山本藤光の文庫で読む500+α

著書「仕事と日常を磨く人間力マネジメント」の読書ナビ

文春ムック「佐藤愛子の世界」出た

2021-06-30 | 妙に知(明日)の日記
文春ムック「佐藤愛子の世界」出た
■百田尚樹や有本香チャンネスは、いずれも途中で有料会員向けの番組に変わります。そのたびに不愉快な思いがします。金がほしいからという理由ではないと思います。私としては高校生や大学生にも観てもらいたいのですが、なぜ有料を導入しているのでしょうか。理解できません。■佐藤愛子のムックが出ました。文春ムック「佐藤愛子の世界」です。表紙には「もうすぐ98歳。佐藤愛子が本気で責任編集」とあります。収載作には直木賞受賞作「闘いすんで日が暮れて」もありました。入手困難な作品です。楽しいコラムや対談も満載です。
山本藤光

210629:プレイディみかこ『ぼくはイエローでホワイトで。ちょっとブルー』文庫に

2021-06-29 | 妙に知(明日)の日記
210629:プレイディみかこ『ぼくはイエローでホワイトで。ちょっとブルー』文庫に
■韓国の文大統領は、レイムダッグ状態といわれています。しかし最近の調査では、支持率は40%弱もあります。不支持は50%を越えていますが。支持者は過激といわれる労組です。最近労組のなかったサムスンにまで、労働争議が起こっています。しかし韓国民の多くは、現在野党の30代の代表に注目しているようです。まあ誰が大統領になっても、反日は変わらないのでしょうが。■プレイディみかこ『ぼくはイエローでホワイトで。ちょっとブルー』(新潮文庫)が刊行されました。本作は新潮社情報誌「波」に掲載され、大いに評判になりました。著者の実体験がユーモラスにつづられています。著者について、ウイキペディアを引用しておきます。――英国では、保育士の資格を取得し、失業者や、低所得者が無料で子どもを預けられる託児所で働く。また、成人向けの算数教室のアシスタントを経験する。そこで経済格差を実感するとともに、算数の二ケタの計算ができない大勢の大人に接して教育格差にも驚きを感じたという。
山本藤光


210628:谷崎潤一郎のこと

2021-06-28 | 妙に知(明日)の日記
210628:谷崎潤一郎のこと
谷崎潤一郎について紹介します。まずは簡単なプロフィールです。以下、ウイキペディア。――1886– 1965。代表作は「刺青」(1910年)「痴人の愛」(1925年)「春琴抄」1933年)
「陰翳禮讚」(1933年、随筆)「細雪」(1948年)「鍵」(1956年)「瘋癲老人日記」(1962年)など。■谷材に関する資料本は次のとおりです。
――阿川弘之:雪の進軍(講談社文庫)
――芥川龍之介:文芸的なあまりにも文芸的な(岩波文庫)
――安部公房・ドナルド・キーン:反劇的人間(中公新書)
――嵐山光三郎:文人悪食(新潮文庫)
――嵐山光三郎:追悼の達人(中公文庫)
――池島信平ほか:文壇よもやま話・下巻(中公文庫)
――井上ひさしほか編座談会・昭和文学史・第1巻(集英社)
――井上靖:作家点描(講談社)
――岩波明:文豪はみんな、うつ(幻冬舎新書)
――上野千鶴子ほか:男流文学論(ちくま文庫)
――大村彦次郎:文壇挽歌物語(ちくま文庫)
――J・C・オカザワ:文豪の味を食べる(マイコミ新書)
――カセット文芸講座:日本の近代文学(CBエンタープライズ)
――加藤周一:日本文学序説・下巻(ちくま学芸文庫)
――鎌田浩毅:使える!作家の名文方程式(PHP文庫)
――川西政明:文士と姦通(集英社新書)
――ドナルド・キーン:日本文学史・近代現代篇3(中公文庫)
――ドナルド・キーン著作集4・思い出の作家たち(新潮社)
――久保田淳:隅田川の文学(岩波新書)
――芸術新潮2015.12:谷崎潤一郎の女・食・住 
――河野多恵子:谷崎文学の肯定の欲望(中公文庫M138解説:磯田光一)
――河野多恵子:谷崎文学の愉しみ(中公文庫)
――国文学:現代作家110人の文体(1978年11月増刊号)
――小谷野敦:美人好きは罪悪か?(ちくま新書)
――小谷野敦:谷崎潤一郎伝(中央公論社)
――佐伯彰一:作家論集(未知谷)
――澁澤龍彦:日本作家論集成・上巻(河出文庫)
――清水義範:身もフタもない日本文学史(PHP新書)
――清水良典:文学がどうした(毎日新聞社)
――新潮文庫編:文豪ナビ――谷崎潤一郎(新潮文庫)
――瀬戸内寂聴:奇縁まんだら(日本経済新聞社)
――ダ・ヴィンチ:解体全書Ⅱ(リクルート)
――高峰秀子:私が出会った作家(「オール読物」2010年5月号)
――辰野隆:忘れ得ぬ人々と谷崎潤一郎(中公文庫)
――谷沢永一:こんな人生を送ってみたい・私が惚れた十五人(PHP文庫)
――千葉俊二・編:谷崎潤一郎文学案内(中公文庫)
――千葉俊二・坪内祐三編:日本近代文学評論選――昭和篇(岩波文庫)
――中上健次:風景の向こうへ(講談社文芸文庫)
――中川越:文豪たちの手紙の奥義(新潮文庫)
――中条省平:反・近代文学史(中公文庫)
――中条省平:恋愛書簡術(中公文庫)
――中村光夫:谷崎潤一郎論(講談社文芸文庫)
――中村光夫:日本の現代小説(岩波新書)
――野崎歓:谷崎潤一郎と異国の言語(中公文庫)
――爆笑問題:日本文学者変態論(幻冬舎)
――文学界2015.08:谷崎潤一郎の愉楽 
――松原新一ほか:戦後日本文学史・年表(講談社)
――水上勉:文壇放浪(新潮文庫)
――塩澤実信:文豪おもしろ豆事典(北辰堂出版)
――丸谷才一:別れの挨拶(集英社)
――三島由紀夫:作家論(中公文庫)
――三島由紀夫:文学的人生論(知恵の森文庫)
――三島由紀夫:裸体と衣装(新潮文庫)
――三好行雄・編:近代小説の読み方1(有斐閣新書)
――安岡章太郎:小説家の小説家論(福武文庫)
――山田風太郎:人間臨終図巻3(徳間文庫)
――吉行淳之介:文章読本(福武文庫)
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210627:島崎藤村のこと

2021-06-27 | 妙に知(明日)の日記
210627:島崎藤村のこと
■島崎藤村について、簡単に紹介します。以下、ウイキペディア。――1872-1943。『文学界』に参加し、ロマン主義詩人として『若菜集』などを出版。さらに小説に転じ、『破戒』『春』などで代表的な自然主義作家となった。作品は他に、日本自然主義文学の到達点とされる『家』、姪との近親姦を告白した『新生』、父をモデルとした歴史小説の大作『夜明け前』などがある。島崎藤村に関する関連資料は、次のとおりです。
――嵐山光三郎:文人悪食(新潮文庫)
――嵐山光三郎:追悼の達人(中公文庫)
――嵐山光三郎:文人悪妻(新潮文庫)
――池内紀:文学フシギ帖(岩波新書)
――猪野謙二:明治文学史・下巻(講談社)
――伊藤整:小説の方法(岩波文庫)
――伊藤整:改訂文学入門(光文社文庫)
――伊藤信吉・編:藤村のうた(現代教養文庫)
――井上ひさしほか編座談会・昭和文学史・第2巻(集英社)
――井上靖:作家点描(講談社)
――岩波明:文豪はみんな、うつ(幻冬舎新書)
――巌谷大四:懐かしき文士たち・昭和篇(文春文庫)
――桶谷秀昭:日本人の遺訓(文春新書)
――カセット文芸講座:日本の近代文学2(CBエンタープライズ)
――川西政明:文士と姦通(集英社新書)
――木原直彦:北海道文学史・明治編(北海道新聞社)
――ドナルド・キーン:著作集第4巻(新潮社)
――ドナルド・キーン:日本文学史・近代現代篇8(中公文庫)
――黒井千次:石の落葉(筑摩書房)
――講談社豪華版日本現代文学全集12・正宗白鳥
――国文学:現代作家110人の文体(1978年11月増刊号)
――佐伯彰一:作家論集(未知谷)
――篠田浩一郎:小説は如何に書かれたか・「破戒」から「死霊」まで(岩波新書)
――関川夏央:一九〇五年の彼ら・現代の発端を生きた十二人の文学者(NHK出版新書)
――瀬戸内寂聴:奇縁まんだら(日本経済新聞社)
――高橋和巳:高橋和巳作品集8(河出書房新社)
――中川越:文豪たちの手紙の奥義(新潮文庫)
――中村光夫:日本の近代小説(岩波新書)
――中村光夫:日本の現代小説(岩波新書)
――爆笑問題:日本文学者変態論(幻冬舎)
――馬場孤蝶:明治文壇の人々(ウェッジ文庫)
――平野謙:現代日本文学大系79(筑摩書房)
――平野謙:島崎藤村・人と文学(新潮文庫)
――福田和也:大作家ろくでなし列伝(ワニ新書)
――福田国士:文豪が愛し名作が生まれた温泉宿(祥伝社新書)
――正宗白鳥:作家論(岩波文庫)
――室生犀星:我が愛する詩人の伝記(豪華版日本現代文学全集27)
――山田風太郎:人間臨終図巻2(徳間文庫)
――和田芳恵:順番が来るまで(講談社文芸文庫)
山本藤光

210626:山本周五郎のこと

2021-06-26 | 妙に知(明日)の日記
210626:山本周五郎のこと
■山本周五郎は『青べか物語・新装版』(新潮文庫)を紹介しています。周五郎の長編は『山本周五郎長篇小説全集』(新潮社)などで読むことができます。以下、周五郎の略歴です。――1903-1967。1926年(昭和元年)「文藝春秋4月号」に:「須磨寺附近」が掲載されこれが文壇出世作となる。1943年(昭和18年)第17回直木賞に「日本婦道記」が選ばれるが辞退。1959年(昭和34)「樅の木は残った」が毎日出版文化賞に選ばれるが辞退する。1961年(昭和36年)文藝春秋読者賞に「青べか物語」が選ばれるが辞退。(ウイキペディア)■就労に関する論評を紹介して起きます。
――尾崎秀樹:山本周五郎論(白川書院)
――開高健:開高健の文学論(中公文庫)
――大沢在昌:作家との遭遇(新潮社)
――木村久迩典:素顔の山本周五郎(新潮文庫)
――大村彦次郎:文壇挽歌物語(ちくま文庫)
――清原康正:山本周五郎のことば(新潮新書)
――早乙女貢:わが師山本周五郎(集英社文庫)
――塩澤実信:文豪おもしろ豆事典(北辰堂出版)
――関川夏央:おじさんはなぜ時代小説が好きか(集英社文庫)
――谷沢永一:紙つぶて(全)(文春文庫)
――出久根達郎:作家の値段(講談社文庫)
――爆笑問題:日本文学者変態論(幻冬舎)
――福田和也:山本周五郎で生きる悦びを知る(PHP新書)
――文藝春秋編:想い出の作家たち(文春文庫)
――山田風太郎:人間臨終図巻2(徳間文庫)
――山本一力・縄田一男・児玉清:ぼくらが惚れた時代小説(朝日文庫)
――洋泉社MOOK:時代小説ベスト100(洋泉社)
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210625:米澤穂信『本と鍵の季節』文庫に

2021-06-25 | 妙に知(明日)の日記
210625:米澤穂信『本と鍵の季節』文庫に
■対中非難決議案採択を二階と林幹雄がホゴにした件。すっぱ抜いた有本香さんは、虎ノ門ニュースで自民党幹事長室から届いた抗議文を公開しました。「ジェノサイドなど興味はない」林はそんなことはいっていないという言い訳の文章で、まるで小学生が書いたような稚拙な文面でした。中国への非難決議書を出さなかったことに対する、国民からの追求は自民党に大激震をおこしています。自業自得。■米澤穂信(よねざわ・ほのぶ)は『ボトルネック』(新潮文庫)を紹介しています。今度『本と鍵の季節』(集英社文庫)が文庫化されました。早速再読して、紹介作を変えたいと思っています。個人的には『ボトルネック』は捨てがたいのですが、一作家一作と紹介本を原則的に決めています。
山本藤光


210624:西條奈加『永田町小町バトル』読むぞ

2021-06-24 | 妙に知(明日)の日記
210624:西條奈加『永田町小町バトル』読むぞ
■3月からコロナ発生源は武漢ウイルス研究所説が、陰謀論からまっとうなニュースへと転換しました。アメリカ政府もマスコミも、なぜ急に態度を変えたのか不思議でした。ここにきて、中国の国家安全部ナンバー2がアメリカに亡命した、という噂が流れはじめています。事実なら、武漢研究所について熟知している大物の、リークが前提としてあったのでしょう。■時代小説が中心の直木賞作家・西條奈加の最新文庫『永田町小町バトル』(実日文庫)を購入しました。直木賞受賞作『心淋し川』(集英社)で実力を熟知している作家の、エンタメ小説も読んでみたいと思いました。幅広いジャンルを描けるのが、直木賞作家です。というわけで、実力拝見となります。
山本藤光


210623:川上未映子『水瓶』に期待

2021-06-23 | 妙に知(明日)の日記
210623:川上未映子『水瓶』に期待
■昨日の虎ノ門ニュースで門田隆将は、「6・16の屈辱」と表現していました。対中非難決議が二階ら親中議員や公明党によって葬り去れた日のことです。まったく同感です。日本人として恥ずかしく思いました。G7で菅総理は中国を名指しで、非難しています。今回の非難決議案は、中国の名前さえ消された情けないものです。それすらまとめられないのですから、国会議員は恥を知れ。■川上未映子『水瓶』(ちくま文庫)を購入。川上未映子の描く短篇小説に好感をもっています。特に『乳と卵』(文春文庫)を高く評価しています。『水瓶』は評判のよい作品ですので、楽しみに読みたいと思います。
山本藤光


『向田邦子ベスト・エッセイ』もうすぐ10万部

2021-06-22 | 妙に知(明日)の日記
『向田邦子ベスト・エッセイ』もうすぐ10万部
■巨人スモーク選手の退団理由に驚きました。家族がコロナ禍で来日できないとのこと。なぜ、と首をひねってしまいました。ビジネスといえばユルユル入国できます。家族はなぜ入国させられないのでしょうか。ビジネスでないから? 頭が硬すぎます。■今年の8月は向田邦子(むこうだ・くにこ)の40周忌にあたります。3月に出た『向田邦子ベスト・エッセイ』 (ちくま文庫)は、10万部に迫る勢いとのことです(産経新聞)。私は『思い出トランプ』(新潮文庫)を推薦作として紹介しています。産経の記事に触れて、本書を読んでみたくなりました。妹・和子が厳選した一冊とのことです。
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首藤瓜於『脳男』(講談社文庫)

2021-06-21 | 書評「し」の国内著者
首藤瓜於『脳男』(講談社文庫)

連続爆弾犯のアジトで見つかった、心を持たない男・鈴木一郎。逮捕後、新たな爆弾の在処を警察に告げた、この男は共犯者なのか。男の精神鑑定を担当する医師・鷲谷真梨子は、彼の本性を探ろうとするが…。そして、男が入院する病院に爆弾が仕掛けられた。全選考委員が絶賛した超絶の江戸川乱歩賞受賞作。(「BOOK」データベースより)

◎爆弾犯の逮捕

ソン・ウォンピョン『アーモンド』の書評を書きながら、何度も首藤瓜於『脳男』(講談社文庫)のことが頭に浮かびました。感情をもたない主人公という共通点が気になったのです。『脳男』は20年ほど前に読んでいます。しかし、すっかりストーリーを忘れてしまっています。そんな折りに書店で『脳男』新装版を発見しました。帯には「美しき殺戮者、戦慄のダークヒーロー」と新たに書かれていました。

そこで再読を試みました。当時の興奮が、一挙によみがえってきました。奇抜な設定も、すぐに思い出しました。独特の個性だった刑事や脳外科医も、かくれんぼうでもしていたかのように、姿を現してくれました。

本書は「2000年傑作ミステリーベスト10」(週刊文春)の第1位に輝いています。そして江戸川乱歩賞も受賞しています。当時の私は、PHPメルマガ「ブックチェイス」で書評の連載をしていました。出版社から毎月たくさんの寄贈本がありましたが、話題に煽られて手にしたことまでよみがえってきました。

以下は当時の原稿に、再読後手入れしたものです。

タイトルを見て、笑ってしまいました。何とも安直なタイトルではないですか。江戸川乱歩賞受賞作のことです。「男」の前に単語を冠せた作品はたくさんあります。ざっとあげてみましょう。

安部公房『箱男』(新潮文庫、初出1973年)、小林恭二『電話男』(ハルキ文庫、初出は福武書店、1985年)、原田宗典『スメル男』(講談社文庫、初出1989年)、清水義範『蛙男』(幻冬舎文庫、初出1999年)、殊能将之『ハサミ男』(講談社文庫、初出1999年)

タイトルは単純なのですが、これらの作品はどれも面白く読むことができました。そして、『脳男』も、例外ではありませんでした。連続爆弾事件が勃発します。舞台は愛知県愛宕市。三件目の爆破事件で、捜査員は犯人らしき人物を発見します。
 
現場では犯人とおぼしき二人の男が、仲間割れしてもみ合っていました。そのうちの一人は、爆弾犯としてマークしていた緑川でした。巨漢の捜査員・茶屋は緑川を取り逃がしてしまいます。しかし、もう一人を逮捕することができました。捕らえられた男は、自らを鈴木一郎と名乗ります。

◎奇想天外なものがたり

鈴木一郎は拘置所から鑑定入院のために、病院へ護送されます。担当医は鷲谷真梨子。鑑定を進めるうちに、男の不可思議な状況が明らかになっていきます。鈴木一郎は、過去を記憶していません。しかし一度インプットしたものの記憶は、失いません。彼には感情はありません。

臨床医として、鈴木一郎に迫る真梨子。連続爆弾事件の片割れとして、鈴木一郎に迫る茶屋。事件は、鈴木一郎の過去へとさかのぼります。少しずつクリアになる過去。ここから先はネタバレになります。深追いはしないことにしっます。

首藤瓜於は新人離れした筆力で、作品を引っ張ります。

連続爆弾事件は続きます。そこには、潜伏している緑川の姿がちらついています。ばらばらだったピースは、次第に一箇所に集まりはじめます。そしてパニックが起こります。

この作品の妙味は、登場人物のキャラクターにあります。鈴木一郎という感情をもたない個性の造形は、秀逸です。しかも脇役まで、個性がとがっています。このあたりについては、江戸川乱歩賞の選評に的確な文章がありました。

――受賞作は、スピード感のある展開で、意志や感情をまったく持たない男の、自我の回復を描いて、きわめて個性的で際立った作品に仕あがっていた。人間性や能力の、欠落と、それと相反する豊かさが、想像上のものだとわかっていても、不思議なリアリティと迫真力を持っていた。その男に対する、ヒロインの女性精神科医が、またいい。茶屋という刑事とともに、作品に輝きを添えた。(北方謙三)
――「脳男」の受賞は順当な結果である。候補作の中で、唯一、独自の世界と文体を持った作品だった。ユニークなキャラクターと、その成長過程を辿っていく展開にはミステリー的な感興がある。(赤川次郎)

奇想天外な物語を、ここまで書き上げる作者の能力に脱帽です。
(山本藤光:2000.09.3・PHP研究所「ブック・チェイス」掲載:改稿2021.06.16)