北円堂を知らずして奈良の歴史は語れない
「養老孟司ガクモンの壁(日経ビジネス人文庫2003刊/初出1999.4)」の“第13章「人間の心はかくも傷つきやすい(崎尾英子との対談)」”を読んだ。養老孟司(1937~)氏は言わずもがな、“バカの壁(2003)”をヒットさせる直前の唯脳論学者である。崎尾英子(さきおえいこ1949~2002)女史は、元国立小児病院心療内科医長。国際基督教大学で経済学を学んだ後、1970慈恵会医科大学を卒業。専門は精神医学/心的外傷(トラウマtrauma)の解明と治療。対談の3年半後に急逝した。------
ネット社会が進展し、高度化/複雑化する一方の世の中で、大人だけでなく子どもたちもトラウマを抱えて難渋している例が増えてきていると、崎尾英子女史はその子どもたちのトラウマ治療に関わっていた。------
内科/外科/消化器疾患など体の病のほかに、人は心の病にかかることもある。その心の病の最大の病理の核/原因の一つに相当するのがトラウマである。トラウマ(精神的外傷/心的外傷)とは、異常な体験/恐怖/ショックなどによって残された精神的な傷のことで神経症/ヒステリー/精神障害の発生原因になる。-----
崎尾英子女史がトラウマ治療(EMDR眼球運動脱感作法)の実際を紹介されると、養老孟司氏は安易にトラウマ治療を施すと多重人格状態が解消されてある意味別人になってしまう恐れもあるのではないかと突っ込んだりして、崎尾英子女史のトラウマ治療を全面的には賞賛しないのである。流石、捻(ひね)くれものの養老孟司氏らしいな思わせられた。養老孟司氏からするとトラウマ理論が単純過ぎるから、“実効性の高い強力な治療法を施す際にはもっと慎重にならないといけない”と云うのだ。トラウマと長年付き合ってきた人にとってはトラウマが悪さをするだけではなくて、良い作用をしてきた可能性もあるのだと、養老孟司氏は考えておられるようだ。