山本藤光の文庫で読む500+α

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殊能将之『美濃牛』(講談社文庫)

2021-07-30 | 書評「し」の国内著者
殊能将之『美濃牛』(講談社文庫)

「鬼の頭を切り落とし…」首なし死体に始まり、名門一族が次々と殺されていく。あたかも伝承されたわらべ唄の如く。―『ハサミ男』で鮮烈なデビューを遂げた著者の才能を余すところなく表出し、ミステリのあらゆる意匠が豊潤に埋め込まれたこの物語は、新たな探偵小説の地平を切り拓き、2000年ミステリ界の伝説となる。(「BOOK」データベースより)

◎『ハサミ男』でデビュー

殊能将之(しゅのう・まさゆき)は1964年生まれで、2013年49歳で没しています。生前は覆面作家として通し、死後に素顔が明らかになっています。殊能将之は1999年『ハサミ男』(講談社文庫)にて、メフィスト賞を受賞してデビューしました。パズルのようなミステリーは斬新であり、あちこちに施された仕掛けも新人離れしていました。自分の殺人を模倣した犯人を追いかけるという、意外性のあるストーリーと、ユーモアにも味わいがありました。

第2作品『美濃牛』(講談社文庫、初出2000年)はプロローグ、エピローグを含めた全章に、引用文献がつけられています。これが各章を引っ張る大切な要素になっています。
前作で新しいタイプのミステリーを描いた殊能将之は、『美濃牛』のなかに前記のように104の参考・引用文献を散りばめています。この点について、著者自身が読者を嘲笑うようにコメントをつけています。
 
――たくさん引用が出てきますが、全部ちゃんと読んでいるなんて思わないでください。著者はとても不勉強な人間です。(本文より)

この時点で殊能将之については、あまり素顔が知られていません。1964年福井県生まれ。横溝正史のファンで、名古屋大学理学部の中退。編集プロダクションに勤務していた。このくらいしかわかっていませんでした。

『美濃牛』は、明らかに横溝正史を意識して書かれています。舞台は岐阜県暮枝村。ここには、旧家・羅堂家が所有する「亀恩洞」という鍾乳洞があります。
ある日、洞窟のなかの泉に、末期癌患者がつかります。そして、奇跡的に末期癌が治癒しています。この体験談が世間に広まり、「亀恩洞」に病める人々が押しかけはじめます。

フリーライターの天瀬は、謎の男・石動戯作の案内で「亀恩洞」の取材に向います。羅堂家の当主・真一は、7年前に暮枝へ引っ越してきました。すべての財産を次男・善次と三男・美雄に残し、家族と父親・陣一郎をともなっての移住でした。飛騨牛を育てることは、永年真一が夢見ていたことだったのです。

――牛は美しい。そして、ここにいる二列十二頭の牛たちは、とりわけ美しい。なんといっても、日本最高の黒毛和牛、牛のなかの牛、飛騨牛なのだから。」(本文より)

奇跡の泉により、静かだった村に人々があふれます。羅堂家は奇跡の泉を閉鎖してしまいます。取材はままなりません。ひっそりと暮らしていた二人のもとに、様々な思惑が集まり出します。病める人々を集めたコンミューンを造った保龍英利。不毛の土地に大きな価値が生れ、それをねらう真一の兄弟。
 
そんなとき、一番目の殺人事件が起きます。羅堂哲史と思われる首なし死体。そして次々に羅堂家にまつわる人たちが死んで行きます。この村で伝承されている童歌「鬼の頭を切り落とし……」を地で行く猟奇的な殺人事件。
案内人・石動と天瀬が事件に迫ります。『美濃牛』は、あらゆる趣向を駆使した壮大なミステリー作品です。殊能将之は、いくつもの思惑を重ね合わせます。『美濃牛』は、古い横溝正史の作品を、現代風に紡ぎ上げられた作品でした。

◎ひょんな場面から名探偵・石動は登場

殊能将之『櫁・榁(しきみ・むろ)』(講談社ノベルス・初出2002年)についても触れておきます。

 『ハサミ男』で鮮烈なデビューを遂げた、著者5冊目の作品です。本書は、二つの物語で構成されています。それが難解なタイトルの「櫁」(しきみ)と「榁」(むろ)となっています。両方とも植物の名前で、広辞苑にも載っていました。
 殊能将之は、第2作『美濃牛』以来、作品に名探偵・石動戯作を登場させています。とぼけていて味のある名探偵・石動は、殊能作品にはなくてはならない存在になりました。この作品でも、ひょんな場面から名探偵は登場します。

独立しているかにみえた二つの物語が、やがてつながります。若手のミステリー作家では、抜群の切れを持つ著者ならではの構成です。
しかも第一話は、完結していません。おそらく次の作品への伏線だと思います。殊能将之はそんな作家なのです。近鉄バファローズの大フアン。その理由は、尊敬する横溝正史がそうだったからです。(「新刊ニュース・2001年3月号を参考にしました)こんなところにも、著者の人間らしさがうかがえます。
 
私は第3作『黒い仏』(講談社文庫、初出2001年)で、一度著者をみかぎっています。第4作『鏡の中は日曜日』は、まだ読んでいません。『櫁・榁(しきみ・むろ)』を読み終え、第4作に逆戻りしようと思っています。
 殊能将之は新しさを感じるミステリーを、読んでみたい方にはお勧めです。昨今、分厚いミステリーが主流となっていますが、短くまとまった作品にも触れていただきたいと思います。殊能将之の新作を読めないのは寂しいですが、輝いていた時代の著者の代表作をお届けさせていただきました。

「山本藤光の文庫で読む500+α」は、一著者一作品を原則にしています。殊能将之作品の一押しは『ハサミ男』です。しかし「石動シリーズ」の魅力を知ってから、『ハサミ男』に戻ってほしいと思いました。
(山本藤光2002.06.18初稿、2021.07.24改稿)

210725:上原隆『晴れた日にかなしみの一つ』文庫に

2021-07-25 | 妙に知(明日)の日記
210725:上原隆『晴れた日にかなしみの一つ』文庫に
■東京五輪の開幕式は、質素ながら厳粛な雰囲気で好感がもてました。とにかく滑り出した五輪を、テレビの前で熱烈応援するしか術はありません。無事に閉幕を迎えることを祈るだけです。世界中に元気を発信しつつ。■上原隆『晴れた日にかなしみの一つ』(双葉文庫)が出ました。この人が描く世界は大好きです。内海隆一郎と似ています。簡単にプロフィールを紹介しておきます。――1949年生まれ。市井の人々の生き方に目を向けたルポルタージュや身の回りの何気ないことに温かな目を向けるエッセイから、「日本のボブ・グリーン」と称される。(ウイキペディア)
山本藤光


210723:またも立憲民主党の恥さらし発言

2021-07-23 | 妙に知(明日)の日記
210723:またも立憲民主党の恥さらし発言
■立憲民主党の川内博史議員が東京五輪・パラリンピック開会式で天皇陛下に要求した件について、東スポウエブは門田隆将のコメントを次のように紹介しています。――「五輪中止という政治的宣言を陛下に世界に向かってせよ、と。究極の〝陛下の政治利用〟に唖然。これが立憲の政策幹部」と党政調会長代行を務める川内議員を発言を疑問視。■これが野党第一党の、しかも立憲と冠をつけた党の幹部の発言です。身震いがしました。こんな奴は即刻議員を辞めるべきです。立憲民主党は腐っています。ロリコン議員も含めて、辞職勧告を出しなさい。
山本藤光


210722:東京五輪無観客でのスタート

2021-07-22 | 妙に知(明日)の日記
210722:東京五輪無観客でのスタート
東京五輪は開幕前の競技が始まりました。いろいろいいたいことはありますが、もう熱烈応援するしかありません。ソフトボールはコールド勝ち。女子サッカーは土壇場での同点ゴールで引き分け。順当な滑り出しの日本です。千葉県の高校野球決勝戦は観客入りでした。しかし無観客の五輪競技場は静まりかえっていました。このアンバランスの責任は、情けないことに菅政権にあります。
山本藤光

210721:菅さんの出番です

2021-07-21 | 妙に知(明日)の日記
210721:菅さんの出番です
■高校野球で学校内でコロナ陽性社が出たという理由により、出場停止になったチームがありました。球児は全員陰性だったにもかかわらず。キャプテンがツイッターで無念さを訴えました。それが文部科学省の大臣の目にとまり、不戦敗となったチームは、再試合できるようになりました。萩生田大臣と頭の固い高野連のまともな仕事が、こどもたちの夢をつないでくれました。■こんな感じで、東京五輪も有観客にしてもらいたいものです。支持率落ち目の菅さんの出番です。■梅崎春生『ボロ家の春秋』(講談社文芸文庫)は入手困難本でした。本作は今度、中公文庫として復刊されました。これを機会にぜひ読んでみてください。
山本藤光

210720:東京五輪の2つの冠を忘れたのか

2021-07-20 | 妙に知(明日)の日記
210720:東京五輪の2つの冠を忘れたのか
■東京五輪は、人類がコロナを克服した象徴。そして福島復興を象徴する大会のはずでした。それが一年延期で、あげく無観客の開催。これではコロナに敗北している象徴となってしまいます。外国ではスポーツイベントを満席開催し、国民はコロナ克服にわいています。恥ずべき日本政府と小池知事の愚挙を、許してはなりません。■韓国選手団は宿舎に反日横断幕を掲げました。しかも福島の食材が入っているのを理由に、日本が提供する食事を完全拒否しています。おまけに放射能測定器まで持ち込んでいます。これは日本が掲げる、福島復興に泥をぬるとんでもない行いです。日本は韓国に毅然と抗議しなければなりません。■そして日本のマスゴミと左翼集団は、東京五輪をいびつなものにしようと画策をつづけています。このままでは、史上最低の五輪になってしまいます。今からでも遅くない。東京五輪の冠を思い出し、政府は世界の祭典を、未来を担う若者たちに開放しなさい。若者の重傷者や感染者はぜっとゼロなのですから。
山本藤光

210719:浅田次郎のこと

2021-07-19 | 妙に知(明日)の日記
210719:浅田次郎のこと
浅田次郎は『壬生義士伝』(上下巻、文春文庫)と『鉄道員』(集英文庫)の書評を発信しています。プロフィールと浅田次郎に関する資料本を紹介します。
■プロフィール
1956年生まれ。自衛隊に入隊、除隊後はアパレル業界など様々な職につきながら投稿生活を続け、1991年、「とられてたまるか!」でデビュー。悪漢小説作品を経て、「地下鉄に乗って」で吉川英治文学新人賞、「鉄道員」で直木賞を受賞。時代小説の他に「蒼穹の昴」「中原の虹」などの清朝末期の歴史小説も含め、映画化、テレビ化された作品も多い。エッセイも多く、日本の大衆小説の伝統を受け継ぐ代表的な小説家といえる。
■資料本
――浅田次郎:自作を語る:週刊ブックレビュー20周年記念ブックガイド(NHKサービスセンター)
――朝日新聞社文芸編集部編:浅田次郎読本・待つ女(朝日文庫)
――阿刀田高:作家の決断・人生を見きわめた19人の証言(文春新書)
――解体全書neo(ダ・ヴィンチブックス)
――「別冊宝島」496号(2000.3.29発行):いまどきのブンガク
――児玉清:「あの作家に会いたい」人と作品をめぐる25の対話(PHP研究所2009)
――スタッフ番町:浅田次郎ルリ色の人生講座(コアラブックス)
――知っ得:現代の作家ガイド100(学燈社)
――福田和也:作家の値うち(飛鳥新社)
――文藝春秋編:私たちが生きた20世紀(下)(文春文庫)
山本藤光

210718:森谷明子『矢上教授の夏休み』購入

2021-07-18 | 妙に知(明日)の日記
210718:森谷明子『矢上教授の夏休み』購入
■日刊ゲンダイの記事の引用です。菅政権は青木の法則でみると危険水域になったようです。コロナ対応をみると、仕方がないことでしょう。――「青木の法則」とは、“参院のドン”と呼ばれた自民党の青木幹雄元官房長官が唱えたもので、内閣支持率と与党第1党の支持率の合計が50%を割ると、その内閣は倒れるというもの。今回の調査では、自民党の政党支持率も前月比1.4ポイント減の21.4%に下がった。内閣支持率29.3%と足して50.7%と“青木割れ”は目前だ。■森谷明子『矢上教授の夏休み』(祥伝社文庫)を購入。本書は『矢上教授の午後』(祥伝社文庫)の続編にあたります。前作に魅了されたので、本書も読んでみることにします。
山本藤光

210717:真藤順丈『宝島』文庫に

2021-07-17 | 妙に知(明日)の日記
210717:真藤順丈『宝島』文庫に
■親中派の二階たちがいる限り、もう自民党には投票しないと昨日書きました。そろそろ真の保守政党が生まれるべきときです。自民党はまず公明党と決別し、自由、民主主義、国民第一、人権、反全体主義の立ち位置で、再結成すべきです。■真藤順丈(しんどう・じゅんじょう)『宝島』が講談社文庫(上下巻)になりました。作品については、書評欄で紹介しています。直木賞受賞作である本書は、すさまじいスピードで、引っぱり続けてくれました。これを機会に、ぜひ読んでみてください。
山本藤光

210716:澤田瞳子『若冲』、佐藤究『QJKJQ』読むぞ

2021-07-16 | 妙に知(明日)の日記
210716:澤田瞳子『若冲』、佐藤究『QJKJQ』読むぞ
■東京五輪の無観客を決めたのは、小池知事でした。てっきり政府の決定かと思っていました。昨日の虎ノ門ニュースで、事の真相を知りました。そういえば宮城県は有観客開催を発表しています。大切な五輪を保身の道具にして、国民の夢と希望を毀損した罪はあまりにも大きい。とんでもないことをやってのけた張本人は、小池百合子だったのです。■直木賞に澤田瞳子と佐藤究が決まりました。二人とも作品に触れたことのない作家です。個人的には、呉勝浩(ご・かつひろ)を押していました。近いうちに受賞者の作品を読んで、自分なりの評価をしたいと思います。手元にある文庫から、澤田瞳子『若冲』(文春文庫)、佐藤究『QJKJQ』(講談社文庫)を選び出しました。
山本藤光