しんだ。最後の夜は勇太の希望により、MKで食事をした。ミユの弟が働いていた店である。
「本場のタイスキを食べて、うちの味とくらべてください」
ミユは早口のタイ語で注文をしてから、笑ってみせた。
「それにしても、スカートは駄目って、止められたのには驚いたな」
幸史郎は妻の美和子が、寺院の入館を阻止されたことを笑いながらいった。
「厳しいのは、ワットプラケオだけ。あとは大丈夫だったじゃない」
ミユは、弁解するように告げた。鍋が煮たってきた。と、当然、店員が一斉に通路に並んだ。音楽が流れ、それぞれが踊りはじめた。
「歓迎の、ごあいさつの踊りだよ」
ミユが教えてくれた。いいな。恭二は微笑みの国の、おもてなしに感激している。
恭二と詩織は、バンコク市内の夜景を見下ろしながら、ホテルのバルコニーでワインを飲んでいる。
「恭二、あっという間だったけど、十分に堪能できたね」
「うん、楽しかった。何だか帰るのが、イヤになってきた」
「新婚旅行は、ここにこようか? 二人だけで、のんびり過ごしてみたい」
「ここでもいいけど、小さな島の方がいいな」
「仕事が忙しいからこそ、こんな時間が必要なんだよね」
「人生って天秤棒に、二つの荷物を提げて歩いている。片方には仕事。そしてもう片方には日常。日常のなかは、『知だらけの学習塾』みたいな小さな研究と、楽しめる趣味と、こうしたのんびりとした時間が入っていなければならない。山本藤光『人間力マネジメント』に、そう書いてあった」
「恭二、日常って、仕事以外の全部のことなんだよね。そこをいかに磨くかが、私たち夫婦の大命題なんでしょう」
仕事以外の時間は、すべてが日常。そこから絶対に欠かせない、睡眠、食事、入浴などを差し引く。そして残った時間を、どう活用するかが問われている。そこを知的ではない活動で満たしてしまうと、味気のない日常に成り下がってしまう。そこまで思考をめぐらし、恭二は一気にグラスのワインを空けた。
「詩織、寝ようか」
――『町おこしの賦』第7部: 心のハンディキャップ22
恭二と詩織は、水上マーケットでペアの帽子を買った。狭い水路を行く小舟には、物売りの小舟が群がってくる。パパイアやマンゴーを突き出される。
「風情があっていいね」
詩織は買ったばかの、つばの長い黄色い野球帽をかぶっていった。小舟はアメーバーのように、水面を滑って進む。空には灼熱の太陽があった。しかし暑さは感じない。
夜は海に突き出した格好の、シーフードレストランへ行った。潮風が心地よい。
「恭二、夕陽が大きくて真っ赤。日本とはスケールが違うみたい」
「本当だ。でっかいね」
カニ、エビ、魚、貝。次々に、料理が運ばれてくる。どれもおいしかった。恭二は料理を堪能しながら、釧路川の上にこんなレストランを作れば、風情があっていいかもしれないと思う。そしてリフレッシュのための休暇なのに、行く先々で仕事と結びつけている自分がおかしかった。
二日目はバンコクでの、寺院めぐりを楽しんだ。最後の夜は勇太の希望により、MKで食事をした。ミユの弟が働いていた店である。
「本場のタイスキを食べて、うちの味とくらべてください」
ミユは早口のタイ語で注文をしてから、笑ってみせた。
「それにしても、スカートは駄目って、止められたのには驚いたな」
幸史郎は妻の美和子が、寺院の入館を阻止されたことを笑いながらいった。
「厳しいのは、ワットプラケオだけ。あとは大丈夫だったじゃない」
ミユは、弁解するように告げた。鍋が煮たってきた。と、当然、店員が一斉に通路に並んだ。音楽が流れ、それぞれが踊りはじめた。
「歓迎の、ごあいさつの踊りだよ」
ミユが教えてくれた。いいな。恭二は微笑みの国の、おもてなしに感激している。
恭二と詩織は、バンコク市内の夜景を見下ろしながら、ホテルのバルコニーでワインを飲んでいる。
「恭二、あっという間だったけど、十分に堪能できたね」
「うん、楽しかった。何だか帰るのが、イヤになってきた」
「新婚旅行は、ここにこようか? 二人だけで、のんびり過ごしてみたい」
「ここでもいいけど、小さな島の方がいいな」
「仕事が忙しいからこそ、こんな時間が必要なんだよね」
「人生って天秤棒に、二つの荷物を提げて歩いている。片方には仕事。そしてもう片方には日常。日常のなかは、『知だらけの学習塾』みたいな小さな研究と、楽しめる趣味と、こうしたのんびりとした時間が入っていなければならない。山本藤光『人間力マネジメント』に、そう書いてあった」
「恭二、日常って、仕事以外の全部のことなんだよね。そこをいかに磨くかが、私たち夫婦の大命題なんでしょう」
仕事以外の時間は、すべてが日常。そこから絶対に欠かせない、睡眠、食事、入浴などを差し引く。そして残った時間を、どう活用するかが問われている。そこを知的ではない活動で満たしてしまうと、味気のない日常に成り下がってしまう。そこまで思考をめぐらし、恭二は一気にグラスのワインを空けた。
「詩織、寝ようか」