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山本藤光の文庫で読む500+α

著書「仕事と日常を磨く人間力マネジメント」の読書ナビ

一気読み「ビリーの挑戦」119-124

2018-03-14 | 一気読み「ビリーの挑戦」
一気読み「ビリーの挑戦」119-124
119cut:誰かが会議を見てこい
――20scene:9月の会議
影野小枝 釧路オフイスの会議室、午前8時半です。相変わらず、机の真ん中には空のダンボールが置いてあります。
漆原 札幌支店1課の新谷リーダーを紹介しよう。今日1日はオブザーバーとして、会議に参加します。その理由は、直接本人から話してもらいます。
新谷 みなさん、おはようございます。漆原リーダーとは同期入社でして、よきライバルでもあります。本日貴重な会議に参加させていただいたのは、札幌支店の全リーダーの要望に基づくものです。なぜ釧路営業所が急速に伸びたのか。みんな驚いています。私がおじゃましたきっかけは、支店長の一言でした。「誰かが会議を見てこい。それを全員に報告したらいい」――それで、私が代表として、のこのことやってきた次第です。どうぞよろしくお願いします。
太田 何だか恥ずかしいですね。(紙玉をダンボールへ放り投げるポーズ。以下同様)
漆原 残念ながら、8月は9100万円と足踏み状態だった。間に夏休みが入り、実働時間が少なかったのだから仕方がない。これについて、何か意見はあるかい?
山之内 私たちが働く時間と実績は相関する。そのことの証だと思います。
石川 働く時間と実績の相関は、本社が顧客ごとに分析しています。訪問回数と実績の推移ですが、「量」だけの分析では無意味だと思います。やはり問題は、「質」にあります。その質を磨いてこなかったから、このチームはずっと低迷していました。
乾 質のレベルアップをはかるのは、難しいことです。自分ではわかりにくいし、やはり上司が現場で見てくれて、はじめて浮き彫りになるものと思います。漆原さんがひんぱんに同行してくれ、例の「身の丈コンピタンシー」をやってくれるから、我々はワンランク上の活動を思い描けます。
寺沢 時間がない、は言い訳にすぎません。私は7月よりも、8月の方が20%も数字を上げています。8月に夏休みがあるのは、ずっと前からわかっていたことです。それに対応できなかったのは、チーム内にまだ甘さが残っている証拠です。(段ボールに向かって紙玉を投げるポーズはまだつづいている)
石川 テラは一人前になったよ。おまえがいっているのは正論だ。
影野小枝 新谷さんは驚いています。漆原さんの一つの問い掛けに、止まることのない意見が飛び交うのですから。

120cut:日常の方の自慢はないのか
――20scene:9月の会議
影野小枝 会議の続きです。現在午前11時になります。
太田 先月は、足を引っ張ってしまいました。申し訳ありません。ただし、今月につながる仕事のなかから、特大なものを発表します。テリトリー内に新設されるS病院は、今月オープンとなります。半年間開設準備室を手伝い、先週打ち上げ式がありました。そのときに薬局長に聞いたのですが、全製品が採用され、しかも薬剤の取り扱いナンバーワン・メーカーとのことです。病院がオープンするまでのプロセスを勉強したい。そう申し入れて半年。休日のほとんどはつぶれましたが、楽しくやることができました。(拍手、歓声)
山之内 太田の執念が実りました。S病院からは、今月450万円の注文がありそうです。
影野小枝 再び拍手と歓声が、鳴り響いています。寺沢さんは万歳をしていますよ。
乾 トップの座が、危うくなっています。太田は希望の内勤へ、配転させておくべきでした。そうすれば、私の地位は安泰だったのですが。
漆原 ついにやったな。おめでとう。ところで、日常の方の自慢はないのかい?
太田 毎月、新書を2冊読んでいます。感想はみなさんに送っていますが、いつもやさしい方の1冊を選んであげています。みなさんのレベルに合わせるために、結構苦労しています。(笑)
寺沢 男の料理の方ですが、現在は手打ちそばを修業しています。大晦日には間に合うように、必死で勉強しています。楽しみにしていてください。次は仕事の方ですけど、『メルマガ・ビリーの挑戦』に掲載されていた「2品目宣伝」を実施し、その効果に驚いています。既存品の処方が、あっちこっちで増えはじめました。
漆原 年越しそばは楽しみにしている。それよりもテラ、2品目宣伝について新谷リーダーに説明してあげてくれないかい。
寺沢 2品目宣伝は、田中さんの成功例です。本当に紹介したい薬剤は、2番目に宣伝すべきだという論文でして……。
田中 論文じゃないぞ。単なる実践の成功例だ。
寺沢 Aの新規採用を目指している。こんなときは、夢中になってAの紹介をします。するとドクターも聞き疲れて、既存品Bの紹介ができません。そこで田中話法が登場します。こんな具合にやります。「先生、いつもBの処方をありがとうございます。いかがですか?」。続いて本題に入ります。「ところで本日は、先生にご紹介したい薬剤がありまして……」。これなら、簡単に2品目宣伝が可能です。
石川 私も試してみました。ディテーリング(宣伝)回数が倍増するのですから、効果はてきめんです。
影野小枝 新谷さん、うなずきながら大きな拍手をしています。自慢コーナーはまだまだ続きますが、最後の場面を見てみましょう。
漆原 いつものとおり、採決をしよう。挙手は1回だけ。もちろん自分の自慢話には手を挙げられない。では太田の自慢が一番だったと思う人は?(3人が挙手)
影野小枝 挙手の数は、太田さんが1番でした。漆原さんから、太田さんに金色のシールが渡されました。2票を獲得した寺沢さんと熊谷さんは、銀色のシールを受け取りうれしそうです。会議室の壁面には、「5種競技月間成績書」という張り紙があります。今月からはじめた企画です。自慢コーナーでみごとに1位を獲得した太田さんは、ガッツポーズをして「短距離走」の欄に丸い金色のシールを張りました。シールには3点と書かれています。なぜ、短距離走なのでしょうか?

121cut:5種競技の結果を発表する
――20scene:9月の会議
影野小枝 引き続き会議の場面です。現在午後1時になります。
漆原 これから製品テストを実施する。いつものように、「虫食いテスト」を作成した。時間は30分。出題に使ったパンフは後ろに置いておく。終わり次第自分で正解を確認して、ホワイトボードに点数を書くように。
影野小枝 テストの結果が出たようです。乾さんが10点満点でトップ。田中さんは9点で、山崎さんが8点でした。あとの方は名誉のために、触れないようにしましょう。漆原さんから金色シールを受け取り、乾さんは「マラソン」の欄にそれを張りました。田中さんも山崎さんも、それぞれが銀色と銅色のシールを張りました。それにしても、さっぱり意味がわかりません。
漆原「5種競技月間成績」は、田中の発案ではじめた。田中、新谷リーダーに意味を説明してくれないか。
田中 5種競技は、MR活動に必要な5項目の成果を競うものです。「製品知識」は永遠のテーマですので、マラソンに見立てました。さっき太田が金メダルを獲得した「自慢コーナー」は、1ヶ月の結果が評価されますので短距離走としました。この他に「医局説明会の回数」は、砲丸投げとなります。医局内にドカンとインパクトを与えるイメージです。ハイジャンプは「身の丈コンピタンシー」で、レベルアップした活動の質の数を競います。最後のリレーは、提出した「ベストプラクティス」にどのくらい賛同があり、実行されたかのポイントで争います。成功事例のバトンリレーというつもりなのですけど。
漆原 では残りの競技の結果を発表しよう。説明会は乾が7回でダントツの金メダルだ。続いて4回の山崎、3回の山之内だった。帯広に比べて、釧路は低調だったな。
影野小枝 すべての競技結果が出揃いました。総合点では、乾さんが8点でトップ。田中さんが6点で2位、太田さんが5点で3位に輝きました。

122cut:あれが本物の会議だな
――20scene:9月の会議
影野小枝 会議を終えて釧路空港へ向かう車中です。漆原さんが運転をして、新谷さんが助手席に座っています。
新谷 いいものを見せてもらったよ。今でもワクワクしている。あれが本物の会議だよな。まさにコラボレーションの世界だった。
漆原 考えさせる、聞き取る。この2つを意識していれば、誰にでもできる。簡単なことだよ。
新谷 MRの発表で、気がついたことがあった。成果よりも、プロセス部分の詳細が語られている。難攻不落の顧客に対して、こんな工夫をして処方を得た。MRは一様に、「工夫」のところを力説していた。マグレや当たり前のことをしただけ、などという謙虚で白けた解説はなかった。だから拍手が起き、賞賛の声が乱れ飛ぶわけだ。
漆原 MRには、仲間の活動を垣間見る術がない。だから会議では、そこをていねいに語るように指導している。今月の自慢コーナーが5種競技の項目になったのは、みんなの関心がそこにあるからだと思う。
新谷 おまえの会議には遊び心がある。みんな楽しそうだった。
漆原 このハンドルと同じで、遊びがなければ運転不能になってしまう。
新谷 運を天に任せていては、ダメってことか。
漆原 ちょっと意味は違うけどな。
新谷 会議中ずっと、おまえの哲学でもある「対(つい)をつなぐ」を思い出していたよ。先月と今月がつながっていた。上司と部下もつながっていた。そして何よりも、MRの仕事と日常がつながっていた。びっくりしたよ。
漆原 その話で思い出した。おまえにプレゼントがある。
影野小枝 漆原さんはポケットから紙片を取り出し、渡しました。
新谷『ビリーの挑戦』の最新版か。ときどき支店長から転送される。世の中で、メールマガジンを発行している営業チームは、きみのところだけだと思う。
漆原 声に出して読んでみてくれ。
新谷 なつやすみに、みんなできゃんぷにいきました。パパのかいしゃの人たちが、あそんでくれました。ばーべきゅうをして、うたをうたい、かいすいよくやはなびもしました。たのしかったです。山ざきめぐみ。1ねん2くみ。
漆原 いい作文だろう。
新谷 会社と家族も、つながっているのか。

123cut:仕事も人生も「123理論」
――20scene:9月の会議
影野小枝 釧路空港内の喫茶店です。漆原さんと新谷さんは、コーヒーを飲んでいます。
新谷 もう一度、おれも『人間系ナレッジマネジメント』を勉強し直すよ。おまえの原点は、あの本だよな。それにしても、みごとな手腕だ。
漆原 新谷にもうひとつプレゼントをあげようか。「123理論」と名づけたのだけど、仕事も人生も、みんな「123」で説明がつくと思う。仕事の方は、1人でやるべきこと、上司と連携してやること、チームのみんなと協力してやることがある。それを明確にしておくと、仕事に勢いがつく。
 おれたちは独身時代から、結婚し、やがて子宝に恵まれる。これが人生での「123」だ。やがてこどもが独立し、夫婦2人だけになる。さらに老いて伴侶を失う。これが「321」だよ。
新谷 いい理論だな。ホップ、ステップ、ジャンプとも似ている。そうか、人生はやがて「321」になるのか。しっかりと備えておかなければならない。おまえから教わった「モナリザチェック」は今も実践しているけど、「123理論」も味がある。
漆原 1日会議に参加してくれて、何か気になることがあったら教えてくれ。
新谷 何もない。マネしてみたいことだらけだった。そういえば、たった一つ気になることがあった。おまえペン習字を勉強したら?
漆原 おれ、営業リーダーになってよかったよ。おまえとこんな話ができるのだから。
新谷 おまえに負けないように、おれもがんばる。だから、もっと上を目指してくれ。おれも必死で追いかけるから。

124cut:飛行機が離陸する場面
――20scene:9月の会議
影野小枝 ビデオ製作会社打ち合わせです。
監督 これで第1部は終わりか。ラストがちょっと弱いな。
助監督 太平洋に、夕日が沈む映像(え)を入れましょうか?
監督 バカか、おまえは。何で沈ませちゃう。逆だろうが。
製作 飛行機が離陸する場面を、漆原が見上げるのならどうだ?
監督 いいね、それでいこう。中里、おまえは首だ。
助監督 それはないでしょう。監督と助監督は、つながっているものです。

(第1部おわり。第2部につづく)
※長い間おつきあいいただきありがとうございます。ビリー(漆原)さんが本社の営業企画部長になった場面から第2部はスタートさせます。ちょっとだけお休みです。筆者


一気読み「ビリーの挑戦」113-118

2018-03-13 | 一気読み「ビリーの挑戦」
一気読み「ビリーの挑戦」113-118
113cut:仕事が楽しくなっている証
――19scene:ビリーのナレッジ
影野小枝 いよいよ第1部の終わりが近づいてきました。漆原さんにマイクを向けて、これまでを足早に振り返ってみたいと思います。目標の1億円まで、あと一息になりました。チームが2分割されているために、コミュニケーションを取るのが大変で、ノートパソコンを導入したのですよね。
漆原 あれは大変役に立ちました。特に太田とは、いつもとてつもなく長いチェーンメールになります。毎朝「本日の最大の成果見こみ」を送ってくれます。「期待しているよ」と書くと、また返事が届きます。太田は特に孤独でした。今はおもちゃのように、パソコンを駆使しています。
影野小枝 1週間の合宿で、チームに力がつきましたね。怠惰、不平不満、孤独などの垢を、温泉で洗い流したみたいでしたね。
漆原 ラクビーの世界に「one for all, all for one」というすてきな考えがありますよね。営業チームって、まさにその世界なんですね。
影野小枝「ひとりはみんなのために みんなはひとりのために」ですよね。
漆原 彼らにはこのメッセージを伝えたことはありません。でもそんな雰囲気ができてきました。もうひとつ「心のハンディキャップ」という大切な言葉があります。駒沢岩見沢が甲子園でベスト4まで進出したとき、記者は監督に「雪国のハンディキャップをよく乗り越えましたね」といいました。監督は室内練習場も完備しているし、そんなものはありません、と答えます。そして「心のハンディキャップを乗り越えた」というんですね。これ、いい言葉です。選手たちに負けてあたりまえ、不安などのネガティブ要素が、ない状態になったという意味なんですね。
影野小枝 いい言葉ですね。
漆原 うちのMRは、少しずつ心のハンディキャップを減らしています。「ラ行の言い訳小僧」もなくなりましたし、発言がポジティブに変わってきています。
影野小枝 最下位のチームを、ここまで引き上げた要因は、何でしょうか?
漆原 自分たちで、考えさせたことだと思います。私は命じません。教えません。その代わり育てます。育つためには、自分で考えなければならないのです。
影野小枝 教えるのではなく、育てるわけですね。
漆原 教えたことは忘れられます。しかし育てたら、経験知としてその人に蓄積されます。
影野小枝 石川さんと山之内さんの変化に驚いているのですが、2人はどうして変わったのでしょうか?
漆原 きっかけです。石川は医師会の勉強会、山之内はメールマガジンが引き金でした。こうしたきっかけは、場を共有していなければ与えられません。
影野小枝 新しいアイデアがどんどん出されますよね。なぜですか?
漆原 仕事が楽しくなっている証です。イヤイヤやっていては、ロクなアイデアは生まれません。仕事が楽しくなる。前向きな思考になる。工夫が生まれる。周りを巻きこむ。成果が上がる。この循環の原点が、仕事を楽しむことです。
影野小枝 行列のできる、ラーメン屋さんの話と同じですね。

114cut:愛の貧乏脱出大作戦
――19scene:ビリーのナレッジ
影野小枝 少し難解だったナレッジマネジメントについて、山本先生に説明していただきます。
筆者 知には2種類あって、文字や言語で表せるものを「形式知」といいます。代表格はマニュアルやテキストですね。もうひとつの知を「暗黙知」といいます。スキルやノウハウは、なかなか文字や言語では表せませんよね。私たちの知は、この2つを交換することで、磨かれていきます。これって、ナレッジマネジメントでは「セキ(SECI)プロセス」というのですが、ちょっと難解です。私はいつも次の話で説明していますが、野中郁次郎先生や紺野登先生が知ったら、叱られるかもしれません。
影野小枝 どんな話ですか?
筆者 ある日、テレビを観ていて、これだと思いました。まさに「セキ・プロセス」そのものなのです。テレビのタイトルは『愛の貧乏脱出大作戦』。ご存知ですか? うだつの上がらない店の料理人が達人の技を習いに行く番組です。
・まず達人が自ら料理を作ってみせ、弟子入りした3人がそれを真似て料理を作る。スキルからスキルへの変換ですから、暗黙知から暗黙知への知の移転にあたります。
・3人はその夜、達人の技を思い出し、それぞれがメモにしたためます。これはスキルをメモにしているので、暗黙知から形式知への知の移転になります。
・3人は自分の書いたメモが不安なため、それぞれのメモを合わせて、より完璧な1枚のメモを仕上げます。これはメモからメモですので、形式知と形式知の変換に該当します。
・翌朝、3人は1枚のメモを見ながら、再び達人の技に挑みます。これはメモからスキルに替えるので、形式知から暗黙知への知の移転となります。
これで「セキ・プロセス」は1回りしました。これを何度もグルグル回すことで、3人のスキルは少しずつ達人に近づくというわけです。
影野小枝 おもしろい説明ですね。あと営業リーダーは、これを単独で回せる唯一の職業である、という話を教えていただけますか?
筆者 さっきの例にあてはめて説明してみましょうか。
・営業リーダーは同行を通じて、自らやってみせ、部下にやらせてみることが可能です。(暗黙知→暗黙知)
・部下の優れたスキルやノウハウを、文字や言葉で他の部下に伝えることもできます。(暗黙知→形式知)
・いくつかのベスト・プラクティス(成功例)を合わせて、新たなベスト・プラクティスを作ることもできます。(形式知→形式知)
・作ったベスト・プラクティスを、部下にやらせてみることも容易にできます。(形式知→暗黙知)
つまり「セキ・プロセス」を十分に活用できるというわけです。
 
115cut:営業リーダーの基本は同行
――19scene:ビリーのナレッジ
影野小枝 釧路の喫茶店「場」で、漆原さんは山本先生と語り合っています。
漆原 私を主人公に抜擢していただき、ありがとうございます。私のやったことが、多くの営業リーダーの参考になればうれしいのですが。
筆者 もしそうならなければ、筆者である私の責任になります。
漆原 多くの営業リーダーは、形式知を中心とした管理型マネジメントをしています。電話で指示を与える。データを出力して配布する。日報にコメントを記入する。会議でやるべきことを徹底する。これらはすべて形式知の活用ですね。本社が熱心にやっているデータベースやコンピタンシー・モデル、ベスト・プラクティスも暗黙知を形式知に変換したものですよね。先生は……。
筆者 山本さんと呼んでください。さもなければ、罰金を取りますよ。
漆原 これは一本取られました。聞きたかったことは、暗黙知の活用は同行を通じてしかできないのかということです。
筆者 形式知は、部下に気づきを与えます。しかし、暗黙知ほどの絶大な効果はありません。たとえばテニスですが、インストラクターに習わなければ上達しません。テキストでは限界がありますよね。暗黙知は、いちど身につけたら、効果が持続することがメリットです。いちど身体で覚えたテニスの腕前は、少しくらい休んでも、元に戻りますよね。
漆原 私も営業リーダーの基本は、同行だと思います。
筆者 それでは、身体に気をつけて、1日も早く1億円を達成してください。
漆原 それは私というよりも、山本さんの腕にかかっているような気がするのですが。
筆者 部下のみなさんに、よろしくお伝えください。それと、登場する機会のなかった奥さんやお子さんにも。

116cut:きみはどう考えるのか
――19scene:ビリーのナレッジ
影野小枝 喫茶店「場」です。
常連D 管理系と人間系のマネジメントの違いに、「おれ」という一人称を連発するのと、「きみは」「きみたちは」と二人称や三人称を多用するというのがあったよな。先日、うちのチーム会議で、営業リーダーがそれぞれを何回いうかを記録した。
常連C D支店長らしいね。それでどうだった?
常連D「おれ」のオンパレードだったよ。「おれが営業マンだったころは、もっと頭を使ったのだが」「おまえたちは、おれのいう通りにすればいい。それで間違いはないのだから」っていう具合さ。愕然としたよ。
常連F 多くの営業リーダーは、自らの過去の経験則でしか語れない。部下の話に、耳を傾けようともしない。
常連C 時代の変化とともに、営業マンの活動自体も大きく様変わりしている。それなのに、おれの時代を引き合いに出しても説得力がない。そこを履き違えている。
漆原 普通、ついつい結論を押しつけたくなります。「きみはどう考えるのか?」という問い掛けは、結構辛抱がいる手法ですよ。
常連F 西堀栄三郎『石橋を叩けば渡れない』(生産性出版)に、個性は変えられないけど、能力は変えられる、という言葉がある。考える力は能力なので、伸ばすことは可能だ。

117cut:指導同行と戦略同行の効果
――19scene:ビリーのナレッジ
影野小枝 R製薬札幌支店の会議室です。マネージャー会議が開催されています。
支店長 それでは絶好調の漆原くんに、同行指導について発表してもらいたい。全国最下位だった釧路営業所だが、いまは支店を引っ張るチームとなった。
漆原 同行指導について、発表させていただきます。最初にお断りしておきますが、あいさつ回りとか、商談をまとめるための訪問は、同行の範ちゅうには入れていません。同行には、2種類があります。
(ホワイトボードに、「育成同行」と「戦略同行」と記入する)
漆原 どちらの同行も、あらかじめMRとじっくりと話しこみます。そして彼らとゴールを共有します。これが大前提です。「育成同行」の目的は、MRのレベルアップにあります。MRのどこを伸ばすべきか、あらかじめ話し合っているので、その部分を重点的に指導します。これは丸一日かけて実施します。
「戦略同行」は、MRと連携して攻略する病院を中心に活動します。これは接点同行で構わないわけです。私の場合は、この2つの同行を非常に大切にしています。思いつきで「同行するぞ」というのとは違い、MRと年頭に合意したゴールを目指すわけですから効果的です。
影野小枝 漆原さんのプレゼンが終了しました。質疑応答がはじまったようです。
支店長 同行には2種類ある。ポイントは、事前にMRとゴールを合意しておく。いい発表だった。何か質問は?
新谷 さすが、漆原所長だ。目からウロコだったよ。MRのレベルアップのためには、同行でのゴールを共有することが大切である。それをやらないから、金魚のフンや大名行列みたいな同行になってしまう。
漆原 MRにつき1冊のノートを作成しています。年度はじめのゴールの設定から、納得合意してもらったことなど、何でもそのノートに書き留めます。左ページは私が書き、右ページはMRが書きます。
星野 交換日記みたいなものかな?
漆原 というよりも、育児日誌みたいなものです。
島尾 漆原所長は、週に何回ぐらい同行していますか? 2つの同行の回数を教えてください。
漆原 月曜日を除く毎日です。それぞれの同行は、2日ずつを原則としています」
島尾 内勤は1日だけなの? あとは全部同行?
漆原 そうです。MRのレベルアップのためには、同行以外の方法は考えられません。
沢田 同行のときは、漆原所長がMRの自宅まで迎えに行くと聞いたけど、何でそんなことをするの?
漆原 結婚している部下に限った話です。奥さんやお子さんの顔を見られるので、大切に考えている習慣です。MRの自宅に私の車を置いて、そこからは彼の車に乗り換えます。MRの仕事がうまく行った日は、ケーキなんかを買って帰ることもあります。そうしたら、もう一度奥さんや子どもと話ができますので。

118cut:人間系ナレッジマネジメント
――19scene:ビリーのナレッジ
影野小枝 ビデオ製作会社の打ち合わせです。
製作 ここはナレッジマネジメントのおさらい場面だ。動きが少なく、おもしろい映像(え)にはなりにくいだろうが……。
監督 いらないでしょう、この場面。こんな講釈をたれなくたって、ここまでで十分に語り尽くしているはずだ。
製作 原作者が……。
監督 原作者の話はもういいです。
助監督 荒々しい営業現場と学問の世界は、何となくミスマッチな感じがします。
製作 でも、これは実話だ。現に漆原は……。
監督『人間系ナレッジマネジメント』を勉強し、それを実践したといいたいわけですね。
製作 そのとおり。何しろ、原作者が野中郁次郎先生の理論にほれこんで、それを営業現場に応用したのだから、ちょっとやそっとでは妥協はしてくれない。ナレッジマネジメントに「人間系」の冠をつけたのは、「システム系」と区別するための、原作者の熱い思いからだった。
助監督 原作者はシステムを、否定しているのですか?
製作 そんなことはない。使い勝手のよいシステムにするには、現場の深い関与が必要だといっているだけだよ。 


一気読み「ビリーの挑戦」107-112

2018-03-12 | 一気読み「ビリーの挑戦」
一気読み「ビリーの挑戦」107-112
107cut:ラ行の言い訳小僧が消えた
――18scene:8月のチーム会議
影野小枝 帯広市民会館の一室です。8月のチーム会議で、メンバーが勢ぞろいしています。
漆原 7月もよくがんばってくれた。9200万円と、1億にはあと一歩だった。(大歓声)特に帯広地区の貢献が大きかった。きょうは敬意をこめて、チーム会議を帯広開催とさせてもらった。
山之内 いよいよ、頂上が見えてきましたね。帯広地区は、全員が1000万円プレイヤーの仲間入りをしました。太田が最終日まで飛び回って、滑りこみでしたが……。
(拍手)
石川 釧路地区は、熊谷と寺沢があと一歩のところです。8月は夏休みもあり、難しいのですが、9月には帯広のように1000万円超のそろい踏みの予定です。
乾 札医大関連の、情報をお知らせします。今月のローテーションは……。
影野小枝 大学病院の情報交換です。乾さんや田中さんが、直接、大学病院担当者から情報を入手したようです。新たにチーム内の病院へ赴任する医師と、ローテーションでいなくなる医師の発表がなされました。
漆原 乾たちの発表を聞いて、思い出したことがある。4月のチーム会議のときに、気になったことがあった。「ラ行の言い訳小僧」って知っているか? 「なぜ攻略がままならないのか」と私が質問すると、みんなは「ラ行」で言い訳をしていた。

・ライバルメーカーは、10年も同じ担当者です。ひっくり返すのはムリです。
・リスクが高過ぎます。そんなことをしたら、出入り禁止にされてしまいます。
・ルールですから、それはできません。
・レジメ(約束処方)で、がんじがらめです。新規採用はムリです。
・ローテーションで、処方してくれていた先生がいなくなりました。

漆原 どうだ? 言い訳の頭が、見事にラ行になっているだろう。この言い訳に心当たりはないか?
熊谷 ラ行の言い訳小僧ですか。心当たりがあります。
漆原 そうだろう。ところが、こいつを逆手に取ると、いまの乾たちの世界になる。ライバルを知り、リスクやルールを検証し、レジメに入れてもらう努力をする。そして医師のローテーションを熟知する。これは病院攻略の基本だ。少なくともこのチームは、「ラ行の言い訳小僧」を撲滅したようだな。

108cut:夏休みの宿題を考えてもらう
――18scene:8月のチーム会議
影野小枝 107cutの続きです。
漆原 これから、夏休みの宿題を考えてもらう。本を読むのでもいい。模型飛行機を作るのでも構わない。それをきっかけに、山崎の英会話のように、それぞれのライフワークを見出してもらいたい。これからの時代、営業の経験だけでは心もとないからな。
山崎 自分自身を磨くわけですね。
漆原 私から宣言したい。私は『人間系ナレッジマネジメント』の勉強をする。そして、『営業ナレッジを結集せよ』という本を出版したい。
太田 出版までしちゃうわけですか? ゴルフでシングル・プレイヤーを目指すのはダメですか?
漆原 悪くはないけど、それは社会性がないのでライフワークとはいえない。ライフワークは社会に貢献できる可能性が、あるものでなければならない。ゴルフのレッスンプロを目指すのなら、それでいいのだけど。
田中 ムリムリ。別のライフワークを考えなさいって。
山之内 私は、コンピュータのシステム・ソフトを勉強します。これからはITの時代ですから。
寺沢 私は乾さんみたいに、自分のホームページを作ります。そこでネット・ショップを経営したい。断っておきますが、エッチなものじゃないです。売るのは、実家の無農薬野菜ですので。
石川 それはいいな。私は『霧の事典』です。せっかく釧路に住んでいますし、霧にまつわる話を徹底的に集めてみようと考えていました。
熊谷 霧の摩周湖、夜霧よ今夜もありがとう……うん、おもしろそうですね。私は絵本を書きます。いまでも子供たちのために、手製の絵本を作っています。幸いにして評判がいいので……。
漆原 結構出てくるものだな。田中は何だ?
田中 ぼくですか、リトルリーグの監督かな。プロ野球選手のタマゴを育ててみたい。これなら仕事と両立できるし、少ないながら社会貢献しています。
太田 ギターの腕を磨き、将来はギター教室を開きます。
漆原 それはいいね。ところで、乾は?
乾 実は梶山悦子、エッちゃんのことですが……入籍しまして、彼女は例の屋台村に店を出すことになりました。私の夏休みはその準備で……。
全員 おめでとう。  
影野小枝 乾さん、おめでとうございます。夏休みの宿題から、ライフワークを考えさせる。いい試みです。仕事以外に夢中になれる何か。一生涯楽しみながら続けられる、テーマを見つけることは大切ですよね。乾さんの場合は、悦子さんとの伴走がライフワークになりそうですね。

109cut:良書を読む、優れた人と交わる
――18scene:8月のチーム会議
影野小枝 漆原さんにインタビューしてみます。いよいよ、部下の日常生活を磨く段階ですね。漆原さんは、対(つい)をつなぐことの大切さを強調していましたよね。
漆原 多くのサラリーマンは、日常の設計をしないままでいます。充実した日常を持っている人は、ほとんどの場合仕事も生き生きとしています。定年後も、空気の抜けた風船みたいにはなりません。
影野小枝 日常を磨く。具体的には、どうすることなのですか?
漆原 私はよい本をたくさん読む。優れた人と交わることだと思っています。優れた人とは、社内の人のことではありません。社外の人が対象です。
影野小枝 なぜ社内ではダメなのですか?
漆原 社内の場合は、どうしても甘えが入ります。社外の場合は、ギブ・アンド・テイクのバランスが欠落したら、その時点で門戸を閉ざされてしまいます。お互いに有用な関係でなければ、相手にしてもらえないでしょう。
影野小枝 それで漆原さんは、どこから手をつけるのですか?
漆原 何かを成し遂げようとするなら、まず自らの「人生設計」を作成しなければなりません。人生設計とは、志を明確にすることです。社内価値を高めるために、何かの資格をとるでもよし。定年後に自立できるよう、いまから周到な準備をするでもよい。とにかく、これからの人生をどう過ごすのかを、明確にしておくことが大切です。
影野小枝 志を明確にする、ですか?
漆原 受験時代に「○○大学合格」などと、張り紙をした記憶があるでしょう。あれをやる必要があります。人間の意志は、信じられないほど弱い。恥ずかしくても、自身と周囲に向けて高らかに宣言をすることです。今日の夏休みの宿題で、みんなはそれを発表したわけです。

110cut:綿密な計画をたてている
――18scene:8月のチーム会議
影野小枝 野付半島のキャンプ場・尾岱沼(おだいとう)からのレポートです。漆原さん一家をはじめ全メンバーの家族が参加しています。乾さんとエッちゃんの姿もあります。すでにバーベキューの準備も整っています。
漆原 まずはこのキャンプを企画してくれた、太田と寺沢にお礼をいいたい。きみたちのお陰で、家族サービスをあれこれ悩まずに済んだ。ありがとう。それからご主人を支えてくれている奥さんと子どもたちにも、心からありがとうと申し上げたい。そして何よりも本日の主役は、乾と奥さんの悦子さんだ。2人の結婚を祝し、あわせてご参加いただいているみなさんのご健康を祈念して、乾杯しよう。(乾杯の大合唱)
太田 本日の食材はエッちゃんが手配してくれました。焼くのはぼくたちがやりますので、エッちゃんは食べることに専念してください。ではもう一度、乾さんとエッちゃんの結婚をお祝いして、乾杯したいと思います。おめでとうございます、乾杯。 
影野小枝 悦子さん、うれしそうです。お子さんたち、とっても楽しそうです。ジンギスカンは漆原さんの差し入れ。寺沢さんの実家から届いた無農薬野菜もあります。魚介類は悦子さんが、手配してくれました。カマドを作り、マキを拾い集めてきたのは、子どもたちと山崎さん、熊谷さん、田中さんです。
寺沢 食べながら聞いてください。食事のあとは、キャンプファイヤーと太田先生のギター伴奏で合唱会を計画しています。それが終わったら、花火大会が待っています。(子どもたちから歓声)
石川 結構、綿密な計画を立てているな。仕事もこうあってほしいものだ。
寺沢 石川さんには、いわれたくないですよ。(笑)
田中 飯ゴウが吹き上がりました。(子どもたちに向かって)おいしいご飯だぞ。
漆原 それにしても、そんなにたくさんの飯ゴウをどこから手に入れてきた?
田中 レンタルショップです。奥さんと子ども以外は、何でも揃っています。
山之内 あれが北斗七星だよ。ほら、ヒシャクの形をしているだろう。
子ども ママ、おいしいね。毎日キャンプをしようよ。(爆笑)
太田 明日は地引網を体験します。残念ながらこの時期、北海シマエビの漁はしていませんが、漁港の直売所で買うことができます。それから焚き火を燃やして、海水浴もやります。(こどもたちから歓声)
影野小枝 いいですね、アットホームな感じで。太田さんと寺沢さんがキャンプの企画を立てて、全員参加でそれが実現しました。2人とも張り切っています。

111cut:子どもたちがうれしそうだった
――18scene:8月のチーム会議
影野小枝 テントのなかです。寝袋に入って、太田さんと寺沢さんが語り合っています。
太田 大成功だったな。子どもたちがうれしそうだった。
寺沢 ぼくたちの企画が、受け入れられたということですね。
太田  仕事バリバリ、家でゴロゴロ。これでは対(つい)がつながっていない。日常を充実させなければ、仕事も光り輝かない。
寺沢 おまえはずっと内勤希望だったけど、最近楽しそうじゃないか?
太田 やっとわかった。営業の世界って、自分自身で創り上げると、とてつもなく楽しいものだ。
寺沢 ずっと孤独を感じていたけど、漆原さんがきてから、1人ではないと思えるようになった。太田もいるし、石川さんもいる。そして、いつも伴走してくれている漆原さんがいる。毎日が楽しいし、前へ前へと進んでいる感じがする。
太田 おまえは成長したよ。
寺沢 おまえにはいわれたくない。
太田 真冬しか知らない寒暖計が、春を感じている。少しずつ数字が上がり、おれたちの気分も高揚してきた。
寺沢 ポエムだな、太田は本を読みはじめてから、いうことが違ってきたぞ。
太田 明日は早い。そろそろ寝ようか。
寺沢 あの子たち、「ありがとう」っていってくれたよな。いい言葉だな、「ありがとう」って。

112cut:家族の笑顔と2人の若者
――18scene:8月のチーム会議
影野小枝 ビデオ製作会社打ち合わせです。
監督 いいね、いいね。原作者もなかなかやってくれる。若い連中が自発的に企画を立案し、みんながそれに便乗する。チームが一丸となっていることを、バッチリと撮りたいな。
助監督 トドワラ、羅臼岳も撮りたいですね。三角帆の打瀬船もほしいのですが、8月はシマエビ漁をやっていないようです。
製作 仕事、日常、家族団らん。この作品は、結構幅広いので、撮りがいがあるな。
監督 たくさんの教材ビデオを手掛けてきたけど、こんな風なカットを撮るのは初めてだ。中里にはよい勉強になりそうだな。
助監督 家族の笑顔と、2人の若者の満足げな表情を、自然のなかでアップにします。
監督 できれば花火をエンディングに使いたいな。原作者を説得できないですか?
製作 ムリだ。絶対に妥協してもらえない。
監督 そうだろうな、原作者は偏屈な人らしいから。


一気読み「ビリーの挑戦」101-106

2018-03-11 | 一気読み「ビリーの挑戦」
一気読み「ビリーの挑戦」101-106
101cut:みんなの力で最高の説明会を
――17scene:チームのナレッジ
影野小枝 山之内さんの部屋に帯広のメンバーが集まっています。
山之内 疲れているところを、すまん。山崎は、奥さんが待っているのと違う?
山崎 ちゃんと電話をしてあるから、心配なく。
山之内 明後日は、太田が初めて経験する医局説明会だ。できれば、みんなで知恵を出し合い、太田が最高の説明会ができるよう、応援してあげたい。
乾 太田が説明会? どうしたのだ?
太田『ビリーの挑戦』に、石川さんの成功例が載っていたじゃないですか。医局説明会って効果的なのだと、実感しました。それで勇気を出して、M病院の院長に、A(製品名)の説明会をお願いしました。
山崎 スライドを映してみなよ。
(スライド・プロジェクターから画面が映される)
乾 よし、おれたちは医局のドクター役をやる。太田、やってみろ。
山崎 時間は何分もらった?
太田 30分です。
乾 Aは、だれが処方している?
太田 副院長だけです。
乾 ということは、良さを理解してもらって、他の先生にも使ってもらうことが目的だな。
太田 はい、そうです。ではやります。本日はお忙しいなか、説明会にご出席いただきありがとうございます。これからR製薬のAについて、ご紹介させていただきます。適応症は……。
影野小枝 みんなの力で、最高の説明会を演出する。帯広のみなさんが、団結しています。オフイスがないハンデキャップを、乗り越えつつあるようですね。

102cut:ここを帯広出張所にしよう
――17scene:チームのナレッジ
影野小枝 山之内さんの部屋です。太田さんの説明会の練習を終え、ビールの栓が抜かれました。
山之内 太田はウーロン茶だ。みんなを送って行く役割だからな。
太田 がまんしますよ。すっかり、お世話になりましたので。
山崎 必要だな、こういう場は。新しい資材がきたときとか、誰かの説明会があるときなど、みんなでこうして集まりたいね。
山之内 それじゃ、太田の説明会の成功を祈念しまして……。
全員 乾杯!
山之内 山崎からそういう発言があったのなら、おれのところの一室をみなさんに提供しよう。どうせ独身なのだから、部屋はあまっているし、ここを帯広出張所にしようぜ。
乾 いいんですか。太田なんか。入り浸っちゃうかも。
山之内 いいってことよ。遠慮なく使ってくれ。
太田 帯広出張所ですか、いいな。そうとなると、もっと大きな机がいりますね。それと、椅子も足りない。
山崎 ホワイトボードもほしいな。それに灰皿と……。
山之内 灰皿はなし。釧路も全面禁煙になったようだ。ヘビースモーカーの熊谷が提案したらしい。だからみんなも辛抱しろよ。
乾 先月は釧路に800万円負けたから、今月は逆転しなきゃ。そのためにも、(タバコを取り出して)戦いのノロシを上げたいな。
山之内 ダメだっていっているのに。
影野小枝 帯広出張所ができましたね。これまで集まりには顔を出さなかった山崎さんも、積極的になりました。知を磨き合う新たな場の誕生です。

103cut:自己申告のMUシール
――17scene:チームのナレッジ
影野小枝 朝のオフイスです。漆原さんは一人で荷物の梱包をほどいています。誰もいませんね、11時なのに。
漆原 みんな代理店さんへ行ったあとは、病院へ直行しています。最近は誰も戻ってきません。
影野小枝 すっかり様変わりしましたね。漆原さんは珍しく内勤ですか?
漆原 月曜だけは、1日内勤日にしています。書類が溜まっていますし、こうして次から次へと資材が届くもので。
影野小枝 それも漆原さんのお仕事なのですか?
漆原 彼らの負担を、できるだけ減らしてあげる。その分彼らには、1人でも多くの顧客と会ってもらう。そのための、リーダー兼業務担当ですよ。
影野小枝 壁にオレンジ色の変わったシールが張ってありますが?
漆原 ミュー・シールっていいます。MUって書いて、ミューと読むのですが、本当は「むしーる」という意味なのです。
影野小枝 円形の台紙が6等分されていて、白い紙をむしり取ると鮮やかなオレンジ色が現れる仕掛けのシールです。むしり取る、意味を重ねてあるのですか。何か文字が書かれていますね。寺沢さんのシールは、「クロージング4点」だけが残っています。
漆原 例の「身の丈コンピタンシー」ですよ。寺沢は、まだクロージングだけが4点をクリアしていません。他の5つはクリアしたので、自らがむしり取ったわけです。
影野小枝 あらあら、石川さんは4枚残っていますね。
漆原 全部自己評価ですから、残っているからまずいというわけではありません。石川が考えた、「身の丈コンピタンシー」意識づけのお遊びです。
影野小枝 それぞれの異なるゴールを、こうしてひとつの形にするのは、お互いに励みになりますね。

104cut:インパクトのある茶封筒
――17scene:チームのナレッジ
影野小枝 夕方の釧路オフイスです。田中さんが大量の大型茶封筒を抱えて戻ってきました。
田中 はい、お待ちどうさま。
石川 できたのか。特急印刷。
寺沢 何ですか、その封筒は?
田中 大切なドクターのための封筒だよ。
熊谷 おお、ちゃんとマス目も印刷されているな。
寺沢 ぼくだけのけもので、みんなで何をたくらんでいるのですか?
熊谷 ここに大事なドクターの名前を書く。真ん中のマス目は訪問記録だ。ほら。月日を書く欄があるだろう。
田中 つまりだな、カバンから思い出したようにパンフを出すのではなく、先生専用の封筒から取り出して渡すのさ。
漆原 これか、必殺のツールって。
石川 そうです。パンフを封筒に入れる時点で、その先生のニーズに合った話法を考える。カバンにガサッと入れておくのとでは、歴然とした差が生まれます。
田中 先生にパンフを渡すときは、先生の名前が先生自身の目に触れるようにすること。寺沢が先生なら、どう思う?
寺沢 自分の名前が書かれた封筒なら、うれしいと思います。
田中 そうだろう。この方法なら、先生も熱心にパンフを読んでくれると思う。
熊谷 なかなか会えない先生のときは、このマス目を活用する。月日の後ろに、たくさんの×印が並んでいる。先生は「この×は何だ?」と質問する。「先生にお会いしたくてきたのですが、いつもお会いできなくて、こうして×印がついています」と説明する。寺沢が先生なら、どう思う?
寺沢 こんなに熱心に、通ってくれていたのかと思います。
熊谷 そうだろう。じゃあ、パンフを読んでやるかとなるわけだ。あるいは面談可能な曜日や時間を、教えてくれるかもしれない。
影野小枝 先生専用の封筒ですか。パンフレットを入れるときに、先生の顔を思い出し、ニーズに合った話法を考える。それだけでも意味はあるのに、先生にも喜んでもらえ、しかもパンフレットを確実に読んでいただける。たかが茶封筒ですが、大変なツールですね。

105cut:掲示板のベストプラクティス
――17scene:チームのナレッジ
影野小枝 喫茶店「場」の朝です。今日も常連客が集まっています。
常連C 本社からもっとデータベースを活用させろ、とうるさくいってくる。ベストプラクティスもコンピタンシー・モデルも、まったく活用されていない。おまえたちのために高い投資をしたのだから、活用させるのはあたりまえだ、とうるさいったらありゃしない。
常連F うちにもコンピタンシー・モデルがあるけど、一般的な営業マンにはレベルが高すぎる。何しろ、超理想的な活動モデルだからな。
常連E ベストプラクティスにしても、量が多すぎて探すのに骨が折れる。
漆原 前にも話したと思いますが、『人間系ナレッジマネジメント』講座で習いました。データベースのベストプラクティスが活用されないので、A4のペーパーを追加した会社の事例です。A4ペーパーは、各営業所の掲示板に張られます。営業マンは缶コーヒーを片手に、それを読みます。意見交換がなされ、「これ使えるな」という展開になるわけです。
常連C 営業マンは多忙なので、データベースを検索する余裕はない。そんなときに有効なのが、壁新聞スタイルの気楽な読物。これなら活用されるだろうな。
漆原 A4ペーパーの介在で、データベースが活性化します。掲示板の成功例を読んだ営業マンは、実践したいものの番号脇に自分の名前を記入します。営業リーダーはそれを集計して、データベース室に知らせます。すると、データベースのベストプラクティスに「賛同ポイント」がつけられます。実践してみて成功したら、営業マンは自分の名前に丸印をつけます。再び営業リーダーは、成功した番号をデータベース室に報告します。今度は「成功ポイント」が追加されます。最高点のベストプラクティスが、月間MVPを受賞するというわけです。
常連E いいね、その方法なら確かに活用されそうだ。手軽に読むことができるA4ペーパーと、ゲーム感覚のデータベース。しかも、月間MVPの表彰まである。チーム間で、いい意味での競争が生まれるかもね。

106cut:シンプルなものからはじめる
――17scene:チームのナレッジ
影野小枝 ビデオ製作会社の打ち合わせです。
監督 アイデア・ツールと知的な場。多くの人の参考になるな。たわいないちょっとしたアイデアで、営業マンが使えるツールが生まれる。そんなメッセージを伝えたい。
製作 原作者の許可を得て、削った場面がある。
助監督 何ですか?
製作「人脈のキャッチボール・シート」というもの。A4ペーパーを4つ折りにしただけのものなのだが、こんなものまでアイデア・ツールになるのかと驚いた。顧客Aを攻略したい。こんなときには、Aに関する情報収集をするのが出発点だ。Aとコンタクトを続けているうちに、ひょんなことから友人のBの話になることがある。
そんなときには、すかさずBのところを訪問する。もちろん、Bも攻略目標の1人となる。Bとの面談を通じて、顧客Aの情報を引き出す。逆にAとの面談時には、Bの情報を得るよう努力をする。情報は本人自身から引き出すよりも、友人や家族から得る方が集まりやすい。これが「人脈のキャッチボール・シート」の世界だ。
助監督 笑っちゃいますね。アイデアをツールに落としこむのは、難しいことではない。完璧に作ろうとするとなかなかできあがらないけど、シンプルなものからはじめる。これがポイントですね。
製作 やってみて、実践で工夫すればよい。真っ白な紙に罫線が引いてあり、タイトルさえあれば、それは立派なツールといえるらしい。

一気読み「ビリーの挑戦」095-100

2018-03-10 | 一気読み「ビリーの挑戦」
一気読み「ビリーの挑戦」095-100
095cut:型と知を大切にしよう
――16scene:7月のチーム会議
影野小枝 7月の会議がはじまりました。今月は机がロの字型に並んでいます。真ん中には空のダンボールが据えられています。
漆原 今日は、支店長にお越しいただいています。そのわけは、支店長ご自身から語っていただきましょう。では支店長、さっそくですが、よろしくお願い致します。
支店長 おはよう。みんな元気そうだね。まずは先月の医師会勉強会の成功、おめでとう。よくやってくれた。出席していただいた先生からも感謝され、他社からもほめてもらいました。それから『ビリーの挑戦』発刊おめでとう。いい内容なので、本社にも転送させてもらいました。
きょうは、そのメルマガのタイトル変更を申し渡しにきました。まだ3ヶ月だけど、このチームは対前年アップ率で支店のトップを走っています。(メンバーの拍手と歓声)だから、メルマガのタイトルは変えても構いません。
影野小枝 結果が出てきたようですね。もう少し、チーム会議を覗いてみましょうか。
漆原 支店長ありがとうございます。みんなの努力が、少しずつ形になっています。支店長の申しつけだから、メルマガのタイトルは検討するように。
太田(挙手をして)このままで行くべきだと思います。全国トップになるまでは、私たちのチームの出発点を消さないほうがいいと思います。(紙玉をダンボールへ投げ入れる格好をする)
山之内 私も同感です。ビリーでいいじゃないですか。ビリーがどのようにはい上がってきたのか、メルマガで全国に発信してあげましょう。(紙玉をダンボールへ投げ入れる格好をする。以下同様)
支店長 さっきから、みんな何をやっているのだ?
漆原 寺沢、支店長に説明しなさい。
寺沢 以前は、本物の紙球が10個ありました。自分の意見をいったら、ダンボールに放り投げていました。でもみんなが活発に意見をいうようになったので、紙玉はいらなくなりました。いまはその形だけです。形って、どういう意味か、支店長はご存知ですか?
支店長 教えてくれるかい。
寺沢 相撲の雲竜型のカタと、知識のチです。つまり型と知は、大切にしようということなのです。
支店長 何だか、みんな賢くなったね。知も備わってきたというわけだ。
影野小枝 MRが支店長と、対等に会話をしています。本物の紙球を放りこんでいた日が、ずっと昔のように感じます。支店長も驚いたようですね。

096cut:賑やかな自慢コーナー
――16scene:7月のチーム会議
影野小枝 チーム会議、午後の部です。支店長はお帰えりになっています。
漆原 支店長がほめてくれたけど、大変なのはこれからだ。問題は、チームの生産性だからな。年内に1億円。4月が6300万で、5月は7000万。先月は7800万円まで到達した。これはチームの単月記録らしい。まだまだ先は長いぞ。では今月の「自慢コーナー」をやろう。発表の順番はどうする?
山之内 売上の低い順序でやりましょう。
石川 いいのか。お前が最初だべさ。
山之内 いいってことよ。来月は石川さんに、トップバッターをやってもらうから。
乾 山之内さんには、隠し財産があります。今月ドカンと注文がくることになっています。
山之内 まだ内緒だって。口が軽いのだから。ではやります。私の先月の自慢は、山之内メモリアル病院で新規採用が4件あったことです。口の軽い乾がしゃべってしまいましたが、私の病院経営は軌道に乗りつつあります。(拍手と歓声)
漆原 山之内メモリアル病院は、先月200万円を突破している。今月は倍になるらしいぞ。メルマガにも書いてあったけど、「製品ファイル」が功を奏したのだろう。
山之内 漆原さん、金額は内緒ですって。えー、みなさんは安心していてください。私がみなさんよりも、上に行くことはあり得ませんので。
太田 次は私ですね。Q病院で、『ビリーの挑戦』に載っていた田中さんの話法を使ってみました。いままで話も聞いてくれなかった先生が、患者さんがいるのですぐに使うといってくれました。あの話法は抜群です。私ができたくらいですから、みなさんもぜひ活用してください。
影野小枝 「自慢コーナー」は賑やかですね。いよいよ最後の一人が登場です。これがすんだら、みんなで今月の自慢グランプリを選ぶようです。
漆原 いよいよ、今月のトリだ。石川と乾が同点だった。おめでとう。まずは石川からだ。
石川 貢献度ナンバーワンの石川です。(爆笑)例の勉強会のお蔭で、医師会長が他の先生にも声をかけてくれました。マスアプローチって、すごいなと思いました。これからは、病院の医局説明会を積極的にやろうと思います。
寺沢 私の方も、おこぼれにあずかりました。石川さんのお蔭です。
漆原 1660万円。石川と乾ががぶっちぎりのトップだった。乾はなにやら大切な報告があるようだ。
乾 石川さんの力強い足音を、背中に聞いています。抜き去られないように、ぼくもがんばります。実は梶山悦子と、結婚することになりました。梶山悦子といっても、わからないかもしれません。炉端焼きのエッちゃんのことです。お母さんが元気になったので、お店はお母さんがやることになりました。
影野小枝 全員が立ち上がり、大きな拍手をしています。
山崎 これで帯広は独身者の巣窟などと呼ばれなくなる。乾、おめでとう。
漆原 では、今月の自慢グランプリを選ぼう。いつものように、この紙に自分以外の名前を書いて、ダンボールに放りこむこと。ダンボールからはずしたら、無効だったよな、太田?
太田 今月は、はずしません。(笑い)でも今月はもう決まりですよ。エッちゃんが帯広にきてくれるんですから、これ以上の喜びはありません。

097cut:ワイコラを会議に導入したい
――16scene:7月のチーム会議
影野小枝 会議は続いています。
漆原 今月から本格的に「ワイワイコラボレーション」を会議に導入したい。名前が長いので、便宜的に「ワイコラ」ということにする。わかっていると思うが、ワイコラは柔らか頭を育てる武器になる。ちょっと練習してみたい。
影野小枝 漆原さんはホワイトボードに、「チームはなぜ全国最下位だったのか」と記入しました。
漆原 熊谷、なぜだったと思う?
熊谷 全国最下位であるという緊迫感がなかったからだと思います。
漆原 なぜ緊迫感がなかったと考えた?
熊谷 数字が悪くても、あまり追及されなかったからです。
漆原 鈴木リーダーは、なぜ数字の追及をしなかった?
熊谷 あきらめてしまっていたのだと思います。
漆原 熊谷が考えた問題の根源は、上司のあきらめにあったということだな。
熊谷 はい、私たちもそれに、甘んじてしまったのですが。

漆原 よし、次は田中だ。なぜだと思う?
田中 チームのことは、どうでもいいって感じでした。自分のことで精一杯で。
漆原 なぜ自分のことに、精一杯だった?
田中 チーム内のコミュニケーションもなかったし、何よりも上司との会話も少なかったですから。
漆原 なぜチーム内の、コミュニケーションが悪かった?
田中 そうした場がなかったからです。会議で集まるのが唯一の機会でしたが、それも鈴木さんのワンマンショーみたいでした。
漆原 田中が考えた課題の根っこも、上司に起因したものなのか。
影野小枝 合宿で活用したワイコラを、会議でもはじめましたね。「なぜ?」を何回か繰り返すと、問題の本質が見えてくる。それにしても、全国最下位だったのは上司のせいだったのでしょうか。
漆原 山之内はどうだ?
山之内 私が帯広のメンバーを、ぐんぐん引っ張らなかったからです。
漆原 なぜ引っ張らなかった?
山之内 ずっと自分の数字がかんばしくなかったので、遠慮していたのだと思います。
漆原 なぜ遠慮していた?
山之内 仕事に対する熱心さのない自分には、若い人を指導する資格はないと思っていました。
漆原 問題の根源は、自分自身にあったというわけだな。
山之内 はい、反省しています。
漆原 どうだい。課題の根っこの部分は、人によってこんなに違う。課題の本質が上司だったり、自分自身だったり、ときにはシステムだったりするのさ。何かを考えるとき、なぜを何回か繰り返すと、より本質に近づくことができる。来月からはみんなに、これをやってもらう。課題の根っこを発見するためだ。

098cut:9つの研究室が誕生した
――16scene:7月のチーム会議
影野小枝 会議の続きです。
乾 実は、『ビリーの挑戦』というホームページを創りました。会社名は、一切わからないようにしてあります。そこにみなさんの研究室を9つ設けました。ぜひ、自分の研究テーマを発信してください。
漆原 9つの研究室だって?
乾 そうです。太田だったら「新書をキル」という名前の研究室です。石川さんだったら「自慢の家庭農園」という研究室になります。
石川 そこにおれたちが書きこむわけ?
乾 そのとおりです。日常を磨くためには、優れた人と交わる。良書を読む。これは漆原さんから教わったことです。私たちは知を集め、知を磨き、知の発信をする。そのために、用意したのが、発信の場であるみなさんの研究室というわけです。
太田 研究室って、全国の誰でもがアクセスできるわけですか?
乾 そうです。アクセス数が多いのは、誰の研究室かが一目で分かります。
寺沢 私は、「男の料理研究室」をやるのですか?
乾 そのとおり。みんなが合宿のときに宣言したことを、研究室として発信します。知のステップアップは、集める、磨く、発信する、でしたよね。
漆原 私には、どんな研究室をあてがってくれたの?
乾「知だらけの研究室」です。
漆原 ずいぶん生々しい研究室だな。
乾 おそらく漆原さんの研究室が、ダントツにアクセスが多くなるはずです。
漆原 おいおい、あまりプレッシャーをかけないでくれよ。ところで乾は、どんな研究をするんだい?
乾 帯広の屋台村研究室をやるつもりです。友人が屋台村実行責任者ですので、それを手伝います。市民はもちろん観光客が集う場として、にぎやかなものを企画中です。
山崎 エッちゃんが炉端焼きを開く、かもね。
乾 山崎さん、勝手な憶測はダメですよ。
影野小枝 乾さん、幸せそうです。それにしても次々と新しい提案が出ますね。チームメンバー全員が、アクセス数を競い合う。おもしろそうですね。

099cut:ナレッジマネジメントとは
――16scene:7月のチーム会議
影野小枝 筆者・山本藤光さんに少しだけ説明していただきます。漆原さんが教科書にしている「人間系ナレッジマネジメント」について、教えていただきたいのですが……。
筆者 知には形式知と暗黙知と呼ばれる、2種類があります。(ホワイトボードに氷山の絵を描く)この水面上にある小さな部分は形式知。水面下にある大きな部分は暗黙知といいます。意識を説明するときに、この氷山の絵を用いますよね。上が顕在意識で、下は潜在意識ですね。私たちの知も同じで、表に出たのが形式知で、表に出ていないのが暗黙知となります。形式知はマニュアル、テキスト、データーベースなどが代表例です。いわゆる文字や言葉になっているものということです。
影野小枝 すると暗黙知は、文字や言葉になっていないものなのですね。
筆者 そのとおり。いわゆるスキル、ノウハウ、勘など名人芸のようなもので、なかなか文字や言葉にしにくいものが暗黙知です。
影野小枝 形式知と暗黙知はわかりました。漆原さんはそれを、どう使い分けているのですか?
筆者 2つの知を循環させると、知のレベルが上がっていきます。私たちは日常のなかで、知らず知らずに2つの知を活用しているのですよ。たとえば影野さんがテレビの料理番組を見て、ポイントをメモしたとします。
影野小枝 お料理はあまり得意ではありません。
筆者 料理番組はスキルですので、暗黙知です。ポイントをメモするのは、それを形式知に変換しているのです。では本を読んで、大切な箇所のメモを取るのはどうですか?
影野小枝 えーと、本は形式知ですね。メモも形式知ですから、形式知から形式知に変換しています。
筆者 そのとおり。では料理のレシピを見ながら、料理を作るのは、どうですか?
影野小枝 レシピは文字ですから、形式知。料理を作るのはスキルですから、暗黙知になります。
筆者 そのとおり。では最後の質問です。ゴルフ場で手取り足取りスイングを教えるのは、どうですか。
影野小枝 スキルからスキルですね。つまり暗黙知から暗黙知への変換になります。
筆者 さすが影野さん、満点の回答です。漆原リーダーは、それを意図的に循環させているのです。ゆっくりと話しますので、しっかりとメモしてください。

1. 会議で成功例を発表させる(暗黙知➾形式知)
2. 発表された成功例をメンバー全員でよりよいものにする。(形式知➾形式知)
3. みんなで磨き上げた成功例を、現場で実践する。(形式知➾暗黙知)
4. 漆原さんが同行して、やってみせてやらせてみる。(暗黙知➾暗黙知)


このように個人の知を組織の知にするのが、ナレッジマネジメントなのです。私の本『人間系ナレッジマネジメント』(医薬経済社)は、「命令する・提出させる」という管理系マネジメントではなく、「考えさせる・聞き取る」にウエートをおきなさいと書いたものです。部下の暗黙知を表出化させるスキルやノウハウにフォーカスをあてているのです。
影野小枝 漆原さんは命令しませんね。部下に考えさせ、部下の話を真剣に聞いてあげています。
筆者 管理系での評価は結果重視ですが、人間系ではプロセス重視になります。そのためには、現場へ出ていなければなりません。
影野小枝 ありがとうございます。勉強になりました。

100cut:均一のインプットを与えている
――16scene:7月のチーム会議
影野小枝 ビデオ製作会社の打ち合わせです。
製作 原作者からスライドをお借りした。ちょっと見てもらいたい。企業はどの営業マンにも、均一のインプットを与えている。インプットとは、知識や情報のことだ。
助監督 営業経費もありですね、
製作 ところがアウトプットは天と地ほども違う。アウトプットは売上や利益のことだ。なぜ均一のインプットを与えているのに、アウトプットに大きな差が生まれるのか?
監督 つまり2つの間にあるプロセスが差を生み出している元凶だと……。
製作 そのとおり。この部分は端から垣間見ることができない。営業リーダーが同行しないかぎり、見ることができない世界なんだ。原作者はそこを「営業活動のブラックボックス」といっている。ブラックボックスの中味は何だ?
助監督 顧客ニーズの把握、話し方、資材の活用、クロージング能力など……。
監督 態度、質問力、傾聴力、空気を読む力……まだまだたくさんありそうだ。
製作 営業リーダーが磨かなければならないスキルを原作者は、「めんどうかい」と呼んでいる。
助監督 なんだか退廃的なネーミングですね。
製作 面談、同行、会議のことなんだけれど、「人間系ナレッジマネジメント」はそこにフォーカスをあてている。
監督 ちょこっと現場へ行って同行するのと、漆原みたいに4日間べったり同行するのとは、明らかに違うな。会議にしても、全員参画で活気がある。
製作 ここまでの展開で、「めんどうかい」スキルを拾い上げてもらいたい。
助監督 同行、会議は絵にできますが、面談場面にもっと動きがほしいですね。
製作 動き回る面談なんて、考えられない。でも「めんどうかい」の一つなんだから、工夫が必要だな。



一気読み「ビリーの挑戦」089-094

2018-03-09 | 一気読み「ビリーの挑戦」
一気読み「ビリーの挑戦」089-094
089cut:会議ジャックにあっている
――15scene:6月のチーム会議
影野小枝 6月の会議です。
漆原 先月はよくやってくれた。通常月よりも1000万円アップで、7000万円を突破した。ありがとう。たった2ヶ月でこの成果だ。なぜ、こんなに短期間に達成したと思う?
山崎 みんなが、それぞれ努力したからです。
寺沢 なぜ、みんなが努力したのですか?
山崎 なんだいテラ、調子こいて。チームの環境整備ができてきたから、だと思います。寺沢リーダー、これでいいかい?
寺沢 なぜ、環境整備ができたのですか?
山崎 私のリーダーシップの賜物だと思います。
寺沢 さすが、ほやほやの1000万プレイヤー。
漆原 もうそんなところでいい。きみたちに任せておくとキリがない。会議を進めるぞ。
影野小枝 合宿で漆原さんが駆使した「ワイワイコラボレーション」をやっています。「なぜ?」「なぜ?」をくりかえすと、より問題の根源にたどりつくという手法ですよね。みなさん明るくなりました。
山之内 漆原さん、もうちょっとだけ時間をください。どうしても、やってみたいことがあります。石川さん、立ってください。質問です。(石川、首を傾げながら立ち上がる)前年度までの、チームはどうでした?
石川 全国で最下位でした。
山之内 そりゃあ、大変だったね。それで、いまはどうなの?
石川 ほぼ全社平均までになりました。
山之内 すごいね。死に物狂いで努力したのだ。それで、今後はどうなるの?
石川 もちろん、全国トップです。
山之内 期待しているよ。何かあったら手伝うから、遠慮しないでいってくれよな。はい、完結です。
影野小枝 あらあら、今度は「PPF」を使っています。漆原さんの『人間系ナレッジマネジメント』が浸透しているようです。
熊谷 漆原さん、わたしにも時間を。乾くん立って。同期として、質問したい。
乾 わかったよ。(立ち上がる)
熊谷 現在のチームの連携状態は何点だ?
乾 まあ、4点くらいにはなっていると思うけど。
熊谷 じゃあ、きみが考える5点満点の連携って何だ?
乾 わからんよ、そんなこと。
熊谷 だめだ。考え、可視化することに意味があるのだから。
乾 何だか、みんなが漆原さんみたいになっちゃった。考えますよ、考えればいいのでしょう」
影野小枝 太田さんが手をあげています。
熊谷 太田が助け舟を出してくれるってさ。
太田 5点とは、こんなことをわざわざ考える必要のない環境だと思います。
山之内 偉い。きみは成長したよ。
影野小枝 今度は「身の丈コンピタンシー」です。何だか、会議ジャックにあっているようですね。でも漆原さん、とてもうれしそうです。

090cut:2つの提案があった
――15scene:6月のチーム会議
影野小枝 会議室の続きです。
漆原 昼休みに、石川と山之内から提案があった。みんなで検討してみたい。私は口をはさまないので、自由にやってくれ。司会は石川に任せたから。
石川 えー、司会を仰せつかった石川です。では提案の趣旨を、売り出し中の山之内くんに説明してもらいます。
山之内 再生されつつある山之内です。提案は2件あります。まずひとつは、漆原さんの集中同行が一まわりしましたので、今月からはチームにとってプライオリティの高い課題に絞っていただきたいと思います。漆原さんの月間行動予定表を、みんなで埋めてしまおうという大胆な提案です。
石川 全員が今月の最重点攻略案件を発表し、みんなでどれがチームにとって重要かを決めるわけです。仕事には、3種類あります。
寺沢 わかっていますから、先を急いでください。
田中 漆原さんは、チームにとっての重点攻略先に専念するわけですね。
石川 そうです。では採決をします。
熊谷 ちょっと待ってよ。ディスカッションはしないわけ?
石川 結果は明白じゃないですか。時間のムダです。はい、賛同する方は手を挙げて。
(全員が手を挙げる)
影野小枝 驚きました。チームメンバーだけで、会議はどんどん進められています。

山之内 次の案件は、「トップに学ぶプロジェクト」です。私たちは文字や言葉でしか、優れた活動を見聞きする機会がありません。本当に知りたいのは、文字や言葉にできない微妙なニュアンスです。相互乗り入れっていえば、わかりやすいのかな。たとえば、私が絶好調の石川さんと同行させてもらう。すると『ビリーの挑戦』では表現できないことを、発見できるわけです。相互乗り入れというよりは、短期留学の方がいいかな。太田は、乾の仕事振りを見たことないよな。
太田 見てみたいです。勉強になると思います。
石川 では、2番目の案件の採決を行う。賛成の人は、手を挙げて。
(全員が手を挙げる)
影野小枝 議論なしで決まりですか。何やらみなさんのベクトルが、ひとつの方を向き出しましたね。

091cut:今月の目玉となる成果目標
――15scene:6月のチーム会議
影野小枝 さらに会議は続いています。
漆原 それでは、午後のプログラムをスタートさせる。午前中に採決された私の月間行動計画だけど、さっそくみんなの今月の目玉となる成果目標を聞かせてもらいたい。
太田 私は医局説明会を5回やります。寺沢には負けられません。
寺沢 K病院でプラス10症例のゲット。これが今月の最大の目標です。乾さんのL病院に肩を並べたいと思います。
熊谷 第2熊谷メモリアル病院を創立します。とりあえず、熊谷メモリアル病院の半分の売上ですが、同じくらいになるよう基盤を整えます。2つの新設病院で、山之内メモリアル病院を追い越します。
山之内 熊谷に追いつかれないように努力するのはもちろんですが、私はBの新規採用を5件達成します。
石川 何といっても、医師会の勉強会がすべてです。帯広のみなさんには波及効果はありませんが、釧路のメンバーにはしっかりと貢献させてもらいます。
影野小枝 みなさんの発表が続いています。気がつきましたか? みなさんの発表のなかには、必ずメンバーのことが含まれています。

092cut:固有名詞で名前を呼んでもらう
――15scene:6月のチーム会議
影野小枝 寺沢さんが予約して居酒屋「北の大地」に、全員が顔を揃えています。乾杯がすみ、盛り上がっています。
石川 いつも金がないって騒いでいるおまえが、何でこんないい店を知っている?
寺沢 大日本住友のMRに教えてもらいました。医師会勉強会の案内パンフを一緒に作ってから、親しくなりました。
石川 医師会長は大喜びだ。参加者希望者は80人を超えたって。これは過去最高らしい。お陰でドクターからは、固有名詞で名前を呼んでもらえるようになった。
漆原 ドクターから固有名詞で呼ばれるようになったら、それは信頼の証だ。MRの勲章だよ。「きみ」から「Rさん」(会社名)になり、最終的には「石川くん」と進化する。
太田 まずいス。ぼくはまだ「Rさん」から先がありません。
漆原 いよいよ、あと2週間後だな。石川、準備は万全だろうな?
石川 心配無用です。それよりも、漆原さんの謝辞の方が心配です。何しろ、武田を差し置いてやるのですから。
山崎 漆原さんがきてから、チームが変わったよ。何だかみんな楽しそうだし、数字も上向きはじめた。
乾 6000万円が2ヶ月で、7000万円になった。とすると、今月は7500万円になる。
熊谷 ダメダメ、狸の計算は慎むこと。
太田 何ですか、狸の計算というのは?
熊谷 取らぬ狸の皮算用のことだ。
山之内 漆原さんはなぜ「積み上げ」をやらないのですか? 鈴木さんのときは、会議の半分は積み上げでした。
太田 それでは足りない、もっと上乗せせんか! たまらなかったですよ。
漆原 どこで、なにを、いくら売るか。そんな話を聞いても、だれの役にも立たない。積み上げ会議は、最大の時間のロスだ。できる範囲で、精一杯やってくれればいい。
影野小枝 仕事の話ばかりですけど、山崎さんがいうとおりでみんな楽しそう。山崎さんのセリフに、漆原さんの頬が緩んでいました。

093cut:社内ニートがいる
――15scene:6月のチーム会議
影野小枝 いつもの喫茶店「場」です。今朝も常連幹部が集まっています。
常連E ニートとフリーター、この社会現象は何とかならないものか。
常連B 社会全体で、彼らを甘やかしたツケだ。
漆原 定職につかない。自分自身を磨かない。とんでもない世の中になったものです。
常連D 武家時代には素浪人はいた。我々の時代には大学浪人がいた。そして現代はニート。時代はめぐる。
常連C ニートといえば、うちには社内ニートがいるよ。肩たたきされても、頑固に居座って、何もすることがないので、社内をウロウロしている。
常連D 社内ニートか、何だか身につまされる言葉だな。
常連B 若年性ニート、社内ニート、それなら、定年後のシルバーニートというのもありそうだ。
常連E ところで、ニートの定義はなんだ?
漆原 Not in Employment、Education or Trainingの略語です。職に就いていなくて、企業にも所属せず、就労に向けての活動をしていない若者。ざっとこんな意味です。その数は、80万人ともいわれています。
常連C ニートにも、いくつかの種類がある。引きこもりタイプ、享楽タイプ、落ちこぼれタイプが代表的なものだ。
常連B 落ちこぼれは、一度就労してすぐに辞めた連中のことかい?
常連C 多いらしいぜ。入社してすぐに辞める連中。

094cut:高質な共通言語が生まれる
――15scene:6月のチーム会議
影野小枝 ビデオ製作会社の打ち合わせです。
監督 会議ジャックのところは、笑ってもらえそうだな。『人間系ナレッジマネジメント』が部下たちに浸透したとの証となっている。
製作 私もこの部分は好きだ。チーム内に、高質の共通言語が生まれる。これは強いチームの必須条件らしい。
助監督 高質な共通言語って、どんなイメージですか?
製作 よりレベルの高い考え方や行動を、チーム内で共有すること。ハイハイしかできなかった赤ん坊が、伝い歩きをし、自分の力で歩けるようになる。チーム全体が、ステップアップしはじめるわけだ。
助監督 原作者がハウツー本ではなく、シナリオにこだわった理由はそこにあるわけですね。ステップアップのプロセスを、ドラマ仕立てで実感してもらう。おそらく、シナリオで書かれた、はじめてのビジネス書じゃないかな?

一気読み「ビリーの挑戦」083-088

2018-03-08 | 一気読み「ビリーの挑戦」
一気読み「ビリーの挑戦」083-088
083cut:医師会の勉強会
――14scene:サブリーダー
影野小枝 夜のオフイスです。石川さんを中心に、ホワイトボードを取り囲んでいます。漆原さんはいらっしゃいません。
石川 ドクター向けビデオを配布しているメーカーは、これですべてか?
熊谷 リハビリ編がかなりあるのだけど、こっちは、医師会の勉強会にふさわしくないと思います。
田中 疾病と治療に絞ったほうがいいですね。その方が、ドクターを集めやすいでしょう。
寺沢 薬局長やナースにも、声をかけた方がいいと思います。
石川 医師会長はすごく乗り気なので、何としてでも成功させなければならんぞ。
田中 メーカー同士が一緒になって、勉強会を開催するのは例がない。問題は、大手が乗ってくるかどうかです。
熊谷 武田はおれが説得します。田中は中外にポン友がいるよな。
寺沢 ノバルティスは、私がやります。
石川 交渉はどのビデオを取り上げるかを決めてからだ。開催予定日は来月の18日夜7時。ビデオの絞りこみを急がなければならない。
熊谷 会場は?
石川 医師会長が医師会館を抑えてくれた。
寺沢 薬局長やナースはどうします?
田中 断る理由はなかろう。くるものは拒まず。
影野小枝 釧路地区のMRがまとまって、一つの企画に向かっています。みんな張り切っていますね。
石川 具体案を検討しよう。叩き台として、おれの企画案を見てもらいたい。(用紙を配布)おれとしては、開業医のドクターの関心が高い生活習慣病とインフルエンザに絞りたい。2時間でやるには、それが限度だと思う。
熊谷 せっかく他社と協力してやるのだから、治療と疾病のビデオを持っているメーカー全部を集めたいですね。
田中 私もそう思います。小さなブースを作って、ビデオを山積みにし、各社のMRがドクターにポイントを説明する。学会のポスター展示みたいな感じの方が、ずっとインパクトがありますよ。
寺沢 おもしろそうですね。お祭の屋台というイメージですね。
熊谷 講演は「患者さんへの啓蒙」などとし、ドクターはもっとビデオを活用すべき、といったテーマで話してもらう。
石川 悪くはないな。その方法なら1回で完結する。
田中 講演終了後は、簡単なパーティも必要ですね。1社5万円くらいとして、リストにあるメーカーすべてが協賛すると60万円になります。
石川 桁が違うよ。会場費は安いけど、ブースの設営、案内パンフレット、パーティ費用、講師への謝礼などを考えると、最低でもその数倍は必要になる。
影野小枝 企画案が具体的になってきました。それにしても、企画って、力仕事なのですね。成功してもらいたいです。

084cut:参考になる成功例
――14scene:サブリーダー

影野小枝 帯広の山之内さんの部屋です。4人のメンバーが車座になっています。
山之内 メルマガのタイトルは、『ビリーの挑戦』に決まった。問題はコンテンツだけど、太田ならどんな記事が参考になる?
太田 先週、山之内さんからきたメールには驚きました。「なぜBを使っていただけないのですか」なんて質問は、考えたこともありませんでした。3軒で試してみたのですが、どこも正直に答えてくれました。1回も怒鳴られていません。だから、あのような成功例を教えてもらえば、参考になります。
山崎 おれもやってみたけど、あの質問を少し変えると、別の情報が得られる。
太田 どんな質問ですか?
山崎「先生はなぜP社の製品をお使いなのですか」って聞くのさ。
山之内 それいいな。何となく使っていることって、多いからな。
太田 叱られませんでした?
山崎 問題なし。
乾 その線で行きましょう。失敗例はどうしますか? こっちの方が、情報としては貴重だと思いますが。
山之内 それも採用だな。成功例と失敗例を、同時に掲載する。何やら、おもしろくなってきたな。
乾 支店長や他のチームリーダーにも、送りましょうよ。
山之内 いいな、それも採用。さすがに最下位チームのトップMRだよ。
乾 何ですか、それは。それよりも、1日も早くビリーなんてタイトルを改めましょうね。
影野小枝 メルマガも動き出したようですね。みんな熱心ですし、何よりもチームがまとまってきました。

085cut:知恵を出し合う「場」
――14scene:サブリーダー

影野小枝 漆原さんにインタビューさせていただきます。石川さんの医師会勉強会、山之内さんのメールマガジン、どちらも動きはじめましたね。チームが一丸となって、イベント企画を立案する。チーム強化にとって、極めて大切なことですね。
漆原 私が千葉時代には、よくブレーンストーミングをやらされました。印象的なテーマは「新人MRを、いち早くドクターに認知してもらうための企画」とか「競合会社が群がる医局で、イニシアティブをとるための企画」などです。考える習慣を身につけたのは、ブレストのお陰です。
影野小枝 おもしろそうですね。それで実際に話し合いしたものは、採用されるのですか?
漆原 もちろんです。たとえば新人MRには。A4の紙片を名刺代わりに使わせました。まだ名刺ができていないものですから、と告げて紙切れを差し出す。そこには自筆の稚拙な文字で、名前、出身地、趣味、特技、性格などが書かれています。おまけに、似顔絵つきです。これはインパクトが大きかったですよ。新人MRは、たちまち認知されました。
影野小枝 ブレストのよさは、突飛なアイデアが出ることですよね。
漆原 医局でイニシアティブをとる企画では、「当病院の担当MRリスト」というものを発行しました。あらかじめ1人の医師と話し合い、同意を得るところからはじめます。ちょっと再現してみましょうか。

MR 先生、ここにきているMRリストが、あったらいいと思いませんか? 連絡先や特技が書いてあり、コンピュータで悩みごとがあったら、リストを見てAさんに相談するなどと便利ですよ。
医師 それいいね。
MR では私が作りますので、先生、応援してください。

漆原 競合会社のMRは、進んでデータの提出をしてくれます。担当交代のたびに、当社MRのところへあいさつにくるようになったほどです。
影野小枝 1人で考えあぐねていないで、みんなで考え合う場が必要ですね。そんな場が、釧路にも帯広にも生まれました。

086cut:朝の時間は濃密である
――14scene:サブリーダー

影野小枝 5月末午前5時半。漆原さんの自宅です。石油ストーブに乗せたヤカンからは、湯気が噴き出しています。漆原さんは、食卓で読書中です。ちょっと声をかけてみます。ずいぶん早い起床ですね。いつもそうなのですか?
漆原 合宿からは、ずっと5時起床を続けています。朝の30分って時間が濃密で、難解な本でも頭に入ります。
影野小枝 漆原さんは、仕事の虫ですね。家族サービスは大丈夫ですか?
漆原 ゴールデンウィークは、家族連れで道東を一周しました。例の標茶・藤花温泉ホテルのスィートルームに泊まりました。
影野小枝 いいですね、みなさんの笑顔が目に浮かびます。そうそう、太田さんはどうしていますか? 毎朝30分、新書を読むっていっていましたよね。
漆原 ちゃんと続いているみたいです。彼に刺激されたのか、みんなよく本を読むようになりました。よい意味での循環が、チームに生まれつつあると実感しています。
影野小枝 それはよかったですね。あの合宿が、全国最下位チームのエポックメーキングになりましたね。ところで、5月現在の全国ランキングはどうですか?
漆原 そんな簡単には、浮上しませんよ。でも上がる感触はあります。
影野小枝 ずっと気になっていたのですが、教えていただけますか。4月の会議で今の数字をどこまで伸ばせるか、検討しましたよね。その結果はさんたんたるものでした。ところが、例の合宿でみなさんは大きく数字を引き上げました。どうしてですか?
漆原 4月の会議のときに、残りの数字はみんなと連携し、自分が責任を持つといいました。合宿ではそれを話し合い、彼らと戦術を練ったのです。つまり一人で攻略する病院と、私と連携して攻略する病院を明確にしたということです。
影野小枝 数字に占める割合は、連携先のウエイトが非常に高いということですね。
漆原 通常MRは、単独で攻める先を過小評価しがちです。ところが、上司との連携先には大きな成果を期待します。これはすべての営業マンに通じる考え方です。連携先を明確にすると、必然的にゴールラインは引き上がるものなのです。
影野小枝 ごめんなさい。朝の大切な時間に、おじゃましてしまって。

087cut:K病院の攻略履歴
――14scene:サブリーダー

影野小枝 漆原さんは寺沢さんと面談しています。
漆原 テラの日報から、K病院の攻略履歴をピックアップしてみた。きみはよくがんばっているよ。これは来週号の『ビリーの挑戦』に、掲載してもらうつもりだ。

◎寺沢MRのK病院への挑戦
1.鈴木リーダーから引き継ぐ。引継ぎはない。採用品目もない。Fの宣伝許可は絶対に降りない、と鈴木さんから念押しされた。
2.薬局長にFの宣伝許可を依頼する。怒鳴られた。
3.新製品が出るときのために、定期訪問だけは継続している。
4.漆原リーダーと同行。薬局長にごあいさつ。
5.漆原リーダーと同行。リーダーは「MRを男にしてやりたい」と土下座をしてくれた。涙がこぼれた。
6.薬局への集中攻撃を開始。何としてでも、漆原リーダーに恩返しをしたい。
7.薬局長が「熱心だな」といってくれた。可能性が見えた。
8.「発売以来10年になるのか。そろそろ時効だな」と薬局長。はじめて笑顔を見た。心臓が飛び出しそうになった。
9.「S(他社の薬剤)の副作用問題で、明日の説明会が空いてしまった。やるか?」と薬局長にいわれた。やった! バンザイ。
10.ほぼ徹夜で説明会の練習を実施。メンバー全員が協力してくれた。
11.景山先生から、2例処方が出た。やった!
12.未処方のドクターを集中訪問。結果が出ない。
13.漆原リーダーより、「なぜ使ってくれないのですか?」と質問するように、とのアドバイスをいただく。まだ勇気が出ない。
14.「なぜ使ってくれないのですか?」と、勇気を振り絞って質問した。「確固たる理由はない」との返事。すかさず処方をお願いする。
15.ついに若松先生が処方してくれた。やればできる。仕事が楽しくなった。

寺沢 漆原さん、ありがとうございます。メラメラと闘志がわきました。
影野小枝 漆原さんって、ほめてあげること探しの天才ですね。寺沢さん、照れていますが、うれしそうです。

088cut:チームがまとまりつつある
――14scene:サブリーダー
影野小枝 ビデオ製作会社の打ち合わせです。
製作 サブリーダーを中心に、チームがまとまりつつある。ここからは、ゴールに向けて一直線の展開になる。
助監督 普通の会社の営業リーダーは、部下と1年間連携して攻略する先を、あらかじめ決めてあるものでしょうか。確かに漆原の説明はマトを得ています。しかし、マネしてみようと思ってもらえますかね? 合宿直後のシーンで説明していれば、もっとわかりやすかったと思います。
製作 その点は私も原作者にいったのだが……。
助監督 でも、原作者は頑な人で、ですか?
製作 まいったな、そのとおり。種明かしは、すぐにすべきではない。読者に考えさせることが大切だって、一蹴された。
監督 就任してたった2ヶ月で、ここまで変化するのは眉唾ものだ。このシナリオは、雑誌に連載されていたのでしょう。そのときの反響はどうだったのですか?
製作 すこぶるよかったみたいだ。ただし今回のビデオ化にあたり、大幅に加筆修正している。見こみ数字が引き上げられる場面は、雑誌連載時にはなかったものだ。
監督 仕事には3種類ある。上司と連携する先の目標数字は、必然的に高くなる。この部分はいただきだな。小さな目標を追いかけていると、その人まで小さくなっている。だからさりげなく目標を上げる仕掛けを、漆原は作ったんだな。
助監督 朝の漆原が描かれていたけど、奥さんやこどもは出てこないな。
製作 それも質問したけど……。
助監督 必要ない、っていわれましたか?
監督 きみは成長したよ。そのとおりだったみたいだ。

一気読み「ビリーの挑戦」077-082

2018-03-07 | 一気読み「ビリーの挑戦」
一気読み「ビリーの挑戦」077-082
077cut:がんばったな、すごいじゃないか
――13scene:同行
影野小枝 漆原さんは同行中です。車のなかをのぞいてみます。
漆原 これから向かう川越先生は、きみが担当する以前はどうだったの?
影野小枝(小さな声で)あれ、過去を質問しています。「PPF話法」ですね。
太田 ひどいものでした。ちゃんとした引継ぎもなく、ほとんど未訪問に近い状態でした。
漆原 そりゃ、たいへんだったな。
影野小枝(小さな声で)共感の話法ですね。
漆原 ところで、川越先生とは、いまはどうなんだい?
影野小枝(小さな声で)今度は、現在を質問していますね。
太田 川越先生の専門領域を必死で勉強して、信頼されるようになりました。
漆原 がんばったな。すごいじゃないか。
影野小枝 あっ、賞賛の話法です。それにしてもスムースに流れますね。
漆原 それで、どんなことをねらっているの?
太田 Aの新規処方です。
漆原 そうか。努力したのだから、何とかなると思うけど、私が手伝えることがあったら、遠慮なくいってくれ。
影野小枝 おみごと。これで共感、賞賛、共有の話法の完結ですね。
漆原 そうです。同行時にも、活用できるのが「PPF話法」です。
影野小枝 いかがですか。所要時間はわずかに1分。カップラーメンよりも手軽です。

078cut:もうワンランク上の活動って何だ
――13scene:同行
影野小枝 病院の待合室です。漆原さん、部下と同行しています。
漆原 佐藤先生とは、まだ親しくないのだね。
寺沢 いま、いろいろと調査をしています。
漆原 ところで、佐藤先生にかぎった話ではないけれど、きみの「顧客ニーズを探る」活動って、5点満点で何点だと思う?
寺沢(考えこみ)平均的だと思いますので……3点かな?
漆原 じゃあ、きみが考えるもう一段高い顧客ニーズを探る活動って、何だい?
寺沢(考えこみ)難しいですね。
漆原 考え抜くのだよ。ワンランク上の活動を……。
影野小枝 寺沢さん、困っているようですね。スキルを可視化するって、大変なことですよね。これって、コンピタンシー・モデルっていうのですね。多くの企業が導入しているようですが、理想的な活動の見本帳みたいなものですね。
漆原 既存のコンピタンシー・モデルは、多くのMRの身の丈に合っていません。実行するには、ハードルが高過ぎるのです。私がやったのは、「身の丈コンピタンシー」です。その部下に合った、一つ上の活動を描き出させているわけです。
影野小枝 あら、あら、寺沢さんはまだ考えこんでいます。
寺沢 ドクターが書いた文献を、読みこなします。
漆原 いいね、それ。立派なレベル4の顧客ニーズを探る活動だよ。それにしょう。
影野小枝 身の丈コンピタンシーが、一つが決まったようですね。MRの身の丈に合ったもの。4点は何だってよかったのですね。MRが悩んで、考え出したところがポイントのようです。そして上司がそれを支持し、応援する。
寺沢 自分が決めたことですから、レベルアップするように努力をします。身の丈コンピタンシーは、どんどん増やされます。クロージング能力も、3点っていったら、じゃあ4点は何だ、と。
漆原 私は彼らの身の丈コンピタンシーを、全部データベースにしています。レベルアップ目標ですから、できたらほめてあげ、評価もします。
寺沢 私たちは身の丈コンピタンシーを意識して、日報を書いています。上司にほめてもらいたいですから。
影野小枝 身の丈コンピタンシーですか。私もやってみようかな。4点の笑顔をつくるって何だって。
漆原 日報は、上司と部下とのコミュニケーション・ツールです。書かせる以前に、気持ちよく書いてもらう仕掛けが大切です。それが「PPF」であり「身の丈コンピタンシー」というわけです。

079cut:何か素っ裸にされたみたい
――13scene:同行
影野小枝 おそば屋さんです。午前中の同行を終え、漆原さんと石川さんは遅い昼食をとっています。
石川 すいません、効率が悪くて。正直にいうと、もうネタ切れです。自分でも情けないのですが、昨日あたりからなじみのドクターがいなくなってしまって……。
漆原 いいさ。こうして4日間、連続同行していると、みんなそうなる。最初の2日間くらいは、強い得意先に案内してくれるので、こいつはすごいなって思うのだけど、やっぱり3日目あたりからネタ切れ現象を起こす。
石川 4日間ですべての得意先を同行したいといわれたときは、みんな半信半疑でした。鈴木さんのときみたいに、どうせ用事ができたと途中で帰るさ、くらいに思っていました。それが、まったくそんな様子はない。驚いています。
漆原 仕事って、3種類ある。本人自身の力でできる仕事。上司と協力しなければならない仕事。それに、本社を巻きこんでの全社的な仕事だ。私の同行目的は、それらを明確にすることだ。だから、ありのままを見せてくれればいい。
石川 何か、素っ裸にされたみたいで、恥ずかしいけど、そういってもらえるとほっとします。
漆原 きみの裸なんぞ、見たくはないけどな。初日に行った医師会長さんだが、勉強会でも企画してみようか。患者向けのビデオは喜ばれるが、自分で見ていないので質問されると困るっていったよな。
石川 先生たちは、まず見ていませんね。
漆原 ビデオの簡単な勉強会を、定期的に実施する。もちろん、ビデオを配布している他社にも呼びかける。石川が、勉強会のリーダーになるのさ。
石川 うちだけで、やるのではないのですか?
漆原 他社を巻きこむから、価値がある。きみが運営することで、他社との連携も強まる。チームの他のメンバーとも話し合い、うち主導の勉強会を企画してみてはどうだい?
石川 はい、やってみます。でも武田とかファイザーが乗ってきますか?
漆原 絶対に乗ってくる。断るやつなんていない。私が保証するよ。チームのみんなで力を合わせて、大きな企画を動かす。きみのリーダーシップを見せてもらうぞ。
影野小枝 石川さんは、正直な方ですね。どうやら釧路地区では、大きな企画が動きそう。これが漆原流なのでしょうね。

080cut:それグッドアイデアだよ
――13scene:同行
影野小枝 同行を終えた漆原さんと山之内さんは、帯広の酒屋で乾杯をしています。
山之内 4日間、ありがとうございました。何だか、自分がみじめになりました。
漆原 どうして?
山之内 まともな同行なんて、してもらったことがなかったので、漆原さんを通してみじめな自分が見えました。本当にありがとうございます。
漆原 同行するのは、上司の務めだぜ。感謝する必要はないよ。
山之内 石川のメールにも書いてあったのですが、一人では見えないものが見えてくる。同行してもらうって、すごいことなのだと思いました。
漆原 何が見えた?
山之内 優秀MRだった人は、違うということかな。「先生、なぜBを使っていただけないのですか」なんて、ぼくでは絶対にできない質問ですよ。正直いって、最初のときはビビリました。
漆原 山之内はドクターに対して、遠慮し過ぎだよ。あの質問でドクターが怒ったら、謝ればいい。別に、殺されはしないのだから。
山之内 漆原さんが初対面のドクターに、こんな質問をしたと知らせたら、みんなはどうするだろうか。マネをするには、勇気がいりますけど。
漆原 山之内、それ、グッドアイデアだよ。きみからみんなに、発信してみてよ。あなたは先生に、「なぜBを使っていただけないのですか」と質問できますか。これをメンバーに問いかけてみてくれないか?
山之内 おそらく、イエスはいないと思います。でもさっそくメーリング・リストを作って、一斉発信してみます。
漆原 いいな、すぐにやってみよう。せっかくメーリング・リストができるのなら、チームのメールマガジンでも作ってみないか?
山之内 メルマガですか。帯広の連中は孤独だから、喜ぶかもしれませんね。
漆原 よし、即実行。きみが編集長だ。私も、投稿させてもらうから。
山之内 編集長ですか。いいですね。メルマガのタイトルですけど、『ビリーの挑戦』はどうですか?
影野小枝 漆原さんは、山之内さんも巻きこんだようですね。メルマガ『ビリーの挑戦』は、チームにどんな効果をもたらすのでしょう。楽しみですね。それにしてもサブリーダーの石川さんと山之内さんは、4日間連続同行で何かをつかんだみたいですね。

081cut:強いチームの構成
――13scene:同行
影野小枝 さまざまな会社の幹部が集まる喫茶店「場」です。常連が談笑しています。
常連C 強いチームの条件って何だろう?
常連D やっぱり、マネージャーのリーダーシップだろうね。
漆原 何かの本で読んだのですが、成功したプロジェクトには、異なるタイプの3人が必ずいるそうです。まずは「引っ張る人」の存在。この人は若さで、強引にメンバーを引っ張る。次は「癒す人」の存在。 最後は「まとめる人」の存在です。強いチームにも、このキャストが必要です。営業リーダーの役割は、チームをまとめることになります。
常連E 営業リーダーは、引っ張る人ではないの?
漆原 営業リーダーは「知のコンダクター」。まとめる人になるべきで、若きサブリーダーにチームを引っ張ってもらいます。
常連F 何でもいいけど、癒す人って何?
漆原 まじめなベテランの営業マンが理想です。飲み会のプロデューサーみたいな、イメージです。
常連C ウルちゃんのところは、トライアングルの構成になっているわけ?
漆原 引っ張る人が不在です。いま必死に育成中でして、現状は癒し系ばかりというところでしょうか。
常連D さっき営業リーダーは、「知のコンダクター」っていったよね。どんなイメージなの?
漆原 たとえば一つの成功例があります。それをチームに広げる。定着させる。それが大きな役割となります。その他にも、チーム内に良質な競争を持ちこむ。これは実績だけのことではなく、知識レベルを上げる競争も含まれます。つまり営業マンのレベルアップのための、知的な環境整備が使命となります。

082cut:合宿で裸のつき合いをした効果
――13scene:同行
影野小枝 ビデオ製作会社の打ち合わせです。
監督「身の丈コンピタンシー」は、絶対に外せないな。
助監督 2人のサブリーダーを、育てようとしているところもいいですね。2人がそれぞれ漆原の提案を受けた。ジンとくる場面ですよ。
監督 合宿で裸のつき合いをした効果が出ているな。
製作「PPF」も、きちんと頼むよ。これを外されると、原作者から叱られるので。
助監督 それにしても、部下のモチベーションを上げる話法は、小気味のいいものです。監督も「PPF」を習得したらどうですか?
監督 バカもん、おまえの代役などゴロゴロいるさ。


一気読み「ビリーの挑戦」071-076

2018-03-05 | 一気読み「ビリーの挑戦」
一気読み「ビリーの挑戦」071-076
071cut:チャンス到来だ、おめでとう
――12scene:5月のオフイス
影野小枝 ここは漆原さんになってからの、夕暮れの釧路オフイスです。以前との違いがわかりますか?
寺沢(大きな声で)ただいま……。
漆原(顔を上げて、大きな声で)おかえり。
チームメンバー(顔を上げて)お疲れさま。
寺沢(ノートパソコンを立ち上げ、プリンターに向かう。出力された1枚の紙片を持って、上司の席へ)漆原さん、きょうの日報です。
漆原(日報を見ながら)きょうの目玉は、川上先生だったよな。浮かぬ顔をしているけど。
寺沢 きょうは不発でした。真剣にデータを見てはくれたのですが……。
漆原 やったじゃないか。一歩前進だよ。
寺沢(笑いながら、頭をかき)そうですかね。
漆原(日報に赤ペンで、丸印を書きこむ)だっていままでは、データに見向きもしなかったのだろう。チャンス到来だよ、おめでとう。
(チームメンバーが、漆原の席に集まる)
影野小枝 このシーンを見て、同じオフイスが様変わりしていることを、理解していただけると思います。以前のオフイスと、どこが違っているのでしょうか。おわかりですよね。
漆原(1枚の紙片を取り出し)見ろよ、川上先生の攻略が、未来軸へと移動した。
影野小枝「未来軸へ移動した」は、のちほど触れるとして、帰社した直後のMRがなぜすぐに日報を提出できたのでしょうか。喫茶店で日報を書いてから、戻ってきた? 答えはブー、です。何か秘密がありそうですね。探ってみましょう。

072cut:朝書きの日報の効果
――12scene:5月のオフイス
影野小枝「おはよう」と、元気なあいさつが飛び交っています。カバンに書類を入れる人。資料について、意見交換している人。電話が鳴りました。
石川 ありがとうございます。R製薬でございます。
影野小枝 そうそう、帰社したMRの日報の話でしたね。オフイスに戻るなり、なぜMRは日報を提出できたのか。ちょっとのぞいてみます。
田中(パソコンに何やら入力している)
影野小枝 おはようございます。ごめんなさい。お仕事の邪魔をしてしまって。あら、日報じゃないですか。日付が今日になっていますけど……。
田中(顔を上げて)これ、今日の日報です。
影野小枝 今日の日報ですか?
田中 そうです。本日分の日報を、毎朝作成しています。
影野小枝(首を傾げる)えっ?
漆原 本日の訪問計画を、入力しています。何時にどこへ行き、どんな製品を宣伝するのか、どんな手段でそれを実施するのか。どんな成果が上がるのか。そこまでを、出る前に書いてしまうのです。
影野小枝 だって、お会いできない先生もいるでしょう?
田中 そんなときは、コメント欄に「会えず」と書けばいいのです。
漆原 この方法を採用してから、訪問の目的がクリアになり、訪問効率が上がりました。
田中 待合室や車のなかで、コメントをちょこちょこと書きこめば、その日の日報は一丁できあがりというわけです。
影野小枝 だから、帰ってくるなり、日報を提出できたのですね。

073cut:未来軸へ移動している
――12scene:5月のオフイス
影野小枝 いかがですか。日報は、出がけにほぼ完成しています。だから、MRは会社へ戻るなり、上司と日報をはさんで、楽しそうにやり取りができたのですね。あのシーンをちょっと巻き戻してみましょう。
(071cutの再現)
影野小枝 ここです。上司は、部下の本日の重点活動を掌握していました……。なぜでしょうか?
漆原 朝書き日報には、一軒だけコメント欄に成果を思い描いたものを記入してもらっています。その日いちばん大きな仕事の成果を思い描く。大切なことです。
(日報をズームアップ)
影野小枝 これって、日報というよりも、本日の活動計画ですね。
漆原 そう、ここを抑えておけば、帰社したMRとポイントを絞って話ができるわけです。
(071cutの再現を継続)
影野小枝 ああ、ここです。漆原さんは日報を見ながら「やったじゃないか」「おめでとう」を連発しています。これって、MRに元気を与えますよね。どうして、こんなにスムースに共感や賞賛ができるのでしょうか。「未来軸に移動している」ともいっています。何か、日報に仕掛けがあるようですね。

074cut:日報の仕掛け
――12scene:5月のオフイス
(日報のブランクフォーム。次第に左側の訪問先、宣伝品目、方法の欄が埋まりはじめる。コメント欄はまだブランクのままである)
影野小枝 出がけには、半分以上が埋まっているのですね。これって、逆転の発想です。日報はオフイスへ戻ってから書くもの、という常識が根底からくつがえっています。
漆原「朝書き日報」により、MRの一日に起伏が生まれました。その日、成功したらそれを翌日のバネにする。失敗だったら、今日を翌日の糧にする。そのことは、コメント欄を見てもらえればわかります。
(コメント欄をズームアップ)
影野小枝 これが本日の目玉の面談ドクターですね。さて、どうして上司とMRは、元気なやり取りができたのでしょうか。探ってみます。
(コメント欄に文字が浮かぶ。次のような文章が書かれている)

「川上先生についての日報」
◎一日の成果を思い描いての記述
新規処方の確実な感触を得る
◎日報のコメント欄の記述
・これまではデータすら見てもらえなかった。
・本日はじっくりと見ていただけ、二度ほどうなずいてくれた。
・相変わらず話してくれないが、次回は処方を依頼する。

影野小枝 シンプルなコメントですけど……。
漆原 わかりますか。日報の書き方に秘密があります。

075cut:共感、賞賛、共有の話法
――12scene:5月のオフイス
漆原 さっきのコメント欄を、もういちど見ていただきましょう。3行に分けて、書かれていますね。こうすれば、分かりやすくなるんですよ。
(日報の各行の先頭に、上から「過去」「現在」「未来」の文字を挿入する)
熊谷 そうです。目玉先については、「前回・今回・次回」のメモを書いているんです。
影野小枝 それがどうして、あのような心地よい会話になるのですか?
漆原 過去は、現在よりも常に厳しい状況にありますよね。
影野小枝 はい。
漆原 だから過去を質問すると、「たいへんだったな」と共感できるのです。
熊谷 現在は今日の活動ですから、厳しい過去から一歩前進しているのが普通です。
漆原 したがって、今日の活動を確認し、賞賛してあげられるわけです。
影野小枝 共感に、賞賛ですか……。
漆原 そして、未来は「おい、何か困っていることはないか」と声をかけ、MRとゴールを共有し、支援することになります。
影野小枝 過去、現在、未来を書かせて、共感、賞賛、共有と反応するわけですね。これは、すごく元気の出る展開ですね。
熊谷 日報提出が楽しくなります。
漆原 一人のドクターについて、MRの活動が未来軸へと移動していれば、活動は順調ということになります。これは「PPF」という手法なのです。過去、現在、未来の英語の頭文字からつけた名前です。
影野小枝 この日報は、重要な顧客の攻略履歴になっているのですね。しかも元気な会話が生まれています。

076cut:毎日に起伏が生まれる
――12scene:5月のオフイス
影野小枝 ビデオ製作会社の打ち合わせです。
監督 いいね、「朝書き日報」か。ネーミングはダサいけど、逆転の発想だよ。
製作 原作者がいっていたけど、『人間系ナレッジマネジメント』(山本藤光著、医薬経済社)を読んだ多くの企業が導入したようだ。
助監督 それにしても、毎朝多くの顧客を思い浮かべて、成果を予測するのはたいへんそうですけど。
製作 いちばん大きな成果だけを、思い描けばいいって書いてあるだろう。たくさん書かせるのは、思い描きにウソが混じるので、ご法度とのことだった。
監督(台本を読みながら)思い描くから、毎日に起伏が生まれる。成功したらそれが明日へのバネになり、失敗したら明日への糧になる。いいね、このコピーは、テロップで流そう。
助監督「PPF」は、ちょっと難解ですね。
製作「PPF」を日報に取り入れてくれた企業もあるようだ。前回、今回、次回を書くことにより、営業マン自身も攻略具合を直視できるから、活動にもインパクトが生まれる。「未来軸へと動いていないぜ」が、流行語となったりするらしい。またデータベースとして、顧客攻略履歴を整理している企業もあるようだ。



一気読み「ビリーの挑戦」065-070

2018-03-04 | 一気読み「ビリーの挑戦」
一気読み「ビリーの挑戦」065-070
065cut: 虫食いテストは2度おいしい
――11scene:発想の転換
影野小枝 帯広の市民会館の一室です。4人のメンバーがロの字型に机を並べています。
漆原 これから製品パンフレットを配布する。1人が1つの製品を担当し、「虫食いテスト」を作成してもらう。
山之内「虫食いテスト」って、何のことですか?
漆原 パンフレットの重要な語句を、10箇所黒く塗りつぶす。それをコピーしたらどうなる?
山之内 もちろん、塗りつぶした箇所の文字は読めません。
漆原 それで虫食いテストの完成だ。4製品の担当者を決めて、これから作業に入る。
太田 テストを作る。楽しそうですね。
乾 バカだな。他のメンバーが作った虫食いテストを、おまえがやらされることになるのだぜ。
山崎「虫食いテスト」ですか、これはグッドアイデアですね。製品担当を輪番制にして、毎回やれば知識アップになります。
乾 帯広で作成したものを、釧路でも実施する。釧路のものは、帯広で実施する。そうすれば、1つの虫食いテストが2度おいしくなる。
太田 グリコですか。歓迎できません。テストと地震は、大嫌いです。
影野小枝 でも太田さん、楽しそうですよ。パンフレットを熟読し、切り抜くキーワードを選び出す。遊び感覚で、太田さんは勉強しているのですね。

066cut:メモリアル病院の新設
――11scene:発想の転換
影野小枝 同じく市民会館の一室です。昼食を終えての休み時間です。
山之内 もっと重点顧客を増やせといわれても、地方の町立病院は、開業医に毛が生えたくらいだからな。
太田 乾さんや山崎さんは、市内の担当だから訪問効率も高いし、私たちと市場が違いますよね。
山之内 病院担当と開業医担当との売上を比較することは、ナンセンスだよ。我々開業医担当は、労多くして益なしってやつだ。タクシードライバー並に車を走らせて、ちょっとばかりの処方をもらうのだから。
影野小枝 おやおや、山之内さんと太田さんは、担当先について不満のようですね。病院と開業医とでは、薬の処方量が違う。そんな話のようです。漆原さんが、彼らに発想の転換を迫ります。会議がはじまりました。
漆原 近々帯広管内にできる、新しい病院の担当者を募集する。その病院は、薬事審議会がない。だからきみたちの努力で、新薬は採用になる。しかもいつでも、一対一での面談が可能だ。ドクターには転勤がなく、気に入った薬剤は即座に処方してくれる。さらにドクターのほとんどは、わが社に好意的である。この病院の担当者になりたい人は、手を挙げて。
影野小枝 全員が手をあげています。
山之内 そんな病院ができることは、聞いていませんけど。
漆原 創るんだよ。自分たちで、創るんだ。
影野小枝 漆原さんはホワイトボードに向かい、ランダムに○印と×印を記入しました。みんなきょとんとしています。
漆原 いいか、これは全部開業医だ。ここは薬事審議会もない。一対一の面談はできるし、ドクターは転勤しない。新薬の採用は即決してくれる。しかも代理店さんからの、サポートも得られる。○印は重点開業医だ。ここを囲んでみる。(ヒトデのような形ができる)これが山之内メモリアル病院となる。
山之内 山之内メモリアル病院ですか?
漆原 そうだ。病院にどのドクターを入れるかは、山之内に人事権がある。これらの開業医の売上を合算してみる。すると、基幹病院並みの数字になる。一軒ずつでは小さいけど、合わせてみると大きな売上数字になるのさ。
太田 私も、太田メモリアル病院を創るんですね。
漆原 そうだ。経営者は太田だ。しっかりと顧客を見極め、10軒ほどをひとまとめにしてもらいたい。今後の実績は、太田メモリアル病院として出力する。
影野小枝 メモリアル病院ですか。これはターゲティングの基本ですね。しかも遊び感覚で、ターゲティングができる。自分で創ったメモリアル病院ですから、MRにも責任感が生まれますね。

◎太田の日報
 太田メモリアル病院を経営する。どの開業医を選ぶかは、自分の責任でやらなければならない。小さな開業医をまとめたら、基幹病院になる。市場のことで、文句をいえなくなった。どこを採用するかをじっくりと考えたい。P医院は頼まれても、絶対に入れてやらない。

067cut:叱られに行こう
――11scene:発想の転換
影野小枝 寺沢さんの運転する車です。漆原さんは、朝から同行をしています。現在午前9時45分です。
漆原 さて、代理店さんを終えたし、これからどうする?
寺沢 オフイスへ戻って、たまっている提出書類を作成します。
漆原 この時間に、面談できるところはないのか?
寺沢 だって、10時前ですよ。こんな時間に訪問したら、叱られますよ。
漆原 叱られたことがあるのか?
寺沢 いいえ、ありませんけど、先輩たちはみんなオフイスへ戻っていますし……。
漆原 よし、叱られに行こう。病院なら、ドクターに会えるはずだ。いちばん近場の病院はどこだ?
寺沢 丘の上病院です。
漆原 そこへ行こう。何が採用になっている?
寺沢 AとDです。
漆原 楽しいな、寺沢。未知の体験ができるのだぞ。
寺沢 はい。
影野小枝 寺沢さん、渋々うなずいたみたいです。

068cut:夜討ち朝駆けの効果
――11scene:発想の転換
影野小枝 丘の上病院の医局です。現在午前10時15分です。すでに3人のMRがいました。医師も2名いて、新聞を読んでいます。
漆原(外へ出て、寺沢を招く)このままじゃ、宣伝にならないから、廊下で待とう。中にいたドクターは、Aを使ってくれているの?
寺沢 2人とも、思い出したように使ってくれます。
漆原 じゃあ、先生に渡すものを貸して。午前の外来へ向かうドクターに対する、宣伝の手本を見せるから。
影野小枝 寺沢さん、漆原さんにパンフレットを差し出しました。
漆原 ダメだよ、こんなものじゃ。リマインダーはないの?
寺沢 リマインダー?
漆原 Aの名前が入った、ボールペンとかメモ帳のことだよ。
影野小枝 医師が医局から出てきました。
漆原(ボールペンを差し出しながら)先生、本日の外来では、わが社のAの処方を、よろしくお願いいたします。
医師(ボールペンを見て)Aだな、わかった。
寺沢(医師に頭を下げながら)先生、Aをよろしくお願いします。
医師(後ろ向きに、頭上でボールペンを振り)わかったよ。
漆原 朝駆けは、その日の処方の動機づけ。夜討ちは、自分のことを売りこむときに実行する。リマインダーというのはね、その日の処方のときに思い出してもらいやすい、ツールのことだ。どうだ、Aの処方は出ると思うか?
寺沢 絶対に出ると思います。
漆原 こんな感じで、朝も医局を訪問する。オフイスにいたって、処方にはつながらない。
寺沢 叱られませんでしたね。それよりも、夜の先生とは、ぜんぜん違う反応でした。驚きました。
漆原 夜は先生たちも疲れている。しつこいMRの話には、耳を貸さないものなのだよ。ところで、寺沢メモリアル病院は順調か?
寺沢 新たに、池田先生を採用しました。いま12軒で経営しています。どこも患者さんの多いところですので、月に300万円ほどは見こめます。
影野小枝 まだ若い寺沢さんですが、メモリアル病院の経営で目覚めたのでしょうか。午前中の活動も、今日の経験で理解したようですね。

069cut:なぜ使ってくれないのですか
――11scene:発想の転換
影野小枝 午後2時です。漆原さんと寺沢さんはファミリーレストランで、遅い昼食を終えたばかりです。
漆原 このあとは、いよいよK病院だな。説明会以降、どんな状況だ?
寺沢 景山先生が2例使ってくれています。他のドクターは、まだです。
漆原 がんばっているようだな、やるじゃないか。今日の同行では、他の先生にも使ってもらえるように、私も全力を尽くすよ。
寺沢 何も採用されていないから、新人のぼくが担当させられました。唯一の大規模病院(300床以上の病院のこと)ですので、やりがいがあります。
漆原 そこを乗り越えたら、テラにはほかにも大規模病院を担当してもらうよ。ところで、テラはまだ処方をしていないドクターから、その理由を聞いていないのかい?
寺沢 いいえ、聞いていません。
漆原 先生はなぜS(競合品)を、お使いになっていらっしゃるのでしょうか? あるいはなぜ当社のFをお使いいただけないのでしょうか? この質問ができるようになったら、テラも一人前だ。
寺沢 そんな質問をしたら、ドクターに叱られます。
漆原 ではK病院で試してみよう。私がやってみるから、ドクターの表情をよく観察するように。
寺沢 ドクターは怒りませんか?
漆原 そんなことで怒るようなら、そのドクターとは縁を切ってもいい。私の経験では、その質問で1回も叱られたことはない。

070cut:開業医が病院に変身する
――11scene:発想の転換
影野小枝 ビデオ製作会社打ち合わせです。
監督 メモリアル病院、これはいいな。小さな開業医が、大きな病院に変身する。まさにターゲティングの極意だ。
助監督 ここからは、ハイテンポなBGMを使います。特にオフイスへ戻ろうとする寺沢を説得し、病院訪問をする場面はベートーベンでいきたいですね。
監督 運命を使うのか? ダメだな。もっと明るい曲を選べよ。
製作 ここからが実践編だ。ユニークなアイデアが次々と飛び出すことになる。
監督 それにしても、原作者は頭が柔らかいな。遊び心が、仕事に取り入れられている。
製作 最下位チームがトップになった。これって、奇跡でもなんでもない。部下たちに考えさせ、彼らが納得したものを実践させる。漆原は「知のコンダクター」という役割だ。営業リーダーが「知のコンダクター」となったとき、弱小チームも強くなる。原作者がそういっていた。
助監督 漆原は絶対に命令しません。根気がよくなければ、なかなかできるものではありませんね。ウチの監督とは大違いだ。