山本藤光の「人間力」養成講座

著書「仕事と日常を磨く人間力マネジメント」の続編です。


202:温泉郷推進室

2019-11-21 | 小説「町おこしの賦」
202:温泉郷推進室
 標茶町役場の一室に、「標茶町温泉郷推進室」の看板が掲げられた。本日が第一回目の会議である。瀬口恭二と宮瀬幸史郎の顔もある。責任者の斉藤観光課長から、温泉郷構想の具体的な説明がなされた。
「オープンは三年後の九月一日。それまでに、客室百超のホテルを四軒建設します。観光客向けの商店は、当面二十軒を予定しています。ここまでで何か質問はありますか」
 恭二が手を上げた。
「藤野温泉ホテルの客室数は五十ですが、増築するなりの対応が必要ですか?」
「そこまでは検討していません。四軒並べることが現状での最大の課題です」
「四軒のホテルをフル稼働させるための、具体策をおうかがいしたいんですが」
 幸史郎は、北村広報課長の方に顔を向けて質問した。
「団体客を集めるための方策を、現在検討中です。大手旅行会社への働きかけを含めて、修学旅行や同窓会なども誘致したいと考えています。あとは新聞などのメディアの活用と、テレビコマーシャルも念頭に入れています。そのほか駅などでのポスター掲示なども、視野に入れています」
 恭二は、また手を上げた。
「温泉を訪れる客のウエイトは、団体よりも個人が増えているという話を耳にしています。個人客に向けた有効なメッセージも必要だと思います」
「個人客の誘致には、観光資源と料理を含めたホテルのもてなしが重要になります。見る、体験する、食べる、を満喫していただくしかけは大切でしょうね」

 北村の話を引き取って、斉藤が続けた。
「これは過去にない、標茶町の大事業です。町民の一人ひとりも、観光客誘致の大使になってもらわなければなりません。先日議会で承認されましたが、冬場対策の一環として、『おあしす』に温水プールを建設することになりました」
 恭二は初めて聞く構想に、驚きを隠せない。手を上げて、質問する。
「冬でも活用できる温水プールは大賛成ですが、規模とか併設施設とかはどうなっていますか?」
「五十メートルで八レーンの競泳大会が可能なサイズです。二階には、スポーツジムとサウナとシャワー室を予定しています」
 
宮瀬町長は力強く、標茶町を引っ張っている。恭二の脳内に、標茶町の地図が広がる。まだ白地図だったが、「おあしす」と温泉郷の部分に、淡い色が浮き出てきた。
恭二は力になりたい、と思った。ホテルと商店街の誘致は、恭二の役割になった。ここに固有名詞を書きこむのが、恭二に期待されている役割だった。
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139:呼称の進化論

2019-11-21 | 新・営業リーダーのための「めんどうかい」
139:呼称の進化論
――第11章:同行時の話法・ツール
 同行時に上司は確実に、部下と顧客のコンタクトレベルを掌握できます。相手に対する部下の物腰とかしゃべり方で、顧客との距離は推察できます。

 私は次の方法で、客観的なコンタクトレベルを測ることを勧めています。顧客が部下を何と呼んでいるか。これでコンタクトレベルはわかります。私はそれを「呼称の進化論」と呼んでいます。

 病院の医局の例で、考えてみてください。医局にはA、B、C社のMR(医薬情報担当者=営業職)がいます。ソファーに医師が座っていて、それを取り巻くようにMRが立っています。
医師「きみ(A社のMR)、その新聞を取ってくれないか」
医師「B社さん、その新聞を取ってくれないか」
医師「山本さん(C社のMR)、その新聞を取ってくれないかい」

◎考えてみましょう
 
 3社のMRのなかで、医師と最もコンタクトレベルが高いのはどこの会社でしょうか。もうおわかりですよね。顧客は親しくなるにつれ、営業担当者の呼び方を変えます。
 営業リーダーは部下が顧客から、何と呼ばれているかを観察していればいいわけです。この方が先入観なしに、判断することは可能です。

営業担当者の「PDCAサイクル」で示すなら、呼称の進化は部下にも理解させるべきです。呼称の進化は、「C:新しい何かを発見する」と大切な要件となります。
「課長、A先生がやっとぼくの名前を覚えてくれました」
 部下が目を輝かして報告してくれます。当然「やったな」と応じます。それから「いよいよ、踏み込んだアプローチのときだな」などと、話し込むわけです。

同行すると、顧客は「きみ」や「B社さん」を封印せざるを得ません。呼びかけた対象が2人いるのですから、必然的に部下の固有名詞を用いることになります。コンタクトレベルをあげるチャンスが、同行にはあるのです。

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『北村薫のうた合わせ百人一首』がいい

2019-11-21 | 妙に知(明日)の日記
『北村薫のうた合わせ百人一首』がいい
■自分の口臭は、本人には感じ取れません。老臭はどうだろうと、腕に鼻をあててみました。無臭。この試みで同窓会のときに、友人が放った一言を思い出しました。30年振りに顔を合わせた初恋の人のことを、「老けていてがっかりした」といったのです。彼は自分の老化に、気づいていないのでしょう。■『北村薫のうた合わせ百人一首』(新潮文庫)は、毎日1ページずつ読み進めています。2つの短歌を組み合わせて、その世界を広げたり深く見詰めたりしています。北村薫らしい独特な世界が、2首の短歌に彩りを与えてくれます。短歌にはこんな謎解きができるのだ、と感心しました。
山本藤光2019.11.21

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201:町長からの委託

2019-11-20 | 小説「町おこしの賦」
201:町長からの委託
 宮瀬哲伸町長から呼ばれて、瀬口恭二と宮瀬幸史郎は町長室に入った。
「二人には、標茶町温泉郷の推進室に入ってもらいます。臨時雇用ですが、二人にはその中心メンバーになってもらいたい。瀬口くんには、私の後任として標茶町観光協会会長および『おあしす』の館長をお願いしてある。幸史郎には、宮瀬建設の社長を継いでもらうと頼んだ。ただし今回の温泉郷の建設事業は、越川多衣良(たいら)社長の越川工務店とジョイントビジネスとして実施してもらいたい。町民から後ろ指を差されないように、これだけはしっかりと厳守すること、いいかな」
「ありがとうございます。喜んで引き受けさせていただきます」
 恭二はいった。気合いのこもった声だった。
「ありがとうございます。多衣良社長とは力を合わせて、温泉郷建設にあたります」
 幸史郎も、きっぱりといった。
「標茶町には二人の力が必要だ。観光課の斉藤課長と広報の北村課長が、温泉郷推進委員会の責任者だから、二人とは綿密な連絡を取り合うようにしてもらいたい」
 
町長室を出た二人は、「おあしす」の喫茶コーナーで向かい合っている。
「明日から、恭二がここの館長だ。夏場はすごい賑わいだけど、冬になるとスカスカになってしまう。まずはその対策が必要だな」
「ここも大切だけど、何としてでも四軒のホテル誘致が難題だ。セントラル温泉や満月家ホテルなどと、早急に交渉しなければならない」
「おれの方も、多衣良社長とは選挙で争っている。前町長の越川さんの長男の応援で、あっちもずいぶん汚い手を使っていた。殴り合いにはならなかったが、まずは血みどろの町長選挙の後始末が必要だ」
 二人は思い思いに、胸のうちを語り合った。二人の肩には、ずっしりと責任という重しが乗った。
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138:宣伝回数の倍増

2019-11-20 | 新・営業リーダーのための「めんどうかい」
138:宣伝回数の倍増
――第11章:同行時の話法・ツール
◎考えてみましょう

 通常、営業担当者は、前記のような宣伝をしています。営業担当者はBの商談を決めて、Aの底上げを図りたかったのです。ところが、長い商談になると、後半で顧客がいらだつケースは多いものです。

 この流れでは、2品目宣伝は絶対にできません。2品目宣伝が、確実にできる話法を紹介しましょう。

営業「いつも当社のA(既存納入品)をお世話になっています。お客さんの評判はいかがですか?」
顧客「まあ、ボチボチというところかな」
営業「ありがとうございます。今後とも入力をよろしくお願いします。ところで本日は、かねてからお話させていただいている、B(新規納入攻略品)について……」

 おわかりでしょうか。このケースでは、既存品のお礼を最初に行っています。その後、本題に入っているのです。これなら、2品目宣伝は確実に実施できます。

物理的に1日10人としか面談できない、営業担当者がいたとしましょう。この人のコール数(宣伝品目数)を倍にするのが、2品目宣伝となります。同行時に営業リーダーは、この話法を指導しなければなりません。

イベントや製品説明会に参加してくれた顧客についても、しっかりと面談数に含めてください。営業担当者にとって、マスアプローチは大切な仕事ですから。
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瀬戸内寂聴『寂聴九十七歳の遺言』読むぞ

2019-11-20 | 妙に知(明日)の日記
瀬戸内寂聴『寂聴九十七歳の遺言』読むぞ
■安部総理主催の「桜を観る会」は、税金を遣った選挙対策であることが露呈しました。長期政権のゆるみなのでしょう。こんなことに税金を遣う卑しさが許せません。世の中には困っている人がたくさんいます。政府は姿勢を正さなければなりません。■瀬戸内寂聴『寂聴九十七歳の遺言』(朝日新書)購入。「死についても楽しく考えたほうがいいわね」というコピーに心を奪われました。当然、待機本
棚に入れます。ただし、本書は割り込みで、すぐに読むことになるでしょう。
山本藤光2019.11.20

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200:温泉郷への第一歩

2019-11-19 | 小説「町おこしの賦」
200:温泉郷への第一歩
 宮瀬哲伸は議会の就任あいさつで、標茶町温泉郷の構想を語った。
「標茶町は人の数よりも、牛の数の方が多い町になってしまいました。そしてこの町は、冬期の半年間は死んでしまいます。農業も林業も建築も、冬場は仕事を失っています。そんな標茶町を、何としてでも活性化させたい。そんな一心で、町長選挙に立候補させていただきました。
 標茶町を一大温泉郷にする。私の公約は、冬場も活気を取り戻す標茶町の建設であり、観光客が押し寄せてくる標茶町の創造であります。幸い標茶には、良質なモール温泉があります。これを活用して温泉ホテルを建設し、観光客の誘致を図ります。冬場に職を失っていた人の雇用を回復し、標茶町民への収益還元も実現させます。
 町議のみなさんにも、標茶町温泉郷実現に尽力していただきたいと思います。ゴールは三年後の九月一日。この日に標茶町は生まれ変わります」

 町長の演説が終わった。議場は大きな拍手で包まれた。傍聴席にいた恭二は、宮瀬哲伸のとてつもないパワーを実感していた。「空気まで死んでいる」といっていた、亡き南川理佐の言葉がよみがえる。
宮瀬町長は、大型で強力な扇風機を持ちこんだ。それで死んだ空気を、一掃しようとしている。恭二の胸のなかに、新しい空気が送りこまれてきた。

「いい演説だったな。恭二、長い間選挙の応援をしてきたけど、やっと報われたな」
 隣りの幸史郎は、耳元でささやいた。宮瀬町長に続いて、斉藤観光課長が演台に立った。
「宮瀬町長からお話のあった標茶町温泉郷構想の具体例を示します。現在藤野温泉ホテルのある地区を、温泉郷といたします。そこには客室数百くらいの規模の、温泉ホテルを四軒建設します。藤野温泉ホテルの現在の客室数は五十ですので、倍の規模のホテル建設となります。
そして藤野温泉ホテル前の空き地に、観光客のためのお店を作ります。釧路からの電車の本数が少ないので、送迎用のバスを二台用意します。このバスは単なる送迎だけではなく、町民の足としても活用してもらえるように、現在ルートを検討中です」

 恭二の脳裏にはくっきりと、新しい標茶町の絵が浮かんだ。大きな転換に、何としてでも寄与したい。萎んでいた胸に、新たな活力がみなぎってきた。恭二はそう感じた。
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137:2品目宣伝を確実に

2019-11-19 | 新・営業リーダーのための「めんどうかい」
137:2品目宣伝を確実に
――第11章:同行時の話法・ツール
 ルートセールスの場合、訪問軒数と宣伝品目数が多い方が売上は上がります。ただし、大前提に活動の「質」があることを忘れてはなりません。活動の「量」だけを、追っかけている会社は多いものです。それはそれで、間違ってはいないのですけれど。

 せっかく量の検証をするなら、そこに質を加味していただきたいと思います。それが本書の趣旨でもあります。質の検証ができるのは、営業リーダーしか存在しません。しかも検証するのは、現場で実証以外にはあり得ません。

 2品目宣伝を、容易にできる話法があります。次のショートストーリーで、考えていただきたいと思います。

◎ショートストーリー

 顧客は、製品Aを採用してくれています。営業担当者は、さらに製品Bを納入したいと活動しています。これから示す営業担当者には、2品目宣伝をする余裕がありません。

営業(パンフレットを指し示しながら)「おはようございます。本日は、何とかBをご採用いただけないかと、おじゃまさせていただきました」
顧客「同じような他社製品を採用しているので、これ以上製品は増やせない」
営業「市場では、私どものBが圧倒的に売れているのですが……」
顧客「きみのところは、利益率が少ないので採用できない。それとも、大幅に値引きができるようになったの?」
営業「それはできませんが、量がさばけるように、ポスターやキャラクターを大量に用意させていただきます」
顧客「ダメだね。通路が狭くなっちゃうし、そんなもので売れるとは思えない」
営業「そこを何とか」
顧客(いらだちをみせはじめる)
営業「何とか前向きにご検討いただきたく、お願いいたします」
(退席)
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ウェブスター『あしながおじさん』読むぞ

2019-11-19 | 妙に知(明日)の日記
ウェブスター『あしながおじさん』読むぞ
■家には2つのホワイトボードがあります。一つは大きなサイズのもので、小説などの構想を練るときに用います。もう一つはA4サイズほどのもので、こちらは机上においてあります。メモ用紙の代わりです。こちらはひんぱんに活用しています。重宝しています。■新潮文庫の「名作新訳コレクション」シリーズは、味わい深い選択をしてくれています。本日は書棚から、ウェブスター『あしながおじさん』(岩本正憲訳)『続あしながおじさん』(畔柳和代訳)を引っ張り出しました。本書は幼いころから知っていました。しかし、まともに読んだことはありません。最近、児童文学が恋しくなっています。
山本藤光2019.11.19

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199:雪が溶けたら

2019-11-18 | 小説「町おこしの賦」
199:雪が溶けたら
 当選後の宮瀬家には、あいさつの客が絶えることがなかった。恭二と詩織は幸史郎に招かれて、リビングでお祝いをしていた。客がくるたびに、宮瀬哲伸は席を立った。
「大変なことになったね。これじゃ先が思いやられる……私はね、絶対に落選すると思っていたから、安心していたんだけど」
 宮瀬の妻・昭子は、玄関に向かう夫の後ろ姿を見ながら、小声でいった。
「これでは、部屋のなかが暖まらない。玄関が開くたびに、冷たい風が入ってくるんだから」
 可穂の隣りには、婚約者の長島がいた。長島は可穂の話を受けて、ぶるぶる震える格好をしてみせた。

「宮瀬さんが町長になったんだから、標茶は大変身する。詩織のところを中核にして、一大温泉郷を建設するのは、普通の人ではできない発想だよ」
 恭二の言葉を受けて、詩織はすぐに続けた。
「私も同感。うちのお父さんは、宮瀬町長が決まった日に、一人で祝杯を上げてひっくり返っちゃった」
「恭二の仕事も決まったし、めでたい春になったな」
 幸史郎は手酌で冷酒を注ぎ、うれしそうな視線を恭二に向けた。
「感謝している。責任は重いけど、頑張るよ」

 宮瀬が玄関から戻ってきた。
「たまらないね。こんなにあいさつ客が多いのは、初めての経験だ」
「仕方がないわよ、町長さんになったんだから」
 昭子の言葉と重なるように、またチャイムが鳴った。ため息をついて、宮瀬は玄関へ向かう。そして大きな声で告げる。
「昭子、彩乃と恭一さんだ」
 リビングに姿を現した彩乃のお腹は、バレーボールからビア樽に変わっていた。
「お父さん、町長就任おめでとうございます」
 恭一はそうあいさつしてから、恭二を認めて「何だ、恭二もきていたのか」といった。
「恭二くんはね、今年から標茶町観光協会会長兼『おあしす』の館長だよ」
 宮瀬の説明に、恭一の顔がほころんだ。
「それはよかった。恭二、おめでとう」

 恭二は詩織と一緒に、宮瀬家を辞した。
「詩織、家まで送って行くよ」
「久し振りだね。恭二と並んで歩くのは」
 残雪に足を取られかけて、詩織は恭二の腕にしがみついた。そしてそのまま、腕を組んで歩いた。外は冷え冷えとしていたが、詩織の体温は寒気を跳ね返していた。
「詩織。おれの人生を、宮瀬さんの構想に賭けてみる。やっとやりたいことが、見つかったって感じだ」
「よかった。恭二の決意表明は、私がしっかりと聞いたからね」
「詩織、おれたち、やり直せるかもしれない。本物の春になってもこの気持ちが変わっていなかったら、おれ、きっと大切なことを詩織に告げそうな予感がする」
「恭二、雪が溶けたら何になるか知ってる?」
「水だろう」
「ブー。春になるのよ」
 笑った拍子に、二人はしっかりと手をつないでいた。 
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